清水崇『呪怨-THE GRUDGE-』 ('04、ヘラルド)
「ドラえもん。」
「え?」
夕暮れの交差点でふいに呼びとめられた、古本好きの好青年スズキくんは振り返った。
辻占いの易者に仮装して、もっもらしく筮竹を握っているのは御存知古本屋のおやじだった。
行過ぎる人の動きが慌しい。
「あんた、何やってんですか。新人入学、入社のこの時期にたそがれて?
伊藤潤二『死人の恋わずらい』のコスプレですか。」
おやじ、耳も貸さず、
「最近、新しいドラ映画のタイトルを考えるのにハマってるんだよ。
なんか藤子F亡きあと、どんどん適当になってる感じがするだろ。俺が責任持ってなんとかしようと思って。(突如、大山のぶ代の声色となり、)
『ドラえもん・のび太と悪魔のいけにえ』。」
「まったくもう、暇人にも程がある。『のび太の列島改造論』とかどうですか。」
「平凡だな。(再び、のぶ代で)
『ドラえもん・のび太のトルコ行進曲』。」
「あるいは、『のび太と夢の泡姫さま』ですか。うーん、アジアの子供、泣いちゃいますね。」
「勿論いつもの如く、泡の国から来たお姫様が上に下にの大騒動!最後は、故郷に帰らなくちゃならなくなって、涙のお別れも欠かせない場面だなー。
当然、ジャイアンも一肌脱ぎます。」
「脱ぐなよ。」
「でも、藤子Fタッチの美少女造形で泡姫さまが見られるんだぞ!ある意味、マニア垂涎!夢の映像だ!ダイナマイトもプッツンだ!!」
「・・・誰ですか、それは?
それよか、『呪怨』の海外版リメイク観たんでしょ?出来はどうでした?」
「いや、3本1000円セールでつい買ってしまったんだけど。
本当にリメイクなのなー。主役を外人にしただけで、舞台は相変わらずあの家だし。
中味はこれまでの傑作場面を繋ぎ合わせたダイジェスト的なもので、柳ゆうれいが演ってた小林君の役が外人のおっさんに置き換わってて、そこに凄い無理を感じました。」
「日本語で恋心綴ってますもんね。相手は絶対読めねーだろ(笑)!
実はボクも、こないだまで狂ったようにJホラー観捲くりのブームの日々がありまして。『着信アリ』まで観ちゃった。」
舌をペロリ。
「裏切り者。それで、なんで俺の貸した『赤い影』観ないんだよ?」
「いえ、ボク、外国の映画だと、誰が誰だか見分けるのが異常に苦手でして。まぁ、いいじゃないですか。」
「ま、いいや・・・。
それよか、遂に観たのか、あの作品?」
「あぁ、『邪怨』ですか。・・・いえ、まだなんですけど。」
「ポルノパロディー版『呪怨』。われわれの中では最早名作扱い。誰ひとり実際に借りて観た人もいないのに。
きっと、怨霊逆レイプ物という新ジャンルに属する傑作なんだぜ!」
「そうですね!誰のニーズを満たしているのか、まったく不明なところも最強です!」
「顎なし女の3Pとかあって欲しくないよなぁー!
夫の理不尽な暴力制裁により、強制窒息ビニール処刑された主婦が生前の欲求不満を満たそうと暴れまくる!
三河屋さんから、タラちゃんまで食いまくり!」
「最後イッて、これで成仏したのかと思ったら・・・」
「ムクゥーーーッと起き上がる主婦の遺体!!
呪いはまだ、終わっていなかった!!
ここで、“『邪怨2』へつづく”の文字が出ておしまい!」
「で、なんかよくわからない暗いJポップが流れてエンドクレジット・・・って、実際本当にこんな内容だったら、どうしたらいいんですか?!」
「真実を知るには、実際観るしかないんだよ。ホラ、行け!俺は遠慮しとくけどな!」
「こういうタイプの作品って、観る前の期待値を越えた験しがないんですよね。
絶対観ないだろうなーーー・・・!」
「・・・だろうなーーー・・・!」
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