V.A.『ジンギスカンだらけ』 ('08、PiccoloTown)
この世のバカよ!バカたちよ!
汎地球的規模で存在する、この世のバカが見たい全ての人々に捧ぐ、これは意外と疲れない(内容がバカ一色だから)結構秀逸なコンピレーションである。
エ・・・内容?そんなものないよ!
古今東西20曲、有名なディスコ歌謡「ジンギスカン」のカバーを詰め込みまくっただけの狂った構成である。
同じ曲でカバーを集めるというのは定番企画で、全部「マイ・ウェイ」とか全部「ワン・オブ・アワ・サブマリン」のリミックスだとか(後者はトーマス・ドルビーのマイナー曲。なんでか一部のヒマ人に人気がある)、色々あるが、ぜんぶ碌なものではない。
だから、「ジンギスカン」のみで72分一気に聴けるというのは、実は画期的な聴収体験だ。それもこれも、原曲のバカ度と知名度がやたらと高いからだろう。マイナー進行で無駄に勢いがある楽曲である点も見逃せないところだ。
こうして一気に並べられてみると、「ジンギスカンと私」「現代社会に果たしたジンギスカンの影響力」といった高尚なテーマについて、パイプを燻らせ書斎の椅子に凭れながら改めてつらつら考えさせられてしまう。
14世紀、モンゴル帝国を率いてアジアはおろかヨーロッパまで席巻し全世界に覇を唱えた蒙古の蒼き狼。幼名・テムジン。
元祖・モヒカン刈り。
死後帝国は分裂。オゴタイ・ハンとかチャガタイ・ハンとか、微妙にバッタ臭い息子達の兄弟喧嘩により、アジア発の世界帝国の栄光は歴史の彼方に没し去るのであった。
そういうストレートなジンギスカン像に忠実なのが、日本語訳詞の世界である。
「♪骨までしゃぶる悪玉を、左や右で切り刻み、勝利を掴むのさ~」
(山本伊織・訳)
素敵である。充分荒くれな感じがする。
(これは川崎麻世版であるが、2008年Berryz工房も同じ歌詞を歌っているのは、ちと工夫が足りない気がする。)
とにかく、ジンギスカンは常に暴力に訴える男。人の迷惑は一切顧みない。
「♪ジン、ジン、ジンギスカン
禁じられた夕陽を求めて
ジン、ジン、ジンギスカン
荒野を駆けるヒヅメの響き
邪魔者は突き飛ばせ」
(浅川佐記子・訳)
この渋谷哲平版でのジンギスカン解釈は、歴史に忠実な帝王像をさらに敷衍させ一種のドラマチックなサーガとして完結させてしまった、高度な英雄叙事詩として評価される。それにしても禁じられた夕陽は意味不明だが。何かあったのか。
そんな男の中の男、キング・オブ・喧嘩番長、リアル・カジワラを生きた男ジンギスカンの知られざる意外な一面を描くのが、原たかし&バットマンズである。
「♪あるときは、優しいジンギスカン
洒落た格好して口説けば、思い通りあやつれる
狙いは、100発100中」
(Christian Donaus -カルメン・訳)
そんなテクニックも持っていたのか。心底おそろしい男だ。
他、外人勢からはブラックメタル版ジンギスカンだとか、緩いフレンチポップ風ジンギスカンだとか、主にアレンジに頼ったネタ使いのカバーが連射されているのだが、ここはやはり、誰もが認める無謀な日本語カバーに挑んだレニングラード・カウボーイズのバージョンでしょう。
「♪人生、酒びた~り~」
って、武将とまったく関係ない。
さらに、訳詞者不明のこのバージョンでは、無記名なのをいいことにイントロ部では長洲力「パワーフォール」を演奏、歌詞的には山本正之の強引なパクリを無断でハメ込み、
「♪俺たちゃ、天才!ワ、ハ、ハハ!
きみたち、凡人!ヨ、ホ、ホホ!」
さらに、爆風スランプ「週刊東京少女A」から、「♪なんだ坂、混んだ坂」まで借りてくるという傍若無人っぷり。
なんか知らん、あらゆる意味での頂点を極めた暴れっぷりで最高。必聴。
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