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2012年6月

2012年6月29日 (金)

『恐竜・怪鳥の伝説』 ('76、東映)

 本当のところ、映画に屑なんてものはない。われわれが意識的に振り分けているだけだ。すなわち観るべき価値のある作品と、無駄なものと。だから誰かにとっての名作はゴミであり得るのだし、逆もまた真なり。
 
 今回問題にしたいのは、とにかく誰に聞いても評判の悪い本物の屑である。
 これがまた、世評どおり本当に酷かった。あんまり酷いので驚かされるレベルに到達している。これは凄いことだ。
 お菓子を買って喰ったら、腐っていた。
 それにあたって死んでしまった。

 
 そんなレベルだ。
 それでも積極的にこの映画を弁護しようという奇特な人間を募集したいが、おそらく誰も集まらないだろう。
 それほど凄い。

【あらすじ】

 夏だというのに北海道に寒気団が居座り、雪が降った。
 「だからなんだ?」と云われても困るが、この物語においては微妙な終末感を裏付ける強力な傍証としてTVから流れてくる。
 「では、次のニュース。」
 アナウンサーはつまらなそうに続ける。
 「富士山樹海で、自殺しに入った若い女性が誤って氷穴に墜落。氷浸けの巨大な卵と、闇に光る怪しい目玉を目撃しました。」

 国際線ターミナルに設置されたテレビで、この胡散臭いニュースを見ていた渡瀬恒彦、何を思ったか海外渡航を中止し、会社に電話を掛ける。
 「そうです、部長・・・!
 スペイン行きは取りやめます!
 ニュースを観ましたか?やっぱり恐竜は生き残っていたんですよ!
 ボクはこれから現地へ飛びますよ!あとで応援を寄越してください!」


 部長は到って冷静だった。
 「なにをバカなことを云っているんだね、渡瀬くん?
  さっさと仕事しろ。」


 この会社が商社だろうが、新聞社だろうが関係ない。
 薄いサングラスに皮のジャケットでパチモン臭さ三割増しの渡瀬は、まったく聞いちゃいなかった。荷物を取り戻すと、空港に預けてあったジープに跨り山梨県へ向かったのだ。

 渡瀬の父は、実は有名な古生物学者で、恐竜が富士山麓に生存しているという奇説を唱えたため、バカ呼ばわりされて学会を追放されたのだった。(当然だと思う。)
 そんな父が失意のうちに亡くなって随分経つ。少年の頃聞かされた世迷い話を一度も真に受けたこともないまま、世間並みに立身出世街道を爆走レーサーしてきた俺だったが、あぁなんてことだ。父さんはやっぱり間違っちゃいなかったんだ。
 涙に目が眩んで視界がよく見えない渡瀬のジープは通行人を薙ぎ倒し、道祖神を倒壊させながら富士五湖のひとつ、西湖の畔へやって来た。

 季節は真夏。
 湖は観光客でにぎわい、怪奇や古代ロマンとは程遠い雰囲気。カントリーとは名ばかりのフォーク歌手まで営業に来て、腐れた若者がうじゃらうじゃらと溢れている。
 運転し通しで腹が減ったので、とりあえず屋台でイカ焼きを貰いかぶりついていると、肩を叩かれた。

 「・・・!!」
 「お久しぶりね、渡瀬くん。いや、ツネちゃん!」


 顔面力の微妙な若い女、それは渡瀬がかつて仕事で行ったニューヨークで知り合い、抱いた相手だった。
 久闊を温めるにはとりあえず一緒にベッドに入るに限る。
 ふたりはかつて渡瀬の父親が所有していた山小屋へ向かうが、そこに住んでいたのは厚かましい近所のジジイだった。無性に腹が立ち、思わずグーで殴りつける渡瀬。

 「どうしてくれんだよ、おっさん!
 もう、全部台無しじゃないかよッ!!亡き父の遺志を継ごうと決意して、やって来た湖で昔の恋人と再会。ここでグッと盛り上がる筈の大人のロマンを何だと思ってんだ?
 この、醜い年寄りめ!年寄りめ!!年寄りめ!!!」

 「やめて。」

 胸襟を開き、胸元へ渡瀬の手を誘う女。
 「ジャリ向けの怪獣映画で、なに抜かしてんのよ、あんた?」

 血塗れで半死半生になった老人を後に残し、引き上げていく渡瀬のジープ。これは悪魔の襲撃か。
 帰路、街道沿いには首を捥がれた馬の死体が転がっていたが、さして気にも留めなかった。

 翌日。湖畔で開かれていた音楽フェスに怪獣の背鰭が出現。すわ恐竜かと大騒ぎになるが、地元ヤンキーのイタズラと判明。欧米人がやっても腹立たしい展開(例『ジョーズ』)を、クソダサい日本人のガキにやられると本気で殺意が湧いてくる。
 
この点で珍しく製作者側とわれわれの見解が一致、突如前振りなしで湖から現れたプレシオサウルスが、異常に長い鎌首を擡げてガブーーーッとガキども3名を喰い千切ってしまう。
 血塗れで等身大模型に咥えられた青年の遺骸。血塗れ。
 しかし、確実に盛り上がるはずのこの場面がさっぱり面白くならないのは何なんだろうか。カット割りの異常なテンポ悪さ。不自然なぐらいクローズショットが長くて、その中で怪獣(ハリボテ)が首振ったり、水滴垂らしたり。(しかも単なるプロップなんで1ミリも動かない。)ユニバーサルスタジオのアトラクションか。
 そんな鈍臭い動きを捉えるのに忙しいとでもいうのか、延々カットを割らないもんで、出来た画面はまるでドリフのコントみたいに見える。舞台っぽい。映画なのに。これでカットを多少なりと手早く繋げばスピード感のひとつやふたつ生まれように、ズーーーッとだらだらだらだら。いい加減にしろ。カメラマンと編集の肩に手を掛けて全力で揺さぶってやりたくなる。

 そもそも誰も納得できてないうちに、この映画、早々と怪獣を登場させ過ぎ。
 ずっと西湖に棲息していたとでもいうのか。あんなデカイやつが?ジュラ紀の昔から?どうやって?
 「この辺は大昔、海だったんだよ。」
 回想シーンで渡瀬のデタラメな父親が語る適当な説明以外に、海洋性爬虫類が富士山麓に出現する理由の説明はないのだ。この映画の製作者は底無しに観客の善意を当てにしているとしか思えない。

 さて、湖畔ではそんな異常な事態が進行しているというのに、渡瀬はのんびり山登り。冒頭の事件のあった氷穴に辿り着くも、そこはとっくに裳抜けのカラだった。
 「いったい、何が生まれたんだ・・・?」
 あたりに散乱する巨大な卵の欠片を見て戦慄する渡瀬。
 
 一方昨晩シッポリチャッカリ何発もブチ込まれた渡瀬の彼女は、同行のアシスタント(女)と手漕ぎボートに乗って湖上に居た。彼女の職業は水中カメラマン。世界的に有名だ。ま、それがどんな世界なのかわからないのだが。
 霧が出てきたようだ。
 アシスタントはスキューバの道具をつけて水中に潜ろうとしている。観客全員がこの前振りになんとも嫌なサムシングを感じていると、霧に覆われた湖面を割って近づいてくる大きな黒い背中。まったく気づこうという気がない渡瀬の彼女。死ね。死んでしまえ。
 
(ここで『ジョーズ』まんまの、水中からばたつく足を捉えた怪物主観ショットがあって)
 案の定、ガブリ。
 悲鳴を上げるアシスタントをボートに引き上げてみると、下半身がチョン切られて事切れている。酷い。真っ白になって目を閉じた女優の顔が悲しい。こんな役かよ。あたし。
 次は、渡瀬の彼女が喰われる番かと思ったら、プレシオザウルス、凶悪すぎる顔でメンチ切ると、霧の中に悠然と泳ぎ去ってしまった。へたり込む彼女。大失禁。先方は必ず目撃者を残す主義のようである。

 ま、ともかく人間一名が身体を半分に引き裂かれて死亡しているので、地元警察も動かざるを得ず、爆雷を無差別に湖に投下し怪物をブチ殺す作戦が敢行されることに。
 「なにを考えてるんだ?
 まったく、気違い沙汰だ!!!」

 山から戻った渡瀬が必死に止めるのも聞かず、ドラム缶に入った正体不明の爆発物を続々湖に沈めていく村の青年団。せめて自衛隊呼んでやれ。
 
上がる白煙。突っ走るボートの軌跡。ゴジラよ、今度はお前の命を貰うのだ。 
 その頃、村の対策本部には得体の知れないメガネの男が現れ、恐竜図鑑を片手に勝手な自説をブチ上げていた。

 「ランホリンクス!
 プレシオサウルスが実在していたのなら、それと同時期に棲息していたこの怪鳥も実在している!
 
そう思いませんか?!」


 誰も頷かないと思うが、この映画の製作者達はなぜか膝を打ったのだろう。
 奇声ひと声、天空の彼方から太古の怪鳥ランホリンクスが飛来。村人を続々喰い千切っていく!
 強引に推測すれば、渡瀬の見た卵から孵化したのがこいつということになるのだろうが、因果関係は一切語られない。 
 ムチャクチャな展開に観客全員が唖然としているうちに、村の一角に積み上げられていた爆雷の山が崩れて発火し、ドーーーンと一発、村全体が消し飛んだ!

 そのショックで富士山が噴火!
 震度100強の超大型地震が付近一帯を襲う!

 そんな大騒ぎの最中に、水中より突如現れたプレシオザウルス、空を舞うランホリンクスに噛み付き、両者ミニチュアでまったく動けないため、悪夢のようなジオラマバトルが展開!
 余程想像力が逞しくなくては恐竜同士の大決戦には見えません。恐竜本体が1ミリも動かないんだからね。でも、赤ペンキの血糊は必要以上に大量に流している。さすが東映、仁義なき戦い前世紀版。
 勝負は、怪鳥の羽根を恐竜が喰い破って勝利の雄叫びを上げた途端、飛来した火山弾に打たれてマグマの海に転げ落ち、観客から「二度と来るな!お前ら!」と罵倒を浴びながら地球の中心へと墜落していくという。
 なんか、喧嘩両成敗って感じ?ですかね

 その間渡瀬は地割れに落ちた彼女を救出しようとして、なんか延々もがいていたのだが、そのうちプツッと映画が終わってしまった。

【解説】

 話だけ聞いていると「ひょっとして、本当は面白いのでは?」と勘違いする方がいらっしゃるかも知れないので、念の為書き添えておく。(実は私がそうだった。)
 この映画、まったく、画期的に面白くない。
 ちょっと驚く。ギネス級の退屈さ。

 恐竜にも怪鳥にも何の思い入れがない、ヤクザ映画のクソ職人みたいな穢れた奴らが製作に廻っているため、本気でバカを見せようという根性がまるでない。退屈でいい加減で、過去の傑作怪獣映画すべてに唾を吐くが如き、冒涜的なシロモノである。
 実際、途中なんども睡魔に襲われた。
 
 一見面白そうな派手派手の場面が展開しているのに、内容がさっぱり頭に入って来ない。
 「好きこそ、物の上手なれ」というのは、それこそAVだけじゃないんだなー、と思いました。

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2012年6月24日 (日)

山上たつひこ/いがらしみきお『羊の木②』 ('12、講談社イブニングKC)

 基本、連載中の作品は読まない主義の私が、珍しく新刊で買ってしまったのがこれである。
 ①に引き続き、相変わらず面白かった。
 ここはひとつ、誰でも知ってる有名作家二人によるコラボレーションであることは忘れて貰って、まァいいからちょっと読んでみてよ。
 いがらしの絵が生理的に駄目な人(いるいる)以外は楽しめると思うよ。

 凶悪犯罪者の社会復帰プログラムを受け入れた地方都市があって、過去を抹消された新住人として重罪人達が転入してくる。もちろん秘密裏に。
 レイプ・強盗・殺人・詐欺。だいたい誰もが一度は人を殺してる。
 複数の殺人者がいる日常ってどんなものだろう。見慣れた地方都市の風景が少し違って見えて来ないか。
 もちろん、われわれは恒久的に犯罪者とその予備軍に取り囲まれて集団生活を送っている訳ではあるが、それが表面化しないからこそ辛うじて秩序が維持出来ているのである。
 あすこのダンナは昔、人を殺している。
 そんなことが解ったら、たいへんだ。
 単なるゴミ出しで擦れ違ったってだけでも、スリルに満ちた体験に成り変ってしまうだろう。
 不謹慎な言い方だが、殺人者ってスターなんだよ。全員が。だから、これは人殺し版「夜のヒットスタジオ」だ。歌いながら出てくるアタマのあれ。
 そんな嫌な番組にいつの間にか出演していることに周囲は誰も気づいていない。(事実関係を知っているのは市の有力者3名のみ。)

 お説教なんかよりも日常に持ち込まれた違和感、異物感をたいせつにしている点が好感度高め。
 この二名の組み合わせでは、当然そうなるんだけど。
 山たつのアイディアは相変わらず違和感バリバリで、すごいよなァ。

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2012年6月23日 (土)

川崎三枝子『教師女鹿①』 ('78、芸文社)

 劇画は狂っている。狂って血に飢えている。
 なぜ往年の劇画がかくも凶悪な衝動に満ち溢れていたのか。その答えは測り知れない。だが、問題の根幹はどうやら“時代”とか“社会”とかいった凡庸なキーワードと、困ったことに本気で関係がありそうだ。そう、嘗てこの国には到る所で不満や欲望が焦げ付きドス黒い渦を巻いていたものだ。道に唾する者。酔ってパンティーを被る者。独身者のどくだみ荘。家族持ちの鬼畜。やがて小金を持った連中がしゃしゃり出て来てバブルの狂騒が始まり、洗練と趣味の追求が謳われて、いつしかすべては忘れ去られた。
 今夜、飼い馴らされた犬小屋を這い出せ。
 あんたの中に眠っている獣を目覚めさせるんだ。
 バースト・シティー。バーニング・デザイアー。街を廃墟に戻せ。


【あらすじ】

 東大合格者を昨年も5名輩出した名門私学・白汀学園に、水仙女子大を優秀な成績で卒業した新人女教師が赴任してくる。到着するなり凄惨なレイプを目撃。犯人の覆面を被った不良高校生3人組に、「いいわよ、あんた達。あたしは黙っててあげる」と強姦続行を許可し、自分はタバコ咥えて横目で見ている。いきなり常識の裏を掻く展開。犯られる水商売の女は悔しくて泣いてます。
 交代で中出し、なお精力に余裕のあるティーンエイジャー達は、行きがけの駄賃だ口封じとばかり一斉に女教師に襲い掛かるも、マンコ全開の状態で押さえ込んだ筈の相手に、僅かな隙にナイフを盗られて、逆襲を喰らう。全員生徒手帳を没収。逆に恐喝される側の立場に。情けな過ぎ。

 この明らかにデキる女の名は、女鹿冴子。大学の先輩でレズ達の緑川涼子が赴任早々廃人にされたお礼参りとして白汀学園に乗り込んできた、リベンジャー=復讐者だ。(お礼参りは日本の美しい習慣である。)
 白汀学園校長の狂った教育方針に負けて心身共にずたぼろにされた涼子は、終日自宅マンションに引きこもりとなり、セルフで麻薬を血管注射中。完璧に一級品の人間の屑と成り果てていた。まァ、日常的に麻薬の入手経路を持ってるだけで充分駄目ですが。

 「おやめなさい、冴子!あの冷酷非道な校長の鉄の教則には、あんただって歯が立たないわよ!」

 ・・・って、意味不明のギンギン過ぎるテンションで一方的な檄を飛ばす涼子。何かキメていないと到底出来ない飛ばしっぷり。一体何があったのだろうか。
 これから何と戦わなくてはいけないのか。そもそも相手は誰なのか。いや待て、第一何の為に戦うんだ。読者に巨大な疑問符を投げかけつつ、冴子は復讐心を燃え上がらせるのであった。
 
 さて、女鹿は生物教師の代役、非常勤の講師として着任したのだが、一身上の都合(※月給4万8千円では生活できない)により、もっと授業のコマ数が欲しい。そこで国体出場を鼻にかけ生徒を一方的にシゴきまくっているダサダサ女・片桐先生を罠に掛けて体育教師の座を貰い受ける作戦に。
 「いけェ、茂!不良の意地を見せてやれ!」
 授業でテニスボールの猛烈アタックを浴びてボコボコにされているのは、先日のレイプ犯達だった。艶然と微笑む冴子。場外に逸れた打球を持っていた樫の小枝で打ち返す。テンション高けりゃなんでもできる。
 唖然とする片桐先生の眼前に舞い降りた女鹿は、あらん限りのボキャブラリーを駆使して国体の税金無駄遣いぶりを徹底的に罵倒。怒った片桐先生は校長に猛烈抗議し、この三流私大出の生意気女をクビにするよう訴える。あたしは国立大学出身だし。
 かくて一旦は校長を味方につけ勝利したかに見えた片桐先生だったが、冴子の挑発に簡単に乗っかり、激昂の余り階段を踏み外して腕を骨折。病院送りとなる。
 「ホホホ、国体出場を鼻にかけるしか能のない片桐先生。もう国体には出られない。病院で自分の馬鹿さ加減をとくと反省することね!」
 わざわざ言うか、其処まで?悔しさに唇を噛み締める国体選手。
 校長としては、この限度を越えた怪しい女に生徒を任せて大丈夫なのだろうかと一抹の不安に駆られつつ、とりあえず体育教師もお願いするしかなかった。

 さて、女鹿先生は生物の授業をやらせても他所様とは一味違った。
 開始早々生徒の注意がブレていると見るや、ミニスカで教壇の上に登って、全開開脚。ウヒョー。
 「いい?これが大腿四頭筋よ!」
 わかってます。
 ・・・つーか、これが性器の構造を教えるコーナーだったら観音様拝めてたってこと?・・・って、ことだよね?
 だ・よ・ねー!D・A・Y・O・N・E~!
 そりゃ生徒はヒートアップ。ウキウキ・ウェイクミーアップ。
 これが豪ちゃんスタイルのギャグ絵だったりしたら新鮮味ゼロな感じですけど、どう見ても完全にギャグマンガのツカミとしか思えない異常な事態を、硬質かつシャープな劇画絵で展開させるところに川崎三枝子先生独自の女の美学がある。
 実は傑作『姫』も、『妖あどろ』も、全部が全部がそうなんですわ。原作がどうこうとか云ったレベルじゃありません。すべて無茶です。自然体の今どき風の女なんて一人も出て来ません。自己劇化の激しいワガママが過ぎる人たちが大暴れ。素敵。輝いております。

 そんな型破り教師(しかも教える内容は碌でもない)を貫く女鹿先生だったが、赴任初日に見逃したレイプ事件の被害者が、お礼参りとばかり、ヤクザ四名を引き連れて襲ってきた!(この作品では到るところで、この美しい日本の習慣が守られている。)
 ハードコアに、四名のヤクザに代わる代わるレイプされまくる女鹿先生。
 吉田秋生『吉祥天女』では、同様の事態を反則気味のアクションと恫喝によって回避していたが、そこはもう人倫とかいったヌルイものに容赦がない三枝子先生、ゴリゴリに突きまくられております。
 と、その現場(林の中)へバイク飛ばしてやって来る、医大を何十回となく浪人を重ね煮締まったような長髪学ランのむさ苦しい男。アルチュール・ランボー詩集をバサと投げつけ急場を救った彼は、先生を助けて自分のアパートへ。誰だこいつ。
 いわゆる“レイプ・シャワー”(※主にスラッシャー映画でレイプ後のヒロインがシャワーを浴びるアレ)で心身の穢れを清めバスタオル一枚で現れた女鹿先生に、かれは次々と恐ろしい言葉を投げつける。
 「俺の名は純一、ずっとあんたをつけ廻していたんだ・・・!」
 「明日っから、俺はあんたのいるあの学校へ転入する!」
 「あんたはさっき肉体は犯されても、精神は犯されなかった!」
 「だが、それも終わりだ!俺があんたの精神をコナゴナに打ち砕く!からっぽの肉体を刺し貫く!」

 「・・・俺があんたを殺してやるよ・・・!」

 完全にキマった三白眼でありえない発言を繰り返す相手に、女鹿は大爆笑。そして意味なくディープキス。重度のストーカーの心の傷口にさらに塩を重ねて擦り込むような真似をしてしまうのであった。

 翌朝。
 「おはよー、先生!」
 バイクで登校してきた純一は、いきなり女鹿先生を轢きにかかる。落ちたペンを拾おうと身を屈めたので間一髪危機を乗り切る先生。『ピンクパンサー』みたい。
 「女鹿先生!」
 いきなりバイクの上から指一本突き出し宣言する純一。
 「あんたは今日、白汀学園の教師をクビになる!」
 根拠不明の発言を残し、ハッハッハッと高笑いしながら去っていく後姿を見送りながら、「誰だ、あいつに免許取らせたのは?」と当然の疑問を呟くしかなかった。

【解説】

 登場人物が、全員キチガイ。
 そういう世界観がギャグマンガの根底にあることは既に承知していたが、実は劇画もそうだった。描き込み過剰なリアルな絵でやられるので、毒は一層根深い。
 このあと、校長の用意した刺客教師が次々と女鹿を襲う異常な展開に突入し、外人の夫との生本番を見せつける英語の先生(最終的に女鹿の罠にハメられ夫をスキーストックで刺殺)やら、柔道対決ではだけた豊かな乳房に鼻血ブーになる堅物先生(巨大コンツェルンの御曹司)やらバラエティーに富んだ対決、見せ場が用意されているので、三度の飯よりバカキチガイが大好きな人はぜひどうぞ。

 最後に女鹿先生の傲慢極まる教育方針を記述しておこう。

 「高校生といえば、立派な男。
 その男達があたしの魅力に参るのは当然なこと。
 犯したいと思うのも、不自然なことではないわ!」


 素晴らしい。姐さん、ありがとう。

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2012年6月20日 (水)

『ニューヨーク1997』オリジナルサウンドトラック ('00、SILVERSCREEN)

 無条件に最高。カッコよすぎ。
 ジョン・カーペンターの音楽が安くてクールで最高なのは当然なのだが、映画と切り離して考えられないところは確かにある。というか積極的に、ここは絶対考えたくないよな!
 従って音楽だけ聴いても駄目で、やはりまずはバッチリ本編を観ていただきたい。カッコいいあの場面、この場面。そこにビシッと締まりを入れる安いシンセサウンドの波状攻撃。これを体感して欲しい。
 そういう意味での真骨頂は、やはり『ニューヨーク1997』。これ絶対。
 もちろん、『ダークスター』の単なる思いつきのようなプクプク音、重低音が低予算映画を完璧にレベルアップさせる『要塞警察』、忘れ難い『ハロウィン』のテーマ、『ザ・フォッグ』の纏まりの無い本格ホラーサウンド、余韻という言葉がヘビーな爆音となって観客を押し潰す『遊星からの物体X』・・・・・・。
 どれも本当に素晴らしい。それはもう、知ってる子は皆んな知ってる。
 (そして、これらの映画はどれも必見の娯楽作であり、名作揃いなのである。)
 演奏陣だけ豪華仕様になった近作『ゴースト・オブ・マーズ』(アンスラックスにバケットヘッド!)ですら、作曲カーペンターというだけでやはり安くなってしまう。これは本当に凄いことだ。猫も杓子も無駄な重厚さを狙う昨今の嘆かわしいサントラ事情を鑑みれば、予算カツカツでやってるカーペンターの音楽の方が皮肉にも輝いて見えるのは、まァいたしかたないところか。

 『ニューヨーク1997』のサントラの素晴らしさは、聴いてる人が無条件にスネーク・プリスキンになれるところだ。
 これは男なら絶対なりたい職業第一位。永遠に。
 という訳で、この夏の必須アイテムに指定。

 今年こそ流行るよ、スネーク。
 
“スネーク男子”という言葉が、巷を席巻すると見たね、俺は。
 (ま、確かに男×男で暑苦しいんだけどね。省エネ指向でいいじゃない?)

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2012年6月19日 (火)

ナカタニD.『リバーシブルマン①』 ('11、日本文芸社)

 劇画は相変わらず元気だ。なんだろう、この変わらなさは。

 都内各所で、人体が内臓から裏返ったような死体が続々発見される。すわ猟奇事件かと警察も動き出すのだが、真相は違った。
 裏返った人間は数日で皮膚をつくり、元と同じ姿で蘇生する。但し、心は魔人。欲望のままに暴走する、本能が剥き出しになった冷酷無類の悪魔と化すのだ。
 かいつまんで云えば、ひとり魔界転生。
 現状に深い不満や恨みを募らせ、いつキレてもおかしくないギリギリの精神状態の者だけが転生できる資格を有する点も、本家に同じ。違うのは、転生する奴が歴史的に有名な人物ではなく、地味で平凡な一般人だということくらいか。そりゃそうだろ。

 この悪役に、姉の復讐に燃える女子高生恋人を嬲り殺しにされたヤクザ者などが絡むんですけどね。
 どうです、意外性に乏しいでしょ?
 でも、そこそこ楽しく読めるんですよ。手堅いですよ。駅前の立ち蕎麦が結構人気あるみたいな感じですよ。ピーク時は行列だもんね。絵柄も安定して読めます。

 そんな職人芸に無粋を承知で突っ込みますが、主役格のヤクザ者は怒りが沸点を越えると、内蔵を剥き出しにして四方八方へ飛ばし、敵のヤクザの大群を始末してしまうんですが。
 いくらなんでも、臓器は武器にならないだろ。
 ※1.腸が捲きついて首を絞める『ZOMBIO死霊のしたたり』や神田森莉の一部作品を除く。但しいずれもコミックで最悪な反則として自覚的に描かれている。
 
 襲い掛かられたら確かに気持ち悪いだろうけど。でも、所詮内臓だもんね。
 自分から弱点をさらしてどうする?

 
あと、ヒロインは体内にマシンガンやら物騒な武器を隠し持っていて、危急時はそれを取り出して活用するんですが、人体の内部構造が変化しても収納面積が増えた訳じゃないんだから、絶対それ入らねぇよ!ムリムリ!体に悪いって!
 どこかでこれに似た能力あを持ってる奴を見たことあるな、と思ったら、四次元ポケットを持ったあいつでした。ほのぼの。

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2012年6月17日 (日)

『カーズ』 ('06、PIXAR)

 人を思いやる気持を持つというのは、とても大切なことだと思うのだが、どうだろうか。

 実は『カーズ』という映画の中では、特別なことは何も起こらない。ライトニン・マックィーン(この名前最高)がレースに優勝し世界が変わったりしない。アメリカはアメリカであり続ける。ジミヘンの国歌を流すヒッピーおやじも相変わらずだし、メーターは心底くだらない男である。多少客も増えて、町が慌しくなるだろうが、まぁそれだけっちゃー、それだけだ。
 それだけのことだが、登場人物達の気持は、ほんの少し変化した。彼らは登場したときよりも、ちょっとだけ解放され、楽になっているように見える。

 そういうのが、実は非常に重要だ。
 ジョン・ラセターは地味で堅実な作業を通じて、一見派手派手で空疎になりがちなC.G.アニメに一本ビシッと筋を通してみせてくれた。
 私は昔からランディ・ニューマンが大好きなので、彼の音楽が流れてノスタルジックな場面が展開すると、滝のように鼻水が出る。今回も大量に鼻水が出てしまいました。

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2012年6月10日 (日)

ドン・ドーラー『俺だって侵略者なんだぜ!!(ギャラクシー・インベーダー)』 ('85、WHDジャパン)

 酷い映画には価値がある。本当にいいものを見分けるには、駄目な奴を散々見まくる必要があるだろ?
 そんな最小限の努力もしないで、したり顔で澄まして、一体何が解るってんだ?
 ハズレくじばかり引いてみろ。不細工とつきあえ。自分のチンケな趣味を全面肯定するのをやめろ。カンフーを好きになれ。
 すべてを脱ぎ捨て、自由になるんだ。
 本当の話はそこからだ。

【あらすじ】


 ある朝アメリカの片田舎に火の玉が落下。目撃した少年は、高校の先生に電話を掛ける。
 「なに、巨大な火の玉・・・?隕石にしちゃ大き過ぎる。うーーーん、そいつはUFOかも知れないな。
 ・・・よし、わかった。五時間後に行くから、そこでそのまま待っていてくれ!」
 
 五時間後。
 律儀に山の中でガムを噛みながら待っていた少年。車で現れた先生とまずは固い握手を交わす。平均的な日本人の感覚からすると、既にこの辺で本物の宇宙人を見るような違和感を覚える。
 ふたりは山の中を捜索し、焼け焦げた倒木の列を辿って山中に墜落している宇宙船を発見。宇宙船はどうやら地中深く埋まっているらしく、映画を観ているわれわれにはさっぱり姿が見えないが、あるいは透明宇宙船ということなのか。斬新過ぎる切り口だ。
 どうやら、その宇宙船に乗っていた何者かが山中へ這い出していったらしいという事になり、先生と生徒は痕跡を追って更に山奥へ。
 山が深くなればなるほど住んでいる住人の知能程度が下がるのは、チベットだろうがケイジャン地方の湿地帯だろうが食人族の棲む秘境だろうが、世界共通の法則である。決して山奥へ行ってはいけない。

 そんな恐怖の山奥に、とことん間抜けな一家が住んでいた。
 知能レベルは蟻くらい。朝食はコーンフレークで昼飯はベーコンエッグ、常にビールをかっ喰らい、TVディナーは炒めたポテトにビフテキだ。彼らの呪われた血はアメリカを発端に世界全土へ飛び火し、実のところ吸血鬼より恐ろしいのはこいつらだ。
 ここでわれわれはこの映画の中心人物に引き合わされる。
 穴の開いたTシャツを着た薄汚い中年おやじ。恐ろしい。嘗てこんなに杜撰で華のない人物が主役を務める映画があっただろうか。胸に丸い穴の開いたTシャツを着たおっさんが映し出されたとき、私は目を疑った。なんだこりゃ。

 「おい、キャロル!
 てめえ、俺に無断でトムと遭ったりしたら、只じゃおかねぇからなー!!」


 おっさんは実の娘に向かって吠えるのだった。
 娘はパツキンのスベタ。どうも父親からボーイフレンドとの交際を反対されているという設定らしい。

 「フン!!!うるさいわよ、くそじじい!!
 あたしのマンコはあたしのものよ!どこでどう使おうが、いちいちアンタに報告しなきゃいけない義務なんかないわ!!」


 「ぬぁんだとゥ!!!」

 怒りにまかせて銃を持ち出すおやじ。横でボサッと見ていた長男のベンがさすがに止めに入る。
 その隙にキャロルはログハウスを抜け出し森の中へ走り込む。
 遠くで銃のパンパン鳴る音が聞こえるが、幸い弾はこっちへは飛んで来ない。やれやれだ。

 キャロルは時計を持っていないが、そろそろ愛しいトムと待ち合わせの時間だ。家を出るとき確かめてきた。待たせてはまずい。トムは癇癪持ちだ。待ちくたびれると、すぐにイライラして周囲の物に当り散らすのだ。知らない家の窓ガラスを割ったり、ドアを爪で引っ掻いたりはしょっちゅうだ。
 キャロルがダッシュで森の小道を駆けていくと、前方でふいに繁みが動いた。

 「・・・?!」

 父親が追ってきたかと思って身を強張らせるキャロル。
 しかし、繁みから飛び出してきたのは、緑のゴムのマスクを被り、強引な着ぐるみの宇宙服に身を包んだ怪しすぎる人物だった!

 「ブゴー、ゴォー、ゴォーォォー!!」

 「キャァーーーッ!!」

 悲鳴を上げて蹲ってしまうキャロル。
 そこへ背後から追ってきた父親と兄貴のベンが到着。形勢不利と見た怪物は、いち早く藪の中へ逃げ込んでしまった。

 「うわー、マジキモい。なんだよ、あいつ?」

 「森林調査官じゃないようだな!」
 おやじは、この人物にしては気の利いた返事をすると、シャキーンと銃身を振り上げた。
 
「私は奴の後を追う。ベン、お前はこのアバズレを連れて家まで帰れ!」
 
 
気張ったおやじは勇躍森の中へ。
 幾らも歩かぬうち、コンニチハーって感じで様子を窺っていた怪人と遭遇。双方、ギョッとして飛びすがるも緊張感は皆無。異星人とのコンタクトだってのに盛り上がらないこと夥しい。
 おやじ、ライフルを構えて、

 「おい!誰だ、お前?!」

 「パピャラ、ピャラ、ピャラ、パー!」

 宇宙人、腰のベルトに下げた銃のような形状の機械を抜き取って構えた。
 さらにベルトのバックル位置に嵌め込まれた白い丸い球を取り出し、銃身中央にセットする。
 カチッ。変な電子音がした。

 ズババーーーッ!!!

 突然フィルムを引っ掻いた傷のような怪光線が走り、若木っぽい枝がズザザザっと切り倒される。

 「うわわッ・・・!なにしやがんだ、こいつ!!」

 明らかに威嚇のつもりだったのだろうが、却って単細胞おやじは逆上。ライフルを連続でぶっ放し始める。
 さすがに危険と思った宇宙人、踵を返して逃げ出したが、余程慌てていたのだろうか、後に謎の銃を落としていった。

 「・・・なんだこりゃ?」

 とりあえず銃を拾い上げたおやじ、自宅に持って帰る。

 そういえば、宇宙人(トカゲ)の落とした銃を拾い上げたら、えらい目に合うゾという重要な教訓を含んだ『レーザーブラスト』ってケチ臭い映画がこの頃あったが、いずれにせよ宇宙人の武器というのは、地球人が使うと碌な事にならないようだ。(最近の例=『第九地区』)。
 一家の中では比較的頭脳派(地方の工業高校を留年せずに卒業した程度)の長男ベンは構造を探ろうとアレコレ銃をいじってみるが、さっぱり解らない。まさかトリガーに似た形状の部分を引けば銃が発射されるなんてことは、地球の科学水準ではとても思いつけっこないのだ。恥じるな、ベン!高卒だって気にすんな!強く生きていけ。
 
 その頃、おやじは新たなプランを練っていた。
 宇宙人を捕獲したらどうだ。見世物にして結構いい稼ぎにならないか?

 そんな与太を知り合いのジャクソンに飛ばしたら、このクソおやじ、早速話に乗ってきた。こいつ、昼間っから酒ばっか飲んでケバい愛人とイチャついてる最低なろくでなし。派手なアメ車を転がして、胡散臭い土地建物ブローカーをやってる。まともに働かないことを神に真剣に誓ったような奴。
 こいつを筆頭に、愛人アイリス、水道う管工事のジャック、土建屋ヒュー、地元猟師のデルカルボ兄弟、農林業を営むシュルツ、人を殺して逃亡中のモンローなど、いつも町にただ一軒の飲み屋で見かける濃すぎる面子が集まった。
 さっそくアメ車を飛ばして、ハンティングに出発する一行。「ヒャッホー!」とか知能の低い嬌声を上げながら。

 その頃、冒頭に出てきた高校の先生と元教え子は、山の中を彷徨っていた。
 行けども行けども藪、また藪。その隙間に林立する巨大なメタセコイア。石炭紀のジャングルもおそらくこんな感じだろう、と先生は勝手に思うのであった。見たことないけど。
 
 と、そこへ、

 「あッ、先生!これは・・・?」

 「うむむ、小林くん!これは大変な発見だよ!」


 小林くんが見つけたのは、地面に堆積する枯葉の上に垂れた緑色の粘液だった。ツツツ、と垂れてつながってこぼれている。

 「これこそ、宇宙人の体液に違いない!相手はケガをしているようだな!」

 
「お言葉ですが、先生。」


 小林くんは到って冷静だった。

 「その推理はちょっと早急じゃありませんか。確かに人間や他の生き物が残したにしては異様過ぎる痕跡です。
 エイリアンが本当に存在するかどうかは今のところ確証が取れていませんが、おっしゃるとおり、この異物が地球外生物が残した何かだとしても不思議はない。」

 ここで、一息ついた。

 「いや、待て。やはり不思議だな。充分、不思議だ。」

 小林くんの思考がループに入ったところへ、ガサッと藪を掻き分けて宇宙人が襲来。この映画のテンポ感の無さは天才的。

 「ヒェーーーッ!!」
 「むむ、なんだ貴様!中華屋の出前じゃないな!!」


 傷ついて緑の血を流す、緑色の宇宙人は「ウガー!」とか「ウゲボー!」とか適当な宇宙語を吐きながら迫ってくる。
 ふたりは逃げ出した。

 一方、娘キャロルは恋人トムとの待ち合わせに遅れて到着。案の定待ち合わせ場所の墓地では墓石が幾つも転がされ、掘り起こした跡まである。それは罰当たりな有様になっていた。
 地面に転がった卒塔婆を跨ぎ越えて、トムの胸に飛び込むキャロル。

 「Oh~、トム!・・・待った?」

 「いやー、全然。」


 平然と答えるトムの口の周りに、泥と腐った生肉の混合液体がはねているのをキャロルは見逃さなかった。この人、また屍肉を喰ってる。
 仲良く肩を組みながらトムのキャディラックへ向かうふたり。

 「私んち、今ならおやじが居ないの。そこにしない?」

 「ん~、デリシャス!」


 トムは鼻息が荒い。おまけに、なんでか非常に臭い。そういえば顔色も青黒いようだ。
 その独特な佇まいに込み上げる愛しさを感じたキャロルは、その幅広い背中に何度も拾った棒杭を突き立てるのだった。噴き出した真っ黒い血でTシャツの背中は濡れ濡れになっている。
 墓参りに訪れたらしい老婦人が、そんなふたりを見て、ヒッと一声上げて蹲った。
 地面に落ちた花輪を格好のいいワークブーツが踏み潰し、通り過ぎる。

 「きょうのダジャレェ~、その1。ハイチに配置変え~~~!!配置変え~~~!!」

 「イェ~~~!!」


 とことん陽気なアメリカンウェイを貫くトムとキャロル。
 老婦人は携帯でシェリフに通報。墓地一帯を含む非常線が張られ、都市部への幹線道路は軒並み封鎖されたが、あいにくふたりが向かったのは、さらに山奥のキャロルの実家だった。

【解説】

 既にお察し頂けているだろうが、この後、Tシャツ穴開きおやじとジャクソン達の混成チーム、先生生徒のコンビ、さらにトムとキャロルのカップルが山中で激突。宇宙人争奪の激しいガンバトルを繰り広げる。
 どのくらい激しいかというと、直立不動の連中がバンバン画面左を向いて撃ちまくり、返す宇宙人が画面右へ撃ち返す。このカットが単調に連続して繰り返される。おおよそ映画学校の教科書的には、やってはいけない銃撃戦演出のナンバーワンを、律儀にそのまんまやってしまっている。悪夢の中の映像のようだ。
 それでも弾は本当に飛んでいるらしく、追跡隊は徐々に撃ち倒され、着ぐるみ宇宙人も何発か喰らって弱り始める。これをアップや台詞、カット切り返し等を一切使わずにやるもんだから、もう、長い。長い。心底うんざりさせられます。

 最高の見せ場は、なぜか宇宙人側に加勢に廻ったキャロル達が、「この地球人の面汚しめが!」とジャクソンに射殺されそうになるところへ、横の藪から突如飛び出した宇宙人が西部のガンマンの如き早撃ちで返り討ちにしてしまうところ。
 コレ、格好よすぎ!
 ここだけ、本当に凄いよ!

 ここでのマヌケさはある意味美しいくらいに輝いているので、ぜひアンタも実物を観てネ!ま、絶対観ないだろうけどネ!あんた、所詮腰抜けだからネ!

 今日学校、どうだった? 
 

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2012年6月 9日 (土)

天城鷹雄『猟蝕夜』 ('88、フランス書院文庫)

 奇妙な小説。常軌を逸した人々が次々と出てくる。ポルノと考えても相当に変だ。

 例えば、ここで展開される性行為は、全部が全部、アナルセックスのみ。「なんでやねん!」と突っ込みたくなるくらい、尻穴限定で拘ったセックスばかりが連射され、前の穴は殆ど使われない。
 不良高校生が学友の母を犯すときも、姉弟が近親相姦に及ぶときも、アメリカ帰りの淫らな叔母が少年の筆おろしに一肌脱ぐ場合も、なんでか全部がアナル中心の展開。尻穴重視。ある意味、一穴主義。
 ときどき何かの間違いで前門に突っ込んでしまう場合も見受けられるが、所詮前菜アペリチェフさ!といった軽さで本筋へと回帰し、常にアナルで見事にクライマックスを迎えてエクスタシーに浸る。
 どんな年齢層だろうが、どんな社会的地位の持ち主だろうが決まってだ。(レズもアナルを責めてます。)
 なんだ、これ。初読で軽い眩暈を覚えた。

 『猟蝕夜』は、七つの短編を収めた短編集である。以下に参考までに表題をあげる。

 叔母の媚肌を猟れ
 蝕まれた隷肛
 姉と弟・狂った夜会
 人妻は禁猟に歔く
 腐蝕しはじめた貞操
 母と娘・淫色の夜
 情欲の猟蝕夜

 どれも一貫したある趣向性の感じ取れる素晴らしいタイトルばかりであるが、淫猥かつ奇怪な漢字を暴走族の団結旗並みに掲げる大時代主義は、作者がご高齢での執筆(一説に60代)からくるものらしい。
 私がこの本を初めて手に取ったのが20代そこそこで、随所に漂う老人臭さに奇妙な違和感を覚えた記憶が鮮明にあるから、まァ全般にジジイの狂った脳内妄想の垂れ流しの内容と考えて無理はないとしても、この本の魅力はその狂い加減の絶妙さが不可解なインパクトを生むレベルにまで達しているところにあるようだ。

 既に言及した通り、シチュエーションと登場人物はそれなりにバラエティーに富むよう配慮が為されており、我が国のエロ常識的に重要と思われる「レイプ」「義母」「近親相姦」「初体験」「未亡人」「土方と若妻」といったお馴染みのキーワードで括ることが可能な物語がそれこそコンビニ的編集方針によって一貫して配列されている。
 ここら辺は、大衆の下世話な欲望を汲み取るのに人一倍熱心なフランス書院編集者のいつもの仕事なんだろうが、ジジイの性欲と拘りはそれを凌駕する程強力だった。

 何に拘ったのか、って?
 ハッキリ書きますね。

 反社会性への飽くなき追求、です。
 
嘘みたいだが本当だ。こいつは性の世界のイージーライダーなのだ。
 以下実例を挙げて解説する。

【あらすじ】

 アメリカ帰りの叔母・亜矢子のマンションへ英語を教わりに通う16歳の少年・正明は、授業中暴発の危険があるので、とりあえず自宅の風呂場で一発ガス抜きしてからバイクに跨る習慣だった。これは交通法規上も安全な処置である。(但し妄想対象はもっぱら叔母。)
 しかし、敵も手ごわい。
 「ふーーーん、童貞くんかァー・・・どう、あたしのヌードが見たい?」
 口の中がカラカラに干上がって返事に詰まる少年。
 「じゃ、着替えてくるわ。」
 隣室に消える叔母。待つこと暫し、戻ってきた叔母は依然として着衣。
 「気が変わったの。裸になるのはやめとくわ。」
 ガックシへたる甥の目線の先に投げ出される夜着。
 ネグリジェの下は拘束具。胴を無理に締め上げ、隆起する豊満な乳房。明らかに反則。
 
奔放な叔母の誘惑に乗せられた正明は、のっけからスパンキング、マリファナ、アナルセックスの強烈コンボを体験。そりゃ翌日から工業高校に通うのも嫌な状態になるわなー、と思っていたら、突然叔母さんアメリカへ去って行っちゃいました。号泣。(「叔母の媚肌を猟れ」)

 いつも一人息子を苛める高校の番長は、有名大学の理事長の息子で大金持ち。裏口入学斡旋と引き換えに、性の奴隷になることを決心する未亡人母・夕子。一緒に京都へ旅行し祇園公園で軽く立ちバックをキメる。
 
事後に入ったパチンコ屋で出球残らず吸い込まれた番長、通りすがりのチンピラを凶気を孕んだ視線で睨んでボソリと、
 「あ~、喧嘩してぇなァ~」
 「やめてよ・・・それより・・・」
 ギクリとした夕子、着ていた和服(ちょっと乱れ有り)のヒップに手を導いて、
 「尻は待っているわ」
 このキメ台詞で完全にアドレナリン沸騰状態になった番長、途中の薬局でイチジク浣腸を山ほど買い込み、連込み宿へレッツゴー。毛穴全開で浣腸を買う番長に店員もお手上げ。夕子もノリノリ、契約愛人という立場を忘れて、ピシャピシャ尻を叩きながら即興で一曲披露する。(曲調は演歌風。)
 「尻よ。尻よ。京都の夜は、尻の夜。
 京都で尻を犯されて、夕子は淫らな女に堕ちていくのだわ・・・」
 
 
この後狂った物語は更に加速し、東京へ帰ると自宅で連日続く牛乳浣腸責め。成り行きで息子と強制セックス。二人目の契約愛人志願が登場し番長の関心がそちらへ移る頃には、夕子と息子はすっかり近親相姦に夢中。なんでも熱心なのはいいこと。毎週土曜日を「ソドム愛の日」と勝手に制定し、受験勉強の傍ら異常性愛のレッスンに熱心に取り組む姿が逆に微笑ましかったりするのであった。(「蝕まれた隷肛」)

 「はァ~い、ヒデ坊、いる?」
 
60年代のラリパッパ娘の感覚で京都に下宿している大学生の弟を訪ねた美貌のOL・理恵であったが、ヒデ坊は空手部の先輩・山賀に背後から肛門を責められている最中であった。
 「な・・・なにしてんのよ、アンタたち・・?!」
 「姉さん、見ないでくれ」
 「見てもいいぞ!」

 
他人の視線も気にせずに、あくまで抽送を止めない豪快過ぎる男・山賀は、素手でビールの首を飛ばす空手の猛者だ。
 一度イカせた弟くんの身体がグッタリ崩れ落ちるや否や、脱兎の勢いで飛び出して、呆然とする姉の腹に強烈な拳の一撃を見舞うと、気絶した女をその場で犯し始めた。
 「あ・・・姉さんが先輩に犯されている・・・」
 そのまんまの感想を述べるばかりで性獣過ぎる先輩の行動に為す術もない弟、事を終えた先輩が帰ると、優しく姉を介抱しながらホモセックス以外のセックスをおねだり。
 
「ぼ、ボクだって一度くらい正常なセックスがしてみたいんだよッ!!」
 
姉と弟。充分異常だ。
 
その後ガチの正常位で関係を深めた姉と弟は、山賀の実家の隣にあるラブホに敢えて移動し今度は濃厚なアナルプレイ。
 「私を犯した男が住む実家・・・。
 憎い。憎いけれど、忘れられない男・・・」

 
って、姉はすっかり空手部にゾッコン。複雑な立場の弟。俺達、なにやってんだろ。
 先輩を東京までわざわざ招待し、自分の住む豪邸の庭でコーラ瓶をアナルに突っ込みその状態で実の弟と絡む、というインパクト抜群の超絶ワザを披露、熱烈レイプをアンコール。たまらず山賀もむしゃぶりついて、連日連夜性の狂宴を繰り広げるが、佳人薄命。数年後に不慮の自動車事故で先輩は帰らぬ人となるのであった。
 そして終幕、その墓を訪ねて線香をあげる理恵の胎内には、既に弟とのガチセックスで芽生えた産んではならない禁断の子供が宿っていた。
 ここで教訓。
 「やっぱり、セックスはアナル限定にしとけばよかった・・・」
 
根性で堕胎を決意する理恵だったが、顔は半分笑っていた。(「姉と弟・狂った夜会」)

【解説】

 ここには、物語を生産性のある方向へ転がすことに対する強烈な嫌悪が感じられる。
 
アンチロマンとか気取った意味合いではなく、社会的に認められる良いこと、立派なことに対する無邪気で純然たる抵抗。そういう意味で、この小説に描かれる性行為は、どれもスレスレを通り越した反社会的行為、立派な犯罪として成立しており、そこで重要なポイントとして犯される対象が予測しない快感に興じることによって共犯者と化していく点が挙げられる。
 「人妻は禁猟に歔く」に於いて、緑地公園の一角で通りすがりの人妻を犯し、「あなたは何者なの?」と聞かれた浮浪者・石谷は堂々と宣言する。

 
「社会不適応者や。体制側の人間やない。」
 「わしは一生、孤独な反体制の炎を胸に燃やして生きるんじゃ。」


 
そんな熱い述懐を漏らす男(常時カバンにドヤで仕入れたコケシバイブ持参)に、退屈過ぎる平凡な暮らしに飽き飽きしていた主婦は附いて行こうと決心し、物語は終わる。これがある種のファンタジーでなくてなんであろうか。ノー・フューチャーにも程がある。
 何発出しても子供が出来ないアナルセックスとは、反体制の象徴。
 
結婚できない姉と弟。去り行く叔母。社会の枠組みの中では生きられない乱暴者。ヤクザ。地下の秘密SMクラブ(「母と娘・淫色の夜」)。
 正常な家庭を持つことも出来ないし、日常に染まることもない。あるのは激しい情欲と社会性全般に対する嫌悪。退屈な日常を塗りかえろ。
 この高度管理社会に何らかのルサンチマンを持つ者が、生き難い思いをしながらそれでも敢えて生きていこうと決意するプロレタリア文学の一種の変形としてこれらの作品を捉えることが出来る。

 ・・・が、実のところ、アナルが好きで好きで堪らないジジイのたわごとという気も(笑)。

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2012年6月 4日 (月)

『情無用のジャンゴ』 ('67、IMAGICA)

 昨日はジンギスカン、今日ジャンゴ。

 我ながらカッコいいラインナップだと思う。
 世間はTVで放映されたスピルバーグ版『宇宙戦争』に夢中のようであるが、あれの見所は薄かった。宇宙人が投網漁の要領で人類を捕まえる場面ぐらいしか面白くない映画であった。
 そこへいくと、ジャンゴ。
 マカロニの帝王。棺桶にガトリング銃を隠し持つ男。とことん卑怯な黒づくめ。最高。

 ・・・だ
が。
 ここでのジャンゴは気合を入れる為、常にハチマキを着用しております。まるで、往年の談志師匠。気分はもう戦争。

 悲しい。
 悲しすぎるぜ、ジャンゴ!


 ま、御存知の通り、フランコ・ネロの『続・荒野の用心棒』が『ジャンゴ』の英語題でヒットしたもんで、関係ない類似品まで猫も杓子も軒並みジャンゴを名乗ったってのがジャンゴ大量発生の密かな原因なんですけどさ。ま、いいじゃないの。
 この作品でも主人公の呼び名は、実は“ストレンジャー”だったりするワケですし。
 オープニングの白い荒地は、ローマ近郊の住宅地開発中の場所だそうで、そんなせこい西部のスケール感の無さが、なんか大人になって観ると身に積まされるんだよなー。
 
 グランド・メサもないし、牛の暴走もちょっぴり貧相。
 その代わりといってはなんですが、血と銃弾は豊富。インディアンのおじさんが、頭の皮を剥がされたりします!

【あらすじ】


 騎兵隊が皆殺しにされ、黄金が奪われた!
 
奪った奴らはさらに仲間割れして、グループの残り半分を射殺!勿論、撃つ前に自分達の墓穴を掘らせるというお約束ありで。ワクワクするね!
 奇跡的に生命を取りとめた荒くれ者、通称はちまきジャンゴは、通りすがりのインディアン2名に助けられ、荒野へ復讐に旅立つ。砂漠の外れにあるという、伝説の「不幸の町」目指して。嫌な名前だなぁー。
 荷馬車の荷台に載せられ、砂漠を越えていくその姿は、負傷したときのバイオレンス・ジャックみたい。さすが、我が国随一のマカロニ度数を誇るマンガ。どっちが本家か、既にわからない。
 
 一方、金塊を奪った連中は、辿り着いた「不幸の町」でひとり残らず、町民からなぶり殺しにされる。銃で追い立てられ、水桶に顔面を浸けられ、首に縄をかけられて次々と悲惨な死を遂げていくギャングたち。転がった死体は一箇所に集められ、吊るされる。
 この町では、権力は腐敗し、住民は血に飢え、悪徳が大手を振って闊歩する。まさにこの世の地獄。
 最後に残った金塊強奪グループのボスを速攻の飛び入り参加で仕留めて、住民の拍手喝采を浴びるジャンゴ。殺しの世界に華麗にデビュー。
 
このとき使用した銃弾は、僅かに手元に残っていた金塊を溶かしてこさえた特製品だった為、まだ息の根が止まっていなかった裏切りの主犯は生きたまま全身の傷口をナイフで抉られるというスペシャルな憂き目に合い、死亡します。
 摘出した銃弾を手に手に大喜びの町の住民達。ちょっといい場面。

 さて、ここからはハメット『血の収穫』すなわち黒澤『用心棒』の系譜を引く、残虐ハードボイルドの王道展開となり、町を牛耳る大物達の間を主人公がウロウロして彼らを自滅させていくお馴染みのパターンが繰り広げられる。

 この町には3人の大物がいる。
 第一のボス、ソロは黒服のホモ集団を率いる危険なデブ。町一番の美少年を寄って集ってレイプして嬲り者にしちゃう。本気でやばい男。
 ちなみに主人公に惚れる純真な美女の役が、ここではこの猫背の美少年になっておりまして、マカロニ・ゾンビ映画『悪魔の墓場』でお馴染みのレイモンド・ラブロックが演っております。あの映画じゃ髭面のおっさんなんだけどなー。誰でも若い頃ってあるよなー。
 さんざん犯され捲くった美少年は、翌朝、はだけたシャツの胸元から覗く左乳首の下辺りに銃口を押し当て自害。死体を抱いて複雑な顔になる主人公。どうしたものか。はちまきがちょっと緩んでます。

 第二のボスはテンプラ。美少年の実の父。揚げ物系。普通に飲み屋を経営するも、キツい顔の後妻に全て牛耳られ、良いとこ無し。どうも、この後妻と美少年の間にも何かトラブルがあった御様子で、少年が後妻の下着をナイフで切り裂く、どうでもいい感情的見せ場が出てきたりもします。
 テンプラはテンプラで、揚げ物だけに結構人気がある訳ですが、熱し易く冷め易い性格。息子が死んだと聞かされて、すわ復讐と乗り込み、あっさり返り討ちで全滅。
 後妻も巨大なカツラでヨレヨレ走って逃げようとしますが、カツラが出口に痞えて捕まり、死亡。この話、それにしても皆んなすぐ死ぬ。マカロニの典型的パターンだな。

 第三のボス、その名もハーゲルマン。いいね!この名前!
 こいつは極端にしみったれた性格で、妻を自宅に監禁してるバカ。3ボスの中では一番イケてるからって、いい気になるなよ、ハーゲルマン。遂に黄金を手に入れ、有頂天になるも、妻がマジ切れして家に火を放ち、火災炎上。溶けた黄金を引っかぶって顔面金ピカになって窒息死。
 この火事を存分に野次馬根性で見終わった主人公、再び荒野に馬を走らせるのでありました。

【解説】

 最後に教訓めいたことを書いておくが、

 情け知らずと恥知らず。
 本当になりたいのは、どっち?

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2012年6月 3日 (日)

V.A.『ジンギスカンだらけ』 ('08、PiccoloTown)

 この世のバカよ!バカたちよ!
 汎地球的規模で存在する、この世のバカが見たい全ての人々に捧ぐ、これは意外と疲れない(内容がバカ一色だから)結構秀逸なコンピレーションである。

 エ・・・内容?そんなものないよ!
 古今東西20曲、有名なディスコ歌謡「ジンギスカン」のカバーを詰め込みまくっただけの狂った構成である。
 同じ曲でカバーを集めるというのは定番企画で、全部「マイ・ウェイ」とか全部「ワン・オブ・アワ・サブマリン」のリミックスだとか(後者はトーマス・ドルビーのマイナー曲。なんでか一部のヒマ人に人気がある)、色々あるが、ぜんぶ碌なものではない。
 だから、「ジンギスカン」のみで72分一気に聴けるというのは、実は画期的な聴収体験だ。それもこれも、原曲のバカ度と知名度がやたらと高いからだろう。マイナー進行で無駄に勢いがある楽曲である点も見逃せないところだ。

 こうして一気に並べられてみると、「ジンギスカンと私」「現代社会に果たしたジンギスカンの影響力」といった高尚なテーマについて、パイプを燻らせ書斎の椅子に凭れながら改めてつらつら考えさせられてしまう。
 14世紀、モンゴル帝国を率いてアジアはおろかヨーロッパまで席巻し全世界に覇を唱えた蒙古の蒼き狼。幼名・テムジン。
 元祖・モヒカン刈り。
 
死後帝国は分裂。オゴタイ・ハンとかチャガタイ・ハンとか、微妙にバッタ臭い息子達の兄弟喧嘩により、アジア発の世界帝国の栄光は歴史の彼方に没し去るのであった。
 
 そういうストレートなジンギスカン像に忠実なのが、日本語訳詞の世界である。

 「♪骨までしゃぶる悪玉を、左や右で切り刻み、勝利を掴むのさ~」
 (山本伊織・訳)

 素敵である。充分荒くれな感じがする。
 (これは川崎麻世版であるが、2008年Berryz工房も同じ歌詞を歌っているのは、ちと工夫が足りない気がする。)
 とにかく、ジンギスカンは常に暴力に訴える男。人の迷惑は一切顧みない。

 「♪ジン、ジン、ジンギスカン 
      禁じられた夕陽を求めて
   ジン、ジン、ジンギスカン 
      荒野を駆けるヒヅメの響き

   邪魔者は突き飛ばせ」

 (浅川佐記子・訳)
 
 この渋谷哲平版でのジンギスカン解釈は、歴史に忠実な帝王像をさらに敷衍させ一種のドラマチックなサーガとして完結させてしまった、高度な英雄叙事詩として評価される。それにしても禁じられた夕陽は意味不明だが。何かあったのか。

 そんな男の中の男、キング・オブ・喧嘩番長、リアル・カジワラを生きた男ジンギスカンの知られざる意外な一面を描くのが、原たかし&バットマンズである。 

 「♪あるときは、優しいジンギスカン
  洒落た格好して口説けば、思い通りあやつれる
  狙いは、100発100中」
 
(Christian Donaus -カルメン・訳)

 そんなテクニックも持っていたのか。心底おそろしい男だ。

 他、外人勢からはブラックメタル版ジンギスカンだとか、緩いフレンチポップ風ジンギスカンだとか、主にアレンジに頼ったネタ使いのカバーが連射されているのだが、ここはやはり、誰もが認める無謀な日本語カバーに挑んだレニングラード・カウボーイズのバージョンでしょう。

 「♪人生、酒びた~り~」

 って、武将とまったく関係ない。
 さらに、訳詞者不明のこのバージョンでは、無記名なのをいいことにイントロ部では長洲力「パワーフォール」を演奏、歌詞的には山本正之の強引なパクリを無断でハメ込み、

 「♪俺たちゃ、天才!ワ、ハ、ハハ!
   きみたち、凡人!ヨ、ホ、ホホ!」


 さらに、爆風スランプ「週刊東京少女A」から、「♪なんだ坂、混んだ坂」まで借りてくるという傍若無人っぷり。
 なんか知らん、あらゆる意味での頂点を極めた暴れっぷりで最高。必聴。

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2012年6月 1日 (金)

わらいなく『KEY MAN①②』 ('11~、徳間書店)

 横スクロールのアクションゲームみたいなマンガである。
 この表現で上手く伝わるとも思えないが、気になる人は現物をあたってみて頂戴。意味が解る筈だ。アクションがなんか全体に横軸に流れる。だから、派手なぶっとい流線の割りにあんまり動きまくっている印象がない。二巻に併録されているデビュー作の短編なんて、結構読むのがしんどかった。
 アメコミとの関連が深い絵柄があれこれ取り沙汰されている作品なので、私としては気になってチェックしてみたのだが、あんまり外人枠ではなかった。擬音が英語で、如何にもアメコミ的なデフォルメを施したキャラが出てきて・・・って、ドクスラが既にしてそうじゃん(『Dr.スランプ』の勝手な略称)。
 他、如何にも月刊リュウらしい造形が施された恐竜刑事とか、猫耳女性記者とか、『逮捕しちゃうゾ!』みたいな婦警とか、サービス精神過剰に繰り出される。あんまり得意じゃない世界。

 でも悪くない内容だと思うよ。
今日び、真っ向から絵で勝負しようとする気構えのある人なんて貴重だからね。丸ペンでカリカリ描きまくっていて、いさぎ良い。

 で、コレ、どういう話かというと。

【あらすじ】

 キィキィ、キィ、キィ、キィーーーマン!
 鳥の鳴き真似と共に現れる不思議なヒーロー・キーーーマン。理由は小鳥が好きだから。でかい図体の割りに、少女チックなハートを併せ持つ奥行きのある人物だ。
 だから、小鳥の敵はキーーーマンの敵。徹底的に対抗し、追い詰め、殲滅する。その為なら手段と金は厭わない。そんな男らしいキーーーマンに子供達はもう夢中。「・・・抱かれてもいいかな?」と最近考えている。(無論ダメだが。)
 
 そんなある日、町中のカツラが消えた。
 盗った犯人は、怪盗ヅラー、ってそのまんま。(この辺、俺ではなく俺の五歳の甥っ子が考えています。)
 ヅラーは、ダイヤモンド以上の完全屈曲率を誇るスーパー頭頂部を持つ男で、どんな吸着力を持つカツラを乗せても、つるんと滑って落っこちてしまう。悲し過ぎる特異体質の保持者なのだった。そこで積年の恨み今こそ晴らさん、として全てのカツラに非常招集をかけたワケだ。
 捕らえたカツラを地下室に監禁し、あらゆる性的拷問を繰り広げるヅラー。釜茹で、股裂き、強制アナルバイブ。人間としての尊厳を奪い取られ、次第にケダモノ以下の人類に成り下がっていくカツラたち。
 勝ち誇るヅラーは、世界強制終了を宣言。金麦で乾杯した。

 一方、特定の組織に所属するのが何かの屈辱のように感じてしまう、明らかに誤った人生観の持ち主・キーーーマンは、単身コソコソ聞き込みを開始。
 町で出会ったキチガイや、電車によく出没する痴漢を勝手に事情聴取。(拒んだ奴は速攻で射殺。)参考になるとも知れぬ、風の噂よりまだ細いミニコミ記事やらタクシー運ちゃんの有名人乗せました情報を続々と採取し、事件解決への大きな足がかりを得る。
 そして遂に、真犯人と思しき人物が郊外のペットショップ跡地に潜伏しているとの一方的な確証を攫んだキーーマン、前祝いに一杯やるべぇと出掛けたメイド喫茶でぼったくりに遭い、すっかりオケラに。

 「オレ・・・一体、なにやってんだろうなァ・・・」

 飲み屋の裏のゴミ箱に頭を突っ込み、うっすら涙を浮かべるキーーーマン。手に持った鳥籠の中の小鳥も心配そうにその顔を覗き込む。
 そうだ、心機一転出直そう。路地裏のお星様を見上げてそう決心したキーーーマン、駕籠に腕先を突っ込んで、嫌がる小鳥をむんずと捕らえ、頭からムシャムシャ喰ってしまった。 

【解説】

 無論、物語はここで終わりではなく、魔女の三人目の弟子の出現を予告して次回へ続くのである。って、ここだけ読むとまるで『サスペリア』の紹介のようだな。
 歴然と違うが。

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