プラスチックス『ORIGATO PLASTICO』 ('80、ビクター)
勘でつくられた音楽にハズレはない。
あなたは技量や理屈、鍛錬が音楽を創り出すのに不可欠だと思っているだろう。そんなのは単なる後知恵だ。大当り馬券を理論化するようなもんだ。
どんな種類の音楽がウケるのか。それこそ、音を出してみなくては解らないではないか。
そういう意味でプラスチックスは重要な試金石だ。
チープなリズムボックスに、アナログシンセ。カタカナ英語をヒステリックに叫ぶ素人ボーカル。立花ハジメのたどたどしいギター。
安い。激安すぎる音楽。しかし、こんなシロモノが格好良く聴こえるのだから、世間は皆んな驚いた。
それを証拠に、当時放映中だった刑事ドラマ『Gメン'75』では、セカンド収録曲「GOOD」をウォークマンで聴きながらローラースケートを履いて人を襲う暴走若者ギャング集団が登場。どんだけ記号的なんだ。凡庸な“ナウ”い流行の集合体。考えた脚本家は立派におっさんで、プラスチックスもウォークマンも本当に嫌いだったんだろう。
しかし、これにピン!ときた私は小学生だったが、お小遣い握りしめて近所のレコード屋さんに行き、『ORIGATO PLASTICO』のカセットを買った。(当時自分のものだった再生機器が、ラジカセしかなかったのだ。)この違和感。不思議な感覚。
テレビの歌番組では決して演奏されないタイプの音楽。
いま聴いてみると、意外とちゃんとしたロックのタームを踏まえているのに気づかされたりするが、「サティスファクション」のリフすら聴いた事がない子供には充分衝撃的だった。
ちょうど従兄弟に貰ったビートルズの赤盤を聴いていたところだったので、「PARK」のキメに挿入される「エイト・デイズ・ア・ウィーク」の一節は理解できたものの、なんでそうなるのかはサッパリ解らなかった。(あれは作曲者の遊び、もしくは一発ギャグである。)
だいたい、この、オリガトってなに?プラスティ子って?
頭の中が疑問符で飽和状態になった私は、取り敢えず川に飛び込み、泳ぎだしたのだった。海の向こうのニューヨークを目指して。
「ニューヨークに行きたいかー?!」
「おぉー・・・!!!」
いまだに、ニューヨークには辿り着いていない。
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