神田森莉『墓場教室』 ('97、リイド社恐怖の館コミックス)
「やったッ!ようやくゲットだぜ!」
古本屋のおやじは久々のガッツポーズを決める。
TOKYOクソFM。暗黒放送局。『ウンベルケナシの“本気(マジ)でやるのかやられんのか?!”』絶賛生放送中。
トーク相手のスズキくんは、放送中にも関わらず某行政指導の入った携帯ゲームをしている。スタジオに入ってきてから、ずっとだ。
「・・・なんですか?もう、やめてくださいよ。ボクは現在ガチャに夢中モードです。」
「きさま・・・!!!」
久々の登場だというのに、おやじのテンションは全開だ。
「恥を知れ、恥を飲め!!くぉの、戦後最大の非国民大賞No.1めが・・・!!
ぬぁーにが、ガチャだ!!ぬぁーにが、ポンだ!!
俺のわかんねぇ小賢しいツール、次から次へと開発し捲りやがって!!
許せん!!こうしてくれるわ・・・!!」
「あー、あー・・・テーブルの上にうんこ、しちゃった。」
半泣きのスタッフが慌てて飛んで来て、片付けに掛かる。
さすがのスズキくんも手を止めて、
「うんこ、本気で臭いですね。強烈に目に来ます。やはり天然物だな。田舎の汲み取りとかを思い出しますよ。」
「うむ。他人様の一生懸命つくった作品をある時は持ち上げ、ある時は地獄に落とす。これぐらいの度胸がなければ、公共放送なんぞ到底やっとられよ。
ハッキリ言っときましょう。
いつでも、排便するぐらいの覚悟はある。」
「排便の陣ですね。意味ないですけどね。あ、お尻はちゃんと拭いといてくださいね。
それでは、次のお便りです。
台東区駒込5丁目のガダルカナル・バカさんから・・・」
「きさま!!わしの巻頭の振りを無視するなよ・・・!!」
一転、おやじ、涙目になって懇願する。
「頼むよ!!その為に、面倒なセッティング色々して、こんな、インチキ放送でっち上げてんだからさ!!でなきゃ、普通に記事書いてますよ!!」
「メタ・フィクション設定ってことですね。ま、ボクの×リー狂いは本当なんですけどね。
・・・それで、なんですか?」
おやじ、嬉しそうに懐から一冊の単行本を取り出した。
「ジャーーーン!!
神田森莉『墓場教室』、発売から15年目にしてようやく入手!!」
「・・・帰らして貰っていいです?」
「うんこ、投げるぞ。聞け。
処女単行本『怪奇カエル姫』から『怪奇ミイラ少女』、超傑作『37564学園』に問題作『少女同盟』。すべて新刊本でリアルタイムで入手してきたこのわしが、唯一、発売当時に買い漏らしていたのが、この『墓場教室』だったのじゃ~!!ヒェーヒェーたたりじゃ~~~!!」
「相変わらず、センス旧いなァ。
それも含めて、メジャー発表作はすべて神田先生自ら電子書籍化して販売してませんでしたっけ?」
おやじ、泣きながら、
「ククク・・・しかぁーし、ファンとしては、やはりリアル書籍で欲しいのが真情じゃ。わしとて、人の子蛙の子。発売から大分経って気づいて捜しまくったが、これが古書市場では面白いぐらいサッパリ出くわさなくてな!
もー、笑っちゃうぐらい!」
ふはは、と歯の無い口が開いた。内部はドス黒い闇。
「諦めかけていたところ、このゴールデンウィークに偶然行った旅行先(熱海)で手に入ってしまうのじゃから、人生は本当面白い。善哉、善哉。ふられて善哉。」
座が白けたようだ。
「では、ここで一曲・・・!」
「待ったァ!!!」
スズキくんが全力で制止する。
「あんた、毎度そのパターンで作品内容について語るのをサボって逃げ切っちゃうじゃないですか。今回はカッチリ中味に触れて貰いますよ。
知らぬ存ぜぬは、許しません。」
「おぉ、奥崎。わかりました、そこまで言われちゃしょうがない。なんか喋りましょう。十代真剣チョベリ場。
・・・それよか、スズキくん、きみ、今回待望の『少女同盟』をようやく読めたワケなんだが、どうだったかな?
ここには御存知、名作『美々子、神サマになります!!』が収録されておるのだが、あなたのハートに何が残りましたか・・・?」
「最悪でした。後味悪過ぎ。」
「本当に・・・?爽やかで、コメディータッチの作品じゃないですか。」
「どこがじゃ・・・・!!」
「読者の皆んなが神田先生を大好きなもので、当ブログでは『美々子、神サマになります!!』はいつも超人気記事。ロングセラーでずーっと、アクセスランキング上位を独占暴走中。これは、わしも予想外だったなー。
個人的には、美々子サマサマですよ!」
「そんなブログは碌なもんじゃないし、そんな記事を好んで読みたがる奴らは、絶対人間としておかしい。」
「それは、否定しない。」
「ところが、嫌過ぎて逆に印象に残っちゃうんですよ。神田先生とか、関よしみとか。強烈過ぎてどうしても無視できない。
なんだかんだで、ボクも長年読みたかったんですから、美々子。あんたが原書を紛失したもんで、ここまで待たされたんですけど。
確かに、凄まじい内容でした。それは疑いないです。
神田先生の嫌さ加減は、天才・山野一に匹敵すると思いますよ、ボカァ。」
「で・・・待望の新作『墓場教室』なんだがネ。」
キレイに話が繋がったもので、おやじは汚い乱杭歯を剥き出しにしてニンマリ笑った。
「新作じゃねーだろ・・・」
スズキくんがおおきな小声で呟くのを軽く無視して、
「従来の作品に比べて、画期的な要素がひとつあるんだ。
主人公が発狂もするし、全身ズタズタに切り刻まれるし、顔面の皮膚がペロンと剥けたりはするが、最後まで死なない。
さらに、神田マンガとしては到底在り得ない話だが、主人公ばかりか、主人公のボーイフレンドも、生首になったり串刺しになったりはしないのだ!
・・・もちろん、ママもだ!」
「ひょえぇぇぇーーーッッッ!!!」
楳図マンガ(ギャグ寄り系)に御馴染みのポーズで、思い切りのけぞるスズキくん。
「それは・・・もしや、普通のマンガを意識した展開・・・?」
おやじ、軽やかに手を振って、
「それはないな。相変わらずアンピュティーなグロネタばかりだから。無意味な殺人と人体破壊が連続する、完全に狂い果てたシロモノである。一般人に見せたら神経を疑われること間違いないな!」
カカカ、と笑った。
「損得、利害、色恋沙汰・・・同じ人間の暗黒衝動を扱っても、首をスポスポ飛ばしたり、目玉をグニュッと踏みつけて潰したりしてはいかんのだな!世間の同情は引けないんだよ、それでは。最高の反面教師。殺人衝動を持て余してる人は、勉強になりますよ。」
スズキくん、「それはアンタだろ!」と呟きつつ、
「神田先生は、異常事態に対する割り切方りがストレート。なんか、凄い思い切りがいいんですよ。殺るときは、殺る。ためらいがないところに異常な笑いが生まれるんじゃないですか。ボクは、ちょっと抵抗ありますけどね。」
「・・・ここは、東京にあるマンモス校、仲良中学・・・近くの中学と合併になったため、墓地を潰して新しい校舎を建てた・・・。
以来、その教室には悪い噂が絶えない。
1年13組の生徒にはなぜか必ず不幸が襲い掛かり、卒業までに大半の生徒が死んでしまうという・・・。」
「くせー、うそくせー・・・!」
「これが物語の冒頭だが、いいね!ハッタリ臭くてクラクラするね!
申し上げるまでもないが、この噂は100%真実で、次から次へとありえないレベルの悲劇が襲い掛かり生徒達は続々と死んでいくんだよ。
一種のオカルト物だよ。面倒な宗教抜きの。
呪いの階段を数えたばかりに、上空を飛んでいたジェット戦闘機が墜落し舳先の捷角に腹を突き刺されて死んだ女生徒がいたのには驚いた。
例の、『オーメン』の板硝子で首チョンパが発想の原点だと思うんだが、こういう豪快で派手かつ無意味な死に様って格好いいね!男子は全員憧れるね!萌え萌えだね!」
「あの・・・世代が違うんでよく知らないんですが、板硝子で首チョンパって一体・・・?」
「工務店の男が、現場に止めたトラックのサイドブレーキを引き忘れるんだよ。坂道なので車は徐々に滑り出し、向かいのブティックに激突!
ショックで荷台に積んでいた板ガラスが滑り落ち、驚くおやじの首を刎ねる!!」
「うーーむ・・・」
「さらに、刎ねた首が板硝子の上をゴロゴロ転がり、地面に落ちる!」
「・・・・・・。」
「あと、突然の暴風雨にやられて教会に下に逃げ込んだ神父が、落雷一発、折れた尖塔の鉄棒に豪快に人体串刺しにされる!
これはな、鉄棒が異様に長いところがカッコいいんだよ!」
「映画では、いろんなデタラメがあったんですね・・・。」
「ドラキュラが会社の社長だってのもあったな。社員の血をガブッと吸う。」
「問題になりますね。」
「要は、どれもこれも、無用なためらいがない。さっき、きみが指摘したとおり。怪奇一直線というか、猫まっしぐらというか。大胆且つピュアな発想、ストレート過ぎる行動。リアクション。
神田先生のマンガでだって、ノコギリで太腿を荒挽きされた女生徒は、そりゃ「痛い!痛い!痛すぎるぅぅ~!!」って叫びますよ。このへん、元祖はやっぱり、『悪魔のいけにえ』なんだろうな。
突然の異常事態に投げ込まれた人間のリアクションは、思いのほかノーマル。常識的で普通なの。そのギャップが異様におかしい。
『いけにえ』で言えば、
気絶して、目覚めると人喰い一家の食卓にご招待されちゃってる。
しかも、その後、ご丁寧にジジイがとんかち持って頭を殴りに来る。」
「むむ・・・。」
「当人にしてみりゃたまったもんじゃない事態だろうが、傍から見てると死ぬほど可笑しい。映画ってのは、見世物だからね。
しかも、劇映画だからこれは笑って観られるんだ。P.O.V.(※主観視点映像)とかじゃこのテイストは難しい。客の視点がカメラに寄り添っちゃうからね。客が痛がっちゃう。」
※ ※ ※
「あの・・・・・・。」
「うん?」
「いま、この続きを二時間くらいかけて書いたデータが飛びましたね?」
「・・・うん。死ぬわ、もう。」
(つづく)
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