エドマンド・クーパー『太陽自殺』 ('66、ハヤカワSFシリーズ)
題名が非常によい。くすぐられる。
『鉄腕アトム』に影響を受けた団塊の世代が集団で次々太陽に飛び込む話かと思ったら、そんなワケはなく、異常な太陽黒点から放射される自殺光線の影響で人類が絶滅の危機に瀕する、というバラードとウィンダムの中間線をいくイギリス人作家らしい破滅テーマの作品だった。
原題はちなみに“All Fool's Day”、これに『太陽自殺』と名付けたのは平井イサクと編集部である。やるなぁー、イサク。アシモフ『永遠の終わり』とか訳してる人だよね。イサクは木を伐る。一応言っておく。
(※註・明白な嘘。翻訳は『呪われた村』でお馴染み、林克己先生。)
【あらすじ】
主人公は、Dと同じく鬼嫁に逆らえない男。策謀家の嫁は取引先の富豪と寝たりして、夫の地位向上に日夜努めている。お陰で毎晩パーティー、パーティー。欲求不満はつのるばかり。
遂にブチ切れた主人公は、突然の自殺衝動に駆られポルシェで暴走。橋の欄干に見事激突し、憎い嫁は無惨に即死、自分だけチャッカリ無傷で助かってしまう。心神喪失が認められた主人公、大幅に減刑されたムショ勤めを終え、数年で娑婆に舞い戻って見ると、世間は空前の大自殺ブーム。
太陽黒点の異常により、自殺衝動を起こさせるオメガ光線(仮名)の放射量が増大。全地球規模で毎日何万人の犠牲者が出ていたのだ。
かろうじて形骸を保っていたイギリス政府も直ぐに分断され、やがて秩序は崩壊していく。
光線の影響を受けなかったのは、もともと狂っていた異常者たち、狂信者・誇大妄想狂・白痴・殺人狂などなど。かくて文明の完全に瓦解した世界で、前代未聞の狂人相手のサバイバルレースが幕を開けた・・・!
【解説】
登場人物が全員キチガイ揃いという設定は、作家として非常にいさぎよい態度であり、爽快ですらある。
自分の出したうんこを、そのまま手に掴んで投げつけ武器にする連中ばかりが出てくるのかと思い、ワクワクしながら読んでいくと、気違い天国の話は割と早めに打ち切り、意外と建設的な方向へ話が転がり出したのでガックリきてしまった。
どうも、超利己的で他人のことなど一切思いやらない主人公が、ほんの気まぐれで野犬に喰われそうになっていた女を助けたのが良くなかったようだ。
最終的に、遊び呆けるディレッタント揃いの村人を先導して理想郷建設のために立ち上がる新時代の英雄になってしまった。とはいえ37歳、白髪多し。逞馬竜の万分の一の生命力も感じさせないのであるが。しかも周りに自分を「将軍様」と言わせるなんて、どっかの国のパクリだしなぁー。
それでも母子相姦を繰り返して、犬も人肉も喰らい、誰とも交際しない村の若者とか、期待通りの感じのいいキャラもちょっとは出てくるので、一度読んでみる価値はあると思う。
とことんダメな人達が案の定どんどん死んでいく話に終始してくれれば、あるいはカルト化していたかも知れないのに惜しいことをした。
主人公と彼女がバカ過ぎる若者集団にハントされ、相手の靴を舐める展開が『わらの犬』、つまりはペキンパーチックでグー。
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