「合衆国」表敬訪問
そんな国があるとは夢にも知らなかったが、行くことになった。大人の事情というやつである。大人には誰にも事情があるのだ。
※事前に注釈。ウンベルは数年前映らなくなったTVセットを捨ててしまい、現在のTV放送業界に関する知識がまったくない。TVブロスを隔週で読んでる程度だ。
最寄り駅の名前が既にして不吉。「東京テレポート」。品川シーサイドというのもある。乗換えた駅は天王洲アイルだ。東京の湾岸地帯には何か呪いでもかかっているのじゃないのか。子供達はキャッキャッはしゃいでいるのだが。それにしてもテレポートはないだろう。グッキーも泣いている。
炎天下の舗道を延々歩く。
三途の川の罪人が責め苦を受けに同じように歩かされている。家族連れ。若者。よくわからんおっさんやおばさん。ガキ。おお、餓鬼。
東京の夏の娯楽の正体はおおむねそんな感じだ。意外と本物の地獄の風景もこんなじゃないのか。それは怖い。順番待ちで、晴れて暑くて天気は常にピーカンなのだ。視界の隅に映るオブジェがなんか針の山に見えてくる。
われわれはひとまず涼しい館内に退避し、休憩した。
あきれ返るぐらい人間が溢れている。高速のサービスエリアを巨大化したような食堂ゾーンには、だらだら単身ビールをすするおっさんや食っても絶対片付けないバカ家族や空席を求めるゾンビ化した猿の群れが無尽蔵に詰め込まれ、騒音の限界を醸し出していた。
たまらんので表に出ると、巨大なロボの足が。
ロボと写真を撮るやつ。ロボについて語るやつ。皆んな、ロボが大好き。
ここまでは予測の範疇だったが、うちの子たちはそんなものには眼もくれず、向かった先がなめこ売り場。これには驚いた。なめこが全国的に大人気なのだという。専門の模擬店まで出ている。白いなめこ、ツタンカーメン風のマスクを被ったなめこのフィギュアを買った。
たまりかねて、子供に聞いてみた。
「おい、しかし、お前、なめこを食えるのか?」
「嫌い。」
なんだ、そりゃ。
だいたい、なんで黄金仮面なんだ。菌糸類の分際で。現在ツタンカーメンは上野に二度目の来日公演を果たしているらしい(ヨン様か)から、露骨に便乗か。ミイラのくせに何度も来日するとは何事だ。面白いじゃないか。その絡みであろう、猫頭のなめこまで売ってる。だが、お子様の一番人気は、一番高級感のある金ピカのやつに確定。ヤクザとお子様のセンスには微妙な共通項があるようである。
入場料を払い、展示場へ。
子供達の母親は、しまむらに夢中。しまむらが新宿駅ビルにある楽器屋の名称でないことは、007並みに勘の鋭い私には充分見当がついたのだが、ピカルとはなにか。
ピカルの碁。(5?)
宇多田ピカル。
おおそうか、囲碁クラブの女子高生5人組がいて、その差しつ差されつの、まったりした日常を描いたアニメがあるのだな。そのうちの一名の声を人気歌手の宇多田ピカルさんが演じていらっしゃるのだなー。これが。納得。
・・・しかし、しまむらって誰だ。
しまざきじゃ駄目か。(島崎俊郎。)しのざきってのもあるぞ。(篠崎ミチ。)しまばらってのは、乱だ。
結局、なんだかんだ言っても疑問は一点も解けていないのだった。しまった。振り出しじゃないか。またもしくじった。
この手痛い教訓を決して忘れることがないよう、しまむらの名前を手の甲に最新式のレーザー刺青で焼付けながら、われわれは次のブースへ向かうのであった。
模擬店の密生するよくわからんテント村を抜けると、巨大な糞から機械の足が突き出していた。
なんだこれは。
でかい。余りにでかいつくりものである。その大きさがこの一帯には珍しい、貴重な日陰ゾーンを作り出しており、老若男女が群れている。
クソの下の憩い。
まるでロンドンパンクの幼稚な妄想を現実化したような、画期的な現代美術である。そして、現代美術の常として価格は安い。村上隆レベル。ポリエチレン製。
そして、時間と共にクソは全体に巨大な霧を散布しまくるのだった。なんだ。この光景は。
恍惚とする人々。ほっぺたを真っ赤に腫らし、熱中症寸前までいっていたうちの子供達が喜んでいる。わざわざ過酷なサファリに連れて来て、甘露を与えて喜ばす。ローマ時代の奴隷教育か。凄いな、現代日本。そりゃ小学校、土曜が休みになる訳だわ。
そのころ、母親はオカザイルの店にいるのだった。(さすがにこれはわかるので、無理なボケはつくらない。まだ、私がTVを所持していた頃から既にやってた。)
しかし、なんかパロディーばっかだな、ここ。
依然弱ってるガキどもを、ミストを浴びに連れて行く。日焼けした快活そうなお兄さんがホースをこっち専属で向けてくれる。全身ズブ濡れになり、みるみる生気を取り戻す子供。死なないようにライフを取りまくるシューティングの要領である。オレ様のゲーム脳フル活用。最近まったくやってないけど。
あと、その先には、なんか巨大な人魚の置物があって、でかい乳房の谷間を子供用のウォータースライダーが駆け下る施設があったが、ここでなんか違うものに目覚める子供とかいたら面白いな。
うちの子は、まだフロイト学派でいうウンコ・チンコレベルなので、全然関心なさそうだったが。そういや、なめこって見事なチンコ型である。理屈に合ってる。
以上で観るもん観たし、鑑賞終わり。ホテルに戻って休むべぇと思ったら、売店を三軒はしご。なんかよくわからねぇステッカーだの、新幹線型の耳掻きだの、みるみる積みあがる。
どさくさに紛れて、母親もウェットスーツを着た猿のぬいぐるみを買っている。
胸に、“UMIZARU ”と書いてある。そんな猿がいるのか。ふぅん。
今度生物図鑑で探してみよう。と思いつつ、俺の財布からは面白いほど金が零れ落ちていったのだった。
結論。
オレは普段から自分を、「無駄なものにお金を使ってばかりのいけない人」と自己認識しているが、浪費家としてまだまだ甘かった。反省しきり。
それからは、日々写経の毎日を過ごしている。
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