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2012年5月

2012年5月27日 (日)

『昆虫大戦争』 ('68、松竹)

 立派な映画ではないが、最高である。

 この映画を作った連中が原水爆実験や戦争を真剣に憎んでいたことは疑いない。だが、それがどうしたといわんばかりの呑気さが全体に漂っているのも事実である。
 どうにも言い訳の利かない間抜けな感じ。
 無謀な国際キャストの起用もそうだし、彼らが日本語吹き替えで喋る(日本人キャストも含め全編アフレコ)状況もアホらしさに拍車を掛けている。
 特に水野晴郎と坂上二郎のハイブリッドのような黒人兵士役の人には敢闘賞をあげたい。彼の演技は最高だ。異常に虫の襲来に怯える、記憶の弱いヘタレ兵。登場からビクビクし泣き叫んでいるが、崖から落ちて記憶喪失、悪漢一味に拷問されてクルクルパーになってしまう。最終的には虫に齧られ白骨化。事件の鍵を握る重要人物なのに、まともな芝居は一箇所もなかった。
 
 それにしても松竹のSFホラーは、どれをとっても最後がバッドエンディングなのが素晴らしい。教訓も理屈もあったもんじゃない。単に破滅的で暗いだけ。もっと観たくなる。
 だが観客には嫌われて、あっという間につくられなくなってしまったんだよなー・・・。

【あらすじ】

 突然変異で毒性の強化された昆虫が人間を襲う。
 ナチス・ドイツの迫害により家族を皆殺しにされた、狂った金髪女が、他人の迷惑を一切顧みず、八丈島で殺人兵器として育てていやがったのだ。
 その昆虫とは・・・単なるハチ。どう見ても、毛の濃いミツバチ。
 しかし奴らに襲われたら最悪で、脳に毒が廻って発狂し、散々楽しい夢(殺人・拷問・処刑等)を見せられて、口から泡を吹いて死んでしまうしかない。さらにこいつら、死体に卵をうえつけて幼虫を孵化させる素敵な習慣を持っているので、死んでも決して心安らかな感じにはなれない。全身蛆虫だらけで白骨になるしかないのだ。

 漁師・波平は新婚ホヤホヤ、東京の生物学者に頼まれ、島で珍しい昆虫を捕らえて標本用に宅配便で送っている。妻は7か月の身重だが、家計が苦しいので、浜で観光客相手のバーを経営するアロハのおやじのところへバイトに出ていた。
 物語は、波平が妊娠している妻をほったらかしに、件の金髪女とこっそり浮気しているところへ、水爆を積んだ米軍機が墜落してくる場面から幕を開ける。

 「キャーーー、あれはなに?!」
 「落ちるぞ・・・あッ、落下傘が開いた!四つだ・・・!」 


 飛行機はそのまま海面にクラッシュし爆発、散乱。
 金髪女の薄い陰毛の生えたコーマンに、おのれ自身を深々と突き立てていた波平は、冷静に風に流されてくるパラシュートの行方を確認すると、海岸をダッシュで走り出した。取り残された金髪女は、仕方なく不貞腐れて独りズリセンこいてます。
 森の奥深く、木に引っ掛かった落下傘は見つけたが、辺りに人影はない。困った波平だったが、その場に落ちていた軍用時計だけは見逃さなかった。
 すかさず、くすねてドロン。
 浮気。窃盗。しかも火事場泥棒だ(救助する振りすらしない)。人間としての大事なルールを軽々しく踏みにじっていく爽やか過ぎる主人公の行動に誰もが拍手喝采だろう。

 だが悪いことは出来ないもの。時計を売りつけようとした漁師仲間が通報し、波平は地元警察に逮捕される。取調べにも完全にシラを切り通す、この不遜な若者に温厚な駐在さんも怒り爆発。本土へ護送し締め上げてやろうとするが、そこへ波平の妻に呼ばれて本土からわざわざ駆けつけた東京の偉い学者さんが止めに入る。
 
 「お待ちなさい、彼は重要な証人だ。」

 いや、こいつ、何にも知らんと思います。
 不敵過ぎる波平、この騒ぎに乗じて海に飛び込み逃走。水面に銃を乱射し地団駄を踏む警察。潜ったシルエットが真下に見えているんだがなー。なぜか命中しないんだ、コレが。

 その頃波平の妻は、床磨きの途中、襟ぐりから覗く乳房に発情したバイト先のアロハのおやじに犯されかけていた。
 三段腹を揺らして迫り来るおやじに必死の抵抗を続ける妻。おやじは自室の壁一杯に巨乳グラビアの切抜きを張っているくらい性に飢えた男。まさにアメリカンウェイ。

 「やめてください!!人を呼びますよ!!」

 
おやじ、満面に下卑た笑いを浮かべて、

 「いいじゃねェか、減るもんじゃあるまいし。
 今頃は、お前の旦那だってなぁー、あの金髪女としっぽりと・・・」


 「エエエッ!!マジ?!」

 妻が知らないだけで、金髪と波平の情事は実は村中の評判だったのだ。
 こいつはしまった、口を滑らせた。ふいに黙りこくりマジで鬱に入った妻に、さすがのエロおやじも閉口しひたすら困っていると、そこへ噂の金髪女が店にやって来た。
 途端、愛想良くなるおやじ。揉み手でカウンター裏に廻り込む。

 「おー、これは、これは・・・!
 ・・・いらっしゃい!何にします?」

 「・・・コーヒー。」


 アンニュイに答えた金髪女、おやじの執拗に突き刺さるエロ視線に気づいたのか、ふいに胸元をはだけると突然大声で叫んだ。

 「ヘイ、ユウ!!
 なによ、これがそんなに気になる・・・?!」


 「エエエエッ!!」

 驚くおやじと、波平の妻。
 剥き出しにされた乳房の上には黒々とした墨で英数字の記号が。

 「これはね、ナチ収容所で入れられた奴隷の番号なのよ・・・!
 戦争当時ナチスの奴らは、あたしの家族を捕らえて皆殺しにしたのよ・・・!
 そして連れて行かれた収容所で、為す術のないあたしは散々ゲシュタポの豚どもに犯されたのだわ・・・!!」


 いきなり飛び出す衝撃的過ぎる過去に目を白黒させているおやじ。
 波平の妻は、夫の浮気相手をうつろな視線でぼんやり見つめるばかり。あたしの夫もこの乳を吸ったのか・・・。

 「だから、あたしがこの島限定で棲息する珍しい毒虫を品種改良して、人類を絶滅させる生物兵器を作り出していたとしても何の不思議もないのだわ!!むしろ、当然の権利なのよ・・・!!
 今に見てらっしゃい!!
 
ジェノサイド!!ジェノサイド!!
 人類皆殺しよ・・・!!!」


 言いたいことをぶちまけると、金も払わず出て行ってしまった。
 
 「・・・すげぇ女だなァ・・・。」

 呆れつつ素早く自室に戻ったおやじ、箪笥に隠したモールス通信機のキーをこっそり叩き始める。

 「当地ニテ・・・“バイオテロ”ノ、オソレアリ・・・。至急、増援ヲ寄越サレタシ・・・」

 おやじは実は東側のスパイだったのだ。
 こんな何もない島に工作員を送り込むとは、やはり共産圏の考えることは謎である。

 その頃、行方不明の水爆を追う米軍は、ゴードン大佐を派遣し、島の奥地へと捜索を進める。落下傘で降りた三名の兵士を、島の裏側の洞窟で発見するが、二名は虫に齧られ白骨化。残る黒人兵一名は崖から転落し、頭を強打してバカになっていた。

 「うーーーん・・・うーーーん・・・・・・。
 困ったなァ・・・なんにも、思い出せないヨ!!」


 ゴードン大佐、腕組みして、

 「うーーーむ・・・。
 唯一の生存者がこれではなァ・・・。なんとかならないの、医療班?」


 「駄目であります!
 古代ニッポンのレジェンドでは、バカは死ななきゃ治らないと申しまして・・・」


 真剣な顔で答える当番兵。

 「では、ここで問題。」
 大佐は、関口宏のように解答席に凭れかかる。

 「落下傘が4つ開いて、降下してきた兵隊は3名でした。残るひとつはなんでしょう・・・?」

 「う~~~ん、う~~~ん・・・」

 当番兵は顔を真っ赤に紅潮させて唸り出した。

 うーーん・・・・・・メ、メイ牛山?」
 
 「ナ・・・ナンジャソラ・・・!!」

 ゴードン大佐は完全にブチ切れた。

 「なんのオチにもなってないヨ、ソレ!!
 なんでも云えばいいってモンじゃないデス、バカ!!云って面白そうな名前を適当に挙げるんじゃないヨ!!このマヌケメ!!
 だったら、ライカ犬でもいいし、ソユーズ3号でもいいわけヨ!!
 
ジェームス三木だっていい。
 あぁ、そうとも。ジェームス三木だっていい。」


 「ははァ。」

 別の兵隊が助け舟を出した。

 「第四のパラシュートは、ズバリ水爆ですな!」

 途端に大佐はピコピコハンマーを取り出し、答えた兵隊の頭を連続で殴りつけた。

 「なんで正解を言うのか、バカ!!バカ、バカ、バカ!!!
 なんでいきなりまともな答えをしちゃって、問題速攻で終わっちまったじゃないのヨ!!なに考えてんだ、
 この、バカ、バカ、バカ、バカ、バカバカバカバカバカ・・・・・・!!!」


 その瞬間、目も眩む閃光が空を覆い尽くし、爆音が轟いた。
 水平線に立ち上るキノコ雲は、八丈島が一瞬にして消滅したことを告げていた。

【解説】

 話の筋が最早まったく思い出せないが、だいたいこんな感じ。
 予告編には『キノコンガ』・・・じゃない、『吸血鬼ゴケミドロ』のUFO地球大襲来の場面が使われ、巨大化したハチが人間の喉笛に喰らいつく残虐カットが存在していたり、会社としてはもっと派手な写真にするつもりだった形跡があるにはある。
 しかし、松竹社員の生真面目かつ融通の利かない体質は如何ともしがたかったようで、リアル指向で社会派で、そのくせ非常に内容のとっ散らかった傍迷惑なシロモノが出来上がってしまった。
 要するに、盛りすぎ。 
 登場人物の行動も唐突かつ意味不明で、主人公がまったく共感を呼ばない行動を連続させるところも秀逸である。誰を応援していいのか解らなくなる。
 この作品は明らかに娯楽映画として撮られているのだが、本当に人を楽しませようという気があったのか。そもそも一体誰狙いだったのか。すべて不明である。
 そこが非常に素晴らしいと思う。
 

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2012年5月26日 (土)

川野ゆーへー『スリラー②』 ('98、秋田少年チャンピオン・コミックス)

 まず、重要なポイント。このマンガはまったく面白くないので、そのつもりで。

 調べたところ、3巻まで刊行され掲載誌が移転になったか打ち切られたかして、物語は中途で途絶したようだ。当然だろう。面倒なだけで、まったく面白くないのだから。
 だが、この作品がどう面白くないのか語ることで、超能力バトルマンガが根本的に孕むくだらなさを浮かび上がらせることが出来るように思う。繰り返す。面倒だが
 
お陰様でこの記事は全面改稿、二度書きになってしまったくらいだ。勘弁してくれ。俺は忙しいんだ。母の日が終わったら、今度は父の日のギフトを選ばなくてはならないんだ。
 
 超能力バトルマンガを大好きな、善良な諸君にまずは一言。

 お前ら、随分くだらねぇものを読んでやがるな!

【あらすじ】


 近未来の日本。核戦争だか地震だか原発事故だか細菌ウォーズだか知らんが、都市は廃墟と化し、法と秩序は失われ、暴力が支配する無政府状態となっている。
 この世界を支配するのは、通称“エキスポ”と呼ばれる超能力者ども。見下げ果てたクソ野郎の集団だ。
 クズはクズらしく大人しくしていればいいものを、この世界ではそんな超能力者どもがあろうことか一致団結。自分達が住むユートピアのような都市を築き上げて、周りの皆んなを制圧、搾取して生活している。超能力で人間殺し放題。飲み放題に喰い放題。犯し放題。
 (・・・ホラ、段々あんたにも俺の怒りが感染してくるぜ。)
 
 さらに、だ。
 本巻内では解明されない謎設定として、こいつら、自分達以外の超能力予備軍を異常に警戒していて、超能力を発動しそうなガキがいると、その肉親を人質に攫って来ちゃうの。
 なんで、わざわざそんな面倒な真似をする必要があるのか。
 逆らうなら殺しちまえばいいだけの話ではないのか。


 物語が出来の悪さに打ち切られたため、その理由は一度もちゃんと説明されていないと思われるが、ま、すべては超能力仲間に引き込む為だろ。ケッ。エスパーめ。腐れエスパーめ。
 主人公は禁断の超能力を人前でチョロっと使ったので(ひよこの雛の高速孵化等)、最愛の妹・ちずるを悪党に攫われてしまう。
 その犯人が、見苦しい小デブ・木下。瞬間移動能力を持つ殺人鬼。幼女を舐めるくらい溺愛している変人キャラ。(そこは良いような気がする。)
 こいつとの対決が第二巻のあらすじ。これが延々続く。いやもう、ビックリするくらい長々と続くんで驚愕。単にデブと対決してるだけなのに。異様に引っ張るんだよ。
 (しかも、最後、木下を取り逃がして終わるし。)
 なんでそんなに長いのか。
 悪党と対決する、正義を名乗る小わっぱどもが、こざかしい理屈を述べたり、友情をしつこく強調したり、秘めた能力を発動させたりしてやがるからだ。
 いつまでも。繰り返し。執拗に。


 そういうマンガが好きかね、諸君?
 飯を忘れて読みたいか、そんなの?

【解説】 

 悪人が超能力を使うのは、よく理解できるのだ、実は。
 私の著しく歪んだ信念によれば、超能力の本質とは悪である。現実に存在したら、えらい迷惑。心は読むは、無賃乗車でどこでも行ってしまうは、挙句「ボクらは人類以上の存在」とか言い出す。面倒臭い。

 超能力者とはすべからく悪に加担する者であり、物語の秩序を破壊する存在である。
 優越思想にまみれた最悪の外道であり、われわれ人類全部の永遠の敵である。

 
 ホラ、どうだ。
 そして、既に御存知の通り、この世に超能力など実は存在しない。人知を越えたパワーが発動し、都市が崩壊するなんてことはない。テロはあっても。地震や台風以上のエネルギーを、しがない一個人が自由に操るなんてのは、誇大妄想狂がでっち上げた超適当なおとぎ話にしか過ぎない。
 スランはいない。ミューもいない。月刊ニュータイプもこの世に存在しない。(今、俺の中で「・・・させるか!!」って声優さんがシャウトした。)

 ソラ、あんたも超能力者なんて、お高くとまった身勝手な奴らをマシンガンで蜂の巣にしてやりたくなってきたろ?それが実際可能になるのがマンガですよ。
 ありえない敵に、ありえないバトル。
 それはそれで全然アリなんだよ。面白いじゃん。舞空術で空を飛んだり、ゴムゴムで手足が伸びたり。そういう無茶はマンガの王道ですからね。一山幾らの超能力バトルはまったくお咎めなし。ガンガンやったんさい。
 私が糾弾したいのは、ありえない能力を前提にありえない悩みを語るやつだ。
 超能力なんか、ないないってだけの話よ。思想的裏づけなんかいらないよ。
 だいたい、人類の進化とかスケールでかい話に、中学生風情がいちいち口を出すなよ。そういうのを小賢しいってんだよ。ガキがピラピラ捲し立てて、宇宙が光って、あぁ面倒臭い。
 俺はこれを“ガンダム感染症”と呼んでいる。あの辺で既に完全におかしくなってたね。
 全面的にあのロボットのデザインも趣味じゃないし、当時から機会あるごとに周囲に警告はばら撒いてきたつもりだが、誰も耳を貸さなかった。こんなチンケな記事で今更幾ら述べ立てても、諸君が改悛することなどあり得ないのは理解しているつもりだ。
 根本的立場の違いってやつですよ。
 お前達の立っている場所に俺はいない。これって、何かに似ている。エスパー?おお、嫌だ。

 私は実際会ったことがないが、現実に超能力を使う奴がいたら、しかもそいつに偉そうに説教垂れられたりしたら、なんか知らん、すげームカつくと思うんだよね。
 スランを排撃する側の気持がよく解りますよ。
 人類の見えない可能性って、あれは若さなんだよ。
 今此処にはない未知の能力。でも、誰もが持ちうるかもしれない普遍性を帯びたパワー。青春の輝き。空っぽかも知れないが、なんかキラキラ眩しい感じ。
 でも俺は、最初っからスランを狩る側の人間だったんですよ。宿命ってやつですかね。そう、スプーンが曲がらなかったあの日から。幻覚とか、幻想は一切合財捨てましたよ。

 さぁ、ゲームの始まりです。
 スラン諸君、逃げてみろ!!

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2012年5月19日 (土)

『悪魔のような女』 ('55、VERA FILMS)

 ヒロインの立派な透け乳首に感動した。

 これは谷崎潤一郎も取り上げているくらい有名なサスペンス映画の古典で、二時間ワイド的にベタ過ぎるどんでん返しがある。正直そこは、今となっては人口に膾炙し過ぎて割りと普通に見えてしまう筈だ。
 あぁ、『シャイニング』の風呂桶ババアの原点はこれか、と妙な感慨は抱くけれど、まぁ、それだけっちゃぁ、それだけのことである。その辺はシネマの好きな人限定で語り合って耄碌して死んでいけばいい。ジジイの囲炉裏話だ。

 という訳で、断言する。
 この映画を忘れ難くしているのは、クライマックス、ネグリジェから透けっぱなしのヒロインの乳首なのである。固そうな台形乳房も含めて。立派である。
 初め目を疑いましたもん。
 クライマックス、殺した筈の旦那が蘇ってきたんじゃないかと、病気で寝ているヒロインがズーッと裸同然の格好で怯え続ける。ベッドの中で。ホント、延々と恐怖に震える描写が続いて、ネグリジェを押し上げてツンと隆起する乳首。

 なんだ、この映画?何を見せたいんだ。

 谷崎は変態だから、どうも悪女役のシモーヌ・シニョレ(短髪、女教師、鞭が似合う系)に手酷く苛め貫かれたい不埒な妄想を抱いていた形跡があるが(実はよく知らない)、男ならここは絶対、ヴェラ・クルーゾーのスケ下着でしょう。そうでない奴は、絶対おかしい。なんか怪しい。
 ま、クルーゾー警部(監督)の奥さんなんですけどね。この人。
 だいたい、製作会社名がVERA FILMSって。警部、ベタ惚れやん。

 しかも、扮装といい体形といい、この人なんかさー、朝岡美嶺に似てるんだよね。ヴェラが。ヴェラちゃんがね。例えが古くて申し訳ないけど、往年のAV女優さんね。エロカワ。エロカワイイいよなー。
 (ちなみに、シモーヌ・シニョレは、清水ミチコに似ている。)

 それにしても、しつこいようだが、こういう映画だとはまったく思わなかった。皆んな、ラストがこわいこわいって馬鹿の一つ覚えのように言うから、ホラーかサスペンスの一種かと勘違いしていたぞ。
 本当に、現物にあたらないと解らないこともあるもんだ。
 どんでん返しについては声高に話すのに、乳首の話をしない奴らの欺瞞。
 
なるほど、これはHDリマスター版も出るワケですわ。必要。充分条件。オールクリア。
 偉いぞ、紀伊国屋書店。このどスケベ。
 この映画は、間違いなく、乳首のお陰で歴史に残ったに違いない。そう確信させる底知れぬパワーに満ち満ちた傑作であります。
 邦題もわかりやすく、『ヴェラちゃんの生下着』にするとよいと思う。

 風呂桶から出てくるゾンビの死体ごっこも含め、エクスプロイテーション映画だと思って見ると、そう見えるから不思議だ。

 

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2012年5月13日 (日)

神田森莉『墓場教室』 ('97、リイド社恐怖の館コミックス)

 「やったッ!ようやくゲットだぜ!」

 古本屋のおやじは久々のガッツポーズを決める。
 TOKYOクソFM。暗黒放送局。『ウンベルケナシの“本気(マジ)でやるのかやられんのか?!”』絶賛生放送中。
 
 トーク相手のスズキくんは、放送中にも関わらず某行政指導の入った携帯ゲームをしている。スタジオに入ってきてから、ずっとだ。

 「・・・なんですか?もう、やめてくださいよ。ボクは現在ガチャに夢中モードです。」

 「きさま・・・!!!」
 久々の登場だというのに、おやじのテンションは全開だ。
 「恥を知れ、恥を飲め!!くぉの、戦後最大の非国民大賞No.1めが・・・!!
 ぬぁーにが、ガチャだ!!ぬぁーにが、ポンだ!!
 俺のわかんねぇ小賢しいツール、次から次へと開発し捲りやがって!!
 許せん!!こうしてくれるわ・・・!!」


 「あー、あー・・・テーブルの上にうんこ、しちゃった。」

 半泣きのスタッフが慌てて飛んで来て、片付けに掛かる。
 さすがのスズキくんも手を止めて、

 「うんこ、本気で臭いですね。強烈に目に来ます。やはり天然物だな。田舎の汲み取りとかを思い出しますよ。」

 「うむ。他人様の一生懸命つくった作品をある時は持ち上げ、ある時は地獄に落とす。これぐらいの度胸がなければ、公共放送なんぞ到底やっとられよ。
 ハッキリ言っときましょう。
 いつでも、排便するぐらいの覚悟はある。」

 「排便の陣ですね。意味ないですけどね。あ、お尻はちゃんと拭いといてくださいね。
 それでは、次のお便りです。
 台東区駒込5丁目のガダルカナル・バカさんから・・・」

 「きさま!!わしの巻頭の振りを無視するなよ・・・!!」
 一転、おやじ、涙目になって懇願する。
 「頼むよ!!その為に、面倒なセッティング色々して、こんな、インチキ放送でっち上げてんだからさ!!でなきゃ、普通に記事書いてますよ!!」

 「メタ・フィクション設定ってことですね。ま、ボクの×リー狂いは本当なんですけどね。
 ・・・それで、なんですか?」

 おやじ、嬉しそうに懐から一冊の単行本を取り出した。

 「ジャーーーン!!
 神田森莉『墓場教室』、発売から15年目にしてようやく入手!!」


 「・・・帰らして貰っていいです?」

 「うんこ、投げるぞ。聞け。
 処女単行本『怪奇カエル姫』から『怪奇ミイラ少女』、超傑作『37564学園』に問題作『少女同盟』。すべて新刊本でリアルタイムで入手してきたこのわしが、唯一、発売当時に買い漏らしていたのが、この『墓場教室』だったのじゃ~!!ヒェーヒェーたたりじゃ~~~!!」

 「相変わらず、センス旧いなァ。
 それも含めて、メジャー発表作はすべて神田先生自ら電子書籍化して販売してませんでしたっけ?」

 おやじ、泣きながら、
 「ククク・・・しかぁーし、ファンとしては、やはりリアル書籍で欲しいのが真情じゃ。わしとて、人の子蛙の子。発売から大分経って気づいて捜しまくったが、これが古書市場では面白いぐらいサッパリ出くわさなくてな!
 もー、笑っちゃうぐらい!」

 ふはは、と歯の無い口が開いた。内部はドス黒い闇。

 「諦めかけていたところ、このゴールデンウィークに偶然行った旅行先(熱海)で手に入ってしまうのじゃから、人生は本当面白い。善哉、善哉。ふられて善哉。」

 座が白けたようだ。

 「では、ここで一曲・・・!」

 「待ったァ!!!」
 

 スズキくんが全力で制止する。

 「あんた、毎度そのパターンで作品内容について語るのをサボって逃げ切っちゃうじゃないですか。今回はカッチリ中味に触れて貰いますよ。
 知らぬ存ぜぬは、許しません。」

 「おぉ、奥崎。わかりました、そこまで言われちゃしょうがない。なんか喋りましょう。十代真剣チョベリ場。
 ・・・それよか、スズキくん、きみ、今回待望の『少女同盟』をようやく読めたワケなんだが、どうだったかな?
 ここには御存知、名作『美々子、神サマになります!!』が収録されておるのだが、あなたのハートに何が残りましたか・・・?」

 「最悪でした。後味悪過ぎ。」

 「本当に・・・?爽やかで、コメディータッチの作品じゃないですか。」

 「どこがじゃ・・・・!!」

 「読者の皆んなが神田先生を大好きなもので、当ブログでは『美々子、神サマになります!!』はいつも超人気記事。ロングセラーでずーっと、アクセスランキング上位を独占暴走中。これは、わしも予想外だったなー。
 個人的には、美々子サマサマですよ!」

 「そんなブログは碌なもんじゃないし、そんな記事を好んで読みたがる奴らは、絶対人間としておかしい。」

 「それは、否定しない。」

 「ところが、嫌過ぎて逆に印象に残っちゃうんですよ。神田先生とか、関よしみとか。強烈過ぎてどうしても無視できない。
 なんだかんだで、ボクも長年読みたかったんですから、美々子。あんたが原書を紛失したもんで、ここまで待たされたんですけど。
 確かに、凄まじい内容でした。それは疑いないです。
 神田先生の嫌さ加減は、天才・山野一に匹敵すると思いますよ、ボカァ。」

 「で・・・待望の新作『墓場教室』なんだがネ。」
 キレイに話が繋がったもので、おやじは汚い乱杭歯を剥き出しにしてニンマリ笑った。
 
 「新作じゃねーだろ・・・」
 スズキくんがおおきな小声で呟くのを軽く無視して、

 「従来の作品に比べて、画期的な要素がひとつあるんだ。
 主人公が発狂もするし、全身ズタズタに切り刻まれるし、顔面の皮膚がペロンと剥けたりはするが、最後まで死なない。
 さらに、神田マンガとしては到底在り得ない話だが、主人公ばかりか、主人公のボーイフレンドも、生首になったり串刺しになったりはしないのだ!

 ・・・もちろん、ママもだ!」
 
 「ひょえぇぇぇーーーッッッ!!!」

 楳図マンガ(ギャグ寄り系)に御馴染みのポーズで、思い切りのけぞるスズキくん。

 「それは・・・もしや、普通のマンガを意識した展開・・・?」

 おやじ、軽やかに手を振って、
 「それはないな。相変わらずアンピュティーなグロネタばかりだから。無意味な殺人と人体破壊が連続する、完全に狂い果てたシロモノである。一般人に見せたら神経を疑われること間違いないな!」
 カカカ、と笑った。 
 「損得、利害、色恋沙汰・・・同じ人間の暗黒衝動を扱っても、首をスポスポ飛ばしたり、目玉をグニュッと踏みつけて潰したりしてはいかんのだな!世間の同情は引けないんだよ、それでは。最高の反面教師。殺人衝動を持て余してる人は、勉強になりますよ。」

 スズキくん、「それはアンタだろ!」と呟きつつ、

 「神田先生は、異常事態に対する割り切方りがストレート。なんか、凄い思い切りがいいんですよ。殺るときは、殺る。ためらいがないところに異常な笑いが生まれるんじゃないですか。ボクは、ちょっと抵抗ありますけどね。」

 「・・・ここは、東京にあるマンモス校、仲良中学・・・近くの中学と合併になったため、墓地を潰して新しい校舎を建てた・・・。
 以来、その教室には悪い噂が絶えない。
 1年13組の生徒にはなぜか必ず不幸が襲い掛かり、卒業までに大半の生徒が死んでしまうという・・・。」


 「くせー、うそくせー・・・!」

 「これが物語の冒頭だが、いいね!ハッタリ臭くてクラクラするね!
 申し上げるまでもないが、この噂は100%真実で、次から次へとありえないレベルの悲劇が襲い掛かり生徒達は続々と死んでいくんだよ。
 一種のオカルト物だよ。面倒な宗教抜きの。
 呪いの階段を数えたばかりに、上空を飛んでいたジェット戦闘機が墜落し舳先の捷角に腹を突き刺されて死んだ女生徒がいたのには驚いた。
 例の、『オーメン』の板硝子で首チョンパが発想の原点だと思うんだが、こういう豪快で派手かつ無意味な死に様って格好いいね!男子は全員憧れるね!萌え萌えだね!」

 「あの・・・世代が違うんでよく知らないんですが、板硝子で首チョンパって一体・・・?」

 「工務店の男が、現場に止めたトラックのサイドブレーキを引き忘れるんだよ。坂道なので車は徐々に滑り出し、向かいのブティックに激突!
 ショックで荷台に積んでいた板ガラスが滑り落ち、驚くおやじの首を刎ねる!!」


 「うーーむ・・・」

 「さらに、刎ねた首が板硝子の上をゴロゴロ転がり、地面に落ちる!」

 「・・・・・・。」

 「あと、突然の暴風雨にやられて教会に下に逃げ込んだ神父が、落雷一発、折れた尖塔の鉄棒に豪快に人体串刺しにされる!
 これはな、鉄棒が異様に長いところがカッコいいんだよ!」


 「映画では、いろんなデタラメがあったんですね・・・。」

 「ドラキュラが会社の社長だってのもあったな。社員の血をガブッと吸う。」

 「問題になりますね。」

 「要は、どれもこれも、無用なためらいがない。さっき、きみが指摘したとおり。怪奇一直線というか、猫まっしぐらというか。大胆且つピュアな発想、ストレート過ぎる行動。リアクション。
 神田先生のマンガでだって、ノコギリで太腿を荒挽きされた女生徒は、そりゃ「痛い!痛い!痛すぎるぅぅ~!!」って叫びますよ。このへん、元祖はやっぱり、『悪魔のいけにえ』なんだろうな。
 突然の異常事態に投げ込まれた人間のリアクションは、思いのほかノーマル。常識的で普通なの。そのギャップが異様におかしい。
 『いけにえ』で言えば、
 気絶して、目覚めると人喰い一家の食卓にご招待されちゃってる。
 しかも、その後、ご丁寧にジジイがとんかち持って頭を殴りに来る。」

 
「むむ・・・。」

 「当人にしてみりゃたまったもんじゃない事態だろうが、傍から見てると死ぬほど可笑しい。映画ってのは、見世物だからね。
 しかも、劇映画だからこれは笑って観られるんだ。P.O.V.(※主観視点映像)とかじゃこのテイストは難しい。客の視点がカメラに寄り添っちゃうからね。客が痛がっちゃう。」

 ※      ※      ※

 「あの・・・・・・。」

 「うん?」

 「いま、この続きを二時間くらいかけて書いたデータが飛びましたね?」

 「・・・うん。死ぬわ、もう。」


 
(つづく)

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2012年5月 8日 (火)

伊藤潤二『富江(全)』 ('87~99、朝日ソノラマ)

 潤二先生のデビュー作にして、今日まで描き継がれ、度重なる映画化によって我が国を代表するホラーアイコンの地位すら獲得したかに見える富江。

 いまさら基本設定を説明する必要などないだろうから、さっさと話を始めるが、シリーズに属する中短編13本を一巻に纏めたこのエディションを紐解いてみると、ちょっとした発見があったりする。こういうのが楽しい。再版天国も捨てたものではない。
 旧・新書版の潤二短編集では長い年月に渡って描き継がれてきたシリーズだから、バラバラに収録されていて全体像が掴みにくいのだ。連続して読むことは、新たな読書の経験である。
 以下私の発見を列記してみる。

1) 初期の『富江』は連作長編の構想を持っていた。

 潤二先生が楳図賞を獲ったデビュー短編「富江」は、大友『ショート・ピース』『ハイウェイ・スター』を連想させるペンタッチと(※1)、エキセントリックかつ独創的だがまだまだ不安定な画面構成、それに既にこの時点で垣間見れる独自のギャグ感覚(私は画面の隅に貼られた「シャレにならないラーメン」のポスターで吹いた)などなど、多彩な要素を盛り込んだ、好事家にはたまらない逸品である。
 (※1・美少女描写に江口寿史を参照した形跡が感じられる。具体的には制服とカチューシャ。アップでの顔パーツの省略など。)
 物語的には、エンディングが次回作「富江PART2」に直結している。2作目で新たな富江が発見される場所は海岸だ。一作目の終わり、海辺に遺棄された心臓から再生しつつあった富江こそ、二作目の主役である事実が明確に提示されている。
 この時点ではまだ作者は、いったん死んでは再生する富江という存在を一本の時間軸で括って扱っていこうなどと考えていたのかも知れない。あたかも“富江サーガ”みたいに。
 しかしそれも、やがて設定が膨らんで無数の富江が誕生し物語内を縦横無尽に闊歩するようになるに及んでは、捨て去らざるを得なくなった。
 もともと富江というキャラクターの内包する性格が、
 「いい加減」「嘘つき」「決して死なない」
 
であるのだからして、初めと終わりがあるような、ちゃんと完結する物語にはまったく向かなかったのは言うまでもない。
 なにしろ、富江という生物は、増殖する以外、確たる生存の目的が何も無い。
 さらに切られた髪の毛の一本からでも再生可能(!)というのだから、増殖するのに他者の力を借りる必要すら無いのだ。単性生殖。人間というより菌やバクテリアに余程近い。
 ひたすら嫌がらせのようにどんどん数を増し、あなたを不愉快にしようと津波の如く押し寄せて来る。そういう困ったタイプの生き物だ。

2) 富江は、思った以上に沢山いるぞ。

 もう少し、細かく見てみよう。富江は何名いるのか。

 第一作に於いて登場する川上富江は、語り手・礼子の幼馴染みである。地学の実習で行った稲荷神社の裏山で不慮の事故に遭い、突然の転落死を遂げる(正確にはまだ息があるが狂った連中に殺されてしまう)。さらに奇妙なことに、引率した教師・高木(富江と肉体関係があることが台詞で語られる)に先導され、クラスの男子一同、パンイチになってノコギリ片手に遺体の解体作業に全員参加。教師はバラバラになった肉片を生徒ひとりづつに手渡し、町中に捨てるよう指示を出す。
 ここで明らかになる基本設定が、「富江は魔的な美貌の持ち主であり、それに惹かれた男は皆、彼女を殺してバラバラに切り刻みたい衝動に駆られる」というもの。
 それだけでは女生徒たちがどういう心境でこの事業に参加したのか説明不可能だが、ヒントは「同性の友人は、幼馴染みの礼子以外いなかった」という事実。先天的な嘘つきで、異性に媚びる彼女の存在が疎まれていたことだけは間違いない。嫌われ者に対するいじめ心理が嗜虐性を剥き出しにしたのか。それにしても、極端過ぎる。

 結局異常な事件の全ては、富江の魔性に帰結するしかない。
 これは連作全体に共通するモチーフだ。登場人物にどんな異常な衝動が働いても、そこには人知を越えた化け物である富江が介在している。常人の理解を絶する不可解な現象・行動が起こっても不思議はない。そもそも彼女はこの世のものでないのだから。
 潤二先生の超自然に対する信仰は、最初から一貫して深い。

 バラバラにされ確かに死んだ筈の富江だったが、驚異的な再生能力により、翌日何事もなかったかのように登校してくる。(ここで私は、唐突に、この物語が“♪死んだ筈だよ、お富さん~”に触発されたものであることに気づく。)
 巻頭では死から復活した富江は一名のように見えるが、実はそうではない。切られた肉片のそれぞれが大小で再生速度に違いは出るが、新たな富江として復活して来るのである。
 クラスの人数分切り分けられた遺体は全部で42個。最低でも一作目の時点で、物語には最低でも42人の富江が同時に存在している計算になる。

 新たな富江の到来を受けて開始される第二作「富江PART2」は、森田病院を舞台にした三尾雪子受難の物語。腎臓を悪くして入院している三尾は、臓器提供により健康を回復するが、体内に移植されたのは富江の器官だった。ギャー。腎臓は体内で異様な成長を遂げ、腹腔に原寸大の富江の頭部が出来上がる。
 今回富江の魔性に取り憑かれ惨殺死体にしてしまうのは、三尾の恋人・正。のちの『うずまき』に出てくる斎藤くんの原型キャラだ。もともと自制心の強い設定なので、業務用の大型カッターでメッタ刺しにする程度。ホッ。唇とかX字に斬れてますけど。これなら増えない。
 さらに、その遺体から臓器を摘出する許可を出すのは、父親を名乗る怪しい男。実は一作目で入れられた精神病院を脱走してきた教師・高木。これより、吸血鬼の従者(レンフィールド)役として、富江の行く先々に顔を出すことになる。高木は丸尾末広へのオマージュ色が濃いキャラで、白眼を剥いた狂気の美青年として、自分で放火した火事現場で煙草を咥えて突っ立っていたりするあたりの姿がイカす。
 直接的な続編である第三作「地下室」では、三尾雪子の体内で育った富江の頭部が完全体に成長、腎臓部分も短い頭部や手足を生やして怪物化。さらに富江の組織の影響を受けた三尾自身も変貌し、最終的に新たな富江に生まれ変わる。
 ここでの富江は、表面的には三人。だが臓器提供後に処分されたであろう遺体のその後は不明。必ず蘇ってくるだろうから、実は4人の富江を数えることが可能だ。

 第一作から三作目までをひと繋がりとすると、次の第四作「写真」から第五作「接吻」、第六作「屋敷」までが同じく一個の物語、新たな連環として考えられる。しかも最初の三作よりも各話の関連性は一層緊密で、実質は分割された長編作品と見てよい。
 これは写真部の泉沢月子さんが高校一のイケメン山崎先輩に憧れる物語だ。富江は生徒会長として忠実な手下二名を率き連れて登場。自動車まで乗り廻す。(果たして免許を持っているのかは不明。)山崎先輩は富江の魔性に魅入られ、なんとか逃亡しようとするが、最終的には無数の増殖した富江の大群に捉まり飲み込まれてしまう。

 登場する富江を数えてみよう。
 まず、教師・高木を伴い嵐の夜に屋敷を訪れる富江が第1号。高木の研究によると、「精神的な動揺が引き金となり」彼女は“分裂”という現象を引き起こす。頭部から腫瘍のように別の頭が生えてくるのだ。新たに生えた頭は刈り取り、強酸に浸けて成長を抑え実験材料にしている。酸を満たした水槽に浮いている頭部は二個。これは絵的な都合もあろうから、どこかにもっと大量にストックされている可能性がある。富江は異様にプライドが高い(「バケモノ!」と言われると直ぐキレる)ので、“分裂”は頻繁に起こっているものと推測される。
 現に泉沢月子の自宅マンションに侵入した富江は、月子に罵られ、たちまち髪の下からメキメキともう一個の頭部を生やし始める。

 「このデキモノを切り取って!今すぐ切り取ってよ!」
 

 部下に命じて切らせようとするも、間抜けな部下達はデキモノではなく、富江自身の首を切ってしまう。

 「・・・なんで、あたしの首を切るのよ!」

 切られた首はなおも口を利き罵倒し続けるが、部下は頭を掻きながら、

 「デキモノを切ろうとすると、“コッチじゃない、別の首を切るのよ!”って言うもんで・・・」

 もはや、コント状態の大騒ぎ。
 切られた首を持って部下達は(おそらく屋敷方面へ)立ち去り、首の無い胴体は切断面から異様な顔を生やして踊りながら立ち上がる。乱闘で床に染み込んだ大量の血液も生きており(この辺は『遊星からの物体X』からの連想だろう)、敷かれたビニールシートを皮膚の代用にして生き返ろうとする。
 だんだん、まともに勘定するのが面倒になってくる増えかたをしているが、最終的にはゴミ捨て場に遺棄されたビニールシートから木の芽のように28名の富江が一斉に孵化する(※2)のであるからして、この第五作目、同時に出現した個体数としてはシリーズ新記録を更新している可能性が非常に高い。
 (※2・一番沢山映っているコマを馬鹿正直に数えてみた。だから最低でも28名という勘定になる。絶対数はもっといる。)
 「だからどうした?」と言う素直な人に、この重要性を的確に伝えられないのが誠に残念である。だって明らかに面白いじゃないか。 

3) 第六作「屋敷」は非常に重要な作品だ。

 ここまで見てきてお解りの通り、富江の増殖が物語を混乱させる主たる要因となっていることは否めないが、それによる支離滅裂さが極限に達するのが第六作「屋敷」である。
 ではこれが失敗作かというと、そうではないのだ。
 毎回破天荒な設定をきれいにスマートに纏める実力のある潤二先生にしては珍しいくらい、この話は主軸が捻じ曲がっていて、実のところ何がなんだかサッパリ解らない。まだ安定しているとは言い難い当時の描線と相俟って、初読の私は大いにまごついたものだ。
 
 物語は、富江と高木がとある資産家の屋敷を乗っ取り、研究三昧の暮らしを送っているところへ泉沢月子が連れ込まれて始まる。月子は、富江の正体をカメラに収め全校にばら撒いた為に恨みを買い、拉致されて来たのだ。
 高木は富江の身体組織の秘密を解明すると称し屋敷の娘に富江の体液を注射したりして遊んでいる。当然ながら、哀れ、娘は怪物と化し二階の一室に閉じ込められている。
 月子にも実験台になって欲しいと頼む高木。

 「たしかに富江の体液や、その他あやしげな薬品をきみに注射するのだが・・・」
 

 屋敷の主人に化けている高木はニッコリ笑う。

 「しかし、何事もチャレンジじゃ!」

 なにが、だ。
 二階へ逃亡した月子を追うよう、階段下に据えられた西洋騎士の鎧人形に指示を出す富江。すると、鎧が動き出す。剣を振り上げドッチャラドッチャラ階段を登って来る。
 既にして意味が解らない展開だが、追い詰められた月子の抵抗で仮面が跳ね飛ぶと、その下にあるのは富江の手下の太地くんの顔だった。こいつ、ずっと騎士の鎧を被って出番を待っていやがったのか。

 「なぜ・・・?!
 なぜなの、太地くん・・・?」

 本当に、なんでだ。
 絶対絶命のピンチに、背後のドアのロックが解けて屋敷の娘が変異した怪物が姿を現す。
 この怪物、なんでか胴体が巨大な昆虫。蜂や蟻の腹部みたいな蛇腹構造の伸び縮みする胴回りに15、6体の富江の頭が大小問わずビッシリ生えております。身の丈も異様にデカくて、立ち上がると2メートル以上はある。
 そんな意味不明の怪獣に、太地くんはメリメリ押し潰されて死亡。勢いづいた怪物はウニョウニョ階段まで這って来て、高木を捕らえて首を締める。悲鳴を上げる富江。
 男連中全滅の場面で、なんだか解らなくなった月子が夢中で持っていたカメラのシャッターを切ると、途端物語は終わってしまった。巨大昆虫の正体、屋敷の娘の悲しげな顔をフィルムに焼き付けて。

 これだけ読むとなんだか解らず、説明不足の唐突さに失敗作呼ばわりしたくなるのであるが、潤二先生がやりたかったのは要はこういうことなのだと、後に「押切」シリーズを読んで疑問が氷解した気がした。
 脈絡なく襲う異次元からの恐怖。一種のコズミックホラーだ。

 両親が海外に赴任しているので、暗くて旧い巨大な洋館に独り住んでいる押切くんは、チビで引っ込み思案な美少年。彼の住む館は異次元空間に繋がっているらしく、原因不明の怪異が次々と襲い掛かる。親戚のお兄さんの遺体が5メートルに伸びて地中に埋まっていたり、異次元に住むもうひとりの自分が殺人狂で闘ったり、クラスメイトが謎の注射で怪物化したり、居もしない架空の文通相手にブチ殺される奴が出たり。
 異常なイメージ。
 それを羅列するだけで、充分恐怖マンガは作り出せるのではないか。物語構築に長けた潤二先生だからこそ出来る離れ業。ここでは恐怖の生まれる原因や社会的な位置付けは意図的に分断され、不可解であるが故の恐怖というものを描写すべく全力が傾けられている。傑作短編「道のない町」や「超自然転校生」も同様の思考の産物だ。

 分裂し、幾度も産まれて来る富江という存在は、それだけで物語の順当な流れを破壊してしまう存在である。
 第七作以降、連作形式を放棄し独立した短編のみのシリーズとなっていく『富江』には、おそらく潤二先生の物語作家としての方向転換が大きく作用しているのではないかと思われる。

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2012年5月 3日 (木)

『ランゴ』 ('11、パラマウント)

 店頭でこの映画の設定画集を立ち読みし、即「これは絶対好きかも」と思って、観たい観たいと朝昼晩も唱えていたら、ようやく念願かなって観ることが出来た。

 デザイン画の何が良かったかというと、小汚くて気持ち悪い小動物たちが可愛くデフォルメされることなく、中世の諷刺画風にカリカチュアライズされ、さらに薄汚れて気色悪く濃く描かれていたところである。
 ピクサーの諸作は勿論観ているし、『Mr.インクレディブル』と『ウォーリー』は手放しに賛辞を贈るに吝かでないのだが、基本ピクサーのアニメってツルツルじゃないですか。昆虫の世界という気色悪い題材を扱った『バグズ・ライフ』ですら、そうなのである。 
 この点で、『ランゴ』はある程度満足のいく成果を出してくれた。
 ダンゴムシの再現具合なんて、笑っちゃうぐらいリアルだし。貧乏臭いビジュアルを再現する為に莫大なハリウッド・マネーを使うってのは、かなり倒錯した贅沢趣味だ。有り難いことである。

 お話は、まァなんつーか、メル・ブルックスの『ブレイジング・サドル』から『サボテン・ブラザース』まで、使い古された履古しのソックスみたいな悪臭漂うもんなんだけど、ま、いいじゃない。『モンスターVS.エイリアン』の時も思ったが、これ、絶対同じ学年に居た奴が造ってるなー。
 「夜空の星を見上げるとき、俺を思い出せ」って、マッドマックスの台詞だし。
 ロス・ロボスの手掛けた、モリコーネ風のいかにもな主題歌がやたら景気よくてノリノリ。当面これを歌って頑張ろう。

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