平山夢明『ダイナー』 ('09、ポプラ社文庫)
「ゲレンデが溶けるほど、恋したい」というのは、万人共通の願いであるが、職業・娯楽小説家の場合は、「あきれるほど、エンターティメントしたい」になるのかも知れない。
バカと気違いが大好きな平山先生が、正面きって直球勝負に出た『ダイナー』は、だからちょっと感動的な仕上がりだ。幾らなんでも盛りすぎ。無茶。物語に詰めたいものを詰めるだけ詰め込んだらどうなるか。殺し屋相手に闇組織が運営する食堂を舞台にしたプロットは、主人公が捕らえられ、監禁状況で過酷な業務に従事し、解放されるまでの経緯。極めてシンプルかつブレがない。ヘミングウェイ「殺し屋」だろうし、異様な人物が出入りを繰り返す一種のグランドホテル物でもある。あと、あれだ、キングの『シャイニング』。幽霊ホテルにやって来て、そこを出るまで。『ポセイドン・アドベンチャー』。沈没転覆した豪華客船から脱出するまで。
エンターティメントってのは皆さんお馴染みの物語を語るものだし、あとは盛り付け次第。そこに一番差が出るもんなんですよ。ってイアン・フレミングが言ってましたよ。本当ですよ。
【あらすじ】
舞台はアメリカ。組織の殺し屋相手に、超うまい軽食を食わせる繁盛店があった。いわば、超高級マクドナルドすなわちモスバーガーである。
非情な闇社会の裁きにより、強制徴用されウェイトレスとして働かされることになった主人公の女は、生命の危険に晒され(“お前の股の皮をももひきにして履いてやるぜ!”)、他人には決して知られたくない暗い過去(自分のいびきが原因で離婚)までも暴かれ、「もう、どうでもいいわ!野風僧、ノフウゾ~!」と自暴自棄気味になるが、よく見りゃ周囲はより最低の人間ども。まぁいいかと気を取り直し、殺人鬼相手に大人しくお酌して暮らしていたが、職場は急速な経営不振に。爆破されて潰れてしまった。
まぁ、いいか。
ところで、個人的には、ゲレンデが溶けるほど恋するのは、安全対策上いかがなものかと思う。
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