« 2012年3月 | トップページ | 2012年5月 »

2012年4月

2012年4月28日 (土)

川島のりかず『母さんが抱いた生首』 ('88?、ひばり書房)

 ウィ・ウォント・生首!ウィ・ニード・生首!!いわゆる<首切り3部作>(※いま名付けた)開幕篇にして、川島生首熱の最高峰!
 作中に登場する生首個数は世界記録更新!!
 さらに、絶叫・半身不随・暴行、かあちゃんの不倫を加え、意図せざる身投げまでプラスして、トドメはいわずもがなの発狂!!
 逆『サンゲリア』な目玉串刺しもあるよ!
 これぞパーフェクトのりかず!!Ohママ、世界の頂点だ!!
 

 ・・・それにしても生首って一体何だ?人はなぜそれに惹かれるのか?

 黒社会のエンコ飛ばしに始まり、切られた耳(『ブルー・ベルベット』)、手首(『本陣殺人事件』)、足(『オーディション』)など身体切断ネタは星の数程ありますが、とりわけて生首が格別の地位を占めるのは、マキシマムに残念な感じがするからではないだろうか。
 ちょっと考えて見て欲しい。(ドウエル教授以外の)生首は完全に死んじまってるワケだ。
 切断面から血とか零れ落ちてますよ。なんか紐状の器官の切れ端とかハミ出てちゃってる。これはもう、「助かる見込み100%無し!」って明確に断言できる状態なワケじゃないですか。
 これほど、ダメな感じって他にありますか?究極ですよ。究極。
 マインド・レイプ。
 人を絶望の淵に追い込むなら、近しい人間の生首を見せるだけでいい。
 これは豪チャンが『デビルマン』で発見した美樹ちゃんの法則、あ、でも『セブン』で中井美穂の生首を見たイチローも同じリアクション取ってましたな。ガキの頃読んだんでしょうなー。しかし、最近のハリウッドは生首そのものを見せんのがケシカランです。
 犬神家を見習え。
 南洋の首刈り族の研究では、なんか古代人は首に生命力の根源があると考えておりうんぬん、と尤もらしい謬説が飛び交っているようだが、それよりなにより、生首の持つ本質的な負のパワーは、地域社会を飛び越えて全地球的にダメな感じをダイレクトかつ強力に伝える、という点をまず押さえておく必要があるだろう。
 呪術の到来以前に人は生首にどこまでも心乱される生き物なのである。
 
 対人コミニュケーションの基本が顔対顔なのが原因のひとつなんだろうが、例えば、ホラ、現実に起こったあの児童惨殺事件を思い出してみて欲しい。どこまでも究極に無念な感じ。強力なマイナスの磁場の発生。
 勝てません。デビルマンでも。この世にはそういう圧倒的なパワーが多数存在し、ひとたび荒れ狂えば人倫は容易に踏みにじられる。われわれはそれに顔を背けて生きていくか、正直に向き合って深淵を覗き込み過ぎて発狂するか。
 そういう意味で、川島のりかずはとても心優しい作家なのである。いわばハッピーエンドの帝王だ。

 闇の淵をあなたが見つめるとき、
 闇もまた、あなたを見つめているのだ。


あらすじ】

 フラットな団地。街路。北区。写真コピー・貼り付けによる背景。かつて藤子不二雄Aが多用しわれわれをうんざりさせた伝説の技法で惨劇の幕が開く。
 (最近はより安価にスキャナー取込み出来るので、かつて写真取込みが持っていた解像度の荒いダルなテイストも喪われてしまった。白黒に焼かれた目の粗い写真を見たときのなんとも嫌な感じ、劇画の伝える手抜き紛いの迫真性、読者を無用に脅しつける高圧的な姿勢など、すべて今はもう懐かしいものに。ちなみに、のりかずの使用したゼロックスは安過ぎてスキャンに失敗した箇所があったらしく、白くボケた箇所はペンやホワイトで加筆してある。)

 さてさて、いつものように下校する小学生女子3人。このパターン多いなぁー。
 主人公有賀アヤは度を越した野球好き。左手にグローブを嵌めてソフトボールを転がしながら帰る。
 早くも「こんなやつ居るか!」と突込みが飛んできそうなところであるが、しかし、友人のおかっぱ頭はさらに凄い。金属バットを肩に担いで下校する。
 なんでこんな異様なキャラ設定にしたのか開巻早々に理解に苦しむところだが、女子もうっかり真似るくらい当時野球が異常に流行っていたとか、本当は少年物にしたかったがひばりなのでこうなったとか、まァそんなとこなんだろう。つまらん事情だ。
 仲間と別れたアヤは、塀にボールを当てては拾うひとりキャッチボールを繰り返しながら、無意識にいつもとは違う路地へ。
 それが彼女の運命を大きく変えた。

 人気の無い工事現場。プレハブ小屋から女の悲鳴が。
 好奇心に駆られ窓からこっそり覗き込むと。
 
 デコッパチでグラサンのヤクザが、床に転がした女の首を締めている。

 「お前の遺体は、この工事現場のコンクリートの中に葬ってやるよ!」
 親切そうに末期の女性に囁くヤクザ。
 顔面蒼白になるアヤ。


 うっかり物音を立ててしまった。
 はっと顔を上げるグラサン男。床に垂れ動かなくなる女性の手首。バッチリ、殺人直後の反社会勢力のエージェントと目をあわせてしまったアヤは脱兎の如く駆け出す。
 死体を放り出したデコッパチ、全速力で追ってくる。
 流線。
 流線。背景ナシ。ソリッド極まる手抜き展開だ。


 走りながらふと、左手にまだグローブを着けていることに気づいたアヤ、ソフトボールを取り出して背後に迫るヤクザの顔面に思い切り、ど真ん中ストレートを叩き込む。
 巨大すぎるデコにヒット。

 
「フフン、ハハハハ!!」
 性格のよさが偲ばれる飛び切りの悪相で嘲笑するアヤ。中指まで立てている。
 「クソッ!!」
 赤く腫れたデコを押さえ、子供相手に完全にマジ切れになるヤクザ。負けじと足元に落ちていた石を大人の腕力で、小学生目掛けて投げつける。
 これまた頭部にクリーンヒット。こいつら、無意味に野球レベル高い。

 脳震盪を起こしてフラフラになったアヤ、その場にドサリと倒れてしまった。

 「ヒーーーッ、ヒッ、ヒッ、ヒッ・・・!!!」

 性格悪いを通り越し、狂気の笑みを満面に浮かべて勝利の美酒に酔うデコッパチ男は、倒れた少女の身体を抱きかかえると、どうしてやろうかと視線を走らす。
 その間、瞬時の気絶から目覚めたアヤは、「放せ、バカヤロー!」と騒ぎ出す。
 ふと視界の隅に入ったのが、路地の切れ目にある建設途中の段差。下の草っ原までは数メートルの高低差がある。コンクリートの崖だ。
 
 「イヤッ!!やめてーーー!!」

 叫ぶ少女を完全に狂った笑顔で見下ろしながら、崖へにじり寄るヤクザ。デコの生え際は限界まで後退し危険過ぎる状態になっている。
 ハゲだ。
 こいつ、見事だ。完膚無きまでにハゲだ。


 「A・B・B・A、アバよーーーッ!!!」

 放り投げた。
 空中でジタバタしながら、まんまの姿勢で落ちていくアヤ。落下シーンが妙に長いことに注目。手元の時計で数秒のところ、たっぷり3ページ。

 (1ページ目)
 放り投げるデコヤクザ。「キャア」と極太手描き文字で絶叫するアヤ。
 上方俯瞰で落ちていくアヤの正面カット。描き文字「・・アアア!!」
 分割された描き文字で2つのコマは短い経過で繋がっていることを示している。
    ↓
 (2ページ目)
 上空から投げ落とされてくる少女の身体。
 2コマ目はしつこく、そのクローズアップ。激しい落下速度を表す流線とフラッシュ。
    ↓
 (3ページ目)
 空を掴む腕のクローズショットと、高低差を示す空間の空き。
 恐怖に歪んだ瞳のアップ。絶叫する口のアップ。
 暗黒の中に飛び散る血しぶき。ホワイトを叩きつけて表現。極太文字で「ギャア!!!」

 のりかずは、恐怖の瞬間を引き伸ばして描写することを好む。
 あたかも、それが作品の眼目であるかのように。

 特に、落下は彼の中で深いトラウマとなっていたようで、繰り返し他の作品にも現れて来ることになる。(『恐ろしい村で顔を盗られた少女』『私は生血が欲しい』『怨みの猫が怖い』・・・) 
 
 
かくて、かなりの時間的余裕をもって地面に叩きつけられた少女、背後に流れる黒い血。顔面は蒼白で、瞳孔が完全に開いている。
 こりゃ死んだろ、と読者もデコッパチヤクザも全員が思っていると、どっこい、彼女は生きていた。
 
 近所の親切な人に発見され、慌てて救急病院に担ぎ込まれたアヤは脊髄に強力な衝撃を受けた関係で、言語中枢も運動中枢も麻痺。言葉も喋れず、動くことさえままならない悲惨な状態で、かろうじて息を吹き返す。
 当然、ヤクザにやられた件も説明できない。事件はアヤの不注意から起こった悲しい事故として既に処理されてしまっている。そんな。

 一生、喋れない。
 一生、動けない。
 
 「エッ、これって難病モノだったの?!」ってぐらい意外な方向へ舵を切った物語は、突如として主人公と家族の闘病ドキュメントと化す。全身動かないのに、意識だけは普通にあるアヤは絶望し生きる希望を失くして過去の楽しかった想い出(主に野球)に縋るようになる。
 気休めになればと与えられたインコは、「おタケさん」しか喋れず、ガッカリ。大体、誰だよ、おタケって?
 母親は読唇術を習い、なんとか娘の気持を理解しようと懸命に努めるが、自分の状態について真相を知らされた娘は白目を剥き、声にならない絶叫を上げ、
 (ヒィィィッ・・・!!
   死んだ方がマシ!
   死んだ方がマシよ・・・!!!)

 と、憎っくき犯人を、家族を、友人を、世間一般を憎悪するようになり、日増しに痩せ衰えていく。食べても食べても吐いてしまい、栄養剤注射でかろうじて生きながらえているような状況だ。

 「彼女は、心の奥で死を望んでるんですよ。」
 医者は冷酷に分析する。
 「身体は栄養剤で持ちますが、心はそうはいきませんよ・・・。彼女には、もう望むものが何にもないんです。生き甲斐が何もないんです。」
 
 「どうしたいいんですか・・・?どうしたら・・・?」
 涙ぐむ母親。
 「生きる望みを見つけてやることです。」医者は背中を向けて語りかける。「そうすれば、彼女の身体も元通りになるでしょう。」

 
勿論、ここで医者が言う“元通り”とは、元通りの全身麻痺患者に戻れるという意味なのである。

 有賀家の父親は会社の重役。娘の世話を妻に任せっぱなしで、平気で部下とゴルフに行くような、よくあるタイプ。薄情さを妻になじられると、
 「わしァな、実はアヤを見ていると、辛くてな。胸が痛くなるんじゃ・・・。」
 なんだそりゃ。無言になる妻。
 「逃げてなどいるものか。これでも、お前とアヤのために頑張っておるんじゃ。」
 「ウソよ!!」
 妻の告発は絶叫に近い。
 「兎に角、何日掛かっても、アヤの生きる張り合いを見つけてやるよ。今までのことは、アヤに済まなかったと思っている・・・。」
 闇の中に、沈黙と一緒に取り残される夫婦。

 ---翌日。
 父親は部下と約束通りリムジンでゴルフへ出掛けるも、運転手の一瞬の操作ミスで前方の車と接触。高速道路のレーンを飛び出しガードを突き破ってしまう。
 空中を舞う大型リムジン。写真貼り付けによる大特撮。土蔵のある町並みへ一直線に落下していく車。真っ黒な背景に浮いた自動車の前方、後方ショット。
 「うぁぁぁっ!!」
 地面に触れんとする車の正面に、尖った建材の山が描き込まれているぞ。嫌な予感。

 フロントガラスを突き破り、侵入してきた先の尖った木材が、のけぞる後部シートの父親の顎下にめり込んでグィッと突き刺さる。
 ズブズブ、もぐり込む鋭利な切っ先。
 圧力で押し出された父親の目玉が、眼窩からはみ出してブチュッと破裂。
 幅広の先端はシャベルのように父親の首をきれいに掬って跳ね飛ばした。屋根に落ち、ゴロゴロ転がる生首。
 軒下で呑気に煙草盆を囲んでいた植木職人たちの足元に落下。


 「ひぇぇぇぇーーー!!!」

 驚愕するおっさん達を前に、生首は確かに口をきいた。

 「・・・アヤ・・・すまなかった・・・・・・。」

 恐怖に声も出せないおやじ世代。救急車のサイレン。パポパポパポ。怒声と騒乱。
 そのとき、遠く離れた有賀家の屋敷で窓辺に佇むアヤは、確かに父の詫びる声をそのとき聞いた。なんでって、聞こえたんだからしょうがない。
 (エ・・・まさか・・・?)
 そこへ、一瞬遅れて電話が。
 夫の唐突過ぎる死を知らされ、絶句する母親。

 身内だけの葬儀を済ますと、哀れ、有賀家の残された親子は、死人同然の状態になってしまった。

 ---それから数日後。

 あるじを亡くした広壮な屋敷を見下ろす斜路に一台のカローラがパーキング。
 ボックスから取り出したふさふさのヅラを装着し、ニヒルに笑うその顔は、無精髭まで仕立てて入念に変装しているが、紛うことなきアヤを破滅の淵へと追いやったあの憎っくきデコッパチヤクザ、その人ではないか。
 悪魔のようなこの男、ハゲを隠して何を企むのか。偽名・鷹山を名乗り、有賀父の旧恩を受けた身であることを説明。言葉巧みに未亡人に取り入ろうとする。

 「かつて、私が事業に行き詰り、こりゃもう死ぬっきゃない!と思って登ったビルが、奥さん、お宅のご主人が所有するビルだったんです。警備員に見つかってあわや警察沙汰になりかけたときに、ご主人は懇切丁寧に励ましてくれまして、」
 ここで、ヅラを一瞬掻いた。
 「当座の資金として、二十万円ものお金を恵んで下さった。」
 「それで、今は・・・?」
 「山小屋と運送業をやって結構稼いでおります。」

 くせー。なんか、うそくせー。

 ここで、冷ややかな目で見つめるアヤの肩先に止まったバカインコが、初めて「おタケさん」以外の言葉を力一杯シャウトする。

 「キー!キー!
 ひとごろし・・・!ひとごろし・・・!」


 さすがに血相の変わる偽名・鷹山。それでも所詮は鳥の発言だ、必死で平静な様子を装い、

 「人生、不幸ばかりは続かないんだ。元気を出して。」

 アヤの肩に手を置き、説得力の欠片もない暖かい言葉を投げかける。
 完全に目の死んでるアヤは、動かない唇を怒りに震わせて心の中でこの世の真実をフルボリュームで大放送。

 (うるさい・・・!!!
 人生なんて、不条理の連続よ!!!)


 それでも盛りの女の性(さが)っちゅーのんは、不思議なもんですなぁー、母親は軽薄極まる言葉に何か心を動かされたようで、しっとりと濡れた目線を鷹山に向けるのであった。
 かくて、線香の一本も手向けて供養で完結する筈だった鷹山の存在は、翌日の訪問へ延長戦、それからもちょくちょく顔を出すようになり、いつしか屋敷に居座るようになってしまったというのだから、とんでもない。

 それでも、頑なに身体だけは許そうとしない夫人に、

 「ケッ・・・いつまで生娘気分でいやがるんだ。オバハンめ・・・。」

 心中、悪意K点越えの罵りを浴びせながら、薄気味悪い眼つきをした車椅子の娘を散歩に連れていってやるなど、ひたすら献身的態度を示し、篭絡のチャンスを窺っていた。

 インコに速攻で見破られる程度のデコッパチの変装であったが、なぜか一向に正体に気づかないアヤ。敵は財産乗っ取りを最終目標に掲げ、幾度となく、アヤ殺害を企てる。
 ここで突然登場するヒッチコック・タッチ。
 『疑惑の影』ですな。身近な人に生命を狙われるという。そういえばインコの存在ってどことなく『鳥』を思わせなくもないし、のりかずって実は映画マニアだったの?という、実際どうでもいいような疑問が。

 しかし、散歩途中、坂道トップ付近にわざとらしく車椅子を置き去りにし、ストッパーを緩めた状態で煙草を買いに行く、という初歩的過ぎる殺害計画も、いきずりの熱血漢の予期せぬ乱入により容易く失敗。坂を転げ落ちるアヤの車椅子をジャッキー・チェンより素早い身のこなしで追いかけ、キャッチし見事に止めた。顔を上げると、この物語随一のイケメン。誰だ、こいつ。
 「・・・おいおい、気をつけなよ!」
 そのまま帰ってしまった。
 完膚なきまでに、見事に物語から消え去ってしまった。
 アヤも、われわれも、完全にポカーン。地団駄踏む偽名・鷹山。
 
 次の作戦は、たけし城で谷隊長が毎週使っていた、崖の上から落石を落とすという斬新極まるもの。ユニバーサルスタジオでもやってました。
 場所は屋敷の裏山。散歩道。相手は独りじゃ動けぬ車椅子だし、これは間違いようがニャイ。
 でも、外れた。
 大きく外れた。デコッパチの共犯者、センス無さ過ぎ。

 焦って駆け寄った真犯人、なぜか急にインコが一声啼いて飛び掛り、ヅラが持ってかれた。

 (アアアーーーッッ・・・!!!)

 声にならぬ大絶叫を上げるアヤ。
 ヅラの下には、年齢に似合わぬ見事なデコッパチ。こいつ、間違いない。あのときの悪党だ。
 では、先刻のアクシデントも、もしやこいつが仕組んだ。

 (ギャァァァーーーッッ・・・!!!
 ・・・助けて・・・!!!)


 最大限の恐怖に引き攣るアヤだったが、ちょっと待て。自分は半身不随。事の真相に気づいても、逃れようが無いではないか。他人に真実を伝える手段も無い。
 幸い、相手はなんとか合法的に事故に見せかけようと四苦八苦しているようだし、即刻ブスリということもなさそうだ。
 それよか、今は事の真相を見破ったのを知られる方がまずい。ここはひとつ、知らぬ顔の半兵衛を決め込もう。半兵衛が誰かは知らんが。それしかない。

 アヤはとっさに、心の中で泥鰌掬いを踊り出し必死に素知らぬ振り。不審げに見る鷹山だったが、インコはヅラを銜えて屋敷へ飛び去ったに違いないと気づき、車椅子を押しながら、その場を後にするのだった。
 まずはヅラが先決だ。ヅラ・ファーストだ。

 裏山から戻ってきた自分のかつて知らない鷹山の真の姿を見て、ハッと固まる夫人。ああっ。これは。
 「・・・・・・。」
 バツの悪くなったデコッパチ、困った顔をしてへへへと頭を掻く。
 その姿になんでか可愛さを見たのであろう、夫人、思わず笑う。

 え。

 受け入れた?

 この状態を受け入れたぞ、この女。
 想定外の許容範囲内セーフ。


 そこへ平和の青い鳥(実はインコ)がヅラを銜えて飛んで来た。ノアの大洪水は終わったのだ。

 戦々恐々とするアヤは母親に何とか事の真相を告げようと、動かぬ唇を必死に動かして、あいつこそが人殺しだと伝えようとするのだが、雌の本能が既に芽生えた夫人は本気にしようとしない。
 その姿を物陰から窺っていた、いまや公然と前髪の極端に少ない姿を露呈させている偽名・鷹山、公称・デコッパチ、ようやくアヤが自分の正体を悟っている事実に気がついた。
 ふたりきりになると、不気味な笑みを浮かべて、

 「ふへへへへ・・・。
 今すぐにでも殺してやろうか・・・。
 包丁でお前の身体を切り刻んでやってもいいんだぞ。」


 凄いことを言う。

 「近いうち、楽にしてやるぜ。そんな身体じゃ生きていても仕方がないだろう?」

 勝利を確信し笑いながら余裕で去っていく鷹山に、アヤ、怒り沸騰。マキシマム。

 (私の体の自由と言葉を奪った、あんな奴。最低。最低。
 殺してやる。殺してやる。殺してやる。
 あいつがこの家にいる限り、私は死ねないわ・・・!!)


 思わぬことから生きがいを取り戻したアヤ、翌日から驚くほど食欲が出た。

 ヅラを外して生活するようになった鷹山と、夫人の仲はさらに急速に発展。やはり、男は常に本音で勝負する生き物だったのか。しかし相手が「結婚しよう」と言い出すに及んではさすがの夫人も躊躇する。
 「でも、まだ、私・・・夫を亡くしたばかりだし・・・。」

 女学生に様に恥らう姿に、内心ダーティー極まる舌打をかます鷹山。

 (ケッ・・・!気取ってんじゃねーよ、ババア!
 俺なんか、ヅラをナシにしたばかりだぜ!!)


 それでも表層は笑顔を取り繕い、

 「わかったよ。きみの気持が固まるまで待つよ、フォーエバー!」
 「あぁ、鷹山さん・・・!!」


 ヒシと抱き合う大人二名に、カーテンの陰に収納されたアヤは歯噛みする。

 (うぅ・・・情けない・・・せめてテレパシーがあれば、ママに鷹山の正体を教えてやれるのに・・・。
 神様、わたしにテレパシーをください!!)


 そのとき、天上界のどこかで、陽気なラテン系の声がした。

 「オ ッ ケ イ !」
 

 願う者には奇跡が与えられる。これを称してファンタジーと謂う。理屈は家に置いて来い。
 その日からアヤは、テレパシー能力の所有者になってしまった。

 超能力少女・アヤ、否ここは80年代チックにサイキックA・Y・Aとぜひ呼びたいところであるが、彼女はまず何を行なったか。
 これまでコミニュケーション能力不足の為、充分に訴えることが出来なかった自分に起こった事件の詳細を、母親に伝えることに成功する。プレハブ小屋での覗き見から、地面への落下、殺人鬼・鷹山の再登場に度重なる暗殺劇の一部始終を。(忘れた人はこの記事をもう一回最初から読んでちょうだい。ちなみに俺はもう忘れた。)

 無言になる母親。
 娘が超能力を駆使して自分の愛人を告発する事態の奇天烈さに戸惑っているのかと思ったら、そうではなかった。

 「キーーーッ・・・!!!
 あんた、なんてこと言うのよ!!デタラメばっかり!!!
 鷹山さんは、決してそんな酷い人じゃないわ・・・!!!」


 そっちか。
 女としての本能に覚醒した(この物語、やたらといろいろ覚醒する)母親は、アヤの保護者としての立場を完全放棄、デコッパチヤクザ・サイドについてしまった。これは、遠山の金さんが悪に染まる程度に由々しき情況である。

 (ママ・・・目を覚まして!!
 あいつは、この家の財産を狙っているのよ!!
 狂ったさつじん鬼よ・・・!!!)


 「お黙り!!」

 バシーンと張られるアヤの頬。
 バーンとドアを開けて出て行く母親。目は吊りあがり、完全な悪相になっている。

 「フン・・・!!もう、今日から親でもなければ、子でもないわ!!お前なんか野垂れ死にすればいい・・・!!」

 ドアの外にはお手伝いのばぁさんが待っていて、なんでってアヤの心の声大放送は近隣一帯に筒抜けになるほど規模がでかいからに決まっているのだが、大人らしく、子供の告発を鵜呑みにするのではなく相手の立場も慮り、丁寧な口調で、

 「奥様・・・。
 アヤちゃんの気持も少しは思いやってください。
 もう少し、鷹山さんの様子を見るべきでは・・・・・・。」


 「シャラップ・・・!!お黙んなさい!!
 たとえ我が子でも、私たちの仲を邪魔するのなら、親娘の縁だって切ります!!
 カット、カット!!5分を10分に切りますわよ・・・!!」


 「奥様、それ、逆に尺が伸びてます。」

 「うるさい!!お黙り!!
 あたし、これからあの人とドライブに行ってくるから!!
 んでもって、関越道近辺のラブホに入って、バッコンバッコンにハメまくって来ますから!!
 今夜のお食事は結構よ!!
 フン!!あんたの造るご飯なんて、全部犬の餌、ネコの耳くそよ・・・!!」


 酷い捨て台詞を吐いて、意気揚々と屋敷を出て行く母を見ながら、アヤは訣別の刻を知った。これからは、実の親といえども赤の他人だ。むしろ、命を狙う敵なのだ。
 それにしても、なんでこんな酷すぎることに。
 彼女はベッドで泣き崩れたかったが、寝返りひとつ自由には打てない身体だった。天井を睨んで動けないアヤの頬を、大粒の涙の伝う筋が幾本も刻まれるのだった。

 ・・・情事の後の、気だるい空気が部屋を包んでいる。 
 薄暗がりに寝転ぶ女は、汗ばんだ身体を拭おうともせず、自堕落に時を数えているばかりだ。
 自称・鷹山、通称・デコッパチは男性ホルモン過多すなわち性欲異常昂進症により見事禿げ上がった広い額を撫でながら、カーテンの向こうを照らし出す西日の異様な赤さをじっと見据えて膝折り、タバコを咥えている。
 紫煙が渦巻き、先端の火が闇に踊る。

 「・・・上手くいくとは、思えないな・・・。」
 
 ハゲは低い声で言った。
 ベッドの反対側で項垂れる女の身体が、ビクリと震えたようだ。

 「あいつは、俺を嫌っている。」

 「そんなことないわ。一緒に暮らしていけば、あの娘もだんだん馴染んできて・・・。」

 「そんな可能性が全くない事くらい、きみこそ一番最初に感づいている筈なんだが・・・。
 駄目だよ、やっぱり。きみの家には住めない。」


 女は枕に顔を埋めて黙り込んだ。
 嗚咽が微かに聞こえる。

 「・・・ひとつだけ、方法がある。」

 機械のような声で、男は言った。

 「きみは、あの屋敷を捨てることが出来ない。僕だって、きみと一緒に居たい。
 だとしたら方法はひとつしかない。
 アヤちゃんにあの家から出て行って貰うことだ。」


 吐胸を突かれたように、女は振り返った。シーツからはみ出した意外に豊かな乳房が揺れた。 

 「アヤちゃんの処分は、俺に任せてくれ。悪いようにはしない。
 周りには、遠縁の親戚に引取られた、とでも言っておけばいいさ。」


 女は男の言葉の真意を汲み取って、身震いした。
 そして、迷った。
 ひとりの女として、この男と生きるのか。母親として、身体の不自由なアヤの面倒を一生見続けるのか。

 安っぽい造りのホテルの小部屋に、急速に闇の気配が濃くなってきたようだ。
 その中で闘魚のように絡み合う男女の肢体は、暗がりに紛れて最早窺うことすら出来ない。荒い息遣いだけが連続して異国の呪文のように響いている・・・。

 ---翌晩。

 (だ・・・誰ッ?!)

 「ヒイッ、ヒッヒッヒッ・・・」

 暗闇に目覚めたアヤは、闇の中に浮かぶふたつの白い顔を見た。

 見開かれた感情のない真っ白な目。眉は吊りあがり、般若の形相。背後からの照明に照らされて、グロテスクな仮面のように暗黒の中に浮かび上がっている。

 (・・・ママ・・・??)

 家人に気づかれぬよう、こっそり運び出されるアヤ。残念だがテレパシー大放送の届く範囲に人間が居ないようだ。まこと、便利な超能力。
 車の後部座席に寝かされ、抵抗ひとつ出来ないアヤに、既に鬼の形相になっている夫人は、

 「ホラ・・・!!これも持っておゆき!!」

 インコの入った駕籠を投げつけた。
 運転席のデコッパチが素早くイグニッション・キーを捻り、エンジン・スタート。地獄への容赦ないドライブが幕を開ける。
 壮絶に悔しいが、テレパシー能力では反撃できない。通行人の脳波を捉えてメッセージを送り込もうとしても、手繰り寄せた瞬間、相手は後方に遥か消え去っている。まこと、便利だ超能力。
 ぐんぐん加速度を増し、市街地を抜けて高速のレーンに侵入するカローラ。アヤの能力を警戒しているのか、やたら加速を上げるデコッパチ。深夜でも車の姿はチラホラあるが、見えたと思うや抜き去っているのでまったく隙がない。
 群馬方面を掲示する緑のプレートが見えた。すぐに埼玉に入る。そして、意外とそこから何処まで行ってもまだ埼玉県なのである。でっかいな!埼玉県。最高。

 「お前のママには、お前は養女としてある男に預けたと言っておく。そして、引取られてから数日後、ドライブ中に不運な事故で死ぬ。」

 ククク、と唇を歪めるデコッパチヤクザ・鷹山。
 根っからサディスティックな男らしい。明らかに楽しんでいる口調なのがむかつく。

 「さて、それでは、お前の終焉の地へ赴くとしようか。」

 鼻歌を奏で出した。

 「現場は、俺が昔パッとしない役者志望のタマゴだった頃、特撮戦隊モノのエキストラとしてよく駆り出されていた、埼玉県奥地の採石場跡ですよ。いわば特撮ファンの聖地ですよ。」

 あ、それ、知ってる。アヤは意外とオタク系の知識が豊富だった。
 それにしても、こいつ、どのシリーズに出演していたのか。こんな時だが、マニアの血が騒ぐ。
 元・出演者とマニア。同じ特撮を愛するふたりが何故こうまで憎み合わねばならないのか。アヤは余りの運命の皮肉に、心中、特撮の神様・円谷英二を激しく呪ったが、これはお門違いも甚だしい。英二も迷惑だ。

 そうこうするうち、かの採石場に到着。
 なにせ埼玉県の大半は電気が通っていない未開の地であるからして、こんな山間の奥まった土地は、当然真っ暗。人の気配どころか、虫の声すら聞こえない。
 幸いの月明かりに助けられて、聳える崖の袂を眺めると、フロントグラスのひび割れたいい感じに廃車寸前のバンが一台。

 「来たかチョーさん、待ってたドン。」

 奇妙な合言葉を口にしながら、デコッパチの手下の皮ジャンが駆け寄ってきた。
 先日崖で石を転がしてアヤ抹殺を図るも完全に失敗、殺しのシックスセンスに欠ける男だ。

 「ベンガル、オクレと無理心中。」

 これまた解読不可能な合言葉を返し、デコッパチ・鷹山は唇を窄めた。

 「ガソリンは、充分に撒いただろうな・・・?」

 「あぁ。大丈夫。・・・だが、一体どうする気だ?」

 「事故死と見せかけ、焼き殺す。」


 「・・・酷ぇな、あんた、マジ酷ぇっすよ!
 残虐非道だよ!とても同じ血のかよってる人間だとは思えねェ!
 この、冷血!!ヘビ男カッセル!!怪奇吸血人間スネークもいいとこだよ!」


 なおもカポーティー、カポーティーと間抜けな独語を繰り返す共犯者に舌打ちしながら、アヤの動けぬ身体を運んで、バンに移し変える作業完了。

 デコッパチ、その場に落ちていた角材をヒョイと拾い上げると、手下の後頭部に強烈な一撃をお見舞いする。

 「イテテテテッッ!!・・・何すンだ、兄貴?」

 「事故死に見せかけるにゃ、運転していた間抜けな継父の存在が欠かせないんだよ!!こんな全身麻痺の娘がひとりでドライブできるかよ!!いい加減気づけよ、ボケ!!育てよ、カメ!!」

 「おのれ、またしても円谷かッ・・・!!!」

 打たれた後頭部を押さえてバンの中に倒れ込む手下。顔面血塗れ。気絶。もはや絶体絶命。
 後部シートに寝かされたアヤはなんとか身を捩って逃げ出そうとするが、勿論の初期設定、全身ピクリとも動くワケがない。充満するオイルの匂いに鼻が捥げそうだ。
 ニヤリ笑って油を滲み込ませたハンケチに火を点けようとするデコッパチ。しかし、そのとき、夜を切り裂き、想定外の真っ黒い影が襲い掛かった・・・!!

 「イテテテテ、テテテ・・・!!!」

 インコだ。
 誰もが存在を忘れていたが、そういやコイツ、確かに一緒に乗っていた。
 なんでか知らん、羽根を逆立てる程猛烈に怒っているインコ、鋭い蹴爪を閃かせ、デコッパチの左目を思いっきり抉り出した。
 でろん、と眼球をはみ出させ、右往左往パニくるデコッパチ。

 「う、わわわわ!!なんだ!!なんだ!!」


 怒りに駆られ、役立たずとなったおのれの眼球をズルズル掴み出すと、地面に叩きつけた。
 「クソッ!!!」

 残る片目でインコの動きを見据えるや、ヘビより素早い一撃で拳を一閃。叩き落した。その顔は眼窩から零れる夥しい流血に染められ、地獄の悪鬼の形相を呈している。

 「A・B・B・A!!アバよーーーッ!!ダンシン・クィーーーン!!!」

 遂に放たれる火。たちまち車内に充満し、ゴウッと燃え盛る。
 その火を片目で眺めてほくそ笑む悪魔。だが業火の熱さにその場には居られない。
 流血によろめきながら、立ち去っていく。

 「火が・・・!!!」

 チリチリと焦げ出すアヤの髪。服も燃え出した。

 「イヤッ!!イヤッ!!イヤッ!!」
 「このまま、死んでしまうなんてイヤよーーーッ!!」
 「いつまでも生きていたーーーい!!!」


 本音だ。
 本能全開。すなわち、超能力フル回転。
 底知れぬ未知のパワーによって、完全に気絶していた筈のデコッパチの手下が目を醒ます。

 「・・・ウワワッ!!なんだ、なんだ?!
 アチッ!!アチッ!!」


 慌てて車から飛び出そうとして、傍らでもがくアヤに気づき、一瞬の躊躇もなく助け出す。
 あぁ、よかった。この人は善い人だ。

 助け起こされたアヤは、デコッパチに撃墜されたインコの屍骸が地面に転がっているのを目にする。クシャッと羽根を丸め、頸をあらぬ角度に傾けて完全に死亡している。
 のりかずは、ここで、読者の誰も予想しなかった意外な真実を述べる。

 “死んだインコに
 アヤの父親の霊魂が乗り移っていたことには
 誰も気づかなかった・・・。”

 そりゃ絶対、わかんないよ。
 アヤ達が安全圏まで逃げおおせたところで、バンがボカンと大爆発。
 道路の方向を目指し崖の登坂路を登っていくデコッパチ車のヘッドライトが彼方に閃く。

 (・・・助かった・・・。)

 危機に及んで急激に活性化された超能力により、いまや普通に会話できるアヤと元・手下の皮ジャン男、デコッパチの犯罪計画の全貌を明らかにする。
 愛人殺害を目撃されアヤを殺そうと図ったが、果たせず再度生命を付け狙う内に、有賀家が相当な資産家であることを知り、娘暗殺&財産乗っ取りに方向性をシフトチェンジ。おまけに性欲まで満たそうというのだから、見下げ果てた悪魔野郎なり。

 「・・・しかも、長年あいつの為に働いた俺まで殺そうとしやがった。クソッ。
 お嬢ちゃん、悪かったな。俺が間違っていたよ。
 あんな外道は生かしておいちゃいけない・・・!」


 何事かマジに決意したらしきドジ男を、不安げに見やりながら、アヤは不安に眉を曇らせる。

 (そんな何人も殺したような恐ろしい男と一緒に居るなんて・・・。
 ママは今頃、大丈夫かしら。
 ママ・・・!!ママ・・・!!)

 
皮ジャンは身を起こし、アヤを抱き上げた。

 「お前さんは病院に連れてってやるよ。そこでゆっくり休むといい。」

 岩陰に隠してきた自分の車へ歩き出した。この車の存在に気づかないなんて、兄貴はやっぱり迂闊な奴だ。埼玉県のような未開のジャングルを往来するのに公共の交通機関などあるものか。自分のアシ=ジープだけが頼りだ。
 
 (あの・・・それで、おじさんは・・・?どうするの?)

 男は、ニヤリ笑った。
 その顔に虚無的な影が滲む。

 「旧いヤツだとお思いでしょうが・・・。
 落とし前、キッチリ着けさせて貰います。」


 宵闇に、なぜかカラスが啼いたようだ。

 ・・・その日の深夜。
 有賀邸。
 パークウェイに駐車しているデコッパチのカローラ。山道を無理繰り疾駆したせいで、車体は跳ねた石ころでボコボコ。埃りまみれで無惨な様子。 

 傷ついて片目になり車を飛ばして戻った鷹山に、手負いの獣の激しさで、いきなり挑まれ犯されながら、ハッと夫人は虚空を見据えた。

 「・・・どうした?」

 「いま、確かにアヤの声が聞こえたの。ママ、ママ・・・って・・・。」

 「バカな・・・。あいつは、もう・・・。」


 死んでる。
 あやうく言いかけて、慌てて口を噤むデコッパチ。
 と、そこへ遠くからお手伝いのババアがシャウトする声が。

 「あッ!!誰ですか、あんた!!こんな夜中に!!警察、呼びますよ!!警察!!」

 「うるせーな、ババア。」
 
 ブスッ。
 鈍い刺殺音がした。


 「俺はこの世の正義を実行するため、埼玉の山奥から遥々駆けつけて来ました、ってんだ。
 大人しく道を空けなさいっての。」


 寝室のドアが蹴破られ、日本刀を持った男が乱入してきた。

 「き・・・きさま、生きていたのか!!」

 依然、夫人最深部に侵入したまま鋼鉄の硬さを保っているデコッパチの自慢の逸物ではあったが、さすがに声は狼狽している。

 「おっ、こりゃお楽しみの真っ最中だねェ、兄貴!!たまんないね!!ふるいつきたくなるぐらい、いい女(スケ)じゃねーですか!!
 へい、不肖あたくしめも兄貴の御尊顔、拝謁したくて地獄の一丁目から舞い戻って来ましたよ!!」


 結合した姿勢のまま身動き取れぬ夫人に向かい、洗いざらい、先刻の出来事を捲し立てる皮ジャン男。膣痙攣でも起こしているのか。
 さすがの夫人も顔色が変わっている。

 「・・・ってなワケでね、この人でなしに、あわやこの世とララバイさせられるとこでしたよ!!」

 「アヤ・・・御免なさい、アヤ・・・。」


 慙愧の涙を流す夫人。流石に、そこでまんこの締め付けが瞬間緩んだ。
 すかさず身を振りほどき、逆襲に転じようとするデコッパチだったが、皮ジャンの構える切っ先の方が僅かに早かった。裸の胸にスィーーーッと血の筋が滴り落ちる。

 「動くな、ネズミ!!」
 「・・・クッ!!!」

 ズバッッ。
 デコッパチの右腕が、付け根から斬られた。噴出する血しぶき。一刀両断。
 返す刀で左手首を斬り飛ばす。

 「ぐあぁぁぁーーーッッ!!!」


 床に倒れ臥し断末魔の絶叫を上げるデコッパチ。どしゃーっと血がしぶく。と睨み合う二名を尻目に、泣きながら身を起こした夫人、鮮血に染まりながら、素手で傍らのサッと刀身を掴み取るや、

 「でぃやァーーーッ!!」

 「あっ!!奥さんはやめろ、奥さんは!!!」
 瞬間、素に戻って制止する皮ジャンの言葉も耳に入らぬ様子で、

 ぐさッ!!ぐさッ!!

 狂気の形相あらわに内臓深く、刀身を幾度も突き立てる。しかも剥き身の刃を握って。
 腹膜は容易く破れ、ぬるぬると腸がはみ出し、夥しい流血に寝室は真っ赤に染まっていく。
 ご丁寧に、ぐちゃぐちゃになった腹腔に切っ先を深く埋めて、ぐりぐりとやり出した。

 「グ、ヒヒヒ、ヒヒヒ、ヒ・・・」

 夫人は髪を振り乱しモロ出し御開帳、憤怒と狂喜の入り混じったこの世のアウトサイドから来た表情で、なおも狂気の刃を奮いまくる。

 ・・・ブレイクだ。
 完全ブレイク状態だ。東京ドームは満員すし詰め。完パケだ。

 遂に待望の狂人デビューを飾った夫人、満を持してデコッパチの首に刃を潜り込ませる。

 「ウワァァッ!!やめろ!!やめろ!!」

 「イ、ヒヒヒ、ヒヒ。ヒヒヒ、ヒヒヒ、ヒヒヒ・・・・・・」


 スパーンとめり込み、グググィッと引かれる鋭利な刀身。
 デコッパチの生首は刃先に乗っかり、皮一枚、見事空中に斬り飛ばされた。

 胴体側の切断面からブブブッと噴出する無数の血潮。
 “青き美しきドナウ”の調べにあわせて虚空を回転する宇宙ステーションみたいに、スローモーに宙を舞い、クルクル回転する生首。

 のりかずは、冷静に記述している。
 「母親に戻ったとき、彼女は完全に気がふれた。」

 よだれを溢し、恋した男の生首を小脇に抱きかかえて、全裸で惨劇の部屋を後にした母親は、終始気味悪い笑いを繰り返し、豪壮な屋敷の中央階段へやってくると、ズルッとこけて退場していくのだった。
 
 皮ジャンは喪心状態で座り込んでいたところを、駆けつけた警察官により身柄確保され、留置場へ。現在、余罪の有無を追及中。
 母親は精神病院に収容され、アヤは身障者の施設で暮らすことになった。
 だが、アヤは幸福だった。
 他人に意思を伝えることが出来るようになったことで、再び、生きる喜びを感じられるようになったのだから。
 
 「神さま、テレパシーをありがとう
 でも、お金はとらないでね
                プリーズ


 
【解説】

 いやー長かった。
 
 今回は割りと原作に忠実だった気がするのだが、たぶん本人の錯覚だろう。
 なにしろ、いちばん書きたい場面がクライマックス部の母さん発狂であるため、全体をトレースせざるを得なかった。

 「川島先生が読んだら、怒ると思いますよ。」

 古本好きの好青年・スズキくんからは尤もな警告を受けたが、それもこれも原作への愛情のなせるワザである。
 なにか大事なものを捨て去った、爽やか過ぎる名作と評価したい。

 この物語の教訓を声高に語ろうとするのは、単なる偽善に過ぎない。精神病理学的に意味づけしようとするのも、無用な知識のひけらかしだ。
 現実とはこのようなものであり、事件はいつもこのように起こる。

 それだけ理解してくれれば充分だ。
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012年4月26日 (木)

Delta5「Mind Your Own Business」 ('79、RoughTrade)

 前記事でかなり気持悪いの書いたから、ちょっと気分転換しましょう。あんなマンガのどこが面白いのかね。悪かった。私が悪かったから、許してくれえええ。
 って誰に詫びている。

 で、デルタ5ですよ、デルタ5。いいですよね。シラケ世代の代表選手みたいなバンドですよ。キメ台詞は、
 「No!Mind Your Own Business!」
 女性ボーカルですんでここはひとつ、“構わんどいて!”と関西弁で翻訳しときたいね。

 そりゃ世の中いろいろありますよ。うるさいこと、うざいこと、仰山あります。電車でパソコン広げるバカもおる。そういうアホには一言かましてやったらええねん。
 “構わんどいてや!”

 ルールだ、マナーだ、喫煙禁止条例だ、なにかとうざい昨今ですやん。
 ハゲが。ハゲが、じじいが数多過ぎてなんだか締め殺してしまいたい気持にもなる。余禄で喰っとるお荷物がどれだけおるんや、組織というところは。
 一番偉いんは稼いどる奴やないんかい。
 結局、事務か。すべては事務処理か。焼け太りのクソ会社が一丁前の口利き晒しおって本日も反省の色無しか。くたばり損ないが。延命治療、甲斐なしか。
 償却せなあかんもんは、他にもっとたくさんあるんやないのかい。
 “おんどりゃー、構わんどいてや!”

 音楽というのは、気持や、思うてますねん。
 これは、あたしの勝手な解釈やから誰もついて来なくて結構ですけど、少しは解りますやろ。
 ひとつの音楽が妙に心に残るとき、そこにはある種の気持が働いてます。確実に。
 でも、なんやろ。不思議やねー。個人個人の好みもありますよってに、私に重要な響きがあなたにも同様に届くとは思えません。
 マイ・カセット、着信拒否や。
 そのくらいには、音楽に対する信仰はもはや薄らいでしまっております。国民的ヒットなんて今更出せるか、ボケ。
 でもねー。
 あのねー。
 今週あたしが狂ったようにデルタ5をリピートさせていたのと、似たような心境で誰かが何かを聴いててくれることを希望します。
 なんでもいいから。佐渡おけさだっていいから。

 そして、世界にたったひとつだけの花を連続でへし折って、頂点を目指したらええねん。だいたい“多様な価値観”がそれぞれに認められてしまったら、すべては等価、無価値になるんやぞ。アホどもが。そんなこともわからんと歳喰ってきたんか。
 もう今回の記事、筋の通った説明はすべて放棄した。俺は勝手にけんか腰。
 “構わんどいてや!”

 ま、そういうことで。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012年4月22日 (日)

ほりほねさいぞう『ニクノアナ』 ('04、一水社)

 特殊な趣味のマンガというのは目を凝らせば書店の隅に埋もれているもので、興味本位に単行本を購入して来ては「ウゲッ!」と言ったり、「げろろ!」と呻いたりしている。

 既に別記事で書いたが、私はマンガを雑誌掲載で追わないタイプだ。面倒臭がりなのである。
 では、どうするかというと、勘で単行本を引い抜いてきて一冊まるごと読む。雑誌でよくある連載の引きというのが嫌いだし、そもそも16ページ一話こっきりでそのマンガの値打ちが正確に測れるとも思えない。伏線もわからないし、展開だって目まぐるしい。だが、不思議なことに。
 例え大河巨弾連載で巻数が何巻積み重ねられていようとも、単行本一冊分くらい読めば、だいたい何か解った気になってしまうのだから、いい加減なものである。大して、変わらんだろうに。
 自分の読書ペースに一番合っているのが、マンガの場合、単行本一冊分ぐらいだということなのだろう。キャパ、ちいさっ。
 そこで、一冊読んで、なにか拾い出してみて、さて、では記事を書こうかなーっと、毎回こういう段取りになっているわけだ。私の頭の中では。

 世のエロマンガには、実のところ、二つの種類しか存在していない。
 使えるマンガと、使えないマンガと。


 ほりほねさいぞうのマンガが後者に属することは最初から明らかであるが、アメリカ型経済の原則に反し、使えないマンガが即無価値と判定されるわけではない。
 ここがマンガの面白いところだ。ひばり書房だって、恐怖マンガとしてはまったくダメじゃないですか。でも別の意味で凄い。興味深い。面白い。
 エロマンガ界でいえば、町野変丸・町田ひらくとかの系列ですかね。町、町の連続ですけど(笑)。実用性以外の方向へ最初から転げ落ちてしまっている作家さんたち。
 偶然にせよ故意にせよ、ふとした思考のやばい部分を拡大して作品にしちゃってる感じ。詳しくはまた別に取り上げますけど、なんかね、脳内に空白地帯をうっかり見つけてしまったような怖さがあるんですよ。読んでない人にはわかりにくいでしょうが。
 でも、これからオナニーしようとしている中学生的には全然関係なくて、最低のキモキモ野郎なわけでしょ。
 意味わかんねぇし。
 そんなの、実際求めてねぇし。


 だが、世のマンガが機能だけで単純に割り切れるようだったら、とっくにマンガ産業なんか滅亡してたって思いますよ。膨大なコンテンツを後に残して。
 オナニーしたい人にはオナニーマンガを、料理したい人には料理マンガを。
 これは商売の考え方として基本で、1mmも間違ってないですけど、それが事の全てではない。そんな甘い料簡で『包丁人味平』が出来ますか。
 マンガというのはつまるところ、膨大な無駄の集積体なんだと思うよ。この世の汚穢が流れ着く場所。諸星先生的に言うなら、忌が浜ですよ。妖怪ハンター。マンガ家ってのは全部あれなんだと思う。
 余談ついでに電子書籍の問題が妙にクローズアップされる昨今の情勢だから敢えて申し上げておきますが、重要なのはアーカイブでもなければコンテンツでもない。
 一番大事なのは、まだ描かれていないマンガだけですよ。
 それを肝に銘じた上で復刻にいそしんで貰いたい。社長としては。既存の資産を食い潰すんではなくてね。お願い。

 さて、話が大分逸れた。
 ほりほね4冊目の単行本『ニクノアナ』には、巻末に作品リストが付属していて、この手のジャンルでは珍しいことだけど、'95年のデビューからこの本が出た'04年までの作品タイトルと掲載誌を辿ることが出来る。
 掲載誌・・・凄いですよ。ちょっと並べましょうか。

 【桜桃書房】
  「チェリームーンSuper!Vol.6」 「秘密の地下室Vol.2」
  「ねこ耳っこくらぶ2」
 【三和出版】
  「フラミンゴ漫画大賞作品集Vol.4」
  「アイラ・デラックスVol.22」
 【茜新社】
  「ラストチャイルド2 入院少女」
 【笠倉出版社】
  「小萌Vol.5」
 【東京三世社】
  「自虐少女Vol.10」 「コミックリトルピアス2003年1月号」
 【一水社】
  「暗黒抒情Ⅳ」
 【光彩書房】
  「知的色情Vol.3」 「Hのある風景」
  「イケナイ少年遊戯2」「manga純一 1998年6月号」
  「激しくて変Ⅲ」
   
 ・・・とね。知ってる本、ありました?あらま。
 しかし、どうです、見事に暗黒一色でしょう。書き写してて、なんかこっちも、どんよりしちゃいましたけどね。 
 これらは大半がオリジナルアンソロジー本の形態になっていて、なんでって、そりゃエロオンリーで連載転がして毎週毎月やってくのは至難の技な上に、読者様の知的レベルは最低ランクを想定しなくっちゃならない。抜けりゃOKってんだから。
 いきおいストーリー主軸ではなく、エロシーン主体の書下ろし短編が雑誌の基本となり、でも、それじゃ何の本だかわからないから、テーマアンソロジーみたいな括りを設けて売りを図る。
 エロ総合誌的な、なんでもありの編集はできないわけです。マニアの棲み分けは既に終わってしまってるんだ。
 いわば、人間の性癖の数だけジャンルが細分化され、対応ツールが存在しているのがエロ本の世界の基本構造。写真系も含めて。Dみたいなおむつ好きには、おむつ好きの専門誌が存在しているわけ。親切このうえなし。
 裏を返せば、これほど排他的な世界も、またとない。ロリはロリ、熟女は熟女。絵柄や世界観の根本が別物。なにも難しい話ではなくて、実のところ、70年代劇画にルーツを持つエロと、80年代アニメ絵によって描かれるエロの二種類しか存在しないということなんですが。
 でもそれですべてを割れないのが、ジャンルの奥の深いところ。

 先の如く掲載誌を並べていけば、ほりほねがどういう作家だかおおよそ大体はイメージできるかと思いますが、王道のノーマルな作家さんとは頭の構造がちょっと違う。
 へんです。
 それも、単純に分類しにくい方向に、へん。

 具体的にどこがどう違うのか、短編を一個紹介してみましょう。

【あらすじ】

 この世界に於いては、性器は自由にサイズを変えられるし、付けたり外したり、相手から貰って増やしたりできる。
 
 したがって、男女の区分も曖昧であり、チンコを体内に収納して女性器の如き形状に見せかけることも可能である。
 おっぱいも、念じれば膨らむ。他人でも、自分でも。意のままに。そりゃもう、部屋いっぱいになる大きさまで。意地悪して乳頭だけを異常に腫らすことだって簡単。頭より大きくだって。

 彼らの共通点は、稚く、幼いということ。
 そして、締め切られたマンションの一室で終始異常なセックスばかりしている。


 捕獲された少年が少女に先導されてマンションにやってくる。
 誘惑されついつい痴漢行為を働いたばかりに、少女の不可思議な能力によってチンコをホース状にぐるぐる伸ばされてしまったのだ。
 
登場1コマ目で、既に彼の性器はズボンから着ているコートの喉元を通って、少女の首に捲き付き、ちゅぱちゅぱと亀頭部分をおしゃぶりされている。ちなみに少女の左手は少年のコートのポケットに突っ込まれ、股間に伸びているから、睾丸周辺を執拗にいびられているのは確実だ。

 「ただいまー」

 少女は日常的な動作で扉を開けると、首にペニスを巻いたまま靴を脱いだ。

 「これ、もっと伸ばしちゃおっか?」
 「え?」
 「えーーーい、のびろ、のびろ、のびろ・・!」
 
 ずるずる伸びて数メートルの長さになり、床にとぐろを巻き出すペニス。少年は早くも悶絶し涙目に。何処までも伸ばされる快感に、びゅるっと射精。はっ。びく。びく。

 「ホラ、あんたのチンコよ。舐めてみる?」

 少女は肩にそれこそ消防士のようにペニスのホースを担いで、床に膝立ちになり発射後の余韻に喘いでいる少年に命令する。
 仕方なく自分のどろどろの先端部を口に含む少年。れろれろ。
 言うことをきかないと、伸びに伸びたチンコを元のサイズに戻して貰えないのだ。

 「じゃ、そこでズボンを脱いで。」
 「あい。」

 伸びたペニスを手綱のように引っ張られ、洗面所の方へ。角を曲がる途中で、何か異様に生暖かい感触が、見えなくなったペニスの先端付近を包み込んだ。
 慌ててお手洗いのドアを開けると、便器の上にしゃがみ込んだ下半身丸出しの若い女がまんこの中心部にチンポの先を突っ込んでいるではないか。ずぷぷ。

 「へー、可愛いの、引っ掛けたねー。」
 「いいでしょ?」

 成り行きで女と性交することになる少年。トイレの便器の上にしゃがんだ女なんて嫌だなぁー、と思うが、既に先端は膣内奥深く飲み込まれている。
 この女、よく見ると両乳首が異様にでかく膨らんでいる。どっちも腕ぐらいの太さ。うえぇ。気持ち悪。
 先方はまったく意に介さず、
 
 「長さ40~50cmにして、太くしてよ。」

 少女に細かいオーダーを出す女。応えて縮めて、太くなる陰茎。
 一見ノーマルな性描写に移行したかのように思われるかも知れないが、少年はたぶん小学生のチビ組か中一くらい。女はだいたい高校生くらい。子供をだっこする格好で対面立位とは異様極まりない。

 「いくよ。」

 あっさり言い放つ女。このへんのフラットな感じがたぶんこの作者の特性なのだ。流線による視線運動や、飛び散る汗・体液の描写は他の短編では登場するのだが、ここでは抑えられている。それはたぶん、異常行為の平明さを強調するためだ。

 「お風呂、ここ。」

 平然と隣の部屋の扉を開ける少女。少年を抱きかかえたまま女が入っていくと、その部屋には風呂桶からはみ出すレベルにまで肥大したチンコにうつ伏せに跨り、巨大すぎる両の乳首からからどろどろの母乳を噴出させているおさげの少女がいた。
 背後に廻った巨大チンコの持ち主の別の少女が、取り外した一本のペニスをディルドー代わりにケツ穴に突っ込んでほじりまくっている。

 「はひ。はひ。」
 「あ~、おかえり~!」


 風呂場を埋め尽くす巨大な肉茎を眺めて、少年が戦慄する。

 (えーーー?!なにコレ?まさか・・・チンコ?)

 母乳を垂らすおさげの少女が跨っているのは、ソファーのクッションみたいに巨大化した皺だらけのタマタマだ。
 膨張しまくった陰茎をクッションに寝かされ、

 「なに、コイツが今日のエモノ・・・?」
 「みたいよ。カワイイわよ、ホラ。」
 「コイツもきっとおっぱい似合うよ。つくろ。」

 服を捲くり上げ、胸を鷲摑みにされる少年。傍らの女が念じると、ぐぐぐんと膨らみ出す胸。たちまち乳房の形状に成長。
 少年の太くなったペニスを依然嵌め込んでいる若い女は、サディスティックな笑みを浮かべ、

 「乳首だけムチャクチャ大きくしよ。」
 「オッケー!」


 どどめ色の棒杭のように肥大する乳首。

 (あぁ~・・・)

 見つめる先に女の膣口に飲み込まれた自分の肉茎があり、ゴポゴポと音を立てながら白いあぶくを吐き出し続けている。

 (乳首大きくされて、射精している。きもちいい・・・)

 世慣れた諸君は既に御承知のとおり、世の中には自分の乳首を育てて快感の増大を追及するマニアの方々がいる。お手軽な吸引器が売られ、洗濯バサミ、ピアッシングまで含め、乳首の生み出すあらゆるファッシネーションをその道限定で極限まで高めようとあくなき努力を繰り返して、遂にはお天道様の下には決して出せない、ベロンと垂れて異様に肥大しまくった超イボ乳首を創り上げてしまう天才肌の職人たちがいる。
 (簡単に言いますと、彼等は決してプールには行けません。)
 さて、そんなマニアな乳首の快感を堪能、存分に射精し力尽きた少年は、これでやっと勘弁してもらえるかと思ったら、またも不思議な力でキンタマを巨大化され、たぬきもビックリの大型バランスボール状態となり、どくどくどく無制限に精液を放出できる珍しい身体に改造されてしまうのでありました。
 
 ・・・いい加減、コマを忠実に追いかけるのも飽きてきたので、後は適当にフォローするが、少年が異様な連続放出に陶酔している間に、傍らでは舌を肥大させて太く伸ばした女がレズりながら性器を舐め、外陰唇を尖らせペニス状に変形させた女がまんじゅうの如く膨らんだ肛門に挿入。女が女に突っ込み、少年がすっかり女化して責められ、性別の区分、受け手と送り手の立場も曖昧となり、3Pが4Pかそれ以上に連鎖、収拾がつかなくなったところへ近所の犯し屋のお兄さんたちが乱入。
 チンコを縮められ女性器の形状にされた少年は、見知らぬ男連中に犯し抜かれ、

 「あ、前穴の奥で縮んだチンコと、先端同士がごっつんこ・・・!」

 ブランニューな感覚に酔いしれ繰り返し失神、射精回数自己ベスト更新。翌日の昼ごろまで異常な性の遊戯に耽る羽目になるのであった。いと、おかし。

【解説】

 以上16ページ、あらすじも脈絡もないまま、濃厚かつ尋常でない性行為のコンボが噛み合わない最小限のモノローグの連鎖だけで押し寄せてくるので、初見では一体何が起こっているのかさっぱり解らない。
 異様なエロい事態が発生していることだけは理解できても、作動原理が人倫を軽く越えているため、読者は乗りかかった船をあっさり外され、海へドボン。「なんだこりゃ」感だけが妙に後に残る。絵柄は平均的で別に癖のあるもんじゃないんだけど。ある意味サービス過剰。
 通常のエロ漫画家がキメのひとコマ、それだけで抜ける究極のワンカットを目指してコマを進めていくものであるとすれば、ほりほねの方法論は性に纏わる様々な奇妙さを持続させる方向に全精力を傾けているように思われる。一回の射精が目的では無く、エクスタシーの持続、狂熱状態を如何に維持するかというのが最大の要なのだ。その為には性別のくびきも簡単に外してしまうし、人体だって容易に改造される。
 この本に入っているその他の短編では、腸内に食用の寄生生物を繁殖させている少年とその種付けをする少女との性交を描いたSFチックなものや、殺した同棲相手の身体から生えてきたペニス状の茸の群れに全身を侵略され精子のように肉汁を放出させながら菌糸の塊りに成り果て消えていく女の末路を描いた、伊藤潤二を髣髴とさせる微妙にホラー寄りのもの、あるいは妻の体内の寄生虫をお湯に浸して切れぬよう引っ張り出して晩飯のおかずにする変態夫婦を描いたものなど、多種多様に嫌な感じのネタをクルクル使ってみせてくれる。
 そこに描出される風景の異様さ、奇妙な何にも無さ加減は、絵柄も相俟って黒田硫黄のようでもあるし、一連のガロ系マンガを容易に連想させたりもする。
 欲望に満ち満ちている筈なのに、妙に乗り切れない感じ。感覚が共有できなければ、それも仕方ないだろ。
  
 ともかく、持続する快感の探求。そいつは変態への早道だ。
 今日はこれだけ覚えて帰ってちゃぶだい。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012年4月19日 (木)

エドマンド・クーパー『太陽自殺』 ('66、ハヤカワSFシリーズ)

 題名が非常によい。くすぐられる。
 『鉄腕アトム』に影響を受けた団塊の世代が集団で次々太陽に飛び込む話かと思ったら、そんなワケはなく、異常な太陽黒点から放射される自殺光線の影響で人類が絶滅の危機に瀕する、というバラードとウィンダムの中間線をいくイギリス人作家らしい破滅テーマの作品だった。
 原題はちなみに“All Fool's Day”、これに『太陽自殺』と名付けたのは平井イサクと編集部である。やるなぁー、イサク。アシモフ『永遠の終わり』とか訳してる人だよね。イサクは木を伐る。一応言っておく。
 (※註・明白な嘘。翻訳は『呪われた村』でお馴染み、林克己先生。)

【あらすじ】

 主人公は、Dと同じく鬼嫁に逆らえない男。策謀家の嫁は取引先の富豪と寝たりして、夫の地位向上に日夜努めている。お陰で毎晩パーティー、パーティー。欲求不満はつのるばかり。
 遂にブチ切れた主人公は、突然の自殺衝動に駆られポルシェで暴走。橋の欄干に見事激突し、憎い嫁は無惨に即死、自分だけチャッカリ無傷で助かってしまう。心神喪失が認められた主人公、大幅に減刑されたムショ勤めを終え、数年で娑婆に舞い戻って見ると、世間は空前の大自殺ブーム。
 太陽黒点の異常により、自殺衝動を起こさせるオメガ光線(仮名)の放射量が増大。全地球規模で毎日何万人の犠牲者が出ていたのだ。
 かろうじて形骸を保っていたイギリス政府も直ぐに分断され、やがて秩序は崩壊していく。
 光線の影響を受けなかったのは、もともと狂っていた異常者たち、狂信者・誇大妄想狂・白痴・殺人狂などなど。かくて文明の完全に瓦解した世界で、前代未聞の狂人相手のサバイバルレースが幕を開けた・・・!

【解説】

 登場人物が全員キチガイ揃いという設定は、作家として非常にいさぎよい態度であり、爽快ですらある。
 自分の出したうんこを、そのまま手に掴んで投げつけ武器にする連中ばかりが出てくるのかと思い、ワクワクしながら読んでいくと、気違い天国の話は割と早めに打ち切り、意外と建設的な方向へ話が転がり出したのでガックリきてしまった。
 どうも、超利己的で他人のことなど一切思いやらない主人公が、ほんの気まぐれで野犬に喰われそうになっていた女を助けたのが良くなかったようだ。
 最終的に、遊び呆けるディレッタント揃いの村人を先導して理想郷建設のために立ち上がる新時代の英雄になってしまった。とはいえ37歳、白髪多し。逞馬竜の万分の一の生命力も感じさせないのであるが。しかも周りに自分を「将軍様」と言わせるなんて、どっかの国のパクリだしなぁー。
 それでも母子相姦を繰り返して、犬も人肉も喰らい、誰とも交際しない村の若者とか、期待通りの感じのいいキャラもちょっとは出てくるので、一度読んでみる価値はあると思う。
 とことんダメな人達が案の定どんどん死んでいく話に終始してくれれば、あるいはカルト化していたかも知れないのに惜しいことをした。
 主人公と彼女がバカ過ぎる若者集団にハントされ、相手の靴を舐める展開が『わらの犬』、つまりはペキンパーチックでグー。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012年4月17日 (火)

キース・ローマー『タイムマシン大騒動』 ('64、ハヤカワSFシリーズ)

 結論としては、あまり大した騒動にはならなかった。

 この点はまず最初に指摘しておくべきだろう。
 タイムマシンは酷く危険な代物だ。正しく使えばこの宇宙に究極の破壊を齎すことだって出来るのだ。
 考えてもみたまえ。
 時間の流れをコントロールする?物質や人間を時間の壁を越えて移動させる?
 どれほど莫大なエネルギー量を操作すれば、それが可能だというのか。殆どこの宇宙全体の運動量に匹敵するような巨大な力を必要とするのではないか。

 例によって根拠は何もないが、私は勝手にそう思っている。事の真相は既にお見通しだ。

 だから、この本の中で、先代がつくった屋敷よりまだでかい巨大コンピュータが登場したとき、そのコンピュータが過去を精巧に再現する機能を持ち合わせている、つーか、「実はその正体はタイムマシンでしたー!!」と判明したとき、私が真っ先に考えたのは、

 「こりゃ、さぞかし電気代がかかるぞ!」
 
 という確信めいた予感だった。
 もっとも、これは万事都合のいいユーモアSFであるからして、超電力を供給する超東京電力が絶対安全な超原子力発電所を超高速で回転させて超適正価格でお届けしてくれるのであろうが。(そういや、諸君、現在は二十一世紀なのだったね。)
 いずれにせよ、タイムマシンの登場する小説はすべて胡散臭い。腐臭が漂っている。
 これは、ウェルズ先生が「時間の壁を越える装置」を思いついてから百年、いろんな連中が寄って集ってひねくり回し、あらゆる可能性を虱潰しに残らず絞り機に掛け、ギリギリと一網打尽にしていった結果だろう。
 もはや、カスも残っとらんよ。ぷんすかぷん。
 (それでも、『クロノリス-時の碑-』のメインアイディアはイケてる気がする・・・20年後の未来から巨大な戦勝碑文が送り込まれて来る・・・都市を、文明を破壊しながら・・・ヴォークトが同じアイディアで書いてたら即買いなのだが・・・)

 さて、本書に登場するコンピュータは神にも等しい能力の持ち主で、知らぬまま親の遺産を受け継いだ主人公に、次々と奇跡のような洞察力を披露する。
 
 「俺の100代前の先祖はどんな奴だったんだ?」
 「この人物は“るいれき病みの目くそ爺い”という呼び名で知られていました。八十歳の時に、強姦の廉で死刑になったのです。」
 「強姦未遂だろ・・・?」
 彼は期待を籠めて尋ねる。
 「強姦です。」コンピューターはキッパリと断言した。
(本書32ページ、平井イサク訳)

 人工衛星すらハッキングできるこの万能機械にお膳立てされて、主人公達は様々な時代を無意味にうろうろする。特に行動に意味があるわけではないので、“うろうろした”としか表現しようがない。原始時代、ピンクの制服の警官が飛んで来る近未来。文明と荒廃が同居する遠未来。どれもたいして面白くない。
 それでも調子よく読ませて、「あ~、たいしたことなかったな!」と最終的に思わせるローマーという男、物凄い策士なのかも。あるいはひょっとしてプロットを立てる手間隙を惜しんで書き飛ばす、単なる面倒臭がりなのかも知れない。やはり何も考えていないのか。
 それを証拠に、タイムマシンの捲き起こす大騒動は実際たいしたことがなかったが、その結果、主人公とPCのスピーカーが結婚してハッピーエンドという超適当すぎるオチがついたので驚いた。
 ハリイ・ハリスンの『銀河遊撃隊』を思わせるうそ臭さ。わかっとる、わかっとる。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012年4月15日 (日)

『マインド・ゲーム』 ('04、Studio4℃)

 いま観ると、正直どうなんだろ、と思ったりもするワケだけど。勢い重視の作品なので、その場のノリでやってしまいました的な部分がガチャ目立つのはまぁ、仕方ないとして。
 面白かったですよ。中だるみはあるけど。
 鯨の腹の中に収まってからが、妙に長いのね。突然『青い珊瑚礁』になる。ヒロインの姉もいるから『青い恋人たち』が原作かも知れないですけど。
 個人的にはもっと全編無意味に動きまくって欲しかった。でもこれは原作がそうなってるんでしょ。仕方ない、ない。

【あらすじ】

 幼馴染を助けようとして撃たれて死んだ男が、あの世から奇跡のカンバック!いろいろ頑張ろうと決心するのだったが、通りかかった鯨に飲まれてしまう。
 そのまま映画が終わるまで鯨の腹の中に居たので、驚いた。

 ニーメというのは我が国固有の文化じゃないですか。明確な文法のある。そういう中でこういう実験アニメに近いテイストを入れていく、ってのはしんどいだろーなー、嫌だなーと思いつつ、『イエローサブマリン』がカルト化したのは徹底した意味の追放が行なわれた後だったことを思い出すのでありました。
 こういう、別段売りが何かあるでもない企画がバンバン通っていくといいですね。ニーメの人、ガンバレ。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012年4月12日 (木)

マイケル・クライトン『コーマ』 ('77、M.G.M.)

 ロビン・クックのベストセラー医療サスペンスを、“ホワッツ・マイケル?”でお馴染み、マイケル・クライトンがのんびり鼻くそほじりながら映画化!
 もう、ぬるくてぬるくて、お茶も完全に出涸らし状態になる、抑制の利きまくった展開がある意味で堪えられない魅力。

 説明しにくいが、一例を挙げよう。
 悪の組織に命を狙われる警備員のじじい。緊迫した事態に気づかず巨大病院地下の詰め所で、クッキー齧りながらエロ本を読んでいる。海外であるからして、コーマン全開は当たり前。どころか、どどめ色した内臓の襞までちょっと露出している。ウヒョー!さすがは医療サスペンス。
 現れた暗殺者、ターゲットのじじい以外には全員コイツの存在が知れているワケだが、画面の外側に待機し、今か今かと出番を待っている。
 のんびりページを捲るじじい。
 おっ、プレイメイトにこんな意外な一面が。興味深げに記事を読んでいくと、彼女は実は年子だった。・・・だから何?
 じじい越しに覗く、電源設備の巨大な配電盤。
 この瞬間、観客諸君に嫌な戦慄が走る。まさか、これを使うのではないだろうな・・・?
 それにしても、このカット妙に長い。クライトン風情が意外な展開を用意しているとは到底思えないが、それにしても間尺が悪すぎないか。バレバレではないか。こんなにハッキリ映してしまって、今更配電盤に投げ飛ばして感電死させるなんて通俗な手口ありえなくないか?
 躍り出る殺人者。じじいに思い切り、体当たり!
 落ちるエロ本。あわわ、せっかくのヌードが。悲鳴を上げるじじい。大きなブレーカーの谷間に跳ね飛ばされ着地。
 じじい、束の間ジッとしている。・・・え?!
 殺人者、偶然落ちていたモップの柄でじじいをこずくと、ようやく威勢良くスパークがあがり出し(花火)、ドリフ張りの演技力で電気に痙攣する芝居が始まる。
 数秒間、雑なひとり芝居を見せられ、終わると、じじいは床に倒れて小便を漏らし絶命している。白目を剥いた超絶に間抜けな死に顔。悲壮感ゼロ。間抜けがくたばった、としか表現しようがない展開が素敵。
 殺人者、確認のため死体をモップで小突き、それでも足りないのか、ふところから取り出したサイレンサーで二三発撃ち込んでトドメを刺す。
 なら、最初からそれを使え。

 こんな感じで先読みの充分可能な不測の事態がのんびり押し寄せてくるので、それなりに飽きずに観終わることが出来た。
 度を越したセックス中毒のマイケル・ダグラスが、立身出世のことしか頭にない最低野郎を好演!生きた彼女とまた一発キメたいが故に、一度ついた悪の側から軽やかに寝返ってみせるその態度もまた最高!お前、人間らしい心はないのか?
 
 さて、お話の方ですが、
 「脳死状態の植物人間の臓器をオークションにかけて全国に転売している奴がいた!さすがはアメリカン!」
 ・・・
という感じかな?
 ちょっと、平凡?みたいな。

 また、この残虐非道過ぎる筈の臓器オークションの場面がですね、ノミ競馬の実況ブースみたいなとこにオバちゃんが座ってですね、世界各地から鳴り響く電話を一生懸命取り捲るという。助手にチューリッヒまでの輸送時間を計算させたりして。
 冗談なのか、本気なのかサッパリわかりません。
 陰惨極まる臓器密売も、単なる宅配便の仕分けにしか見えなくて、間抜け度アップだし。
 その宅配業者のトラックの屋根にしがみついたヒロインが、からくも悪の魔の手を逃れる展開に到っちゃあ、何かサスペンスというものを根本的に大きく履き違えている気がして、決して嫌いになれませんでした。

 監督・脚本 マイケル・クライトン。シナリオを律儀にフィルムに起こしてみても、それだけじゃ映画にならないってのは、子供だって解る。
 才能あるかもよ。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012年4月 8日 (日)

清水崇『呪怨-THE GRUDGE-』 ('04、ヘラルド)

 「ドラえもん。」

 「え?」

 夕暮れの交差点でふいに呼びとめられた、古本好きの好青年スズキくんは振り返った。
 辻占いの易者に仮装して、もっもらしく筮竹を握っているのは御存知古本屋のおやじだった。
 行過ぎる人の動きが慌しい。

 「あんた、何やってんですか。新人入学、入社のこの時期にたそがれて?
 伊藤潤二『死人の恋わずらい』のコスプレですか。」

 おやじ、耳も貸さず、

 「最近、新しいドラ映画のタイトルを考えるのにハマってるんだよ。
 なんか藤子F亡きあと、どんどん適当になってる感じがするだろ。俺が責任持ってなんとかしようと思って。(突如、大山のぶ代の声色となり、)
 『ドラえもん・のび太と悪魔のいけにえ』。」

 「まったくもう、暇人にも程がある。『のび太の列島改造論』とかどうですか。」

 「平凡だな。(再び、のぶ代で)
 『ドラえもん・のび太のトルコ行進曲』。」

 「あるいは、『のび太と夢の泡姫さま』ですか。うーん、アジアの子供、泣いちゃいますね。」

 「勿論いつもの如く、泡の国から来たお姫様が上に下にの大騒動!最後は、故郷に帰らなくちゃならなくなって、涙のお別れも欠かせない場面だなー。
 当然、ジャイアンも一肌脱ぎます。」

 「脱ぐなよ。」

 「でも、藤子Fタッチの美少女造形で泡姫さまが見られるんだぞ!ある意味、マニア垂涎!夢の映像だ!ダイナマイトもプッツンだ!!」

 「・・・誰ですか、それは?
 それよか、『呪怨』の海外版リメイク観たんでしょ?出来はどうでした?」

 「いや、3本1000円セールでつい買ってしまったんだけど。
 本当にリメイクなのなー。主役を外人にしただけで、舞台は相変わらずあの家だし。
 中味はこれまでの傑作場面を繋ぎ合わせたダイジェスト的なもので、柳ゆうれいが演ってた小林君の役が外人のおっさんに置き換わってて、そこに凄い無理を感じました。」

 「日本語で恋心綴ってますもんね。相手は絶対読めねーだろ(笑)!
 実はボクも、こないだまで狂ったようにJホラー観捲くりのブームの日々がありまして。『着信アリ』まで観ちゃった。」
 舌をペロリ。

 「裏切り者。それで、なんで俺の貸した『赤い影』観ないんだよ?」

 「いえ、ボク、外国の映画だと、誰が誰だか見分けるのが異常に苦手でして。まぁ、いいじゃないですか。」

 「ま、いいや・・・。
 それよか、遂に観たのか、あの作品?」

 「あぁ、『邪怨』ですか。
・・・いえ、まだなんですけど。」

 「ポルノパロディー版『呪怨』。われわれの中では最早名作扱い。誰ひとり実際に借りて観た人もいないのに。
 きっと、怨霊逆レイプ物という新ジャンルに属する傑作なんだぜ!」

 「そうですね!誰のニーズを満たしているのか、まったく不明なところも最強です!」

 「顎なし女の3Pとかあって欲しくないよなぁー!
 夫の理不尽な暴力制裁により、強制窒息ビニール処刑された主婦が生前の欲求不満を満たそうと暴れまくる!
 三河屋さんから、タラちゃんまで食いまくり!」

 「最後イッて、これで成仏したのかと思ったら・・・」

 「ムクゥーーーッと起き上がる主婦の遺体!!
 呪いはまだ、終わっていなかった!!

 ここで、“『邪怨2』へつづく”の文字が出ておしまい!」

 「で、なんかよくわからない暗いJポップが流れてエンドクレジット・・・って、実際本当にこんな内容だったら、どうしたらいいんですか?!」 

 「真実を知るには、実際観るしかないんだよ。ホラ、行け!俺は遠慮しとくけどな!」

 「こういうタイプの作品って、観る前の期待値を越えた験しがないんですよね。
 絶対観ないだろうなーーー・・・!」

 「・・・だろうなーーー・・・!」

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012年4月 7日 (土)

ジョン・ウィンダム『海竜めざめる』 ('53、ハヤカワSFシリーズ)

 近所で銀背のハヤカワSFシリーズが馬鹿みたいな値段で売っているので、ついつい集めて読んでしまっているのであるが、やっぱりウィンダム!カプセル怪獣として知られるあの男!憎いね!大好き!
 異様に地味な作風で知られる、1903年生まれのこいつのどこが面白いのか。

【あらすじ】

 宇宙から謎の発行物体が全国都道府県に降り注ぎ、全地球規模でちょっとした話題に。
 
 主人公は、夫婦揃って新聞の外注ライターをやっているボンクラで、基本的に重要なことは何もしない。地球の運命を決める決断をしたり、手に汗握る大冒険を繰り広げたり。そういう派手な活躍は一切しない。
 新婚旅行先のバハマで、偶然落下する光球を目撃し、関連する事件を追いかけ始める。識者に話を聞きに行く。現地体当たり取材に挑む。どれを取っても日常的で、特殊なことは全然なし。
 
 それでも俄然面白いのは、特異な変化を起こすのは、外界であり情況そのものだから。

 海中に落ちた無数の光る物体は、木星付近から飛来した宇宙生物の乗り物であったらしく(本人にインタビューできないので結局分からない)、人類に到達し得ない海溝奥地に拠点を築いて陸地侵略を着々と進めて来る。
 まず、遠洋を航海する船が次々と沈没。離れ小島で村人全員が一夜にして消える。
 この時点でみんなにバカ扱いされる気の狂った博士が警告を発するが誰も耳を貸さない。
 海中の存在は深海でなにやら工事しているらしく、やがて海流に泥濘が混じり始めその存在を人々は認知せざる得ない状況に追い込まれる。
 かくて、余りに頻発する被害に政府はようやく重い腰を上げ、海中に潜む敵目掛け機雷をガンガン投下、無差別爆撃を敢行。異星人はこれにマジギレ、遂に人類対エイリアン地球規模の戦闘が開始される。
 
 「もっと前の段階なら対話の可能性もあったかも知れない。
 だが、もう無理。マジ喰えねーーーよ!!!」


 博士は要所要所に登場しパスタを食いながら何が起きているのか解説してくれる。
 異星人側の武器は“海の戦車”と呼ばれるネバネバした白い半球体。大きさは実際の戦車ぐらい。どんな作動原理によるものか一切解らないが、砂浜から続々上陸し世界各地の沿岸を襲い出す。
 主人公は編集長の命により現地で戦車を突撃取材。南スペインの長閑なリゾート地を妻と満喫するのも束の間、夜間上陸した敵の先鋒は観光ホテルの居並ぶ中心部まで進むと、お餅のようにプゥーーーッと膨れ出す。
 なんだこりゃ、と好奇に駆られた人々が近づくと、ぱちんと弾けて無数の白い粘着性のある触手を周囲にバラ撒き、人類ゲットだぜ。(この部分は長新太先生のシュールな挿絵がバツグンにいいので、福音館が最近なんでか復刻した挿絵付きバージョンもご参照ください。)
 主人公は触手に掴まれた妻を救おうとして悪戦苦闘。リーダーをやっていたバカ博士も後生大事なヅラを持っていかれる。
 唯一挿入される派手でSFらしい場面だが、実のところ、主人公がアクションらしいアクションを演じるのはこの場面だけ。それも一方的に襲われて、からくも命が助かるという情けなさ。取材チームは博士と夫婦を残して全滅。悲惨極まりない。
 
 (ちなみに捕獲された人々は、餌にされるとも研究材料として解剖されているとも考えられるが、真相は最後までわからない。生還者がいない以上、かなり悲惨なことになっているのではないか。と想像力の余地を残すあたりに、ウィンダムの奥ゆかしい巧さの本質がある。)
 
 既にこれが『インデペンデンス・ディ』だったら大統領が潜水艦で突撃を敢行しているレベルだが、話はこれで終わらない。
 “海の戦車”は戦闘機による爆撃など肉弾攻撃で倒せるので、政府は徐々に事態を収拾しつつあったその年の冬。極地付近で観測される氷山の量が例年になく増えている。気候も変化し、いつも薄曇り。気温は上がらず作物に甚大な被害が出た。
 南極・北極にターゲットを定めた敵が海底で核融合反応を起こし、極地の氷をジャンジャン溶かし始めたのだ!
 世界各地の海水面はどんどん上昇。テムズ河の堤防も危険水域を越えて決壊。ロンドンは海の底に沈んでしまう!
 
再び猛威を揮い始める“海の戦車”。人間の生きていける陸地はぐんぐん狭まり、食糧危機、燃料不足、住宅問題、治安の悪化と政府組織も致命的なダメージを受ける。
 報道も電力もやられ、主人公は首都圏を脱出し、別荘に籠城。
 食糧も水も尽きかけて最早これまで、と思われたとき、空からヘリコプターが飛んできてバカ博士がパラシュートで落下。再会を涙で喜び合う三名。
 
 「やったぞ!最悪の状況はこれで終わりだ。
 新兵器が開発されたんだ!」

 危機的状況に燭光を見出したのは、チンチクリンの日本人科学者が作り出した超音波掃海装置。
 超音波を当てると敵が溶けるのを確認した、と言い張っているらしい。

 「え?マジ、大丈夫なんすか、ソレ?」
 「さぁー・・・?
 俺も自分で確認したわけじゃないからなー。
 ま、多少の期待は出来るんじゃないの?


 ・・・じゃ、そろそろ迎えが来たんで、俺帰るわ。」

 博士はヘリに乗って帰って行ってしまった。 

【解説】

 ウェルズ『宇宙戦争』のバリエーションとして構想されたこの物語では、戦争記事の報道を読むように世界各地の事件が連鎖し、主人公が次々それを取材していくという、心霊ドキュメンタリーなんかでもよくある形式の元祖的存在。

 従って、真の主役が地球。規模でかすぎ。

 対比される無力な一個人が、世界の命運を変える大活躍などそうそう出来る訳がない。これが50歳を迎えたウィンダム(従軍経験有り)の冷静な認識だったのだろう。その感じ、佇まいが明らかにラッパーよりもクール。
 
私の大好きな「人類皆殺し」テーマの金字塔的作品として、今夜お前にレコメンド。
 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2012年4月 3日 (火)

友利卓司 『子供失格①』 ('12、双葉社ACTION COMICS)

 超人ってなんだ。
 正義の人、人倫を越えた大義を実行する不屈の人とは?
 
 それを考えろ。
 問え。

 
 真のヒーローとは余人を素手でねじ伏せる超越的存在。すなわち地上に降りた神。
 
 そんな人間の理解力を遥かに越えたパワーのオーナーをビジュアルで表現するには、どうしたらいいか。
 常人を越える筋肉の持ち主は、それだけで神に近いのではないか。
 圧倒的な破壊力。揺るぎない精神。不動の存在感。男の戦いを描くマンガの主役にはやはりそういう強い主役が欠かせない。
 
 なぜなら、悪の力は余りに強大過ぎるからだ。
 誰も勝てない。
 倒せない。抗えない。
 世界は、悪魔の圧倒的な力の掌中にある。

 
 だからこそ、敢えてそれを受けて立つ正義もまた、誰でも信じられる力の象徴なくてはならない。
 子供でもパッと見で分かる強靭さ。無敵さ。力。

 神を描くことは筋肉を描くこと。

 頑なにそう信じて、今日も突き進む人々がいる。
 私は彼らを笑い飛ばすことが出来ない。
 それは、なんというか、祈りや願いに似たものなのだ。この世に希望というものが本当に存在しているなら、そしてそれがきみにも手の届くものなら。
 戦え。
 世界をあるべき姿に戻すのだ。

 この潮流の始原には、やはりアメコミの影響があったような気がする。
 ご存知の通り、アメコミの歴史は超人の歴史だ。帝王ジャック・カービイの描く男たちはパースが熱量で歪むほどの筋肉を保持していたし、バットマンだって基本マッチョだ。生身の人間な訳だし。
 そして、“地上に囚われた神”スーパーマン。
 彼の話をするなら、「ダークナイト・リターンズ」は読んでおくべきだろう。力は機関車よりも強く、高いビルもひとっ飛び。それがどんなに恐ろしい現実であることか。圧倒的なパワーの前に、人間は翻弄される蟻に過ぎないのだ。
 それから、フランク・フラゼッタの神話的筋肉やボリス・バレイホーの男性誌グラビア的な筋肉描写。あるいはコーベンの『DEN』。

 ジャパニーズ・筋肉コミックがこれらの土壌と関連あったり、なかったりで独自の発展を遂げてきた事実は、今回はあまり重要ではない。
 大切なことは、過剰な筋肉描写が「正義」というものの追求の過程で生み出されてきたことだ。
 だから、『子供失格』は、一見良く似て見えるふくしま政美や宮谷一彦の系列に連なるというよりも、バトルを繰り広げる異常筋肉、原哲夫や80年代ジャンプのテイストに直接の影響を受けている。

 ひたらすら殴って殴って殴りまくる。何の為に?
 「悪い奴はぶっ飛ばしてやる。」
 
その為だけに、だ。

 かつてそう言いながら、戦いの場へ赴いて行ったヒーローたちを何人見送ったことか。
 「殺す」のではなく、「ぶっ飛ばす」。
 これぞ、子供も読めるマンガが長年培った共感を呼ぶ主人公のアチチュードである。誰も殺人鬼を見たい訳ではないのだ。川島のりかずの愛読者以外は。
 結果として相手が死んでしまっても、結果オーライ。
 主人公が正義を実行するのに、然るべき理由があればいい。
 怒りは重要なファクターである
 それが、正統なものであるならば。
 悪は断固として滅ぼさねばならない。
 
 よくしたもので、この世には(銀行屋みたく)誰が見ても悪い奴というのが必ず居て、主人公の仲間に非道な仕打ちを仕掛けて来る。

 罪もない人を餌として、U.M.A.に喰わせる奴は、絶対悪い。
 どうしようもない極悪人だ。
(そんな奴滅多に見かけないが。)

 そこに生まれる主人公の怒りは、丹念に物語に付き合ってきた読者には容易に共有され得るもの。
 筋肉が異常発達した5歳児が、凶悪すぎるU.M.A.とガチで戦うマンガ。
 そんな異常設定だからこそ、正統なエクスキューズは必要だ。

 「悪い奴らめェェェ・・・!!!
 絶対に、許さないゾォォォ・・・!!!」


 もっともこの作品においては、物語性を萎縮させるほど筋肉バトルに対する愛情が炸裂しまくっているので、子供が素直に納得してくれるかどうか、実のところ疑問だが。
 愛情が注がれ過ぎて、画面は「読みづらい」の域に達しちゃってるし。(だが、これはこれで、実に美しく、正しいのである。)
 
 野原シンノスケの物真似をしているようなつまらんクソガキが、トーマス・テスラくん(5)の影響を受けて全力でバトルポーズをキメてくれるといいのにな。
 アニメ化希望。
 「クレしん」の枠でやってくれ。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2012年3月 | トップページ | 2012年5月 »