『恐竜・怪鳥の伝説』 ('76、東映)
本当のところ、映画に屑なんてものはない。われわれが意識的に振り分けているだけだ。すなわち観るべき価値のある作品と、無駄なものと。だから誰かにとっての名作はゴミであり得るのだし、逆もまた真なり。
今回問題にしたいのは、とにかく誰に聞いても評判の悪い本物の屑である。
これがまた、世評どおり本当に酷かった。あんまり酷いので驚かされるレベルに到達している。これは凄いことだ。
お菓子を買って喰ったら、腐っていた。
それにあたって死んでしまった。
そんなレベルだ。
それでも積極的にこの映画を弁護しようという奇特な人間を募集したいが、おそらく誰も集まらないだろう。
それほど凄い。
【あらすじ】
夏だというのに北海道に寒気団が居座り、雪が降った。
「だからなんだ?」と云われても困るが、この物語においては微妙な終末感を裏付ける強力な傍証としてTVから流れてくる。
「では、次のニュース。」
アナウンサーはつまらなそうに続ける。
「富士山樹海で、自殺しに入った若い女性が誤って氷穴に墜落。氷浸けの巨大な卵と、闇に光る怪しい目玉を目撃しました。」
国際線ターミナルに設置されたテレビで、この胡散臭いニュースを見ていた渡瀬恒彦、何を思ったか海外渡航を中止し、会社に電話を掛ける。
「そうです、部長・・・!
スペイン行きは取りやめます!
ニュースを観ましたか?やっぱり恐竜は生き残っていたんですよ!
ボクはこれから現地へ飛びますよ!あとで応援を寄越してください!」
部長は到って冷静だった。
「なにをバカなことを云っているんだね、渡瀬くん?
さっさと仕事しろ。」
この会社が商社だろうが、新聞社だろうが関係ない。
薄いサングラスに皮のジャケットでパチモン臭さ三割増しの渡瀬は、まったく聞いちゃいなかった。荷物を取り戻すと、空港に預けてあったジープに跨り山梨県へ向かったのだ。
渡瀬の父は、実は有名な古生物学者で、恐竜が富士山麓に生存しているという奇説を唱えたため、バカ呼ばわりされて学会を追放されたのだった。(当然だと思う。)
そんな父が失意のうちに亡くなって随分経つ。少年の頃聞かされた世迷い話を一度も真に受けたこともないまま、世間並みに立身出世街道を爆走レーサーしてきた俺だったが、あぁなんてことだ。父さんはやっぱり間違っちゃいなかったんだ。
涙に目が眩んで視界がよく見えない渡瀬のジープは通行人を薙ぎ倒し、道祖神を倒壊させながら富士五湖のひとつ、西湖の畔へやって来た。
季節は真夏。
湖は観光客でにぎわい、怪奇や古代ロマンとは程遠い雰囲気。カントリーとは名ばかりのフォーク歌手まで営業に来て、腐れた若者がうじゃらうじゃらと溢れている。
運転し通しで腹が減ったので、とりあえず屋台でイカ焼きを貰いかぶりついていると、肩を叩かれた。
「・・・!!」
「お久しぶりね、渡瀬くん。いや、ツネちゃん!」
顔面力の微妙な若い女、それは渡瀬がかつて仕事で行ったニューヨークで知り合い、抱いた相手だった。
久闊を温めるにはとりあえず一緒にベッドに入るに限る。
ふたりはかつて渡瀬の父親が所有していた山小屋へ向かうが、そこに住んでいたのは厚かましい近所のジジイだった。無性に腹が立ち、思わずグーで殴りつける渡瀬。
「どうしてくれんだよ、おっさん!
もう、全部台無しじゃないかよッ!!亡き父の遺志を継ごうと決意して、やって来た湖で昔の恋人と再会。ここでグッと盛り上がる筈の大人のロマンを何だと思ってんだ?
この、醜い年寄りめ!年寄りめ!!年寄りめ!!!」
「やめて。」
胸襟を開き、胸元へ渡瀬の手を誘う女。
「ジャリ向けの怪獣映画で、なに抜かしてんのよ、あんた?」
血塗れで半死半生になった老人を後に残し、引き上げていく渡瀬のジープ。これは悪魔の襲撃か。
帰路、街道沿いには首を捥がれた馬の死体が転がっていたが、さして気にも留めなかった。
翌日。湖畔で開かれていた音楽フェスに怪獣の背鰭が出現。すわ恐竜かと大騒ぎになるが、地元ヤンキーのイタズラと判明。欧米人がやっても腹立たしい展開(例『ジョーズ』)を、クソダサい日本人のガキにやられると本気で殺意が湧いてくる。
この点で珍しく製作者側とわれわれの見解が一致、突如前振りなしで湖から現れたプレシオサウルスが、異常に長い鎌首を擡げてガブーーーッとガキども3名を喰い千切ってしまう。
血塗れで等身大模型に咥えられた青年の遺骸。血塗れ。
しかし、確実に盛り上がるはずのこの場面がさっぱり面白くならないのは何なんだろうか。カット割りの異常なテンポ悪さ。不自然なぐらいクローズショットが長くて、その中で怪獣(ハリボテ)が首振ったり、水滴垂らしたり。(しかも単なるプロップなんで1ミリも動かない。)ユニバーサルスタジオのアトラクションか。
そんな鈍臭い動きを捉えるのに忙しいとでもいうのか、延々カットを割らないもんで、出来た画面はまるでドリフのコントみたいに見える。舞台っぽい。映画なのに。これでカットを多少なりと手早く繋げばスピード感のひとつやふたつ生まれように、ズーーーッとだらだらだらだら。いい加減にしろ。カメラマンと編集の肩に手を掛けて全力で揺さぶってやりたくなる。
そもそも誰も納得できてないうちに、この映画、早々と怪獣を登場させ過ぎ。
ずっと西湖に棲息していたとでもいうのか。あんなデカイやつが?ジュラ紀の昔から?どうやって?
「この辺は大昔、海だったんだよ。」
回想シーンで渡瀬のデタラメな父親が語る適当な説明以外に、海洋性爬虫類が富士山麓に出現する理由の説明はないのだ。この映画の製作者は底無しに観客の善意を当てにしているとしか思えない。
さて、湖畔ではそんな異常な事態が進行しているというのに、渡瀬はのんびり山登り。冒頭の事件のあった氷穴に辿り着くも、そこはとっくに裳抜けのカラだった。
「いったい、何が生まれたんだ・・・?」
あたりに散乱する巨大な卵の欠片を見て戦慄する渡瀬。
一方昨晩シッポリチャッカリ何発もブチ込まれた渡瀬の彼女は、同行のアシスタント(女)と手漕ぎボートに乗って湖上に居た。彼女の職業は水中カメラマン。世界的に有名だ。ま、それがどんな世界なのかわからないのだが。
霧が出てきたようだ。
アシスタントはスキューバの道具をつけて水中に潜ろうとしている。観客全員がこの前振りになんとも嫌なサムシングを感じていると、霧に覆われた湖面を割って近づいてくる大きな黒い背中。まったく気づこうという気がない渡瀬の彼女。死ね。死んでしまえ。
(ここで『ジョーズ』まんまの、水中からばたつく足を捉えた怪物主観ショットがあって)
案の定、ガブリ。
悲鳴を上げるアシスタントをボートに引き上げてみると、下半身がチョン切られて事切れている。酷い。真っ白になって目を閉じた女優の顔が悲しい。こんな役かよ。あたし。
次は、渡瀬の彼女が喰われる番かと思ったら、プレシオザウルス、凶悪すぎる顔でメンチ切ると、霧の中に悠然と泳ぎ去ってしまった。へたり込む彼女。大失禁。先方は必ず目撃者を残す主義のようである。
ま、ともかく人間一名が身体を半分に引き裂かれて死亡しているので、地元警察も動かざるを得ず、爆雷を無差別に湖に投下し怪物をブチ殺す作戦が敢行されることに。
「なにを考えてるんだ?
まったく、気違い沙汰だ!!!」
山から戻った渡瀬が必死に止めるのも聞かず、ドラム缶に入った正体不明の爆発物を続々湖に沈めていく村の青年団。せめて自衛隊呼んでやれ。
上がる白煙。突っ走るボートの軌跡。ゴジラよ、今度はお前の命を貰うのだ。
その頃、村の対策本部には得体の知れないメガネの男が現れ、恐竜図鑑を片手に勝手な自説をブチ上げていた。
「ランホリンクス!
プレシオサウルスが実在していたのなら、それと同時期に棲息していたこの怪鳥も実在している!
そう思いませんか?!」
誰も頷かないと思うが、この映画の製作者達はなぜか膝を打ったのだろう。
奇声ひと声、天空の彼方から太古の怪鳥ランホリンクスが飛来。村人を続々喰い千切っていく!
強引に推測すれば、渡瀬の見た卵から孵化したのがこいつということになるのだろうが、因果関係は一切語られない。
ムチャクチャな展開に観客全員が唖然としているうちに、村の一角に積み上げられていた爆雷の山が崩れて発火し、ドーーーンと一発、村全体が消し飛んだ!
そのショックで富士山が噴火!
震度100強の超大型地震が付近一帯を襲う!
そんな大騒ぎの最中に、水中より突如現れたプレシオザウルス、空を舞うランホリンクスに噛み付き、両者ミニチュアでまったく動けないため、悪夢のようなジオラマバトルが展開!
余程想像力が逞しくなくては恐竜同士の大決戦には見えません。恐竜本体が1ミリも動かないんだからね。でも、赤ペンキの血糊は必要以上に大量に流している。さすが東映、仁義なき戦い前世紀版。
勝負は、怪鳥の羽根を恐竜が喰い破って勝利の雄叫びを上げた途端、飛来した火山弾に打たれてマグマの海に転げ落ち、観客から「二度と来るな!お前ら!」と罵倒を浴びながら地球の中心へと墜落していくという。
なんか、喧嘩両成敗って感じ?ですかね
その間渡瀬は地割れに落ちた彼女を救出しようとして、なんか延々もがいていたのだが、そのうちプツッと映画が終わってしまった。
【解説】
話だけ聞いていると「ひょっとして、本当は面白いのでは?」と勘違いする方がいらっしゃるかも知れないので、念の為書き添えておく。(実は私がそうだった。)
この映画、まったく、画期的に面白くない。
ちょっと驚く。ギネス級の退屈さ。
恐竜にも怪鳥にも何の思い入れがない、ヤクザ映画のクソ職人みたいな穢れた奴らが製作に廻っているため、本気でバカを見せようという根性がまるでない。退屈でいい加減で、過去の傑作怪獣映画すべてに唾を吐くが如き、冒涜的なシロモノである。
実際、途中なんども睡魔に襲われた。
一見面白そうな派手派手の場面が展開しているのに、内容がさっぱり頭に入って来ない。
「好きこそ、物の上手なれ」というのは、それこそAVだけじゃないんだなー、と思いました。
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