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2012年6月 9日 (土)

天城鷹雄『猟蝕夜』 ('88、フランス書院文庫)

 奇妙な小説。常軌を逸した人々が次々と出てくる。ポルノと考えても相当に変だ。

 例えば、ここで展開される性行為は、全部が全部、アナルセックスのみ。「なんでやねん!」と突っ込みたくなるくらい、尻穴限定で拘ったセックスばかりが連射され、前の穴は殆ど使われない。
 不良高校生が学友の母を犯すときも、姉弟が近親相姦に及ぶときも、アメリカ帰りの淫らな叔母が少年の筆おろしに一肌脱ぐ場合も、なんでか全部がアナル中心の展開。尻穴重視。ある意味、一穴主義。
 ときどき何かの間違いで前門に突っ込んでしまう場合も見受けられるが、所詮前菜アペリチェフさ!といった軽さで本筋へと回帰し、常にアナルで見事にクライマックスを迎えてエクスタシーに浸る。
 どんな年齢層だろうが、どんな社会的地位の持ち主だろうが決まってだ。(レズもアナルを責めてます。)
 なんだ、これ。初読で軽い眩暈を覚えた。

 『猟蝕夜』は、七つの短編を収めた短編集である。以下に参考までに表題をあげる。

 叔母の媚肌を猟れ
 蝕まれた隷肛
 姉と弟・狂った夜会
 人妻は禁猟に歔く
 腐蝕しはじめた貞操
 母と娘・淫色の夜
 情欲の猟蝕夜

 どれも一貫したある趣向性の感じ取れる素晴らしいタイトルばかりであるが、淫猥かつ奇怪な漢字を暴走族の団結旗並みに掲げる大時代主義は、作者がご高齢での執筆(一説に60代)からくるものらしい。
 私がこの本を初めて手に取ったのが20代そこそこで、随所に漂う老人臭さに奇妙な違和感を覚えた記憶が鮮明にあるから、まァ全般にジジイの狂った脳内妄想の垂れ流しの内容と考えて無理はないとしても、この本の魅力はその狂い加減の絶妙さが不可解なインパクトを生むレベルにまで達しているところにあるようだ。

 既に言及した通り、シチュエーションと登場人物はそれなりにバラエティーに富むよう配慮が為されており、我が国のエロ常識的に重要と思われる「レイプ」「義母」「近親相姦」「初体験」「未亡人」「土方と若妻」といったお馴染みのキーワードで括ることが可能な物語がそれこそコンビニ的編集方針によって一貫して配列されている。
 ここら辺は、大衆の下世話な欲望を汲み取るのに人一倍熱心なフランス書院編集者のいつもの仕事なんだろうが、ジジイの性欲と拘りはそれを凌駕する程強力だった。

 何に拘ったのか、って?
 ハッキリ書きますね。

 反社会性への飽くなき追求、です。
 
嘘みたいだが本当だ。こいつは性の世界のイージーライダーなのだ。
 以下実例を挙げて解説する。

【あらすじ】

 アメリカ帰りの叔母・亜矢子のマンションへ英語を教わりに通う16歳の少年・正明は、授業中暴発の危険があるので、とりあえず自宅の風呂場で一発ガス抜きしてからバイクに跨る習慣だった。これは交通法規上も安全な処置である。(但し妄想対象はもっぱら叔母。)
 しかし、敵も手ごわい。
 「ふーーーん、童貞くんかァー・・・どう、あたしのヌードが見たい?」
 口の中がカラカラに干上がって返事に詰まる少年。
 「じゃ、着替えてくるわ。」
 隣室に消える叔母。待つこと暫し、戻ってきた叔母は依然として着衣。
 「気が変わったの。裸になるのはやめとくわ。」
 ガックシへたる甥の目線の先に投げ出される夜着。
 ネグリジェの下は拘束具。胴を無理に締め上げ、隆起する豊満な乳房。明らかに反則。
 
奔放な叔母の誘惑に乗せられた正明は、のっけからスパンキング、マリファナ、アナルセックスの強烈コンボを体験。そりゃ翌日から工業高校に通うのも嫌な状態になるわなー、と思っていたら、突然叔母さんアメリカへ去って行っちゃいました。号泣。(「叔母の媚肌を猟れ」)

 いつも一人息子を苛める高校の番長は、有名大学の理事長の息子で大金持ち。裏口入学斡旋と引き換えに、性の奴隷になることを決心する未亡人母・夕子。一緒に京都へ旅行し祇園公園で軽く立ちバックをキメる。
 
事後に入ったパチンコ屋で出球残らず吸い込まれた番長、通りすがりのチンピラを凶気を孕んだ視線で睨んでボソリと、
 「あ~、喧嘩してぇなァ~」
 「やめてよ・・・それより・・・」
 ギクリとした夕子、着ていた和服(ちょっと乱れ有り)のヒップに手を導いて、
 「尻は待っているわ」
 このキメ台詞で完全にアドレナリン沸騰状態になった番長、途中の薬局でイチジク浣腸を山ほど買い込み、連込み宿へレッツゴー。毛穴全開で浣腸を買う番長に店員もお手上げ。夕子もノリノリ、契約愛人という立場を忘れて、ピシャピシャ尻を叩きながら即興で一曲披露する。(曲調は演歌風。)
 「尻よ。尻よ。京都の夜は、尻の夜。
 京都で尻を犯されて、夕子は淫らな女に堕ちていくのだわ・・・」
 
 
この後狂った物語は更に加速し、東京へ帰ると自宅で連日続く牛乳浣腸責め。成り行きで息子と強制セックス。二人目の契約愛人志願が登場し番長の関心がそちらへ移る頃には、夕子と息子はすっかり近親相姦に夢中。なんでも熱心なのはいいこと。毎週土曜日を「ソドム愛の日」と勝手に制定し、受験勉強の傍ら異常性愛のレッスンに熱心に取り組む姿が逆に微笑ましかったりするのであった。(「蝕まれた隷肛」)

 「はァ~い、ヒデ坊、いる?」
 
60年代のラリパッパ娘の感覚で京都に下宿している大学生の弟を訪ねた美貌のOL・理恵であったが、ヒデ坊は空手部の先輩・山賀に背後から肛門を責められている最中であった。
 「な・・・なにしてんのよ、アンタたち・・?!」
 「姉さん、見ないでくれ」
 「見てもいいぞ!」

 
他人の視線も気にせずに、あくまで抽送を止めない豪快過ぎる男・山賀は、素手でビールの首を飛ばす空手の猛者だ。
 一度イカせた弟くんの身体がグッタリ崩れ落ちるや否や、脱兎の勢いで飛び出して、呆然とする姉の腹に強烈な拳の一撃を見舞うと、気絶した女をその場で犯し始めた。
 「あ・・・姉さんが先輩に犯されている・・・」
 そのまんまの感想を述べるばかりで性獣過ぎる先輩の行動に為す術もない弟、事を終えた先輩が帰ると、優しく姉を介抱しながらホモセックス以外のセックスをおねだり。
 
「ぼ、ボクだって一度くらい正常なセックスがしてみたいんだよッ!!」
 
姉と弟。充分異常だ。
 
その後ガチの正常位で関係を深めた姉と弟は、山賀の実家の隣にあるラブホに敢えて移動し今度は濃厚なアナルプレイ。
 「私を犯した男が住む実家・・・。
 憎い。憎いけれど、忘れられない男・・・」

 
って、姉はすっかり空手部にゾッコン。複雑な立場の弟。俺達、なにやってんだろ。
 先輩を東京までわざわざ招待し、自分の住む豪邸の庭でコーラ瓶をアナルに突っ込みその状態で実の弟と絡む、というインパクト抜群の超絶ワザを披露、熱烈レイプをアンコール。たまらず山賀もむしゃぶりついて、連日連夜性の狂宴を繰り広げるが、佳人薄命。数年後に不慮の自動車事故で先輩は帰らぬ人となるのであった。
 そして終幕、その墓を訪ねて線香をあげる理恵の胎内には、既に弟とのガチセックスで芽生えた産んではならない禁断の子供が宿っていた。
 ここで教訓。
 「やっぱり、セックスはアナル限定にしとけばよかった・・・」
 
根性で堕胎を決意する理恵だったが、顔は半分笑っていた。(「姉と弟・狂った夜会」)

【解説】

 ここには、物語を生産性のある方向へ転がすことに対する強烈な嫌悪が感じられる。
 
アンチロマンとか気取った意味合いではなく、社会的に認められる良いこと、立派なことに対する無邪気で純然たる抵抗。そういう意味で、この小説に描かれる性行為は、どれもスレスレを通り越した反社会的行為、立派な犯罪として成立しており、そこで重要なポイントとして犯される対象が予測しない快感に興じることによって共犯者と化していく点が挙げられる。
 「人妻は禁猟に歔く」に於いて、緑地公園の一角で通りすがりの人妻を犯し、「あなたは何者なの?」と聞かれた浮浪者・石谷は堂々と宣言する。

 
「社会不適応者や。体制側の人間やない。」
 「わしは一生、孤独な反体制の炎を胸に燃やして生きるんじゃ。」


 
そんな熱い述懐を漏らす男(常時カバンにドヤで仕入れたコケシバイブ持参)に、退屈過ぎる平凡な暮らしに飽き飽きしていた主婦は附いて行こうと決心し、物語は終わる。これがある種のファンタジーでなくてなんであろうか。ノー・フューチャーにも程がある。
 何発出しても子供が出来ないアナルセックスとは、反体制の象徴。
 
結婚できない姉と弟。去り行く叔母。社会の枠組みの中では生きられない乱暴者。ヤクザ。地下の秘密SMクラブ(「母と娘・淫色の夜」)。
 正常な家庭を持つことも出来ないし、日常に染まることもない。あるのは激しい情欲と社会性全般に対する嫌悪。退屈な日常を塗りかえろ。
 この高度管理社会に何らかのルサンチマンを持つ者が、生き難い思いをしながらそれでも敢えて生きていこうと決意するプロレタリア文学の一種の変形としてこれらの作品を捉えることが出来る。

 ・・・が、実のところ、アナルが好きで好きで堪らないジジイのたわごとという気も(笑)。

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