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2012年7月 3日 (火)

バート・I・ゴードン『巨大蟻の帝国』 ('77、A.I.P.)

 掛け値なしに名作だと思う。
 どうしようもない映画だという点も含めて、心から愛する一本だ。バート・Iの浅薄すぎる人間描写、妙にダルな雰囲気、超適当な文明批判。どれも心が籠もっていなくて本当に素敵である。
 われわれが映画に求めるもの。そりゃ様々な説明が可能だろうが、私にとっては、午後二時のロードショーで『巨大蟻の帝国』をだらだら見続けているような状態を指す。
 思考停止?確かに。
 だが、年を経るごとに明らかになっていく真実。それは、われわれは現在も巨大蟻の出没するジャングルを適当に逃げ惑っているに過ぎないということだ。
 われわれは、その程度の存在だ。
 それに気づいていない諸君は幸いである。

【あらすじ】


 ドリームランド海岸開発計画。遣り手の女社長マリリンが企画したフロリダの別荘地売り出しプランは、詐欺紛いというか、100パーセント詐欺の酷すぎるシロモノだった。
 彼らは暇人、間抜けな年取り、ヒッピー・ナンパ師・自殺志願、とにかく世間と歩調の合わない人間を大量に集めて現地見学会を組む。
 最初から険悪な雰囲気のシークルーズ。寒すぎる空気の立食パーティー(海辺に無造作に張られたテントが強風に飛ばされそうになっている。料理は定番バーベキュー。)
 見せられる土地も酷いもので、ひとっこひとり居ないジャングル沿いの空き地に、「未来のテニスクラブ」やら「未来のヨットハーバー」やら名前の書かれた看板ばかりがドカドカ立てられ、繋がってもいない配管やバルブが適当に土山に刺してあるという。
 いったい誰が買うんだ、こんな場所?
 それでも女社長は完全に本気で、盛り上がらないパーティーは必死に仕切ろうとするし、拡声器片手にハイテンションでセールストークを繰り広げるし。涙ぐましいくらい一生懸命。
 参加者全員がその姿に、薄ら寒いを通り越しておっかない思いをしていると、いい具合に、夫の浮気に煮ても焼いても食えない夫婦喧嘩を繰り広げていた中年カップルが巨大蟻に食われる。
 これは拍手喝采の展開といっていいだろう。
 年中夫婦喧嘩が絶えない中年なんて、さっさと巨大蟻に喰われちまえ。
惚れた腫れただの、別れるの別れないだの、本当に心底迷惑だ。いい加減にしろ。あと、別れてから、また付き合うの禁止。不発弾より始末に困る。

 さぁ、もうこれからは人喰いオンパレード。先に現地入りしていた作業人夫2名がさっさと喰われるのは当然として、若いの、善良そうなジジイとババア(勿論見かけだけ)、自己主張の強いおっさん達、ジャンジャン喰われて実に痛快、痛快。
 犠牲者が逃げた先に巨大蟻が待ち構えていたりして、しかもこれ、実物の蟻を安い合成で張り付けた最低レベルの特撮で出来ていたりするので、喰われる人の方から近寄っていく例の展開になる訳です。この技術力の低さ、コストパフォーマンスの安さは画期的である。
 充分距離が縮まっても、縮まらなくても、満を持して唐突に等身大模型が登場し、ガブッといく。大顎で噛み付く。アップ時の蟻として、動けない大型プロップ(首から上しか作ってない)を使ってるのは実は『恐竜・怪鳥の伝説』も同じなんですが、巨匠バート・Iはカメラを一瞬もジッとさせない。犠牲者のおやじも必死の形相でもがきまくる。血糊も派手に投入。映画ってやっぱりこうでなくっちゃ。決死の覚悟。
 そして、ここで喰われる人は全員アカデミー級の名演技を披露。喰われる人は皆かくあるべし。人喰い映画がどうこうと抜かすなら、大同小異の出来栄えのモンスターなんかよりまず喰われる人のテンションに注目してあげて欲しい。ゾンビ映画でも同様。まず、そっからだ。やっぱり俳優は喰われてナンボの職業ですから。
 だいたい、あんた、C.G.リメイクの『キングコング』本気で面白かった?
 あんなのはダメですよ!なんでもありで、ちっとも面白くない!想像力貧困!最悪!

 そこへいくと『巨大蟻の帝国』は凄いですよ!喰われながらジャングルをマラソンするからね!しかも、嫌々だ!とにかく無理やり走る!逃げる!喰われる!
 映画の予算なんて監督と出演者の熱意でカバーですよ!主役の蟻が写真だろうがなんだろうが、面白い映画は撮れるんだ!真のハッタリとはこれ!素晴らしすぎる。

 で、まぁジャンジャン盛大に喰われていって、生き残った連中はジャングルの中を流れる河に辿り着くんですが、隣町までここでボートで河を遡ることに。隣町といっても何十キロも先。
 案の定、途中で蟻が襲ってきます。
 ここで、いつの間に主人公級に出世していたクルーザーの船長が事の真相におぼろげに気づく。
 「こいつら、特定の方角に俺達を誘導しているようだ・・・?」
 

 で、まぁ辿り着いた先の隣町は案の定、女王蟻に支配されて奴隷化しているという・・・。

 だいたい製糖工場がある町なんて伏線として陳腐な限りなんだが、悪いけど諸君、乗っかってあげて。この映画のいいところは、無意識レベルで観客を味方につける謎のオーラを放っているところ。本当に不思議だ。

 終幕、奴隷の町を逃げ出してモーターボートで逃走する主人公達の行く手には、果てしないジャングルが地平線まで茫漠と広がっているのであった・・・。

【解説】

 エンディング、実はロメロの『ゾンビ』的である。70年代アメリカ映画しか為しえなかった疲労と空虚。脱力感。無力さと今にも砕かれそうな生きる希望。美しい。

 ところで、この映画、表題に冠されたH・G・ウェルズはまったく関係なくて、実は『放射能X』の続編だと思うんだよね。蟻の登場するときに発する怪音波(電子音)も同じだし、放射性物質の扱いもわざわざ時代を無視して、50年代的に陳腐に描かれている。
 確信犯だね。絶対。
 最悪に見える映画が実は最高の出来だなんて、なんて希望に満ちた話なんだ。

 『スターウォーズ』なんかより、間違いなく歴史に残る名画ですよ。
 特撮は絶望した者勝ちだね、絶対。

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