『ウォッチメン』 ('09、パラマウント・ワーナー・レジェンダリーピクチャーズ)
アラン・ムーアの『ウォッチメン』?読んだことない奴がいるのか?本当に?
Oh、グレイト!そいつは結構だよ!偉大なるラッパーの先駆者、悪魔のもじゃ髭、髪が耳にかかるほど長くてうざい、家庭を持ったホームレス。歩く出版社。アラン・ムーアは様々な形容詞で呼ばれてきたが、その中にこういうのがあるんだ。
スーパーヒーローコミックスを終わらせた男。
ほら、タイツを着た英雄どもが世界を救うってあれさ。アクションコミックスにスーパーマンが初登場して以来続いてきたアメリカの特産品だよ。知らねェの?終わらせたんだよ、ムーアが。『ウィッチメン』ただ一発で。格好いいにも程があるぜ。
すべての推理小説に対して『虚無への供物』が占めてる立位置とまったく同じこと。万人の必読書であり、それ以下ではない。ま、腐ったテレビを毎日捻ってゼエゼエ言ってるあんたにゃ全然関係ない話だけどな!あんたのゲロが今夜もますます匂うと素敵だな!嫁に嗅がしてやりなよ、ジョニー・・・!
で、その記念碑的作品の映画版なんだけど。ザック・スナイダーにしちゃ頑張ってる方。軽いけど。しかし結果、忠実に映像化した筈の犬の頭が割れてるシーンが、デイブ・ギボンズのアートに負けてるのってどういうこと?
誰か弁解できる?チャカチャカ、カットを重ねてC.G.駆使したって、冒頭、摩天楼を背景にロールシャッハがコメディアンの居室に潜入する、「真夜中にすべてのスパイが動き出す、知りすぎてしまった者たちを駆り出すために」のあの有名なカット、わずかパネル一枚の興奮すらまるで再現できてないと俺は睨んでるんだが、どうだ?識者諸君、異論あるまい?
ザックはコミック通りの絵ヅラにこだわる男。現場じゃコミックブックを切り貼りして絵コンテにしたそうだ。それって映画監督として恥ずかしくない?それ以前に、大のおとなとして?誰か突っ込んでやれよ、アメリカ映画界。無駄にスタッフばっかり多いんだからさ。
他にもエイドリアン・ヴェイトがまるでマッチョじゃないとか、ラストにイカが出ないとか致命的な問題は多々ありますよ。
特にイカ。イカはなんで変更したんですかね。
「どうして、ノンノンはフローレンって名前にしたんですか?」
「ねぇ、どうして?」
(川喜多美子“ねぇ、ムーミン”のカバー)
これと同じことだね。心に刺さりますね、なんか。
さらにイカにこだわりますけど(※以下『ウォッチメン』のクライマックス部分をバラす。知らん奴読むな!)、イカ出現の代わりに使われるのがドクター・マンハッタンが持つ超能力爆発のコピー版だっつーんだよね。アメリカ脚本協会のお歴々は。(コピーできるのか?)
ロンドン・香港・ベルリン・モスクワ。東西の大都市に向けた、マンハッタンによるひとり同時多発テロだっつー報道がなされる話に書き換えられてるの。世界はドクに対抗すべく一致団結し、世界戦争の危機は回避されると。
余りに大人げない、イカによるニューヨーク大爆発描写に比べてこちらの方が遥かに合理的だろ、ずっと「9.11以降の現実」を反映してるだろ、どうだい凄いぜモテるだろ、と奴らは威張ってみせる訳なんだけど、浅い浅い。
ドクがビン・ラディンを彷彿とさせる役回りだなんて、キャラに照らし合わせりゃ100%ない話でしょーが?神に等しい能力を手に入れたアメリカ人物理学者。彼女に逃げられ、だんだん人間存在自体に関心を失くしていってる。そういう特殊人物。
原作の読者は全員そうしたキャラの基本設定は知ってる訳だし、あの映画の中の世界でだってそれはある程度知れ渡っちゃってる公認の事実なんじゃないのか。「ドクター・マンハッタンが人類を攻撃しました!」って言われて何人が素直に信じるんだ。正直疑問だな。記者会見で公然と非難排撃するヴェイトの作戦が、伏線としてはまァ活きてくるんだけど。腹いせとしてもレベル低すぎ。ドクにそぐわない。
それでも、大衆は愚かだ事の本質にも気づけないって皮肉なんだって言い張るのは勝手だけど、相当舐めてないか?一般大衆を?
確かに、イカ一杯で限界まで高まった核戦争危機が回避されました、なんてトンでもない大嘘ですけどさ。
「お前らなんか、これで充分だ!イカ喰らえ!」
って、世界首脳陣に全力で投げつけるアラン・ムーア先生の魂の叫びが聞こえてくるじゃない?断然俺はそっちが好きだな。きみもそうだと嬉しいんだけど?
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