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2012年4月 3日 (火)

友利卓司 『子供失格①』 ('12、双葉社ACTION COMICS)

 超人ってなんだ。
 正義の人、人倫を越えた大義を実行する不屈の人とは?
 
 それを考えろ。
 問え。

 
 真のヒーローとは余人を素手でねじ伏せる超越的存在。すなわち地上に降りた神。
 
 そんな人間の理解力を遥かに越えたパワーのオーナーをビジュアルで表現するには、どうしたらいいか。
 常人を越える筋肉の持ち主は、それだけで神に近いのではないか。
 圧倒的な破壊力。揺るぎない精神。不動の存在感。男の戦いを描くマンガの主役にはやはりそういう強い主役が欠かせない。
 
 なぜなら、悪の力は余りに強大過ぎるからだ。
 誰も勝てない。
 倒せない。抗えない。
 世界は、悪魔の圧倒的な力の掌中にある。

 
 だからこそ、敢えてそれを受けて立つ正義もまた、誰でも信じられる力の象徴なくてはならない。
 子供でもパッと見で分かる強靭さ。無敵さ。力。

 神を描くことは筋肉を描くこと。

 頑なにそう信じて、今日も突き進む人々がいる。
 私は彼らを笑い飛ばすことが出来ない。
 それは、なんというか、祈りや願いに似たものなのだ。この世に希望というものが本当に存在しているなら、そしてそれがきみにも手の届くものなら。
 戦え。
 世界をあるべき姿に戻すのだ。

 この潮流の始原には、やはりアメコミの影響があったような気がする。
 ご存知の通り、アメコミの歴史は超人の歴史だ。帝王ジャック・カービイの描く男たちはパースが熱量で歪むほどの筋肉を保持していたし、バットマンだって基本マッチョだ。生身の人間な訳だし。
 そして、“地上に囚われた神”スーパーマン。
 彼の話をするなら、「ダークナイト・リターンズ」は読んでおくべきだろう。力は機関車よりも強く、高いビルもひとっ飛び。それがどんなに恐ろしい現実であることか。圧倒的なパワーの前に、人間は翻弄される蟻に過ぎないのだ。
 それから、フランク・フラゼッタの神話的筋肉やボリス・バレイホーの男性誌グラビア的な筋肉描写。あるいはコーベンの『DEN』。

 ジャパニーズ・筋肉コミックがこれらの土壌と関連あったり、なかったりで独自の発展を遂げてきた事実は、今回はあまり重要ではない。
 大切なことは、過剰な筋肉描写が「正義」というものの追求の過程で生み出されてきたことだ。
 だから、『子供失格』は、一見良く似て見えるふくしま政美や宮谷一彦の系列に連なるというよりも、バトルを繰り広げる異常筋肉、原哲夫や80年代ジャンプのテイストに直接の影響を受けている。

 ひたらすら殴って殴って殴りまくる。何の為に?
 「悪い奴はぶっ飛ばしてやる。」
 
その為だけに、だ。

 かつてそう言いながら、戦いの場へ赴いて行ったヒーローたちを何人見送ったことか。
 「殺す」のではなく、「ぶっ飛ばす」。
 これぞ、子供も読めるマンガが長年培った共感を呼ぶ主人公のアチチュードである。誰も殺人鬼を見たい訳ではないのだ。川島のりかずの愛読者以外は。
 結果として相手が死んでしまっても、結果オーライ。
 主人公が正義を実行するのに、然るべき理由があればいい。
 怒りは重要なファクターである
 それが、正統なものであるならば。
 悪は断固として滅ぼさねばならない。
 
 よくしたもので、この世には(銀行屋みたく)誰が見ても悪い奴というのが必ず居て、主人公の仲間に非道な仕打ちを仕掛けて来る。

 罪もない人を餌として、U.M.A.に喰わせる奴は、絶対悪い。
 どうしようもない極悪人だ。
(そんな奴滅多に見かけないが。)

 そこに生まれる主人公の怒りは、丹念に物語に付き合ってきた読者には容易に共有され得るもの。
 筋肉が異常発達した5歳児が、凶悪すぎるU.M.A.とガチで戦うマンガ。
 そんな異常設定だからこそ、正統なエクスキューズは必要だ。

 「悪い奴らめェェェ・・・!!!
 絶対に、許さないゾォォォ・・・!!!」


 もっともこの作品においては、物語性を萎縮させるほど筋肉バトルに対する愛情が炸裂しまくっているので、子供が素直に納得してくれるかどうか、実のところ疑問だが。
 愛情が注がれ過ぎて、画面は「読みづらい」の域に達しちゃってるし。(だが、これはこれで、実に美しく、正しいのである。)
 
 野原シンノスケの物真似をしているようなつまらんクソガキが、トーマス・テスラくん(5)の影響を受けて全力でバトルポーズをキメてくれるといいのにな。
 アニメ化希望。
 「クレしん」の枠でやってくれ。

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