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2012年5月27日 (日)

『昆虫大戦争』 ('68、松竹)

 立派な映画ではないが、最高である。

 この映画を作った連中が原水爆実験や戦争を真剣に憎んでいたことは疑いない。だが、それがどうしたといわんばかりの呑気さが全体に漂っているのも事実である。
 どうにも言い訳の利かない間抜けな感じ。
 無謀な国際キャストの起用もそうだし、彼らが日本語吹き替えで喋る(日本人キャストも含め全編アフレコ)状況もアホらしさに拍車を掛けている。
 特に水野晴郎と坂上二郎のハイブリッドのような黒人兵士役の人には敢闘賞をあげたい。彼の演技は最高だ。異常に虫の襲来に怯える、記憶の弱いヘタレ兵。登場からビクビクし泣き叫んでいるが、崖から落ちて記憶喪失、悪漢一味に拷問されてクルクルパーになってしまう。最終的には虫に齧られ白骨化。事件の鍵を握る重要人物なのに、まともな芝居は一箇所もなかった。
 
 それにしても松竹のSFホラーは、どれをとっても最後がバッドエンディングなのが素晴らしい。教訓も理屈もあったもんじゃない。単に破滅的で暗いだけ。もっと観たくなる。
 だが観客には嫌われて、あっという間につくられなくなってしまったんだよなー・・・。

【あらすじ】

 突然変異で毒性の強化された昆虫が人間を襲う。
 ナチス・ドイツの迫害により家族を皆殺しにされた、狂った金髪女が、他人の迷惑を一切顧みず、八丈島で殺人兵器として育てていやがったのだ。
 その昆虫とは・・・単なるハチ。どう見ても、毛の濃いミツバチ。
 しかし奴らに襲われたら最悪で、脳に毒が廻って発狂し、散々楽しい夢(殺人・拷問・処刑等)を見せられて、口から泡を吹いて死んでしまうしかない。さらにこいつら、死体に卵をうえつけて幼虫を孵化させる素敵な習慣を持っているので、死んでも決して心安らかな感じにはなれない。全身蛆虫だらけで白骨になるしかないのだ。

 漁師・波平は新婚ホヤホヤ、東京の生物学者に頼まれ、島で珍しい昆虫を捕らえて標本用に宅配便で送っている。妻は7か月の身重だが、家計が苦しいので、浜で観光客相手のバーを経営するアロハのおやじのところへバイトに出ていた。
 物語は、波平が妊娠している妻をほったらかしに、件の金髪女とこっそり浮気しているところへ、水爆を積んだ米軍機が墜落してくる場面から幕を開ける。

 「キャーーー、あれはなに?!」
 「落ちるぞ・・・あッ、落下傘が開いた!四つだ・・・!」 


 飛行機はそのまま海面にクラッシュし爆発、散乱。
 金髪女の薄い陰毛の生えたコーマンに、おのれ自身を深々と突き立てていた波平は、冷静に風に流されてくるパラシュートの行方を確認すると、海岸をダッシュで走り出した。取り残された金髪女は、仕方なく不貞腐れて独りズリセンこいてます。
 森の奥深く、木に引っ掛かった落下傘は見つけたが、辺りに人影はない。困った波平だったが、その場に落ちていた軍用時計だけは見逃さなかった。
 すかさず、くすねてドロン。
 浮気。窃盗。しかも火事場泥棒だ(救助する振りすらしない)。人間としての大事なルールを軽々しく踏みにじっていく爽やか過ぎる主人公の行動に誰もが拍手喝采だろう。

 だが悪いことは出来ないもの。時計を売りつけようとした漁師仲間が通報し、波平は地元警察に逮捕される。取調べにも完全にシラを切り通す、この不遜な若者に温厚な駐在さんも怒り爆発。本土へ護送し締め上げてやろうとするが、そこへ波平の妻に呼ばれて本土からわざわざ駆けつけた東京の偉い学者さんが止めに入る。
 
 「お待ちなさい、彼は重要な証人だ。」

 いや、こいつ、何にも知らんと思います。
 不敵過ぎる波平、この騒ぎに乗じて海に飛び込み逃走。水面に銃を乱射し地団駄を踏む警察。潜ったシルエットが真下に見えているんだがなー。なぜか命中しないんだ、コレが。

 その頃波平の妻は、床磨きの途中、襟ぐりから覗く乳房に発情したバイト先のアロハのおやじに犯されかけていた。
 三段腹を揺らして迫り来るおやじに必死の抵抗を続ける妻。おやじは自室の壁一杯に巨乳グラビアの切抜きを張っているくらい性に飢えた男。まさにアメリカンウェイ。

 「やめてください!!人を呼びますよ!!」

 
おやじ、満面に下卑た笑いを浮かべて、

 「いいじゃねェか、減るもんじゃあるまいし。
 今頃は、お前の旦那だってなぁー、あの金髪女としっぽりと・・・」


 「エエエッ!!マジ?!」

 妻が知らないだけで、金髪と波平の情事は実は村中の評判だったのだ。
 こいつはしまった、口を滑らせた。ふいに黙りこくりマジで鬱に入った妻に、さすがのエロおやじも閉口しひたすら困っていると、そこへ噂の金髪女が店にやって来た。
 途端、愛想良くなるおやじ。揉み手でカウンター裏に廻り込む。

 「おー、これは、これは・・・!
 ・・・いらっしゃい!何にします?」

 「・・・コーヒー。」


 アンニュイに答えた金髪女、おやじの執拗に突き刺さるエロ視線に気づいたのか、ふいに胸元をはだけると突然大声で叫んだ。

 「ヘイ、ユウ!!
 なによ、これがそんなに気になる・・・?!」


 「エエエエッ!!」

 驚くおやじと、波平の妻。
 剥き出しにされた乳房の上には黒々とした墨で英数字の記号が。

 「これはね、ナチ収容所で入れられた奴隷の番号なのよ・・・!
 戦争当時ナチスの奴らは、あたしの家族を捕らえて皆殺しにしたのよ・・・!
 そして連れて行かれた収容所で、為す術のないあたしは散々ゲシュタポの豚どもに犯されたのだわ・・・!!」


 いきなり飛び出す衝撃的過ぎる過去に目を白黒させているおやじ。
 波平の妻は、夫の浮気相手をうつろな視線でぼんやり見つめるばかり。あたしの夫もこの乳を吸ったのか・・・。

 「だから、あたしがこの島限定で棲息する珍しい毒虫を品種改良して、人類を絶滅させる生物兵器を作り出していたとしても何の不思議もないのだわ!!むしろ、当然の権利なのよ・・・!!
 今に見てらっしゃい!!
 
ジェノサイド!!ジェノサイド!!
 人類皆殺しよ・・・!!!」


 言いたいことをぶちまけると、金も払わず出て行ってしまった。
 
 「・・・すげぇ女だなァ・・・。」

 呆れつつ素早く自室に戻ったおやじ、箪笥に隠したモールス通信機のキーをこっそり叩き始める。

 「当地ニテ・・・“バイオテロ”ノ、オソレアリ・・・。至急、増援ヲ寄越サレタシ・・・」

 おやじは実は東側のスパイだったのだ。
 こんな何もない島に工作員を送り込むとは、やはり共産圏の考えることは謎である。

 その頃、行方不明の水爆を追う米軍は、ゴードン大佐を派遣し、島の奥地へと捜索を進める。落下傘で降りた三名の兵士を、島の裏側の洞窟で発見するが、二名は虫に齧られ白骨化。残る黒人兵一名は崖から転落し、頭を強打してバカになっていた。

 「うーーーん・・・うーーーん・・・・・・。
 困ったなァ・・・なんにも、思い出せないヨ!!」


 ゴードン大佐、腕組みして、

 「うーーーむ・・・。
 唯一の生存者がこれではなァ・・・。なんとかならないの、医療班?」


 「駄目であります!
 古代ニッポンのレジェンドでは、バカは死ななきゃ治らないと申しまして・・・」


 真剣な顔で答える当番兵。

 「では、ここで問題。」
 大佐は、関口宏のように解答席に凭れかかる。

 「落下傘が4つ開いて、降下してきた兵隊は3名でした。残るひとつはなんでしょう・・・?」

 「う~~~ん、う~~~ん・・・」

 当番兵は顔を真っ赤に紅潮させて唸り出した。

 うーーん・・・・・・メ、メイ牛山?」
 
 「ナ・・・ナンジャソラ・・・!!」

 ゴードン大佐は完全にブチ切れた。

 「なんのオチにもなってないヨ、ソレ!!
 なんでも云えばいいってモンじゃないデス、バカ!!云って面白そうな名前を適当に挙げるんじゃないヨ!!このマヌケメ!!
 だったら、ライカ犬でもいいし、ソユーズ3号でもいいわけヨ!!
 
ジェームス三木だっていい。
 あぁ、そうとも。ジェームス三木だっていい。」


 「ははァ。」

 別の兵隊が助け舟を出した。

 「第四のパラシュートは、ズバリ水爆ですな!」

 途端に大佐はピコピコハンマーを取り出し、答えた兵隊の頭を連続で殴りつけた。

 「なんで正解を言うのか、バカ!!バカ、バカ、バカ!!!
 なんでいきなりまともな答えをしちゃって、問題速攻で終わっちまったじゃないのヨ!!なに考えてんだ、
 この、バカ、バカ、バカ、バカ、バカバカバカバカバカ・・・・・・!!!」


 その瞬間、目も眩む閃光が空を覆い尽くし、爆音が轟いた。
 水平線に立ち上るキノコ雲は、八丈島が一瞬にして消滅したことを告げていた。

【解説】

 話の筋が最早まったく思い出せないが、だいたいこんな感じ。
 予告編には『キノコンガ』・・・じゃない、『吸血鬼ゴケミドロ』のUFO地球大襲来の場面が使われ、巨大化したハチが人間の喉笛に喰らいつく残虐カットが存在していたり、会社としてはもっと派手な写真にするつもりだった形跡があるにはある。
 しかし、松竹社員の生真面目かつ融通の利かない体質は如何ともしがたかったようで、リアル指向で社会派で、そのくせ非常に内容のとっ散らかった傍迷惑なシロモノが出来上がってしまった。
 要するに、盛りすぎ。 
 登場人物の行動も唐突かつ意味不明で、主人公がまったく共感を呼ばない行動を連続させるところも秀逸である。誰を応援していいのか解らなくなる。
 この作品は明らかに娯楽映画として撮られているのだが、本当に人を楽しませようという気があったのか。そもそも一体誰狙いだったのか。すべて不明である。
 そこが非常に素晴らしいと思う。
 

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