ドン・ドーラー『俺だって侵略者なんだぜ!!(ギャラクシー・インベーダー)』 ('85、WHDジャパン)
酷い映画には価値がある。本当にいいものを見分けるには、駄目な奴を散々見まくる必要があるだろ?
そんな最小限の努力もしないで、したり顔で澄まして、一体何が解るってんだ?
ハズレくじばかり引いてみろ。不細工とつきあえ。自分のチンケな趣味を全面肯定するのをやめろ。カンフーを好きになれ。
すべてを脱ぎ捨て、自由になるんだ。
本当の話はそこからだ。
【あらすじ】
ある朝アメリカの片田舎に火の玉が落下。目撃した少年は、高校の先生に電話を掛ける。
「なに、巨大な火の玉・・・?隕石にしちゃ大き過ぎる。うーーーん、そいつはUFOかも知れないな。
・・・よし、わかった。五時間後に行くから、そこでそのまま待っていてくれ!」
五時間後。
律儀に山の中でガムを噛みながら待っていた少年。車で現れた先生とまずは固い握手を交わす。平均的な日本人の感覚からすると、既にこの辺で本物の宇宙人を見るような違和感を覚える。
ふたりは山の中を捜索し、焼け焦げた倒木の列を辿って山中に墜落している宇宙船を発見。宇宙船はどうやら地中深く埋まっているらしく、映画を観ているわれわれにはさっぱり姿が見えないが、あるいは透明宇宙船ということなのか。斬新過ぎる切り口だ。
どうやら、その宇宙船に乗っていた何者かが山中へ這い出していったらしいという事になり、先生と生徒は痕跡を追って更に山奥へ。
山が深くなればなるほど住んでいる住人の知能程度が下がるのは、チベットだろうがケイジャン地方の湿地帯だろうが食人族の棲む秘境だろうが、世界共通の法則である。決して山奥へ行ってはいけない。
そんな恐怖の山奥に、とことん間抜けな一家が住んでいた。
知能レベルは蟻くらい。朝食はコーンフレークで昼飯はベーコンエッグ、常にビールをかっ喰らい、TVディナーは炒めたポテトにビフテキだ。彼らの呪われた血はアメリカを発端に世界全土へ飛び火し、実のところ吸血鬼より恐ろしいのはこいつらだ。
ここでわれわれはこの映画の中心人物に引き合わされる。
穴の開いたTシャツを着た薄汚い中年おやじ。恐ろしい。嘗てこんなに杜撰で華のない人物が主役を務める映画があっただろうか。胸に丸い穴の開いたTシャツを着たおっさんが映し出されたとき、私は目を疑った。なんだこりゃ。
「おい、キャロル!
てめえ、俺に無断でトムと遭ったりしたら、只じゃおかねぇからなー!!」
おっさんは実の娘に向かって吠えるのだった。
娘はパツキンのスベタ。どうも父親からボーイフレンドとの交際を反対されているという設定らしい。
「フン!!!うるさいわよ、くそじじい!!
あたしのマンコはあたしのものよ!どこでどう使おうが、いちいちアンタに報告しなきゃいけない義務なんかないわ!!」
「ぬぁんだとゥ!!!」
怒りにまかせて銃を持ち出すおやじ。横でボサッと見ていた長男のベンがさすがに止めに入る。
その隙にキャロルはログハウスを抜け出し森の中へ走り込む。
遠くで銃のパンパン鳴る音が聞こえるが、幸い弾はこっちへは飛んで来ない。やれやれだ。
キャロルは時計を持っていないが、そろそろ愛しいトムと待ち合わせの時間だ。家を出るとき確かめてきた。待たせてはまずい。トムは癇癪持ちだ。待ちくたびれると、すぐにイライラして周囲の物に当り散らすのだ。知らない家の窓ガラスを割ったり、ドアを爪で引っ掻いたりはしょっちゅうだ。
キャロルがダッシュで森の小道を駆けていくと、前方でふいに繁みが動いた。
「・・・?!」
父親が追ってきたかと思って身を強張らせるキャロル。
しかし、繁みから飛び出してきたのは、緑のゴムのマスクを被り、強引な着ぐるみの宇宙服に身を包んだ怪しすぎる人物だった!
「ブゴー、ゴォー、ゴォーォォー!!」
「キャァーーーッ!!」
悲鳴を上げて蹲ってしまうキャロル。
そこへ背後から追ってきた父親と兄貴のベンが到着。形勢不利と見た怪物は、いち早く藪の中へ逃げ込んでしまった。
「うわー、マジキモい。なんだよ、あいつ?」
「森林調査官じゃないようだな!」
おやじは、この人物にしては気の利いた返事をすると、シャキーンと銃身を振り上げた。
「私は奴の後を追う。ベン、お前はこのアバズレを連れて家まで帰れ!」
気張ったおやじは勇躍森の中へ。
幾らも歩かぬうち、コンニチハーって感じで様子を窺っていた怪人と遭遇。双方、ギョッとして飛びすがるも緊張感は皆無。異星人とのコンタクトだってのに盛り上がらないこと夥しい。
おやじ、ライフルを構えて、
「おい!誰だ、お前?!」
「パピャラ、ピャラ、ピャラ、パー!」
宇宙人、腰のベルトに下げた銃のような形状の機械を抜き取って構えた。
さらにベルトのバックル位置に嵌め込まれた白い丸い球を取り出し、銃身中央にセットする。
カチッ。変な電子音がした。
ズババーーーッ!!!
突然フィルムを引っ掻いた傷のような怪光線が走り、若木っぽい枝がズザザザっと切り倒される。
「うわわッ・・・!なにしやがんだ、こいつ!!」
明らかに威嚇のつもりだったのだろうが、却って単細胞おやじは逆上。ライフルを連続でぶっ放し始める。
さすがに危険と思った宇宙人、踵を返して逃げ出したが、余程慌てていたのだろうか、後に謎の銃を落としていった。
「・・・なんだこりゃ?」
とりあえず銃を拾い上げたおやじ、自宅に持って帰る。
そういえば、宇宙人(トカゲ)の落とした銃を拾い上げたら、えらい目に合うゾという重要な教訓を含んだ『レーザーブラスト』ってケチ臭い映画がこの頃あったが、いずれにせよ宇宙人の武器というのは、地球人が使うと碌な事にならないようだ。(最近の例=『第九地区』)。
一家の中では比較的頭脳派(地方の工業高校を留年せずに卒業した程度)の長男ベンは構造を探ろうとアレコレ銃をいじってみるが、さっぱり解らない。まさかトリガーに似た形状の部分を引けば銃が発射されるなんてことは、地球の科学水準ではとても思いつけっこないのだ。恥じるな、ベン!高卒だって気にすんな!強く生きていけ。
その頃、おやじは新たなプランを練っていた。
宇宙人を捕獲したらどうだ。見世物にして結構いい稼ぎにならないか?
そんな与太を知り合いのジャクソンに飛ばしたら、このクソおやじ、早速話に乗ってきた。こいつ、昼間っから酒ばっか飲んでケバい愛人とイチャついてる最低なろくでなし。派手なアメ車を転がして、胡散臭い土地建物ブローカーをやってる。まともに働かないことを神に真剣に誓ったような奴。
こいつを筆頭に、愛人アイリス、水道う管工事のジャック、土建屋ヒュー、地元猟師のデルカルボ兄弟、農林業を営むシュルツ、人を殺して逃亡中のモンローなど、いつも町にただ一軒の飲み屋で見かける濃すぎる面子が集まった。
さっそくアメ車を飛ばして、ハンティングに出発する一行。「ヒャッホー!」とか知能の低い嬌声を上げながら。
その頃、冒頭に出てきた高校の先生と元教え子は、山の中を彷徨っていた。
行けども行けども藪、また藪。その隙間に林立する巨大なメタセコイア。石炭紀のジャングルもおそらくこんな感じだろう、と先生は勝手に思うのであった。見たことないけど。
と、そこへ、
「あッ、先生!これは・・・?」
「うむむ、小林くん!これは大変な発見だよ!」
小林くんが見つけたのは、地面に堆積する枯葉の上に垂れた緑色の粘液だった。ツツツ、と垂れてつながってこぼれている。
「これこそ、宇宙人の体液に違いない!相手はケガをしているようだな!」
「お言葉ですが、先生。」
小林くんは到って冷静だった。
「その推理はちょっと早急じゃありませんか。確かに人間や他の生き物が残したにしては異様過ぎる痕跡です。
エイリアンが本当に存在するかどうかは今のところ確証が取れていませんが、おっしゃるとおり、この異物が地球外生物が残した何かだとしても不思議はない。」
ここで、一息ついた。
「いや、待て。やはり不思議だな。充分、不思議だ。」
小林くんの思考がループに入ったところへ、ガサッと藪を掻き分けて宇宙人が襲来。この映画のテンポ感の無さは天才的。
「ヒェーーーッ!!」
「むむ、なんだ貴様!中華屋の出前じゃないな!!」
傷ついて緑の血を流す、緑色の宇宙人は「ウガー!」とか「ウゲボー!」とか適当な宇宙語を吐きながら迫ってくる。
ふたりは逃げ出した。
一方、娘キャロルは恋人トムとの待ち合わせに遅れて到着。案の定待ち合わせ場所の墓地では墓石が幾つも転がされ、掘り起こした跡まである。それは罰当たりな有様になっていた。
地面に転がった卒塔婆を跨ぎ越えて、トムの胸に飛び込むキャロル。
「Oh~、トム!・・・待った?」
「いやー、全然。」
平然と答えるトムの口の周りに、泥と腐った生肉の混合液体がはねているのをキャロルは見逃さなかった。この人、また屍肉を喰ってる。
仲良く肩を組みながらトムのキャディラックへ向かうふたり。
「私んち、今ならおやじが居ないの。そこにしない?」
「ん~、デリシャス!」
トムは鼻息が荒い。おまけに、なんでか非常に臭い。そういえば顔色も青黒いようだ。
その独特な佇まいに込み上げる愛しさを感じたキャロルは、その幅広い背中に何度も拾った棒杭を突き立てるのだった。噴き出した真っ黒い血でTシャツの背中は濡れ濡れになっている。
墓参りに訪れたらしい老婦人が、そんなふたりを見て、ヒッと一声上げて蹲った。
地面に落ちた花輪を格好のいいワークブーツが踏み潰し、通り過ぎる。
「きょうのダジャレェ~、その1。ハイチに配置変え~~~!!配置変え~~~!!」
「イェ~~~!!」
とことん陽気なアメリカンウェイを貫くトムとキャロル。
老婦人は携帯でシェリフに通報。墓地一帯を含む非常線が張られ、都市部への幹線道路は軒並み封鎖されたが、あいにくふたりが向かったのは、さらに山奥のキャロルの実家だった。
【解説】
既にお察し頂けているだろうが、この後、Tシャツ穴開きおやじとジャクソン達の混成チーム、先生生徒のコンビ、さらにトムとキャロルのカップルが山中で激突。宇宙人争奪の激しいガンバトルを繰り広げる。
どのくらい激しいかというと、直立不動の連中がバンバン画面左を向いて撃ちまくり、返す宇宙人が画面右へ撃ち返す。このカットが単調に連続して繰り返される。おおよそ映画学校の教科書的には、やってはいけない銃撃戦演出のナンバーワンを、律儀にそのまんまやってしまっている。悪夢の中の映像のようだ。
それでも弾は本当に飛んでいるらしく、追跡隊は徐々に撃ち倒され、着ぐるみ宇宙人も何発か喰らって弱り始める。これをアップや台詞、カット切り返し等を一切使わずにやるもんだから、もう、長い。長い。心底うんざりさせられます。
最高の見せ場は、なぜか宇宙人側に加勢に廻ったキャロル達が、「この地球人の面汚しめが!」とジャクソンに射殺されそうになるところへ、横の藪から突如飛び出した宇宙人が西部のガンマンの如き早撃ちで返り討ちにしてしまうところ。
コレ、格好よすぎ!
ここだけ、本当に凄いよ!
ここでのマヌケさはある意味美しいくらいに輝いているので、ぜひアンタも実物を観てネ!ま、絶対観ないだろうけどネ!あんた、所詮腰抜けだからネ!
今日学校、どうだった?
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