フランク・ザッパ&マザーズ・オブ・インベンション『アンクル・ミート』 ('68、RykoDisc)
嘗て遥かな昔、そう、八十年代の終わり。音楽業界の趨勢はアナログのLPレコードを捨てデジタルへと傾きつつあった。それが大いなる没落の始まりとも知らずに。世間はバブル経済の跳梁に沸いていたし、200万枚を越えるミリオンセラーがチャートを複雑怪奇に彩った。
われわれは夢の終わりに立っていた。
そこはやがてハリウッドとお台場が奇跡の逢瀬を遂げる場所。「虹の彼方に」とジュディー・ガーランドは歌ったが、その場所に待っていたのが青島刑事だったのでは、正直洒落にならない。苦い現実のお茶に喉を潤し、多くの人々が逃げ惑う。遂に予測されていた巨大怪獣の襲撃が始まったのである。チーマーたちが路地を走る。コギャルが、ガングロが泣き喚く。崩れ落ちるビル。倒壊する最先端オブジェ。怪獣の名は日本経済という。
『アンクル・ミート』はそんな場面に鳴り響く音楽だ。
此処には先天的に不幸な人に対する呪いと愉悦が籠められている。CD化にあたり、余分な会話パートがインサートされて聞きにくい代物に化けてしまったが、その本質は驚くほど明快かつ奇怪なものだ。およそ信じがたい偶然によってパッチングされ、結び合わされた駄目な感じの人造人間。クローム鋼の骨格は単純だが、致命的に歪んでしまっている。
いまは夜のど真ん中で
あんたのダディーも、マミーも眠ってる
いまは夜のど真ん中
ダディーもマミーも眠るのさ
眠り続ける
マミーもダディーも夢の中
眠り続ける
流しの下の、ジャーの中
(“Sleeping in the Jar)
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