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2012年4月22日 (日)

ほりほねさいぞう『ニクノアナ』 ('04、一水社)

 特殊な趣味のマンガというのは目を凝らせば書店の隅に埋もれているもので、興味本位に単行本を購入して来ては「ウゲッ!」と言ったり、「げろろ!」と呻いたりしている。

 既に別記事で書いたが、私はマンガを雑誌掲載で追わないタイプだ。面倒臭がりなのである。
 では、どうするかというと、勘で単行本を引い抜いてきて一冊まるごと読む。雑誌でよくある連載の引きというのが嫌いだし、そもそも16ページ一話こっきりでそのマンガの値打ちが正確に測れるとも思えない。伏線もわからないし、展開だって目まぐるしい。だが、不思議なことに。
 例え大河巨弾連載で巻数が何巻積み重ねられていようとも、単行本一冊分くらい読めば、だいたい何か解った気になってしまうのだから、いい加減なものである。大して、変わらんだろうに。
 自分の読書ペースに一番合っているのが、マンガの場合、単行本一冊分ぐらいだということなのだろう。キャパ、ちいさっ。
 そこで、一冊読んで、なにか拾い出してみて、さて、では記事を書こうかなーっと、毎回こういう段取りになっているわけだ。私の頭の中では。

 世のエロマンガには、実のところ、二つの種類しか存在していない。
 使えるマンガと、使えないマンガと。


 ほりほねさいぞうのマンガが後者に属することは最初から明らかであるが、アメリカ型経済の原則に反し、使えないマンガが即無価値と判定されるわけではない。
 ここがマンガの面白いところだ。ひばり書房だって、恐怖マンガとしてはまったくダメじゃないですか。でも別の意味で凄い。興味深い。面白い。
 エロマンガ界でいえば、町野変丸・町田ひらくとかの系列ですかね。町、町の連続ですけど(笑)。実用性以外の方向へ最初から転げ落ちてしまっている作家さんたち。
 偶然にせよ故意にせよ、ふとした思考のやばい部分を拡大して作品にしちゃってる感じ。詳しくはまた別に取り上げますけど、なんかね、脳内に空白地帯をうっかり見つけてしまったような怖さがあるんですよ。読んでない人にはわかりにくいでしょうが。
 でも、これからオナニーしようとしている中学生的には全然関係なくて、最低のキモキモ野郎なわけでしょ。
 意味わかんねぇし。
 そんなの、実際求めてねぇし。


 だが、世のマンガが機能だけで単純に割り切れるようだったら、とっくにマンガ産業なんか滅亡してたって思いますよ。膨大なコンテンツを後に残して。
 オナニーしたい人にはオナニーマンガを、料理したい人には料理マンガを。
 これは商売の考え方として基本で、1mmも間違ってないですけど、それが事の全てではない。そんな甘い料簡で『包丁人味平』が出来ますか。
 マンガというのはつまるところ、膨大な無駄の集積体なんだと思うよ。この世の汚穢が流れ着く場所。諸星先生的に言うなら、忌が浜ですよ。妖怪ハンター。マンガ家ってのは全部あれなんだと思う。
 余談ついでに電子書籍の問題が妙にクローズアップされる昨今の情勢だから敢えて申し上げておきますが、重要なのはアーカイブでもなければコンテンツでもない。
 一番大事なのは、まだ描かれていないマンガだけですよ。
 それを肝に銘じた上で復刻にいそしんで貰いたい。社長としては。既存の資産を食い潰すんではなくてね。お願い。

 さて、話が大分逸れた。
 ほりほね4冊目の単行本『ニクノアナ』には、巻末に作品リストが付属していて、この手のジャンルでは珍しいことだけど、'95年のデビューからこの本が出た'04年までの作品タイトルと掲載誌を辿ることが出来る。
 掲載誌・・・凄いですよ。ちょっと並べましょうか。

 【桜桃書房】
  「チェリームーンSuper!Vol.6」 「秘密の地下室Vol.2」
  「ねこ耳っこくらぶ2」
 【三和出版】
  「フラミンゴ漫画大賞作品集Vol.4」
  「アイラ・デラックスVol.22」
 【茜新社】
  「ラストチャイルド2 入院少女」
 【笠倉出版社】
  「小萌Vol.5」
 【東京三世社】
  「自虐少女Vol.10」 「コミックリトルピアス2003年1月号」
 【一水社】
  「暗黒抒情Ⅳ」
 【光彩書房】
  「知的色情Vol.3」 「Hのある風景」
  「イケナイ少年遊戯2」「manga純一 1998年6月号」
  「激しくて変Ⅲ」
   
 ・・・とね。知ってる本、ありました?あらま。
 しかし、どうです、見事に暗黒一色でしょう。書き写してて、なんかこっちも、どんよりしちゃいましたけどね。 
 これらは大半がオリジナルアンソロジー本の形態になっていて、なんでって、そりゃエロオンリーで連載転がして毎週毎月やってくのは至難の技な上に、読者様の知的レベルは最低ランクを想定しなくっちゃならない。抜けりゃOKってんだから。
 いきおいストーリー主軸ではなく、エロシーン主体の書下ろし短編が雑誌の基本となり、でも、それじゃ何の本だかわからないから、テーマアンソロジーみたいな括りを設けて売りを図る。
 エロ総合誌的な、なんでもありの編集はできないわけです。マニアの棲み分けは既に終わってしまってるんだ。
 いわば、人間の性癖の数だけジャンルが細分化され、対応ツールが存在しているのがエロ本の世界の基本構造。写真系も含めて。Dみたいなおむつ好きには、おむつ好きの専門誌が存在しているわけ。親切このうえなし。
 裏を返せば、これほど排他的な世界も、またとない。ロリはロリ、熟女は熟女。絵柄や世界観の根本が別物。なにも難しい話ではなくて、実のところ、70年代劇画にルーツを持つエロと、80年代アニメ絵によって描かれるエロの二種類しか存在しないということなんですが。
 でもそれですべてを割れないのが、ジャンルの奥の深いところ。

 先の如く掲載誌を並べていけば、ほりほねがどういう作家だかおおよそ大体はイメージできるかと思いますが、王道のノーマルな作家さんとは頭の構造がちょっと違う。
 へんです。
 それも、単純に分類しにくい方向に、へん。

 具体的にどこがどう違うのか、短編を一個紹介してみましょう。

【あらすじ】

 この世界に於いては、性器は自由にサイズを変えられるし、付けたり外したり、相手から貰って増やしたりできる。
 
 したがって、男女の区分も曖昧であり、チンコを体内に収納して女性器の如き形状に見せかけることも可能である。
 おっぱいも、念じれば膨らむ。他人でも、自分でも。意のままに。そりゃもう、部屋いっぱいになる大きさまで。意地悪して乳頭だけを異常に腫らすことだって簡単。頭より大きくだって。

 彼らの共通点は、稚く、幼いということ。
 そして、締め切られたマンションの一室で終始異常なセックスばかりしている。


 捕獲された少年が少女に先導されてマンションにやってくる。
 誘惑されついつい痴漢行為を働いたばかりに、少女の不可思議な能力によってチンコをホース状にぐるぐる伸ばされてしまったのだ。
 
登場1コマ目で、既に彼の性器はズボンから着ているコートの喉元を通って、少女の首に捲き付き、ちゅぱちゅぱと亀頭部分をおしゃぶりされている。ちなみに少女の左手は少年のコートのポケットに突っ込まれ、股間に伸びているから、睾丸周辺を執拗にいびられているのは確実だ。

 「ただいまー」

 少女は日常的な動作で扉を開けると、首にペニスを巻いたまま靴を脱いだ。

 「これ、もっと伸ばしちゃおっか?」
 「え?」
 「えーーーい、のびろ、のびろ、のびろ・・!」
 
 ずるずる伸びて数メートルの長さになり、床にとぐろを巻き出すペニス。少年は早くも悶絶し涙目に。何処までも伸ばされる快感に、びゅるっと射精。はっ。びく。びく。

 「ホラ、あんたのチンコよ。舐めてみる?」

 少女は肩にそれこそ消防士のようにペニスのホースを担いで、床に膝立ちになり発射後の余韻に喘いでいる少年に命令する。
 仕方なく自分のどろどろの先端部を口に含む少年。れろれろ。
 言うことをきかないと、伸びに伸びたチンコを元のサイズに戻して貰えないのだ。

 「じゃ、そこでズボンを脱いで。」
 「あい。」

 伸びたペニスを手綱のように引っ張られ、洗面所の方へ。角を曲がる途中で、何か異様に生暖かい感触が、見えなくなったペニスの先端付近を包み込んだ。
 慌ててお手洗いのドアを開けると、便器の上にしゃがみ込んだ下半身丸出しの若い女がまんこの中心部にチンポの先を突っ込んでいるではないか。ずぷぷ。

 「へー、可愛いの、引っ掛けたねー。」
 「いいでしょ?」

 成り行きで女と性交することになる少年。トイレの便器の上にしゃがんだ女なんて嫌だなぁー、と思うが、既に先端は膣内奥深く飲み込まれている。
 この女、よく見ると両乳首が異様にでかく膨らんでいる。どっちも腕ぐらいの太さ。うえぇ。気持ち悪。
 先方はまったく意に介さず、
 
 「長さ40~50cmにして、太くしてよ。」

 少女に細かいオーダーを出す女。応えて縮めて、太くなる陰茎。
 一見ノーマルな性描写に移行したかのように思われるかも知れないが、少年はたぶん小学生のチビ組か中一くらい。女はだいたい高校生くらい。子供をだっこする格好で対面立位とは異様極まりない。

 「いくよ。」

 あっさり言い放つ女。このへんのフラットな感じがたぶんこの作者の特性なのだ。流線による視線運動や、飛び散る汗・体液の描写は他の短編では登場するのだが、ここでは抑えられている。それはたぶん、異常行為の平明さを強調するためだ。

 「お風呂、ここ。」

 平然と隣の部屋の扉を開ける少女。少年を抱きかかえたまま女が入っていくと、その部屋には風呂桶からはみ出すレベルにまで肥大したチンコにうつ伏せに跨り、巨大すぎる両の乳首からからどろどろの母乳を噴出させているおさげの少女がいた。
 背後に廻った巨大チンコの持ち主の別の少女が、取り外した一本のペニスをディルドー代わりにケツ穴に突っ込んでほじりまくっている。

 「はひ。はひ。」
 「あ~、おかえり~!」


 風呂場を埋め尽くす巨大な肉茎を眺めて、少年が戦慄する。

 (えーーー?!なにコレ?まさか・・・チンコ?)

 母乳を垂らすおさげの少女が跨っているのは、ソファーのクッションみたいに巨大化した皺だらけのタマタマだ。
 膨張しまくった陰茎をクッションに寝かされ、

 「なに、コイツが今日のエモノ・・・?」
 「みたいよ。カワイイわよ、ホラ。」
 「コイツもきっとおっぱい似合うよ。つくろ。」

 服を捲くり上げ、胸を鷲摑みにされる少年。傍らの女が念じると、ぐぐぐんと膨らみ出す胸。たちまち乳房の形状に成長。
 少年の太くなったペニスを依然嵌め込んでいる若い女は、サディスティックな笑みを浮かべ、

 「乳首だけムチャクチャ大きくしよ。」
 「オッケー!」


 どどめ色の棒杭のように肥大する乳首。

 (あぁ~・・・)

 見つめる先に女の膣口に飲み込まれた自分の肉茎があり、ゴポゴポと音を立てながら白いあぶくを吐き出し続けている。

 (乳首大きくされて、射精している。きもちいい・・・)

 世慣れた諸君は既に御承知のとおり、世の中には自分の乳首を育てて快感の増大を追及するマニアの方々がいる。お手軽な吸引器が売られ、洗濯バサミ、ピアッシングまで含め、乳首の生み出すあらゆるファッシネーションをその道限定で極限まで高めようとあくなき努力を繰り返して、遂にはお天道様の下には決して出せない、ベロンと垂れて異様に肥大しまくった超イボ乳首を創り上げてしまう天才肌の職人たちがいる。
 (簡単に言いますと、彼等は決してプールには行けません。)
 さて、そんなマニアな乳首の快感を堪能、存分に射精し力尽きた少年は、これでやっと勘弁してもらえるかと思ったら、またも不思議な力でキンタマを巨大化され、たぬきもビックリの大型バランスボール状態となり、どくどくどく無制限に精液を放出できる珍しい身体に改造されてしまうのでありました。
 
 ・・・いい加減、コマを忠実に追いかけるのも飽きてきたので、後は適当にフォローするが、少年が異様な連続放出に陶酔している間に、傍らでは舌を肥大させて太く伸ばした女がレズりながら性器を舐め、外陰唇を尖らせペニス状に変形させた女がまんじゅうの如く膨らんだ肛門に挿入。女が女に突っ込み、少年がすっかり女化して責められ、性別の区分、受け手と送り手の立場も曖昧となり、3Pが4Pかそれ以上に連鎖、収拾がつかなくなったところへ近所の犯し屋のお兄さんたちが乱入。
 チンコを縮められ女性器の形状にされた少年は、見知らぬ男連中に犯し抜かれ、

 「あ、前穴の奥で縮んだチンコと、先端同士がごっつんこ・・・!」

 ブランニューな感覚に酔いしれ繰り返し失神、射精回数自己ベスト更新。翌日の昼ごろまで異常な性の遊戯に耽る羽目になるのであった。いと、おかし。

【解説】

 以上16ページ、あらすじも脈絡もないまま、濃厚かつ尋常でない性行為のコンボが噛み合わない最小限のモノローグの連鎖だけで押し寄せてくるので、初見では一体何が起こっているのかさっぱり解らない。
 異様なエロい事態が発生していることだけは理解できても、作動原理が人倫を軽く越えているため、読者は乗りかかった船をあっさり外され、海へドボン。「なんだこりゃ」感だけが妙に後に残る。絵柄は平均的で別に癖のあるもんじゃないんだけど。ある意味サービス過剰。
 通常のエロ漫画家がキメのひとコマ、それだけで抜ける究極のワンカットを目指してコマを進めていくものであるとすれば、ほりほねの方法論は性に纏わる様々な奇妙さを持続させる方向に全精力を傾けているように思われる。一回の射精が目的では無く、エクスタシーの持続、狂熱状態を如何に維持するかというのが最大の要なのだ。その為には性別のくびきも簡単に外してしまうし、人体だって容易に改造される。
 この本に入っているその他の短編では、腸内に食用の寄生生物を繁殖させている少年とその種付けをする少女との性交を描いたSFチックなものや、殺した同棲相手の身体から生えてきたペニス状の茸の群れに全身を侵略され精子のように肉汁を放出させながら菌糸の塊りに成り果て消えていく女の末路を描いた、伊藤潤二を髣髴とさせる微妙にホラー寄りのもの、あるいは妻の体内の寄生虫をお湯に浸して切れぬよう引っ張り出して晩飯のおかずにする変態夫婦を描いたものなど、多種多様に嫌な感じのネタをクルクル使ってみせてくれる。
 そこに描出される風景の異様さ、奇妙な何にも無さ加減は、絵柄も相俟って黒田硫黄のようでもあるし、一連のガロ系マンガを容易に連想させたりもする。
 欲望に満ち満ちている筈なのに、妙に乗り切れない感じ。感覚が共有できなければ、それも仕方ないだろ。
  
 ともかく、持続する快感の探求。そいつは変態への早道だ。
 今日はこれだけ覚えて帰ってちゃぶだい。

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