小野耕世『世界のアニメーション作家たち』 ('06、人文書院)
こないだ渋谷のタワレコ行ったら、タワーブックスが無くなっててさ。凹みましたよ。あすこ便利だったのに。景気の悪さを実感したな。
そりゃ金にならねぇよ。蔵書みたく動かない本ばかり。いつも空いてましたよ。
でも、そんな本屋でなくちゃ売れない本もあるんだよ。そこに宝がある。例えば、コレだ。
小野耕世先生については、なんて紹介するのがいいんですかね。
日本で最初にスタン・リーに会いに行った男、ですか。でも先生、他にも無数に“日本で最初に・・・”をお持ちだから。スタン・リーなんて、ちいせぇよ。
あたしが最初に小野先生の名前を意識したのは、「月刊スーパーマン」だったか「スターログ」だったか、80年代初頭の雑誌媒体でしたよ。光文社の単行本「キャプテン・アメリカ」「スパイダーマン」「ファンタスティック・フォー」やなんかはもう出てるですけど、恥ずかしながら、全然知りませんでしたー。
世代的な問題と、流通。すべて流通のせいだと思います。
次に先生のお名前にビビったのが、杉浦茂『モヒカン族の最後』(晶文社版、旧作の完全リメイク)の単行本解説。これも、こなすこなす。例によって流通の都合で、この本を発見したのはペップ出版の一連のリイシューがあって、筑摩の全集本が出始める直前ぐらいの時点だと思うんですが、当時は記録的な杉浦飢饉でしたからね。あたしの心の中で。窮天の慈雨でしたよ。なんかわからんけど、有り難かった記憶があります。ある時期この本が心の支えでしたね。
で・・・小野先生翻訳の『マウス』やら『ボーン』(未完)が出始めて、段々近代になっていく。いわゆるグラフィックノベルが訳される時代の到来。既に「Xメン」とか「ワイルドキャッツ」とかが一世を風靡してたんだけど。「スポーン」とかさ。「スポーン」。最悪。
そっち方面はまったく読んでないなー。深夜にTVアニメやってたからさわりぐらい知ってますけど、恨みがましいデビルマンみたいな感じでね。身長のある悪魔くんつーかさ。所詮おもちゃ売りたくてつくってんでしょ、みたいな。
アメコミとか、そっちのフィギュアが最先端のお洒落なんじゃないかという完全な勘違いがその頃世間にありまして。スケボーとかエアマックスとか流行ったそんな時代。そんな訳ない。お洒落な訳ないですよ。どういう種類の勘違いが起こったんだろうか。当然、真のおしゃれイストの小野先生は勿論そのシーンの中にはいないんですよ。粋だねー。
その頃あたしは、D.C.からリイシューされた「スピリット」とか「プラスチックマン」の豪華本全集をせっせとお小遣い貯めて買ってましたよ。「まんがの森・渋谷店」で。来てみろりん。値段は高いけど中味が異常に濃くて。だけど、間違いなくお洒落ではなかったです。ジャック・コール。天才だけど。マイク・ミニョーラが持て囃されたのもその頃。
日本のアメコミ翻訳において画期的だったのって、『ダークナイト・リターンズ』が出て、『ウォッチメン』が訳されたときでしょ。あのへんの衝撃が今日の翻訳ラッシュの屋台骨になってる感じはありありとわかるなー。
・・・って、何の話でしたっけ。そうそう、小野先生。
シュヴァンクマイエルに始まり、ルネ・ラルーやらノルンシュテイン、カレル・ゼマンにハリーハウゼンと斯界の大物ばかりが並ぶこの本にも典型的なんですが、小野先生の最大の特徴は徹底して好きなものしか取り上げないところ。
広範囲な、専門家としての視座の獲得なんて眼中に無い。流行りものに一切目配せしない。そこは昔から一貫してる。
評論家には二通りのタイプがあって、自分の守備範囲以外でも広角で語りたがる人と、敢えて趣味以外はやらない人。一見オールラウンダーの方が偉そうに見えるけど、実はそんなこと無いんだよ。
何でも屋なんて怖くないから。
本当に怖いのは、重要な一言を口に出す人だから。
小野先生はちょっと類を見ないくらい、おっかない人です。
熱っぽく百万語を費やして語る、なんて野暮な行為はしないで、実際にクリエイターに会いに行く。チェコでもロシアでもどこでも行ってしまう。お前は世界ふしぎ発見かというくらい、現地へすぐ飛んでいってしまう。
そして、自分の気に入ったところを作者本人に直接伝える。自分の言葉で。ついでに連想した、他所様のお気に入りの作品なんかも。
そこで、読み手と作家との間で、同意が生まれたり、距離が確認できたりして、そこでおしまい。読者に自分の読みの結論を押し付けることはしないの。(もちろん、作家にも。)
ほったらかし。
それが読者への最大限の礼儀。
小野先生は、百の理論よりも自分の本能を信頼してますよ。観客・読み手として。でもそれを体系化したり、くどくど説明したりする必要は一切感じていない。
面白いものなんて理屈じゃないですから。
あたり前でしょ?という態度。
だから、どの本もレアな情報量はやたら満載なくせに、ちっとも偉そうではない。実は凄いことだ。
「考えるな、感じろ」って、小野先生の言葉じゃないかと時々思う。
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