川野ゆーへー『スリラー②』 ('98、秋田少年チャンピオン・コミックス)
まず、重要なポイント。このマンガはまったく面白くないので、そのつもりで。
調べたところ、3巻まで刊行され掲載誌が移転になったか打ち切られたかして、物語は中途で途絶したようだ。当然だろう。面倒なだけで、まったく面白くないのだから。
だが、この作品がどう面白くないのか語ることで、超能力バトルマンガが根本的に孕むくだらなさを浮かび上がらせることが出来るように思う。繰り返す。面倒だが。
お陰様でこの記事は全面改稿、二度書きになってしまったくらいだ。勘弁してくれ。俺は忙しいんだ。母の日が終わったら、今度は父の日のギフトを選ばなくてはならないんだ。
超能力バトルマンガを大好きな、善良な諸君にまずは一言。
お前ら、随分くだらねぇものを読んでやがるな!
【あらすじ】
近未来の日本。核戦争だか地震だか原発事故だか細菌ウォーズだか知らんが、都市は廃墟と化し、法と秩序は失われ、暴力が支配する無政府状態となっている。
この世界を支配するのは、通称“エキスポ”と呼ばれる超能力者ども。見下げ果てたクソ野郎の集団だ。
クズはクズらしく大人しくしていればいいものを、この世界ではそんな超能力者どもがあろうことか一致団結。自分達が住むユートピアのような都市を築き上げて、周りの皆んなを制圧、搾取して生活している。超能力で人間殺し放題。飲み放題に喰い放題。犯し放題。
(・・・ホラ、段々あんたにも俺の怒りが感染してくるぜ。)
さらに、だ。
本巻内では解明されない謎設定として、こいつら、自分達以外の超能力予備軍を異常に警戒していて、超能力を発動しそうなガキがいると、その肉親を人質に攫って来ちゃうの。
なんで、わざわざそんな面倒な真似をする必要があるのか。
逆らうなら殺しちまえばいいだけの話ではないのか。
物語が出来の悪さに打ち切られたため、その理由は一度もちゃんと説明されていないと思われるが、ま、すべては超能力仲間に引き込む為だろ。ケッ。エスパーめ。腐れエスパーめ。
主人公は禁断の超能力を人前でチョロっと使ったので(ひよこの雛の高速孵化等)、最愛の妹・ちずるを悪党に攫われてしまう。
その犯人が、見苦しい小デブ・木下。瞬間移動能力を持つ殺人鬼。幼女を舐めるくらい溺愛している変人キャラ。(そこは良いような気がする。)
こいつとの対決が第二巻のあらすじ。これが延々続く。いやもう、ビックリするくらい長々と続くんで驚愕。単にデブと対決してるだけなのに。異様に引っ張るんだよ。
(しかも、最後、木下を取り逃がして終わるし。)
なんでそんなに長いのか。
悪党と対決する、正義を名乗る小わっぱどもが、こざかしい理屈を述べたり、友情をしつこく強調したり、秘めた能力を発動させたりしてやがるからだ。
いつまでも。繰り返し。執拗に。
そういうマンガが好きかね、諸君?
飯を忘れて読みたいか、そんなの?
【解説】
悪人が超能力を使うのは、よく理解できるのだ、実は。
私の著しく歪んだ信念によれば、超能力の本質とは悪である。現実に存在したら、えらい迷惑。心は読むは、無賃乗車でどこでも行ってしまうは、挙句「ボクらは人類以上の存在」とか言い出す。面倒臭い。
超能力者とはすべからく悪に加担する者であり、物語の秩序を破壊する存在である。
優越思想にまみれた最悪の外道であり、われわれ人類全部の永遠の敵である。
ホラ、どうだ。
そして、既に御存知の通り、この世に超能力など実は存在しない。人知を越えたパワーが発動し、都市が崩壊するなんてことはない。テロはあっても。地震や台風以上のエネルギーを、しがない一個人が自由に操るなんてのは、誇大妄想狂がでっち上げた超適当なおとぎ話にしか過ぎない。
スランはいない。ミューもいない。月刊ニュータイプもこの世に存在しない。(今、俺の中で「・・・させるか!!」って声優さんがシャウトした。)
ソラ、あんたも超能力者なんて、お高くとまった身勝手な奴らをマシンガンで蜂の巣にしてやりたくなってきたろ?それが実際可能になるのがマンガですよ。
ありえない敵に、ありえないバトル。
それはそれで全然アリなんだよ。面白いじゃん。舞空術で空を飛んだり、ゴムゴムで手足が伸びたり。そういう無茶はマンガの王道ですからね。一山幾らの超能力バトルはまったくお咎めなし。ガンガンやったんさい。
私が糾弾したいのは、ありえない能力を前提にありえない悩みを語るやつだ。
超能力なんか、ないないってだけの話よ。思想的裏づけなんかいらないよ。
だいたい、人類の進化とかスケールでかい話に、中学生風情がいちいち口を出すなよ。そういうのを小賢しいってんだよ。ガキがピラピラ捲し立てて、宇宙が光って、あぁ面倒臭い。
俺はこれを“ガンダム感染症”と呼んでいる。あの辺で既に完全におかしくなってたね。
全面的にあのロボットのデザインも趣味じゃないし、当時から機会あるごとに周囲に警告はばら撒いてきたつもりだが、誰も耳を貸さなかった。こんなチンケな記事で今更幾ら述べ立てても、諸君が改悛することなどあり得ないのは理解しているつもりだ。
根本的立場の違いってやつですよ。
お前達の立っている場所に俺はいない。これって、何かに似ている。エスパー?おお、嫌だ。
私は実際会ったことがないが、現実に超能力を使う奴がいたら、しかもそいつに偉そうに説教垂れられたりしたら、なんか知らん、すげームカつくと思うんだよね。
スランを排撃する側の気持がよく解りますよ。
人類の見えない可能性って、あれは若さなんだよ。
今此処にはない未知の能力。でも、誰もが持ちうるかもしれない普遍性を帯びたパワー。青春の輝き。空っぽかも知れないが、なんかキラキラ眩しい感じ。
でも俺は、最初っからスランを狩る側の人間だったんですよ。宿命ってやつですかね。そう、スプーンが曲がらなかったあの日から。幻覚とか、幻想は一切合財捨てましたよ。
さぁ、ゲームの始まりです。
スラン諸君、逃げてみろ!!
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