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2012年9月15日 (土)

杉浦茂『猿飛佐助-おもしろブック版-』 ('12、青林工藝舎)

 2012年ベストテン級の傑作が登場である。
 いや、ベストワンかも知れないな。これ以上、杉浦先生の本が出なければ。

 杉浦茂こそは神である。嘗て誰かがそう言った。
 諸君はこの言葉の意味をよく噛み締めた上で、その虫けら級の人生をまっとうして行って頂きたい。少なくとも、私はそうするつもりだ。

 尋常でない多幸感。
 出発もしない、到着もしない物語の先行き。
 愉快なキャラクターと突飛な言動。不可解な変身に拳闘試合。かえる。コバルト爆弾。どじらくん。
 ここにはたぶん、マンガ表現の為しうる最良のものが詰まっている。

  「なんだ、全然たいしたことないじゃん!」

 もし現物を手に入れて、きみがそう言うとしたら、それはそれで正しいのだ。
 杉浦茂がたいしたものでなければ、マンガというジャンル自体が、全然徹頭徹尾まったくをもって、たいしたものではまるでない。
 これは、そういう究極の二者択一を迫る危険な書物だ。

 例えば世界の喉仏に突き刺さった魚の小骨のようなものだ。
 頭上に前触れもなく出現し、超音速で落下してくるダモクレスの剣だ。(ダモクレスが誰だか知らんが。)きみはかわし切れるか。
 あるいは、各駅しか止まらない駅で、急行電車を見送っている人。
 ・・・そんな侘しい気持ちで生涯を終える覚悟はお有りだろうか?

 だから、悪いことは言わない。お読みなさい。

 個人的には、かつて文春文庫『ギャグマンガ傑作選』で抄録されていた、大好きなくだりが、纏まった単行本で読めるのがなにより嬉しいことである。
 猿飛たちを追ってきた役人が、彼らの潜伏していた長屋の大家に尋ねる。
 
 「おまえがおおやか。
 やつらは、どこへいくといっていたか?」

 「なんでも、フランスのパリとかへ・・・」

 「うーーーむ、ふざけやがって!!」


 彼らは青筋を立てて真剣に怒るのだ。

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