シルヴァン・ショメ/ニコラ・ド=クレシー『レオン・ラ・カム』 ('12、エンターブレイン)
ぼくの名前はウンベルケナシ。フランス語のマンガにはちょっと詳しいんだ。もっとも、フランス語は読めないんだけどね。そういう奴は沢山いるよね。駄目だね。ハッキリ言って。必修語学で1年やってるんだけど。赤点、追試で切り抜けた。
最近の海外マンガの異常な出版状況は、なおも続いていて、とうとう『レオン』まで出ちゃった。これが日本語で読めるとはね。隔世の感がある。長生きはするもんだ。まさかそんな日が来るとは思わなかった。いや、ホント。
実は持ってるんだよ、原書。例によって。
カステルマンだったか、ユマノイド・ザソシエだったか忘れちゃったけど、最初の版だと思うよ。
ド=クレシーの絵はその当時から際立ってうまくて、最初の単行本『Foligato』を見て、いっぺんに気に入っちゃった。
あれは異様に気合いの入った作品で、デザインセンスは今と殆ど変わらないんだけど、細部の描き込みが尋常じゃなかった。その過剰すぎる感じが凄くて、『天空のビバンドム』の第一巻、『ムッシュー・フルーツ』とどんどん気楽な感じになっていくのを、ちょっと物足りなく思ったりしたものさ。
相変わらずうまいはうまいんだけど。キャラクターの異常な造形は一貫してるし。
でも、過剰な部分はどんどん削ぎ落とされて、マンガとして読みやすくなっていった。H.R,ギーガーが横山光輝の影響を受けたみたいなもんですよ。
この比喩、なんとなくわかるでしょ。
その辺のゴタゴタが落ち着いてきて、ようやく『レオン』が出るのかな。なんかスコンと抜けた感じで。
台詞が多くて、観てるだけ派の外国マンガ好きにはよくわからなかったんだけど、なんかあっけらかんとした日常的な平明さの中に凄いダークなテイストが盛り込まれてるのは、さすがに察しがつきました。
ジェジェの彼女、腰から下がないし。レオン、ハエ喰うし。
当時は勿論シルヴァン・ショメの名前なんて誰も知らないんだけど、ここでの主役はやっぱりショメのストーリーなんだろう。
いい感じの話ですよ。駄目な人の寓話みたいな。最低の人間揃いの金持ち一家なんて設定は、川島のりかず先生の傑作『悪魔の花は血の匂い』を思い起こさせるしね。
(川島先生の原作で、クレシーが描けばもっとヒットしたんじゃないの?)
主人公レオンは100歳の老人で、同族経営の化粧品会社の伝説的創業者であり、骨の髄までアカである。常に麻薬入りの葉巻をプカプカさせていて、ラリリッぱなしのハイテンションで事件を解決!
『金田一老人の事件簿』みたいな話ですよ。つまり。
嘘ですけど。
かつて映画『ベルヴィル・ランデブー』が話題になったときに、背景やらパースの切り方がどう見てもド=クレシーの絵なのに、スタッフクレジットのどこにも名前が載ってなくてめちゃめちゃ疑問だったんだけど、この本の訳者あとがきに、
「ショメが無許可でド=クレシーの絵柄を援用したもんで、ふたりは仲違い。
いまや食堂で会っても口も利かないくらい、険悪な雰囲気。」
とハッキリ書かれてあったので、非常に納得。
しょーがねーな、ショメ。
なんでそういうことするのかな、ショメ。
高畑勲と対談してんじゃねーぞ、ショメ。
てめー!この、ショメショメ!!
その辺の事情を改めて噛み締めるだけでも、この本は価値があると思います。
買え。
そして、読むがいいさ。いい時代になったもんだと実感したまえ。
| 固定リンク
「マンガ!マンガ!!マンガ!!!2」カテゴリの記事
- いけうち誠一/原作・中岡俊哉『マクンバ』(『呪いの画像は目が三つ』) ('85、立風書房レモンコミックス)(2017.12.02)
- 諸星大二郎『BOX〜箱の中に何かいる➌』('18、講談社モーニング KC)(2017.11.04)
- 大童澄瞳『映像研には手を出すな!』('17、小学館月刊スピリッツ掲載)(2017.03.26)
- 高遠るい『みかるんX①』 ('08、秋田書店チャンピオンREDコミックス)(2017.02.26)
- 白木まり奈『犬神屋敷』('16、ひばり書房)(2017.01.08)
コメント