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2012年3月12日 (月)

鬼城寺健『悪魔つきの少女』 ('81、リップウレモンコミックス)

 レッツ・鬼ジョージ・グルーヴ!!
 蔓延する腑抜けたマンガの群れに辟易したら、鬼ジョージ先生の細かいネタ使いで楽しい気分になろう。言っとくが、細かいのはネタ使いだけだからな!先生の描線は極太で男らしく、かつワイルドだ。単に雑で汚いだけなのだ。
 ワオ、ワンダフル!!!今夜のダンスフロアはきみのものだ。敢えて言えば、男の独占市場。あまりに雑な。ザッツ・ザ・ウェイ、アバゥ・イット!

 そう、描線から何から余りにアバウトかつ大雑把過ぎる先生の立ち位置は大物感のある人物、例えば、ヒップホップやってる黒人に擬えることが出来る。
 一見凄くカッコ良さげだが、実態は他人の土俵で相撲をプレイしてるだけだったり、クールにキメてるようでいて、実は繊細な情感の表現が苦手なだけだったり。
 しかし、そんなズボラさも当然含めた上で、超クール!今夜ストリートで、ナイキで、キメキメ!マイ・アディダス!エア・マックス!・・・あと、なんだ?

 意外や洋画ネタのサンプリングが多いのも、私の好印象の理由である。
 例えば今夜のお皿は、題名から推察される通り、『エクソシスト』。
 ・・・って、そのまんまかよ!ちょっと、やばいくらいに衝撃的!!
 エクソシストを日本語に翻訳すると、『悪魔つきの少女』になるのね。この邦題でよかったんじゃないかね、日本ヘラルドさん。
 しかし、さすがの鬼先生もあまり単純過ぎては中学生にバカにされると思ったのか、こけおどかし要素として、日本古来の伝統芸、能を大胆に導入!ファンクにエレクトロの要素が加わった程度のショックを与えてくれます。

【あらすじ】

 田中課長が自殺した!
 NK商事イチの切れ者として知られる犬上耕三常務の懐ろ刀として、関係各所に勇名を馳せてきた田中課長の死は、不可解な事件として連日新聞報道などを賑わせていた。
 無論コレは100%完全な謀殺であり、何らかの裏事情にディープに関与した田中課長は、自殺の名の元にこの世と強制ララバイさせられたものだったが、森村誠一なら二時間ドラマ原作級の長編を一本仕上げるであろう事件の概要が、後に続く物語の本筋に関わることはまったくないのであった!
 ・・・なんでかって?
 『エクソシスト』に田中課長は出てないからだ!

 物語の幕開けにあたり、「とりあえず一匹殺して読者をビビらせとくか・・・」と非情なる鬼ジョージ先生が冷酷極まるエグゼクティブ・ディシジョンを下したからに他ならない。

 と、それとはまったく関係なく、間抜けな甥っ子がテニスをやるべく犬上邸にスポーツカーで颯爽と登場。
 このスポーツカーがまた、出っ歯過ぎるバンパーに低すぎる車高、ボンネット上にクーラーの室外機並みの巨大な排気口が二列口を開けてるという、違和感バリバリの凄すぎるデザイン。鬼先生の描写力は、例によって達者さを遥かに超越した雑で汚い絵の領域へと力強い疾走を続けており、最早誰にも止めることは不可能ではないかと思われる速度でハイウェイの彼方に消えていこうとしている。
 まだ冒頭4ページ目なのに。

 早くも記事の雲行きが怪しくなってきたので話を大幅にはしょるが、この物語、甥っ子の存在にさして深い意味があるわけでは決してなく、要はリンダ・ブレア演じる犬上耕三のひとり娘・聖子(中学生)が能面の悪霊に取り憑かれ、ゲロを吐いたり空中に浮かび上がったり、パスタと見せかけミミズにソースをかけて食ったり、原典『エクソシスト』を凌駕する謎に満ちた行動を繰り広げるという、ちょっとアヴァンギャルドにも程があるコメディーなのである。
 すなわち悪魔パズズの像=能面、ね。ちょっと無理あるけど、信じろ。
 この能面が祟りを発動する場面では、寝ている聖子の頭上に巨大な能楽役者が現れ、鼓をポンポン打ちながら、「イヨォォォーーーッ!!」と奇声を発して踊りまくる。
 こんな話を正気の人間が果たして思いつけるものか、私にもなんとも理解し難いのだが、ちゃんと描かれているのだからしょうがない。
 能楽師の踊りに先導され、地上に舞い降りた田中課長の霊魂に首を絞められて、犬上耕三は海に飛び込み、溺れ死ぬ。サラリーマンスーツ姿の田中課長が荒れ狂う波濤を背景に憤怒の表情で立ちはだかるカットは、鬼先生でなくては描けない名場面。
 バカな甥っ子は悪霊の超能力に吹き飛ばされ二階の窓から転落死。『エクソシスト』という映画にこれとよく似た場面があったような気がするが、なに、気のせいだろう。
 孤立し、迫り来る能面の恐怖に稚い聖子は脅かされて、徐々に醜いおっさんの顔へと変貌していくのだった!
 これは怖い。ドヤで寝泊りしてるおっさんの顔を持つ女子中学生!本書最大の読みどころは此処だろう。おぉ、なんか初めてレビューになってきたような。

 パズズが能面なら、対するローマ教会公認悪魔祓い師エクソシストは、密教禅師・聖雲阿闍利。単なる白髯のくそじじい。メリン神父とブーゲンハーゲンの夢コラボ。
 呪文もデタラメ極まる。

 「願わくば・・・・・・如来の・・・・・・
 ダイヅラダ神王、キンビロ神王、バサロ神王、カビロ神王、ミヤキロ神王、ドンドビ神王・・・・・・」


 ドンドビ。いや、そりゃいくらなんでも。
 大体、なんの宗派だかさっぱりわからない。だが、これで続けて「のうぼぼ、ぎゃーていー・・・」と続くのだから、この上なく怪しいことだけは理解できる。お供は山伏だし。
 禅師の法力は凄まじく、飛んでいるカラスを落としたり、千キロ先にいる泥棒を金縛りにしたりすることが可能だ。何の役に立つのか解らないが、ともかく凄まじい能力であることは間違いない。繰り返しになるが、一体何の役に立つのか常人にはさっぱり理解できないのだが。
 
 そんな阿闍利の読経によって、悪霊に憑かれた能面は追い詰められ、鼻からエクトプラズムを垂らし始める。鬼ジョージ先生の豪快な作画力により、その場面はあたかも巨大な鼻汁を垂らしているようにしか見えない。
 状況がよく伝わらないシチュエーションのまま、物語は突然のクライマックスを迎え、ガラスが砕け散りシャンデリアが崩れ落ち、大地震級の地響きと轟音が鳴り渡り、巨大な屋敷は静まり返る。
 独り無事な犬上常務の妻は、おそるおそる娘の部屋のドアを開けると、タンスが倒れて慈空阿闍利が下敷きになって死んでいた。
 弟子の山伏は首がちぎれて、顔面はガラスめった刺し。

 この辺は多分に『オーメン』シリーズの影響大。

 奇跡的に、犬上聖子は正気に返って、無邪気な笑顔で起き上がる。部屋の惨状、非業の死を遂げているじじいの屍骸を見て、
 「・・・ママ、いったい何があったの・・・?」
 夫人は真剣に首を捻りながら答える、

 「さァ・・・?
 いったい、何がどうなったのかしら。
 ママにもさっぱり、わからないわ・・・!!」

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