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2012年7月

2012年7月31日 (火)

エドモンド・ハミルトン『時果つるところ』 ('69、ハヤカワ書房世界SF全集11巻)

 諸君、たいへんだ。
 コレ、『漂流教室』の元ネタだ。


 文庫になっていないので、ついつい読み落としていたが、要注意の作家マレイ・ラインスターとのカップリングでもあることだし(しかもそっちは野田先生の翻訳で読める!)、渋々迷って購入したら、ハミルトンの代表作『時果つるところ』のオープニング・シーケンスはまんま、『漂流教室』だったので驚いた。
 隠れた軍事産業の拠点であるアメリカ地方都市の上空で、敵国から飛んで来た超原子爆弾(原文はSuper Atomic Bombなのか?)が炸裂する。時間と空間の構造が破壊され、人口5万の都市はまるまる地球全体が砂漠と化した遥かな未来に飛ばされてしまう。
 赤色巨星と化した太陽、異様に冷え冷えとした地表の空気。塵芥。主人公と仲間が給水塔に登り、町外れの様子を確認する場面は圧巻だ。いつもと変わりない家々の屋根の向こうに、すべてを圧倒して暗い砂漠がどこまでも続いている。絶望に打ちひしがれる人々。
 とっくに破滅した世界で、翔たちは生き延びることが出来るだろうか・・・?

 ・・・というくらい、最初の場面はそっくり。
 ま、オープニングだけなんだけどね。
 だいたいハミルトンであるからして、生き残る為に人肉バーベキューを開催したりはしないのだし。星間パトロールという概念の発明者らしい、壮大な宇宙規模の与太話が展開していきます。これはこれで楽しいよなー。
 執筆年代は、アンチスペースオペラの傑作『スターキング』(主人公が敵のボスに縛られて何もしないまま、作動原理不明の超兵器が敵艦隊を撃破!)と同じ頃。人類には宇宙進出の資格がない『虚空の遺産』とか(ディレイニィ「スター・ピット」だ!)、この頃のハミルトン、ある意味キテます。最高とも持ち上げにくい温度の低さが格好いい。エンターティメントとしては完全に失敗している気がするのだが、別に客を愉しませなくてもいいじゃないか。

 しかし、こうして読み比べてみると、学校って規模を選択した楳図先生の慧眼は幾ら褒めても褒めきれないな。
 都市一個なんて甘いよ!ハードコア度が違います。

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2012年7月30日 (月)

『トレマーズ』 ('89、UNIVERSAL)

 いうまでもなく大好きな一本。
 定期的に、それこそ積立貯金並みにしょっちゅう観ている。全編に漂う、冴えない田舎臭い感じがとてもいい。夏が来ると観てしまう。
 この映画を日曜映画劇場で初めて観たときのことは、今でも鮮明に記憶している。痒いところを思い切り掻いて貰ったような、言い知れない心地良さがあった。
 どこがいいのかと訊かれると、例えば中国人のおっさんが喰われる場面。
 
床が抜けて、巨大な蛇のような怪獣の頭が顔を出して、まるでドリフのコントだ。おっさんの真剣に思いつめた表情もいい。物凄く大変なことになっているのに、妙な底抜け感があり、笑ってしまう。
 本当なら全滅してもおかしくないたいへんな事態なのに、意外と大勢生き残るところもポイントだ。とにかく人を殺せばいいと思っている最近のジャンル映画制作者の連中は一度胸に手を当ててよく考え直してみて欲しい。それほど生命の値段は軽いのか。
 だからといって、誰も殺さずに映画を進めるような無粋な真似もしない。
 死んでいくのが、孤独な世捨て人のジジイ、金持ちの老医者夫婦、道路工事人、中国人のじいさん、口うるさい独身者のハゲ・・・と、見事にアメリカンウェイから遠そうな、人に好かれない連中ばかりなのも、これはもう、完全に狙ってやってるんだろう。
 ケヴィン・ベーコンの猿顔がこれほどハマった映画はないし、ヒロインの華のない感じがリアルで素敵だ。この二名がキスする最後の場面はいつ観ても泣いてしまう。
 それを見守るフレッド・ウォードの顔は、松尾伴内に似ている。

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2012年7月29日 (日)

尾玉なみえ『純情パイン《完全版》』 ('11、講談社シリウスKC)

 いいよね。尾玉なみえって。
 そう呟いて後は諸君のツィート待ち。たまには、そういう楽をしてみたい。なう。

 ・・・それでは記事にならないので強引に続けるが、既に知ってるよね、あんた?尾玉のことは?もちろん?
 例えば、この『純情パイン』が週刊少年ジャンプに掲載されてた作品だとか、ビジネスジャンプも含め集英社系で描いていたが、どうもいまいちパッとせず、それでもコアなマンガ好きのハートは鷲摑み、現在は講談社で『マコちゃんのリップクリーム』を自己史上最長の連載記録を更新中であることとか?
 『少年エスパーねじめ』の連載中は覚えてる?そりゃ、結構。あんたもそれなりの年齢だ。

 なに、作風?
 ギャグマンガですよ。エエ、まごうことなきギャグですとも。当たり前じゃないですか。
 なんというか、作画レベルはそれ程高くないんだけれども(これ、実はギャグマンガの本質においてはプラスポイント、いいお湯加減だ)、そして独特すぎる台詞廻しが極めて高い中毒性を誇っている。
 いまだに毎週ジャンプを買ってる奇特な人スズキくんからは、「アレ、うすた涼介っぽいんですよ」との親切な垂れ込みがあったのだが、ごめん、オレその人読んでないんだ。今度読んでからなにか云うわ。偉ぶって。高層ホテルの最上階目線で。
 しかし、キミ、誰が誰の影響を受けて、とか、誰それのアシスタント出身でとかよく知ってるよなー。ひょっとして出版社勤務なんじゃないのか?

 「ただの2ちゃん情報ですよ!」

 あ、そう。
 しかし某コンプリートガチャといい、つくづく違法サイト好きだよねー。 

 尾玉なみえに話を戻すが、作品は基本的にどれも同じようなもんで、似たような展開をする。
 つまり、どれを読んでもオッケー。
 
あなたにも尾玉の才能がビシビシと伝わってくる筈だ。

 例えば、『純情パイン』とは、なんかミニスカの十字軍兵士のようなコスプレをした身長50メートルの巨大な乙女で、小学生みつおとみちるが5分以内に交換日記を二回まわすと変身する。そして純情パインは怪獣と戦う。
 どう見てもウルトラマンそのものなんだが、面倒なので時間制限の設定はない。出てくる怪獣のデザインは明らかに『エヴァンゲリオン』っぽい。この作品が連載されていた2000年というのは、そういうものがまだ鮮度を保っていたってことだろう。
 それで云うなら、純情パインを発明した博士の造形は、つげ義春「石を売る」シリーズの主役そのものであるし(つまりは『無能の人』ですな)、怪獣を操り侵略してくるオナップ星人のコスチュームはまるっきり『怪獣大戦争』のX星人だ。(高橋留美子のデビュー作「勝手なやつら」が元ネタかも。)
 
 適当に凝ったディテールはディテールで楽しめるとして(本当に適当としかいいようがなく、彼女の主眼はそこにはない)、それしか持ちネタがないトニーたけざきなんかと違っているのは、主人公達の異様な性格の悪さ、根性のひねくれ具合である。
 これが最高だ。
 間違いなく断言できる。
 まともな人はひとりとして出てこない尾玉マンガは、内容の歪み切り度合いに於いて、マルクス兄弟『吾輩はカモである』やモンティ・パイソンの一連のスケッチに連なるものである。
 残酷無慈悲な子供たちが連続して登場するあたり、ラファティの『地球の礁脈』なんかも連想させる。
 

 この人、なんで誰でも知ってるヒットがないんだろ。
 尾玉なみえに関する最大の謎は、それだろ。やっぱり。
 その作品に次々と接していくうちに、その謎はぐんぐん膨れ上がって今にも破裂しそうになるだろう。
 『アイドル地獄変』。
 『スパル・たかし』。
 『モテ虫王者カブトキング』。
 明らかにレベル高いし、どれを読んでも面白いんだけど、マンガ読みの人以外にはまったく知名度ないんだよねー。なんで?
 さくらももこの代わりに、尾玉なみえでもよかった筈じゃん?ビージャンの編集さん?小学館・・・ではなく、講談社シリウスってあたりもサブカルじゃね?

 完全に私の個人的偏見だが、たいして面白くもない「ハリー・ポッター」が大ヒットしたり、マンネリもいいところの村上春樹が世界的作家扱いだったり、マイケルでもクイーンでも本田美奈子でも、死んだ奴で成り立つ市場があったり(死人枠)、「愛の流刑地」で抜く奴がいたり、石原都知事がまだ君臨してたり、理由なく消費税があがったり、どうも2012年で人類は終わってくれそうもなかったり、世の中おかしなことだらけじゃないですか。なんか微妙にネタ古いですけど。まぁいいじゃん。あんたも完全に同意してくれるでしょ。

 これは、世の中がおかしいのではなく、おかしなものこそが世の中だから。
 “おかしい”がすべての前提。
 愛こそはすべて理論。

 従って尾玉なみえの描く世界の方が、実はこの世の真実の姿によほど近いのである。
 そして、誰もが夢見るドリーマーでいたいから、真実の声には決して耳を貸さないの。


 どう?
 わりかし、簡単に謎が解けたでしょ?
 百年の疑問、一挙氷解!っしょ?
 ま、こんなん、わかってどうなるもんでもないんですけどね・・・!

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2012年7月21日 (土)

好美のぼる「奇形児」 (原著発行年代不明、復刻UA!ライブラリー)

 教会。懺悔部屋。
 漆黒の闇の中にかすかな燭光が射している。無造作に置かれたバイブルの表紙を飾る金文字が見える。
 しかし、切格子を隔てた向う側に蟠る暗黒は別の生き物のようだ。

 「また、酷い本を読んでしまいました。」

 突き出たお腹の上に両掌を組んで、怪奇探偵スズキくんは言った。

 「告白なさい。主は、たいていのことは大目に見てくれますよ。」
 クックックッ、と低い忍び笑いが漏れる。
 「ま、大目玉を喰らうこともありますがね。」

 「はい。」

 今回のスズキくんは割りと本気で後悔しているようだ。ムー帝国を含めた万事に精通し、鬼面人を驚かすにも程がある怪奇一筋峻道の人スズキくんをして、かくもしおらしい態度にさせたのは一体何か。

 「まず申し上げておかなくてはならないのは、ボクはこんな本、趣味でもなければ好きでもないということです。
 それこそ、神に誓って」
 適当に十字を切った。さらに空中に髑髏マークを描く。
 「絶対、です。」

 「ふむ。中立を維持するという訳ですね。」
 格子の向う側に座る人物は興味深げに頷く。

 「早い話、エロが典型じゃないですか。若い頃はそりゃ、過激なもの・過剰なもの、酷いものを求めますよ。でも露出度アップを繰り返して内蔵壁に到れば、人間誰だって気づきますよ。こりゃ求めていたものとなんか違う、変だって。
 重要なのは、水着のグラビアアイドルから内視鏡による膣内拡大写真までの振れ幅を獲得することではないでしょうか。
 うんこのアップでもいいですよ。どんな絶世の美女がひり出そうが、うんこはうんこです。それに意味づけするのは人間の側の行為なのです。」

 「そ、そんなに、うんこに思い入れが・・・」

 「神父様、人間は何かに執着する生き物なのですよ。」
 スズキくんの笑顔は連載開始以来最大級のドス黒さだった。「詳しくは、あすこにいきものがかりが居ますから、訊いてやってつかぁさい。」
 
 教会の隅には、首から「いきものがかり・神がかり」という札を下げた男女三人組が床に座り込んで何やら楽器をジャカジャカ奏でている。

 「あの人たちも、うんこマニアか。」神父は嘆息する。「なんてことだ。」

 「唐沢俊一が攻撃を受けていることは、時流に疎い神父さんも御存知ですね?検証本がバカ売れしたのは数年前、現在も何かやっているようです。個人的意見としては、そんな枝葉末節を叩くより、他に叩くべき権威はゴマンとあるように思うのですが。まぁ、ブームなんだから仕方がない。流行に意味なんかないです。そういうところとは極力無縁にいきたいですね。
 ま、お陰でソルボンヌK子が鹿野景子である事実に、今頃になって気づきまして、ちょっとしたセンスオブワンダー難波弘之を味わいましたけどね。」

 ペロッと舌を出した。

 「それはそれとして、この好美の復刻本はいただけないですね。
 あれほど、他人のマンガに欄外で突っ込む行為はレイプに等しいと言っているのに、まだ分からんのか、この、鬼畜外道のバカ者めらが!!!」

 突如鬼の形相になった。まるで狂人だ。

 「そういうたぐいを初めて目にしたのは、江口寿史『なんとかなるデショ!』に載ってた同人誌マンガだか素人マンガだかに突っ込む回だったと思います。
 あれも相当不快でしたけど、所詮商業誌で発表される余地のない駄作でしたしね。あの本編まで江口が製作しているんだったら大したもんだと思いますが、真相どうなんですかね。詳しい人が居たら教えてください。
 ともかく、他人の作品に勝手にペンを入れておいて、偉そうに何かコメントする輩は全員縛り首にすべきです。位置付けとしては映画の副音声解説みたいなもんですが、あれはOFF出来る。同じ理由でボクはニコ動もニコニコできないくらい大嫌いなんですが、あれだって一発でコメ無しにはなる。
 マンガは印刷された媒体がすべてなんです。いっかい書き込まれちゃったらそれでおしまい。
 そういう無法な行為は絶対に許されるべきではないんだ。」


 スズキくんは噴き出る汗を拭い、傍らに置いた水をゴクリと飲んだ。

 「聖水、おかわり!」
 すかさず黒子が駆け寄って水を注いで去る。
 
 「話が大幅に逸れました。そういう劣悪な環境を我慢して、読みましたよ。復刻本。好美先生の『奇形児』。4ページを一個の頁に落とし込んだりする無茶な編集をしてやがるものでテイストが攫み辛くて苦労しましたけど。
 原本見たことないし、内容からして一般での復刻はありえない話ですし。さて。」

 一拍置いた。

 「・・・この先の話、聞きたいですか・・・?」

 「むむ・・・。」

 部屋の中に暗闇が一層濃密さを増して蟠ってきたようだ。
 遠くで、いきものがかりが立てる悲鳴に似た音楽(ノイズ)がエフェクト音のように聞こえる。   
 どんないいこと歌っていても、可聴範囲外から見るとバカみたいだ。

【あらすじ】

 ヒロコ・グレースは女子中学生。

 この設定だけで危険な匂いがプンプンするのは、おそらくあなたの考え過ぎだ。好美先生にそんな気はない。いつもの適当な好美節をブチかますだけのこと。演歌一筋の歌手みたいなもんだ。
 そんなヒロコに妹が出来るという。
 まぁ、いい歳こいて父親と母親が依然まぐわい続けてた動かぬ証拠みたいなもんであるが、世間的にはめでたい。小躍りして喜んでいるヒロコの幸せに、不吉な影が射す。
 母親は出産に伴なうストレス軽減の為に、常時睡眠薬を使用しているというのだ。

 現代社会における薬害の代表例として語られるサリドマイド事件。
 このマンガがそこに直接的なヒントを得て発想されているのは明らかであり、その無自覚かつ自由過ぎる態度が危険視され、今日も一般発売はまず不可能と目されているところではあるのだが、ハテ、このつまらない作品にそんな壮大な意図があっただろうか。
 実のところ、好美先生は相手が流行歌手だろうが、一流弁護士だろうが、カッパだろうが、うろこ少女だろうが、どれもひとしなみ不謹慎な態度で取り扱っている。それを封じることは作家性を全否定することだろう。
 (作品がつまらなかったからといって作家に責任を取らせようとするのは、間違った態度である。読んでしまったお前が悪い。)
 実際面倒なので、今回の記事作成にあたり具体的な病名はスルーしようかと思ったが、ちょっと調べてみたら、2008年我が国でもサリドマイドの販売は再度許認可されているではないか。知らなかった。意外と世間一般の認識もそんなもんじゃないのか。事態は進む。一方的にタブー視することは、それに触れようとしないことだ。

 さて、ヒロコの不安は見事的中し、赤ちゃんは予定日になってもなかなか産まれて来ない。医者も首を捻る始末。
 その代わり、奇怪な現象が起こる。
 ヒロコの手足がぐんぐん縮み出したのだ。
 最初は片腕づつ。
 遂には、両足まで。


 頭を抱える両親(と読者)。
 
 やがて四肢の萎縮が日常生活に支障を来たすレベルに達したヒロコは、学校の傍らに行なっていたモデル業も廃業、引きこもり生活へ。
 なにしろ、痒い頭を自分で掻くことすらままならないのである。(この描写はやけにリアルだ。)友達に逢うことすら出来ない。こんな自分を見せたくない。
 ヒロコの心境に連動して読者の気持もぐんぐん鬱方面へ雪崩落ちていく一方で、病院に籠もり続けている母親の状態に変化が。
 胎内での赤ん坊の成長が異常に早い。
 体重がぐんぐん増える。
 急激にせり出したお腹をかかえて苦しむ母。このままでは母体が危険だ。


 急遽帝王切開を行い、赤ちゃんを取り出すことになった病院では、医師がレントゲン写真を見ながら首を傾げている。

 「おっかしいなー・・・絶対こんな筈ないんだけどなー・・・」
 
「先生、どうかしたんですか?」


 いかにも聞いて欲しそうな医師のリアクションに看護婦が仕方なく反応。
 医者は嬉しげに、

 「いや、なに、つまらないことなんだけどねー。
 この赤ん坊・・・なんか普通と違うみたいなんだよねー。」


 「はァ。
 アタマがみっつぐらいあるとか・・・?」


 「なんで、そーゆー不謹慎なこと云うかなー。しかも、極かるーく。80年代コピーライター並みのライト感覚でさ。
 きみね、立場をもっとわきまえなさい。立場を。
 ん・・・ま、いいや。
 どのみち、いま産まれてくれないと母子ともども危険。ボクも非常に困る。
 ということで、摘出準備。」


 「ハイ。」

 その頃、縮み続けていたヒロコの手足は遂に完全に消滅。戦場へ行ったジョニーというか、乱歩「芋虫」というか、いわゆるダルマ状態になってしまった。
 あまりの異常事態に、わずかに残っていた正気もフェイド・アウト。哀れヒロコは発狂。凶悪な三白眼を剥き出しに、よだれを垂れ流しながら、
 「腕をくれ~~~」
 「足をくれ~~~」

 と、うわごとのように呻きながら、自宅から這いずり出していってしまう。好美先生の作品に詳しい方なら御存知の通り、変身したヒロインが自宅から彷徨い出してこそ好美マンガである。行き着く先は当然、墓地だ。

 死者の手足を頂こうというロウファイ極まる作戦に出たヒロコであったが、その前に墓地管理人のじじいに捕まる。
 安ウィスキーで泥酔しているじじいは、ヒロコを見るや爆笑。碌でもない知恵を授ける。

 「ヒック・・・お嬢ちゃん、手足が欲しいんだね。ウィック。
 そりゃ売ってやらんこともないがね、ゲフ。おあしをいただかないとね。ゲポゲポ。」

 「おあし・・・?」


 平成生まれのヒロコには昭和の古語は分からない。意外と身近に存在するジェネレーションギャップに苛立ちながら、じじい、薄い札入れを懐から取り出して見せる。

 「これ。マニー。マニー。わかる?」

 「あぁ、お金ね。わかったわ、直ぐ持ってくる。」


 発狂と同時に善悪の観念も消え失せているから、躊躇はない。金などあるところからいただけばよい。この身体ならなんとか忍び込めるんじゃないの。
 真夜中の墓地を出て、銀行へ転がるように直行するヒロコ。慣れてしまえば意外と早く移動することが出来るようだ。
 そういえば、風太郎『甲賀忍法帖』、今のあたしみたいなキャラが出てなかったっけ。

 「地虫十兵衛。」

 あぁ、そうそう、そんな名前だったわ。十兵衛は槍を体内に飲み込んでいて、それを吐き出して敵を倒すんだったな。一撃必殺かっこいいじゃん。パクろかな。
 意外に軽快に夜道を転がるヒロコを、驚いた白タクのにいちゃんがひょいと跳ねた。

 一方、こちら産院では。
 取り散らかった病室。血塗れで倒れている看護婦。頭を割られた医者。
 転倒したカテーテルの間を縫って、産褥の激痛に歯を喰いしばりながら母親が叫ぶ。

 「あぁ・・・お前は・・・!!」
 
「お前って子は・・・!!」


 「うー、がるるるるる、るるる・・・!!」

 病室の壁に映し出された異形のシルエットが咆哮する。
 赤ん坊は確かに産まれた。
 あまりに長すぎる手と足を持って。それは幼児のものではない、明らかにもっと成長した人間の手足だ。
 呪われた子供の誕生、恐るべき真相に気づいた母親は絶叫するしかなかった。

 「そ・・・そ、そんなバナナーーーッッッ!!!」

 ・・・ヒロコが目覚めると、温かい光が部屋を照らしている。
 壁際に盛られたフルーツ。並ぶ鏡台と化粧臭い匂い。これは、どこかの楽屋のようだ。
 腕を組んでこっちを見ている三角眼鏡の女。その視線には優しさの欠片も感じられない。
 三下らしき、白いスーツに黒いワイシャツ、タータンチェックのど派手なネクタイを結んだ男が媚び諂うように、自分を抱き上げ、女に翳して見せた。

 「どうです、アネキ。こいつは凄い拾い物でしょう?」

 「ふふん。確かにね。どうしたの?」

 「あっしの手下の若いのが、今夜道路で跳ねたんでさ。さいわい、当たり所が良かったみたいで別段怪我もしちゃいない。しかし、さすがに始末に困って、思案の末この店へ持ち込んできたって訳です。」

 「ふーーーん。」


 ヒロコの頤に手を当てて、容貌を眺め回す女。さすがに副業でモデルをやってるだけあって、マスクはなかなか悪くない。ま、発狂してますけど。

 「・・・使えるわ。準備して。」

 
さてさて、それから何があったのか。
 次にヒロコが目覚めると、眩しいスポットライトがあたっている。今週のスポットライト。来週はサーチライトなのか。

 「・・・レディ~ス・ア~ンド・ジェントルメ~ン!」

 ドラムロールと共に響き渡る朗々たる張り声。

 「さてさて、ここにお目に掛けますは、世にも珍しき不幸の一番星。生まれついての片輪だよ!女給さんは話の種に、学生さんは勉強の教材に観てってちょうだい。
 この子の父さん、ある日山で、鍬にてマムシの胴体真っ二つ。呪い呪われ因果が巡り巡って、生れ落ちたが、哀れ、この子でござい。当年とって16歳。容姿端麗、頭脳明晰。だけど、望んで得れぬものがある。
 この世はまこと奇異なもの。奇妙なえにしの風車。
 さぁさぁ、お代は観てのお帰りだよ!!」


 白と黒とでピエロメイクを施されたヒロコは、とあるキャバレーの軒先に晒し者にされているのであった。
 ヒロコを見つめて、笑う者がある。
 ふいに泣き出す者がある。
 たちまち、あたりは黒山の人だかりになったというのだから、げに恐ろしきは暇人なり。暇人・ゼア・リズ・ノー・ヘブン。是非もないことじゃの。

 「おいっ、こいつ目を開いたぞ!」
 「生きてる!生きてるんだ!」
 「まッ!やっぱり、お人形じゃなかったのね!」
 「なんでまた、こんな姿に・・・」
 「おい!カメラ持って来い!カメラ!・・・いや、携帯だ!写メだ!写メだ!」


 あまりの仕打ちに涙ぐむヒロコの脇に、大きな立て看板がある。

 『この子の手足を探してください。お店の中にあります。』

 そんな訳ねーだろ、と口々に呟きつつ、それでも湧き上げる興味は抑えきれず、ぞろぞろキャバレーのエントランスを潜っていく野次馬たち。
 商売は大成功。好奇の輩は後から後から群れをなし、店内は大入り満員の大盛況。

 「さすが、アネキ!すげぇ行列ですぜ!」

 「フフフ・・・そんな筈はないと知りつつも、探せと云われりゃ探してしまう。
 人間っておかしな生き物よね・・・」


 二階の窓から店の前の狂騒を眺めながら、ワイングラスを廻す三角眼鏡の女マネージャー。真っ赤にデコレーションされた部屋に流れるのは、フルトベングラー指揮のワグナーだ。

 「だいぶせこい出し物だったけど、暫くはこれで稼げそう・・・」

  キエエエーーーッ!!!

 おかしな絶叫が夜空にこだまし、パンパンと乾いた銃の発射音が聞こえた。
 
 「・・・なに?!」

 「たいへんだ、アネキ!怪獣がこっちへやって来る!!」


 窓から表を覗いた三下が、蒼ざめた顔で振り返る。額は噴き出た汗で濡れている。

 繁華街の毒々しいネオンの光を受けて、都市上空に浮かんだ異様な人体がゆらゆらと長く伸びすぎた手足を操り、街路を行進して来る。
 まるで巨大な女郎蜘蛛だ。
 胴体も頭部も風船のようにブヨブヨと大きく膨らんでいるが、その体形はまさしく生まれたばかりの嬰児のものに違いない。気味悪い暗緑色の血管を皮膚に浮かび上がらせたピンク色の肌は、破水時そのままに濡れて、粘つく液体を幾筋も幾筋も真下の地面や建物に滴ろ落としていく。

 臭い。
 異様な臭気が周辺一帯に垂れ込め、人々は悲鳴を上げて逃げ惑っている。

 その口が開くと、呼気がブォーッと漏れ出し、割れ鐘のような声が街路に轟いた。

  「カエス・・・」
  「カエス・・・」
  「コノ手足・・・」
  「カエス・・・」


 「バ・・・バケモノだ!こっちに来る!」

 悲鳴を上げて仰け反る三下の頬に熱い往復ビンタを見舞うと、女マネージャーは窓の外をジッと注視した。
 怪物が進むにつれ崩壊するビルディング。街路のあちこちで火の手が上がっている。
 眼鏡の奥の吊りあがった眼が、ニッと細められる。

 「ナルホド、こいつは呆れた怪物だわ。事の次第はよく判らないけど、どうやら店の前の片輪となにか因縁がありそうね・・・」

 女はふいに上空を振り仰いだ。

 「ネビュラ基地!変身は・・・?」

 スモッグにまみれた都会の空を突き抜け、遥か真空の宇宙を越えた月軌道の内側付近に、三角錐をみっつ、ブッ違いに組み合わせたような異様な宇宙基地が浮かんでいる。
 その基地の住民達は金属プレートの仮面を被り、明らかに地球の住民ではないようだ。

 『ヨカロウ。50秒間ノ変身ヲ許可スル。』

 「ありがとう!」


 宇宙の彼方から放射される放射線を浴びた女の身体がみるみる巨大化していく。
 一瞬後、夜の新宿の街に巨人と化したキャバレーの熟年経営者が立ちはだかっていた。当然着衣がつられて巨大化する訳がないので、ヘア丸出しの全裸の姿。

 「ウヒョー!!こりゃたまりまセブン大放送・・・!!」

 逃げ惑う人ごみの中で、即刻鼻血ブーになり出血多量で運ばれる熟女マニア多数。

 「ヘアッ!!」


 巨大熟女はダジャレのような掛け声と共に、干し葡萄色にどす黒く変色した乳首の先端から母乳を噴射した。
 ビチャビチャと白濁液を浴びせ掛けられ、本能を刺激されたのかたちまち大人しくなる怪獣。その足元では、零れ落ちた乳の海の中で溺死寸前の中年サラリーマンが恍惚の境地に陥っている。

 「ヒェッヒェッ・・・もう、死んでもいい・・・」

 変態は放って置いて先を急ぐが、赤子怪獣を見つめて何事か得心した巨大熟女、

 「ムン・・・!」 
 
 そのムレムレの股間より、温かい黄褐色の液体がバチャバチャと地面に降り注いだ。
 あちこちで上がっていた火の手が、たちまち鎮まっていく。
 残り時間が少ない。
 熟女の手が円月輪のように光ながら動くと、触手のように長く伸びた赤子怪獣の手足がバシバシと切断された。
 鮮血を吹きながら地面に転がる手足。
 胴体も支えを失い、グラリと揺れながら大地に叩きつけられ、やがて動かなくなった。 

 得心するように、深く頷いた熟女、

 「デアッッッ・・・!!」

 両手を宙に突き上げると、掛け声一声、宇宙の彼方へ飛び去って行った。

 「・・・なんか、いい夢見たよな・・・」

 あっけにとられ、空を見上げたままの不夜城の人々は気づかなかった。
 落下した怪獣の身体に押し潰され、キャバレー前に吊るされていた片輪の少女が無惨に死亡したことを。
 その菩提を弔うかのように、傍らに巨大化した手足が添えられていたことを・・・。


【解説】


 「・・・酷ぇな、こりゃ。」

 神父は聖職者にあるまじき言葉遣いでコメントを吐いた。

 「でしょ・・・?多少膨らましてはありますが、おおむねこんな話なんですよ。
 ここから、われわれはどんな教訓を受け取ればいいんですかね?」


 語り終えたスズキくんは、また聖水をラッパ飲みしている。

 「酷いものを観たがる心理は、現代社会に生きるわれわれを人間とは別種の生き物に作り変えてしまうのかも知れないね。
 だからってどうなる訳でもない。日常は続いていくんだが。
 せいぜい、そこに開いている深淵に足を取られないように用心する他ないということか・・・」


 教会の心地良い暗闇の中では、いきものがかりがまだ演奏を続けている。祈りを求める老婆の歯の無い口がモゴモゴと動き続け、声にならない讃美歌を唱えている。
 万物を照らす光は、建物の中へは完全には侵入しきれない様子で、そこは表の世界とは違う、抽象と具象がごた混ぜになった奇妙な空間だ。 
 人は何故、祈りなどするのか。
 何に向かって祈るのか。

 その答えは様々あろうけれども、とりあえず、この水はうまい。そして、ちょっと小腹が減ったな、とスズキくんは思うのだった。

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2012年7月16日 (月)

『アタック・オブ・ザ・ビースト・クリーチャー』 ('85、HIGH BURN VIDEO)

 紛れもなく傑作であるが、説明に困る。そんなビデオだ。
 
 これに関しましてはですね、かの『ZOMBIE手帖ブログ』さんに予告編(※シーン抜粋)が貼ってありまして、ひと目見るなり、即購入を決定。翌日お店に買いに走ったという。
 とにかく凄い内容なのだが、私の能力では諸君に適確に凄さを伝えきれる自信がまるでない。
 困った。
 だが、困ってばかりいても記事にならないので、なるべく簡潔に要点だけ、かいつまんで述べることにする。随所に意味が解らないと思うが、そこは私も同様によく解らないのだ。
 安心して、迷い子になろう!

【あらすじ】

 1920年代の北大西洋。豪華客船が沈没し、生き残った男女数名は救命ボートで脱出。地図にも載らない孤島に辿り着く。
 島に到着した途端、鳴り響く不吉なアナログシンセ音。
 この島は実は、赤い顔の小人が多数棲息する世にも珍しい島だったのだ!次々と襲い掛かる小悪魔のボディーアタックにどんどん殺されていく人間達!
 凶悪すぎる奴らは、人肉を喰い一瞬のうちに骨だけにしてしまう!こわい!怖すぎる!
 船員達は果たして、襲撃を逃れ、この恐怖のいけにえアイランドから脱出することが出来るだろうか・・・?

【解説】

 さぁ、難しいぞ。
 こんな単純かつ凡庸な組み立ての低予算ホラーのどこが凄いんだろうか?
 全然伝わらないのを承知で、以下列記してみる。

1)潰れまくった画質が凄い

 さすがに誰も聞いたことがない映画だけに、まともなマスターが発見できなかったものと思われる。ビデオのダビングを重ねて潰れてしまったような映像が延々流れ続ける。
 ハイビジョンだ、ブルーレイだと映像革命を無駄に繰り返す現代からすれば、ありえない酷いレベルの画質。心洗われる。人物の輪郭なんか滲みまくりだし、ときどき画面をトリミングぶれの線がよぎる。ロングに顕著だが、フォーカスの合わない森の木々とかあって、ぼやけて潰れてしまっている。
 これに似た映像効果を見たことあるな、と思ったら、この当時出回っていた裏ビデオのダビングにダビングを重ねた画質だった。
 
2)極悪な音楽(シンセ1台)が凄い

 全編に流れまくる謎のシンセサウンド。人を不快にさせるブピョとかブニュ~とかいった音を延々流しまくり、ファミコンのように単調で不愉快な旋律を要所要所に絡めてくる。画質の悪い画面と相俟って、嫌な感じのトリップ感が生まれる。
 地元生産の安いドラッグを無理やりキメてる感じ。高校の部室なんかで。塗料系とか。

3)生産性のない話が凄い

 低予算ホラーのストーリーから得られる教訓などあるだろうか?「面白い」とか「ひでぇ!」以外に?他になにが?
 この映画など、ひたすらに怪物の襲撃から逃げ惑っているだけだ。で、どんどん喰われていく。これほど省エネルギーに徹底した映画はあるまいと思われる。
 この夏、節電に協力したいと思っているご家庭や企業は、参考までに一度観ておいた方がよい。

4)まったく華のない出演者陣が凄い

 本当にパッとしないんですよ。
 でも逆にそこが「この人以外ありえない」感を醸し出している。単なる偶然なんでしょうが、安い映画が安い役者を呼ぶというね。望んで形成された安い磁場が絶妙です。
 なんか他の映画で顔見たことある人が混じってる気がするんですが、たぶん気のせいでしょう。

5)赤い小人の造形が凄すぎる

 やっぱし、コレでしょう。
 単なる人形なんだよね。手操作の。ハンドパペット。こいつの魅力が、この映画の味わいを確実に深めています。
 身長は30センチくらい、赤い顔に大きめの白目を剥いて、黒い蓬髪が長く伸びてる。小さい手がついてて、走るアクションの時には、「たけしのスポーツ大将」のカールくんみたいな動きをする。
 インディアンの呪い人形みたいな奴らだが、口の中には牙がびっしり生えてて、かろうじて生物感を保っている。かなりギリギリですが。ギリでアウト、みたいな。
 こいつらが木の上に固まってたり、草叢から覗いたり、倒木の上をダッシュしたりするスーパーSFXで襲い掛かってくるんだから、たまらない。
 当然、襲撃シーンでは喰らいつかれた役者さん、こいつらを全身に貼り付けて暴れる大奮闘を見せてくれますよ。空中を飛んで襲うシーンでは、人形を放り投げてます。その場面で解るんですが、人形に足はついてなくて、棒状のもので下半身が出来てて、ここを攫んで操ればいいんだなーとか、パペット的に余計な知識も満載です。
 本編の緩すぎるクライマックス、山頂に集う赤い小人数百匹!なんか神殿の石像みたいなものを拝んでる!これが奴らの神なのか?
 んー、それこそどうでもいい話、と思ったら、監督も同意見だったらしく、それ以上彼らの正体に触れる演出はなかったのでありました。気が利いています。

 ・・・以上、紛うことなき傑作!お求めはお近くのショップ、またはインターネットで!(ネットの方が早いと思うよ。)

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2012年7月14日 (土)

ウンベル、近況を報告し髑髏の顎をカタカタ鳴らす

 あまりニーズがないと思うが、温かいコメントも頂戴しているので(このブログにコメントがつくのは年に二回ぐらい)近況報告を行なっておく。
 死体を巡るバカ騒ぎは終結した。実に馬鹿げたことだ。人間は必ず死ぬのだから慌てなくてよいのに。お前も死ぬし、きみも死ぬ。現に親族全員集まってみたら、すぐにでもあの世へララバイしそうな人が一名居て驚いた。葬儀場と空港を往ったり来たりしている間に、誰かが飛び込んで電車がしょっちゅう遅れた。今年の夏は厳しそう。

 上京してきた実母にさんざん文句を云われたのは、蔵書やら蔵CD・DVDが減るどころか更に増えていたこと。実際壁一面を完全に占拠し反対面へ着実に侵蝕を続けている。箱に収まらない部分は積み重ねられ、高度を増していくので地震の時は非常に危険。次の震災で頭部に『ACME NOVERITY DATE BOOK1986-1995』をめり込ませて死亡している奴が居たら、それは俺だ。気をつけよう。
 売ればよいし、捨てればよいのだが、どうもその習慣が身に付かない。どころか引越しで捨てた本をまた買ってしまうのである。狙って事態を悪化させていると謗られても致し方あるまい。
 例えば本日のお買物を例に取るが、ショーン・タン『ロスト・シング』、ニコラ・ド・クレシー『サルヴァトール』、『猿の惑星』サントラのリマスター(未発表曲・再編集トラックが追加)は見送って、逆柱いみり『空の巻き貝』、黒須喜代治『死絵奇談』(奇談という言葉は素晴らしい。綺譚なら買わない)、漫★画太郎『珍遊記⑤』、『チェコアニメ新世代DVDボックス』(三枚組である)、シドニー・ルメット『十二人の怒れる男』、田名網敬一『TANAAMISM』。買い漏らしたカーペンターが脚本の『ザ・スネーク-蛇の怒り-』が気になってしょうがない。
 
 今気づいたが、絶対おかしいぞ私は。これじゃ片付く訳がない。

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2012年7月 7日 (土)

ホドロフスキー/ヒメネス『メタ・バロンの一族』 ('12、小学館集英社プロダクション)

(「更新してんじゃん!」「俺は有名な嘘つきだ!」)

 メタ・バロン。宇宙最強の戦士。殺し屋。ハゲ。
 「ハゲにも偉大な人物はいる!」という革新的思想を持って、有名な自称天才作家アレハンドロ・ホドロフスキーがお届けするSF冒険活劇。(こんなの出すなよ、このクソ忙しいときに!レビューしなくちゃならないだろ、ってのは葬式弁当持ちのぼやきである。)
 ホドロフスキーは、まぁ生涯『エル・トポ』呼ばわりされる、カルト地下世界では有名な映画作家/マンガ原作者な訳だが、愛読書は『ドク・サヴェッジ』である。
 バカだ。
 こいつ、絶対バカに決まっている。
 
そんな無価値なクズを堂々と絶賛するのは、フィリップ・ホセ=ファーマーかこいつくらいのものである。まったく尊敬に値する行為だ。
 そういえば、ドク・サヴェッジもハゲ。ハゲ世界の先輩格。ハゲ・セイブ・ザ・ワールド。

 さて、日本版も勿論女子高生の知らない大ヒット!傑作『アンカル』シリーズのスピンオフとして企画されたこの本は、ロボット二名の会話から幕を開ける。
 (片方がロボット・トント。傑作和製宇宙活劇『宇宙からのメッセージ』でヴィク・モローと驚異の共演を果たした国際派メカ男優のアイツが著作権無視して堂々の出演。この件に関して東映がクレームをつけたという話は聞かないから、あいつはパブリックドメインなのかも知れない。あるいは経営陣から忘れられた黒歴史か。いずれにしても、『宇宙からのメッセージ』に本気でオマージュを捧げてる奴は初めて見た。)

 「よーし、じゃあ、メタ・バロン様の話をしよう!」
 「いっすねー!!あの人、マジ最高っすよ!カッコいい!!
 なんたって、部分的に機械なのがいい!」
 

 最高である。
 
【あらすじ】

 メタ・バロンは小学校しか出なかった。地元新潟の貧農家庭に三男として産まれ、幼い頃から馬車馬のように働かされる毎日。楽しい記憶といえば上の兄に連れられて行った蜂の子狩りくらい。兄は地面に穿たれた雀蜂の巣を踏み抜いて全身四十四箇所を刺されまくり、その晩苦痛と高熱に魘されながら息を引取った。結果バロンの食事の取り分は増量となり彼は満足した。
 バロン六歳の頃、銀河系に太平洋戦争が勃発。一家の長男は学徒出陣となって赤紙一枚戦地へ。老齢を理由に兵役を免れたバロンの父オトンは、闇商売に手を染め一攫千金巨万の富を築く。その基盤となったのは秘伝、なんでも持ち上げる不思議な軟膏であった。嘘のようだが適量を垂らすと塗られた物体の質量比重がゼロになる。慣性の法則は働かない。嘘のようだが本当。これは凄い真の輸送革命だと、徴発に次ぐ徴発ラッシュ。
 財閥との癒着、軍兵站部への賄賂供与。辣腕振りを買われたオトンは、妻オカンの止めるのも聞かず政界へと進出。暗黒武器商人として一躍勇名を馳せるも、あっさり暗殺。凶弾に倒され、駆けつけた長男の目の前で息を引取る。(彼は既に将官となっていた。)家督はそのまま長男へと引き継がれ実家は兄の仕切るものに。今や巨大軍需産業と化している軟膏生産は、国家へパテント売却が決定。代償としてバロン一家は銀河の片隅に惑星を一個貰い受ける。
 時にバロン、小学卒業の春であった。
 

【あらすじ】

 意外だったがホドロフスキー、エンタメ作者として実は優秀じゃないのか。誰もそんな風に教えてくれなかったが、神話だカルトだ抜かす前にまず大冒険ありき。そういう極めて底の浅い優れたパルプ魂を持つ男ではなかったか。


(※本記事は気が向いたら増補されます。まだ原作読んでる途中なので。)

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2012年7月 6日 (金)

死神から素敵なお知らせ

 ウンベルの親族死亡!一週間ぐらい更新はないよ!
 意外と大変なんだよ、俺も!この野郎!

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2012年7月 3日 (火)

バート・I・ゴードン『巨大蟻の帝国』 ('77、A.I.P.)

 掛け値なしに名作だと思う。
 どうしようもない映画だという点も含めて、心から愛する一本だ。バート・Iの浅薄すぎる人間描写、妙にダルな雰囲気、超適当な文明批判。どれも心が籠もっていなくて本当に素敵である。
 われわれが映画に求めるもの。そりゃ様々な説明が可能だろうが、私にとっては、午後二時のロードショーで『巨大蟻の帝国』をだらだら見続けているような状態を指す。
 思考停止?確かに。
 だが、年を経るごとに明らかになっていく真実。それは、われわれは現在も巨大蟻の出没するジャングルを適当に逃げ惑っているに過ぎないということだ。
 われわれは、その程度の存在だ。
 それに気づいていない諸君は幸いである。

【あらすじ】


 ドリームランド海岸開発計画。遣り手の女社長マリリンが企画したフロリダの別荘地売り出しプランは、詐欺紛いというか、100パーセント詐欺の酷すぎるシロモノだった。
 彼らは暇人、間抜けな年取り、ヒッピー・ナンパ師・自殺志願、とにかく世間と歩調の合わない人間を大量に集めて現地見学会を組む。
 最初から険悪な雰囲気のシークルーズ。寒すぎる空気の立食パーティー(海辺に無造作に張られたテントが強風に飛ばされそうになっている。料理は定番バーベキュー。)
 見せられる土地も酷いもので、ひとっこひとり居ないジャングル沿いの空き地に、「未来のテニスクラブ」やら「未来のヨットハーバー」やら名前の書かれた看板ばかりがドカドカ立てられ、繋がってもいない配管やバルブが適当に土山に刺してあるという。
 いったい誰が買うんだ、こんな場所?
 それでも女社長は完全に本気で、盛り上がらないパーティーは必死に仕切ろうとするし、拡声器片手にハイテンションでセールストークを繰り広げるし。涙ぐましいくらい一生懸命。
 参加者全員がその姿に、薄ら寒いを通り越しておっかない思いをしていると、いい具合に、夫の浮気に煮ても焼いても食えない夫婦喧嘩を繰り広げていた中年カップルが巨大蟻に食われる。
 これは拍手喝采の展開といっていいだろう。
 年中夫婦喧嘩が絶えない中年なんて、さっさと巨大蟻に喰われちまえ。
惚れた腫れただの、別れるの別れないだの、本当に心底迷惑だ。いい加減にしろ。あと、別れてから、また付き合うの禁止。不発弾より始末に困る。

 さぁ、もうこれからは人喰いオンパレード。先に現地入りしていた作業人夫2名がさっさと喰われるのは当然として、若いの、善良そうなジジイとババア(勿論見かけだけ)、自己主張の強いおっさん達、ジャンジャン喰われて実に痛快、痛快。
 犠牲者が逃げた先に巨大蟻が待ち構えていたりして、しかもこれ、実物の蟻を安い合成で張り付けた最低レベルの特撮で出来ていたりするので、喰われる人の方から近寄っていく例の展開になる訳です。この技術力の低さ、コストパフォーマンスの安さは画期的である。
 充分距離が縮まっても、縮まらなくても、満を持して唐突に等身大模型が登場し、ガブッといく。大顎で噛み付く。アップ時の蟻として、動けない大型プロップ(首から上しか作ってない)を使ってるのは実は『恐竜・怪鳥の伝説』も同じなんですが、巨匠バート・Iはカメラを一瞬もジッとさせない。犠牲者のおやじも必死の形相でもがきまくる。血糊も派手に投入。映画ってやっぱりこうでなくっちゃ。決死の覚悟。
 そして、ここで喰われる人は全員アカデミー級の名演技を披露。喰われる人は皆かくあるべし。人喰い映画がどうこうと抜かすなら、大同小異の出来栄えのモンスターなんかよりまず喰われる人のテンションに注目してあげて欲しい。ゾンビ映画でも同様。まず、そっからだ。やっぱり俳優は喰われてナンボの職業ですから。
 だいたい、あんた、C.G.リメイクの『キングコング』本気で面白かった?
 あんなのはダメですよ!なんでもありで、ちっとも面白くない!想像力貧困!最悪!

 そこへいくと『巨大蟻の帝国』は凄いですよ!喰われながらジャングルをマラソンするからね!しかも、嫌々だ!とにかく無理やり走る!逃げる!喰われる!
 映画の予算なんて監督と出演者の熱意でカバーですよ!主役の蟻が写真だろうがなんだろうが、面白い映画は撮れるんだ!真のハッタリとはこれ!素晴らしすぎる。

 で、まぁジャンジャン盛大に喰われていって、生き残った連中はジャングルの中を流れる河に辿り着くんですが、隣町までここでボートで河を遡ることに。隣町といっても何十キロも先。
 案の定、途中で蟻が襲ってきます。
 ここで、いつの間に主人公級に出世していたクルーザーの船長が事の真相におぼろげに気づく。
 「こいつら、特定の方角に俺達を誘導しているようだ・・・?」
 

 で、まぁ辿り着いた先の隣町は案の定、女王蟻に支配されて奴隷化しているという・・・。

 だいたい製糖工場がある町なんて伏線として陳腐な限りなんだが、悪いけど諸君、乗っかってあげて。この映画のいいところは、無意識レベルで観客を味方につける謎のオーラを放っているところ。本当に不思議だ。

 終幕、奴隷の町を逃げ出してモーターボートで逃走する主人公達の行く手には、果てしないジャングルが地平線まで茫漠と広がっているのであった・・・。

【解説】

 エンディング、実はロメロの『ゾンビ』的である。70年代アメリカ映画しか為しえなかった疲労と空虚。脱力感。無力さと今にも砕かれそうな生きる希望。美しい。

 ところで、この映画、表題に冠されたH・G・ウェルズはまったく関係なくて、実は『放射能X』の続編だと思うんだよね。蟻の登場するときに発する怪音波(電子音)も同じだし、放射性物質の扱いもわざわざ時代を無視して、50年代的に陳腐に描かれている。
 確信犯だね。絶対。
 最悪に見える映画が実は最高の出来だなんて、なんて希望に満ちた話なんだ。

 『スターウォーズ』なんかより、間違いなく歴史に残る名画ですよ。
 特撮は絶望した者勝ちだね、絶対。

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2012年7月 2日 (月)

10CC「二度目の最後の晩餐」 ('75、Mercury)

 「なに、二度目・・・?最後の晩餐じゃないじゃん!」
 浅い諸君の得意げに突っ込む顔が見えるようだ。
 愚かも、愚か。英語題をよく見て欲しい。“The Second Sitting of the Last Supper”、最後の晩餐二度目の着席、なのである。
 過去二千年間、最後の晩餐は続いているのだ。これは、そういう恐ろしい認識に立った歌だ。
 われわれはいい加減待ちくたびれた。状況を変えるには奇跡が必要だ。精霊の再度の訪れ。席を温めテーブルを用意して待っているのに、あなたはまだ現れない。
 そういう重苦しいテーマを、落ち着きの悪いロックに載せて歌い飛ばしてしまうこと。
 なに、不謹慎?よく考えてみろ。
 ここまでの事の経緯を紐解けば、途轍もなくバカげた状況ではないか?再び最後の晩餐に参加することを希望して待ち続けているのだ。誰もが。聖書に書かれているのは間違いない。間違いないです。

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