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2012年3月31日 (土)

関よしみ『赤い悪魔の子守歌』 ('85、講談社なかよしKC)

 スパイダーパニックの傑作。驚いた。
 手にするきみもビックリすると思う。「なかよし」連載なのに。
 これ、『黒い絨毯』から連なる正統派の昆虫パニック劇画なのだ。容赦なく人が喰われる展開は、読んでて非常に心地良い。
 最近もございますよね、『BUGS』とか『インセクツ』とか。虫。ムシ。蟲。蟲。みんな大好き。
 いやー、それにしても、庇弱な描線の蔓延る現在の状況から俯瞰すれば、この頃の少女マンガって充分に劇画的な線の太さを持ち合わせているのね。
 桜田吾作かと思いましたもん。ペンタッチの強弱がダイナミックさを生む。そういうゴリゴリの演出。男も女も強かった。この頃。
 しかも、そこへプラスして持ち込まれるのが、少女マンガ独特のクリシェ、カケアミ。フラッシュ。集中線。なんてハイブリッドなんだ。最強コンボじゃないですか。
 ただし、それはそれとしまして。
 関先生もお年頃。男性キャラの描き分けが少々弱いんですが。
 例えば主人公の父親は博士で、国立クモ研究所所長で、立派なアゴヒゲさん。でも、決してヒゲゴジラではない訳です。早乙女博士でもない。線の細い、若々しい外人さん風の二枚目な造形で。
 そこは絶対譲れない。キャラをギャグの領域まで拡大表示する本家ダイナミック・プロと比べると、描き分けに一定の規制(類型的な美意識)が働いてしまう弱点がある。
 ヒーロー役の男の子。研究所職員。学校の男子一同。町の一般市民の皆さん。基本的に同じ体型。頭身。なので区別が面倒な場合はございます。ご注意。
 しかし、よくしたもので、この作品の場合、そうした生真面目さが吉と出ておりまして、端正かつ往年のTV洋画チック。非常に品のいいウェルメイドなB級パニック路線になっております。ゴー!

【あらすじ】

 とある地方の田舎町。公民館では、この度完成した国立生物学研究所の竣工披露パーティーが町長主催のもと、にぎにぎしく開かれていた。

 公民館とはいえ、この町の場合、規模もかなり大きいらしく市民ホールみたいな洒落た雰囲気。実家の近所にあったようなリアル公民館を知る地方出身者としてはいささか解せないものがあるのだが、まぁそんな微弱な細部にこだわっていてもしょうがない。
 研究所の向こう側には、観覧車を持つ一大レジャーランドまで建設中なので、バブル崩壊以前の上昇していた全国地価、地方利権問題と田中角栄といったような、まァそういった関連のどす黒い裏事情がこの町にはあったんでしょうな。
 このへんは、町長が相当なやり手で豪腕の持ち主というキャラ設定に生かされております。意外と無駄がない。

 それでも所詮田舎の公民館。リムジンを駐車場に入れ、パーティー会場へ向かおうとすると、木からドサリと大きな赤グモが落ちてくる。
 悲鳴を上げる娘に、生物博士の父親は説明する。

 「あぁ、こいつは心配ないよ。でかいけど、毒はない。
 おとなしいもんさ!」
 「ふぅーん・・・。」 


 主人公・あゆみは、研究所所長のひとり娘。ドレスアップがまだ恥ずかしい、明るく快活なお嬢さん。
 ママから無理やり着用を義務付けられた、お仕着せのフリフリ付きのお洋服を着てパーティーに参加しておりますと、町長の娘に声を掛けられる。
 高遠美鈴。長い黒髪をちょいとハリウッド風に纏めて垂らし、都会的な雰囲気のいじめっ子。

 「アラ、あなたが所長のおじょうさんね!
 お互い、数少ないこの町の上流階級なんですもの。仲良くしましょうね!」


 ハァ?!階級、あるんだ。実際。
 
唐突な自己紹介に眼を白黒させていると、相手はおっ被せるように傍らに居た男子をすかさずこの場に招き寄せる。

 「そして、こちらのイケメンが医者の息子で生徒会長。地元人気No.1の本命、三上俊サマよ!」
 
 紹介される細いイケメン。黒い背広に長身、サラサラ髪。

 「どーーーも。三上っす。」

 喋りはあんまりイケてないようだ。ホッと胸を撫で下ろす一同。
 頭が若干ピュアなあゆみ、思わず、

 「あら、あなたも上流階級の人?」
 「ヘッ・・・?」


 と、この場へ突如気の狂ったババアが乱入。白装束を胸がはだける程振り乱し、壇上の町長たちに向かい、吠えまくる。関先生のマンガらしい展開に、思わず微笑。

 「あの研究所は、山神さまの社があったところなのじゃぞ!!それを切り崩して、おかしなものを建ておって!!
 さらにレジャーランド建設までとは何事じゃ!!
 いまに山神さまのたたりがあるぞ!!人がいっぱい死ぬぞ!!火の海に呑まれるぞ!!」


 あまりのテンションの高さに、全員、引きまくり。老婆は、駆けつけた孫の美也に取り押さえられ、会場から強制撤去されてしまう。
 美也というのがこれまた、両親のいない貧乏な家の子で、雀斑顔。典型的ないじめられっ子タイプ。
 町長は、まだ中学校に通う彼女をアルバイトとして雇い、家の掃除洗濯から夜のお供までオールラウンドにこき使っていやがったのだ。明らかに違法。でも、金持ち的には当然の行為。
 
 「フゥ・・・驚かしやがって。
 ババアは土蔵に閉じ込めておけといったじゃないか・・・。」


 前近代的な捨て台詞を吐く町長、高遠栄三郎。『奇子』か。
 

 しかし、狂ったババアの怒りはこれくらいで納まる筈もなく、翌日、生物研究所を単身で襲撃。『バイオハザード』並みにハードなババアのアクションが炸裂、所員たちを薙ぎ倒して標本室を破壊。
 博士の研究していた南米産、新種の毒グモ・ミドロンチュラを解放してしまう。
 またしても取り押さえられ、ババアは警察へ。高齢と体調不良を理由に自宅に戻され、保護観察処分と相成った。

 ---それから3日後。

 すっかり、ちゃっかり仲良くなったイケメン・三上と楽しく下校していたあゆみは、裏山へ続く道の分岐あたりで、美也の弟のクソガキに出くわす。
 そろそろ豪快に一発ハメたいと画策していたあゆみは、内心は舌打ちしながらも、うわべはさも親切そうに、

 「どうしたの、ボク?」
 「うちの安が、安次郎がまだ帰って来ないんだッ!!」


 ずっと帰って来ない飼い犬を探して来たのだという。
 仕方なく一緒に探してやるふたり。しかし、苦労の末見つかったのは、見るも無惨な白骨遺体だった!
 骨格標本みたいになった安次郎は、路肩の草叢に隠れて事切れていた。着けてる首輪からして身元確認に間違いはないようだ。

 「ヤスー!!ヤスー!!」
 号泣し、骨を抱きしめるクソガキ。

 「しかし・・・・・・」
 バカキャラとはいえ一応医者の息子、三上俊が、当然な疑問を口にする。
 「迷子になって、わずか3日。こうも見事に白骨化するもんだろうか・・・?」

 遺体とクソガキを引き連れて、この件を美也に報告に行くと、性懲りもなく再び行方知れずとなっていたババアが発見され、看病に大わらわの状況だった。
 またしても破壊活動を目論んでいたのか、研究所の裏山に凶器を片手に倒れていたのを、偶然通りがかった親切な農協のおじさんに拾われたのだという。
 原因不明の高熱を出し、見るからに苦しそうなババアの様子に只ならぬ気配を感じ取るヒロイン・あゆみ。自ら看病を志願するも、患者自身にすげなく断られる。

 「フン・・・!!金持ちの世話になんか、なるもんか!!」

 しょげて家に帰ると、飼い犬ジョンが寝込んでいた。その身体から漂う甘い異臭。
 「クーーーン・・・クーーーン・・・」

 「あ・・・!!
 これ、美也ちゃんのおばあさんとおんなじ匂いだ・・!!」

 
 翌朝。見事な白骨死体と化しているジョン。
 不吉な直感に捉われたあゆみは、涙もそこそこに突っかけ履きのまま、田舎の道路をひた走る。出来たばかりのセブンイレブンの前を抜け、砂利道、田んぼ道。側溝の畝を越え。
 案の定、大方の推測通り、ババアは完全な白骨死体と化して布団に包まり、息絶えていた。
 余りの惨たらしさに泣きじゃくる美也。ギュッと肩を抱き締めるあゆみ。

 「なんなの・・・?いったい、何が起こっているの?!」

 知らせで駆けつけた俊のおやじ、三上医師は首を捻る。

 「わからん・・・・・・。
 原因は、皆目見当がつかん。
 外傷も、死因もなにも、調べようったって、ホトケは既に白骨なんだからな・・・!!
 が、ともかくこりゃ一大事。町長に報告に行こう!!」


 高遠町長は事件の公表を一切厳禁。レジャーランド建設に与える影響を最優先に考慮し、マスコミ関係者へ情報が漏れることを極度に畏れた町長、厳重な緘口令を敷き、警察の検死も現地立ち入り無しの方向、近隣都市の離れた大学病院で行なうよう指示した。

 「たかが老い耄れと、イヌいっぴきに、何をオーバーな・・・」

 二の句の継げない三上医師。
 そうこうするうち、事態はどんどん悪化し、近所の百姓が繋いでいた赤ベコが一夜で骨になったのに続いて、今度は村一番の不幸の超新星・美也が高熱に倒れる。

 「美也ちゃん・・・あなた、まさか・・・。」
 「うん・・・。
 昨日裏山を通ったときに、何かに足を刺されたみたい・・・。」


 その身体から漂う、デンジャラスかつ甘い異臭!こいつは町長もたまらねぇや!
 あゆみは、助けを呼びに医者の下へ走るが、途中異様な気配に足を止める。
 藪の下を蠢く不吉な気配が、ザザザーーーッと今飛び出してきた美也の家の方へ向かったみたいなのだ。
 慌てて駆け戻ると、家の奥から波のような、砂の擦れるような不可解な音が響いてくる。
 ・・・恐る恐る障子戸を開けますと。
 
 布団に転がった美也の身体一面に蠢く、赤いクモの群れ!!
 手足に、胸に頭にびっしりと張り付いて、ザワザワと身をくねらせ肉を噛み千切っている!!
 頭髪を残し顔面の皮膚は殆ど剥がれ、見る見る無惨な白骨死体に・・・!!


 「ギャーーーーーーッ!!!」

 声を限りに絶叫するあゆみ。
 かくて、人類VSスパイダー世紀の大決戦の幕が地方の田舎町で切って落とされた!

【解説】

 この作品に登場するのは、南米産ミドロンチュラと地元産赤グモのハイブリッド。主人公の父親が研究中にうっかり生み出してしまったもの。
 一匹しかいないオスが毒液を獲物の体内に注入し麻痺させ、その匂いに惹かれた雌グモがワラワラやって来て貪り食う。悪辣極まりないうえ、餌を喰った雌は卵を産むから、加速度的にその数が増える。
 3日で1000匹、さらに3日で1000匹×1000匹=1、000、000匹!
(この部分を愉快な関先生は律儀に背景ゴマに計算式を描き込んで笑わせてくれる。)

 自宅を罠に殲滅を図るあゆみの父。オスグモに刺された事から進んで志願し犠牲になって焼死する母。あくまでレジャーランドの夢を諦めない根性と執念の人、町長。でも最後にいいとこ持ってくとか。
 人物の布陣は盛り沢山。180ページの長編には多すぎるくらい。
 『人喰いアメーバの恐怖』の如く、体育館でクモを冷凍攻めにする奇策(使用するのが地元鍾乳洞の氷穴から切り出した氷塊!)まで飛び出して、やりすぎ感満点のアクションは、日本じゃちょっとアレな感じに痛快無比。山の吊り橋大爆破なんかもありますから。千葉ちゃんみたいな。
 犠牲者のバイカーアベックは当然のお約束として、幼い兄妹なんかも絆が固い故に揃ってたちまち白骨化させてしまう非情さなんかも含め、残虐度も高ランク。血みどろが出ないのは、ま、一応女性作家ですんで。

 常に「ヒロインをいかに酷い目に合わせるか」に全精力と情熱を注ぐ、関先生の果敢なる特攻精神の早い段階での達成成果として素晴らしい一冊。
 あ、そうだ。原作 藤本ひとみ。フランス通の。
 
その後の作風を見ますに、シナリオだけ手掛けたって感じですが。

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