キース・ローマー『タイムマシン大騒動』 ('64、ハヤカワSFシリーズ)
結論としては、あまり大した騒動にはならなかった。
この点はまず最初に指摘しておくべきだろう。
タイムマシンは酷く危険な代物だ。正しく使えばこの宇宙に究極の破壊を齎すことだって出来るのだ。
考えてもみたまえ。
時間の流れをコントロールする?物質や人間を時間の壁を越えて移動させる?
どれほど莫大なエネルギー量を操作すれば、それが可能だというのか。殆どこの宇宙全体の運動量に匹敵するような巨大な力を必要とするのではないか。
例によって根拠は何もないが、私は勝手にそう思っている。事の真相は既にお見通しだ。
だから、この本の中で、先代がつくった屋敷よりまだでかい巨大コンピュータが登場したとき、そのコンピュータが過去を精巧に再現する機能を持ち合わせている、つーか、「実はその正体はタイムマシンでしたー!!」と判明したとき、私が真っ先に考えたのは、
「こりゃ、さぞかし電気代がかかるぞ!」
という確信めいた予感だった。
もっとも、これは万事都合のいいユーモアSFであるからして、超電力を供給する超東京電力が絶対安全な超原子力発電所を超高速で回転させて超適正価格でお届けしてくれるのであろうが。(そういや、諸君、現在は二十一世紀なのだったね。)
いずれにせよ、タイムマシンの登場する小説はすべて胡散臭い。腐臭が漂っている。
これは、ウェルズ先生が「時間の壁を越える装置」を思いついてから百年、いろんな連中が寄って集ってひねくり回し、あらゆる可能性を虱潰しに残らず絞り機に掛け、ギリギリと一網打尽にしていった結果だろう。
もはや、カスも残っとらんよ。ぷんすかぷん。
(それでも、『クロノリス-時の碑-』のメインアイディアはイケてる気がする・・・20年後の未来から巨大な戦勝碑文が送り込まれて来る・・・都市を、文明を破壊しながら・・・ヴォークトが同じアイディアで書いてたら即買いなのだが・・・)
さて、本書に登場するコンピュータは神にも等しい能力の持ち主で、知らぬまま親の遺産を受け継いだ主人公に、次々と奇跡のような洞察力を披露する。
「俺の100代前の先祖はどんな奴だったんだ?」
「この人物は“るいれき病みの目くそ爺い”という呼び名で知られていました。八十歳の時に、強姦の廉で死刑になったのです。」
「強姦未遂だろ・・・?」
彼は期待を籠めて尋ねる。
「強姦です。」コンピューターはキッパリと断言した。(本書32ページ、平井イサク訳)
人工衛星すらハッキングできるこの万能機械にお膳立てされて、主人公達は様々な時代を無意味にうろうろする。特に行動に意味があるわけではないので、“うろうろした”としか表現しようがない。原始時代、ピンクの制服の警官が飛んで来る近未来。文明と荒廃が同居する遠未来。どれもたいして面白くない。
それでも調子よく読ませて、「あ~、たいしたことなかったな!」と最終的に思わせるローマーという男、物凄い策士なのかも。あるいはひょっとしてプロットを立てる手間隙を惜しんで書き飛ばす、単なる面倒臭がりなのかも知れない。やはり何も考えていないのか。
それを証拠に、タイムマシンの捲き起こす大騒動は実際たいしたことがなかったが、その結果、主人公とPCのスピーカーが結婚してハッピーエンドという超適当すぎるオチがついたので驚いた。
ハリイ・ハリスンの『銀河遊撃隊』を思わせるうそ臭さ。わかっとる、わかっとる。
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