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2012年10月15日 (月)

尾玉なみえ『モテ虫王者カブトキング②』 ('12、ジャンプスクエア・コミックス)

 「なんで、あんなに毒が抜けちまったんですかねェ・・・」
 
 怪奇探偵改めメタボ小僧のスズキくんは述懐する。
 舞台はお馴染み、本当に商売になっているのか怪しい古本屋。おやじはニヤニヤ笑いながら、商売道具のはたきを手入れしている。

 「きみこそ、最初の肩書きは“古本好きの好青年”だった筈だが、いまや立派なメタボ小僧じゃないか。決して、尾玉先生のことを批判できまいて。」

 「うるさい!これでも、ボクなりにジムに通ったりしてるんですよ!一応!
 努力というものを鼻ッから放棄してるあんたにだけは絶対言われたくない・・・!」

 「わしも、牛乳飲んでもどしたり、牛乳飲んでもどしたり、しているよ。」

 「もどしてばっかりかよ!!
 いっそ、もう飲まなきゃいいじゃないスか!
 それじゃなんで、駄目なんスか・・・!!」


 「まぁまぁ。涙目になるなよ。
 それよか、遂に始まった尾玉バブル大崩壊について語ろうやないか。
 わしも、あんさんも最近、尾玉なみえ全著作コンプリートという、めでたいんだか景気悪いんだかサッパリ解らん偉業を達成したばかりっちゅーことでもあるし。」

 「諸星大二郎、伊藤潤二に続く第三のコンプ被りですね。嫌だなァー。
 前の二人は作家性に共通点があるし、物語重視で、構成力があって誰が読んでも才能のレベル高さは理解できるんじゃないかと思うんですよ。
 しかし、尾玉先生の魅力は説明しにくいなァ・・・。」

 「おまめ。」

 「はァ・・・?」

 「きみ、入社当初から“いえいえ、ほんのおまめでございます”とか喋ってたじゃないか。あの当時から、なみえ指数の高さを感じたよ。」

 「嘘こけ。当時あんた、なみえ読んでないじゃん。」

 「名前、地名、建物名、慣用句。固有名詞全般に対する独特過ぎる用語遣い。サブカル的地肩の広さを感じさせる引用とパロディー。関西出身でありながら伝統的お笑いに対するクールかつシニカルなアプローチ。加えて、登場人物全員が揃いも揃って性格破綻者。」

 「最後のひとつが非常に重要ですね。しかも、只でさえダメ人間の、そいつの精神の傷口にグイグイ入り込んでいって、最終的に取り返しのつかない状態になって終わり、というパターンが非常に多いです。
 どいつもこいつも救いようのない、本当に駄目な奴らばっかりなんですよね!」

 「きみのように。きみのように。」

 「自分は棚上げかい!」

 おやじは組んでいた足を解いて、悠然とタバコに火を点けた。残照が窓の向こうを染め上げて美しい。遠距離で豆腐屋のラッパがパプーと鳴った。

 「前振りはこのぐらいにして、そろそろ本題に入ろうじゃないか。
 採り上げるべき書籍は数多く、われわれに残された時間は少ない。少なすぎる。ちなみにこの稼業、どんだけ頑張っても残業代は出ません。」

 「エッ、出ないんですか?!」

 「なにを今更驚いておる。
 ときに、スズキくん、きみの一番評価する尾玉作品はなんだね・・・?」

 「イチ押しは『スパル・たかし』です。『アイドル地獄変』も同じくらいイイですね。短編ですが、「指折り姫」は最高の出来だと思いますよ。
 基本、集英社時代の作品路線が好きなのですが、期待してたぶん、実は『ねじめ』はいまいちでした。
 でも、まっとうなギャグを完全にやり切ってくれた作品はどれも大好きですよ!」

 「そう、永遠のギャグマンガ家・尾玉なみえ。
 個人的には「マーク・さべろう」とか、「燃えよセールス」のシリーズとか好きだなー。モンティ・パイソン的だけど。
 その笑いは、“笑っていいのか良くないのか”の境界線を軽々飛び越える。お笑い界のストレンジ・ブティック。グレイヴヤード・アンド・ボールルーム。
 問題は、近作がどうもギャグマンガじゃないものに変貌していってるんじゃないか、って深刻な疑惑だな・・・!」

 おやじはタバコを揉み消した。
 
 「例えば、きみ的には評価の低い『たおれて尊し!①』。去年出た奴ね。
 史上初の長期連載『マコちゃんのリップクリーム』を全巻制覇してきた私などからすれば、あの緩さは充分アリ、アリ・アリ・オー、オリ・オリ・オリ・ィエーなんですが。そりゃ悪徳古本屋業界を駆け回って、時間系列をすっ飛ばし、嘗てのギャグ傑作群から直でアクセスしてしまうと、ずいぶん気の抜けたファンタに見えるこってしょうなー。
 でもね。あたしはひとつ疑惑を持っていて、本当は尾玉先生、あすこで実はちゃんとしたストーリーのある時代物をやりたかったんじゃないかと。」

 「エエッ、そうなんすか?」

 「それがああいう形にしかならないのは、才能の限界プラス編集者の意向なのかと。
 尾玉先生、最近どうもお笑いじゃないものを描きたくてしょうがないんじゃないかなと。」

 「ふーん、そこへこの『モテ虫王者カブトキング②』(完結)が来るワケですか。辻褄は合ってますね。ふんふん。
 確かにコレ、ギャグマンガであることを一方的に責任放棄した残虐超人性極まれるつくりになってます。ボクは一読、ひえー!となりました。」

 「『カブトキング』の原型は、短編集『ロマンチック食堂』に収録されてる「昆虫大作戦インセクトS」じゃん。
 かつて原っぱのすべてのメスにモテモテだったカブトムシの王を父に持つ、童虫ダイゴロウがなんとかメスの卵管を見てやろうと四苦八苦したり、しなかったり。そこに自分を蝶だと思い込みたがる蛾のモンローちゃんやら、手足がもげるバッタやら駄目な感じの他の昆虫たちが絡むという。
 要はいつもの尾玉コメディーなんだよ、これがまた。」

 「たぶん、二巻開始のあたりで既に連載打ち切りが決まったんだと思うんです。
 『カブトキング』一巻の頃はまだ読みきり時代の路線でやってるんですが、二巻になってみると、もう違う。最終的には作者本人が顔出しして、一方的にモテに関する論考を喋り捲って終わる、完全な怪作と化す。」

 「ゴダールでござ~~~る。」

 「いや、今更感満載なエバゲリのパロディーなんでしょうけど。このネタ選択のしかたも、笑い重視というより、違った形式で本音を吐露したいマンガ家の自己主張ありきな感じですね。
 はっきり申し上げて、ボクの評価は低いです。」

 おやじ、膝を打ちつつも、

 「・・・でもさ、そこがいいと思わないかい?」

 「へ?」

 「たしかにギャグマンガとしては失速してる。ネタの密度も変わってきてる。かつてのような疾走感は薄れ、場面転換を駆使するよりワン・シチュエーションを活かしきろうという傾向が強まってる。
 ヒロインの頭をつるつる坊主に毛が3本パーマにしてみせた『純情パイン』のパンクスピリットとは明らかに違う方向にいってるよね。
 それは具体的に何かというと、『マコリプ』での、

 「ときどき、ザイアー様は信じられないくらい、臭くなるんです。」

 という、レンチの告白だったりとか、『カブトキング』でいえば、モンローちゃんが自我崩壊を起こしてダイゴロくんを挑発する回のありえないしんどさだったりとかするワケだ。
 リアル指向。それも、人が忌み嫌う方面への。
 そこんとこに、尾玉先生のシフトチェンジを感じるねー。」

 「マァ、元々そういう要素は最初から入ってるんですけどね。個人的にはそういう面倒臭い要素をカッ飛ばしてるとこが妙に格好良く見えてたんですけど・・・」

 スズキくんは、フッと息を吐いた。

 「ともかく現在書店では、空前絶後の尾玉なみえ二連載打ち切り確定祭りを開催中です。三ヶ月単行本連続リリースで、来月は『マコリプ』⑧巻が出ます。
 新刊三冊集めると、特典・書き下ろし小冊子『焼殺死』が漏れなく貰えます。」

 「特典かぁ。
 バイオハザード4で、ケルベロスのプラモを貰って以来だな!」

 「ともかく、ボクらもう、この企画乗っかることに内定しましたんで。また、来月!」

 「また、来月!
 こういう未来を感じさせる終わり方っていいよね!『ターミネイター』とかな!
 ♪ダダン、ダン・・・!」
 

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