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2012年3月30日 (金)

『怪獣ゴルゴ』 ('60、KING BROTHERS)

 ヒロインの位置にこまっしゃくれたガキが座っている、児童愛に溢れた方しか嬉ばない配慮が為されている映画。モロー博士の図式における“科学者が拾って育てている娘(実子でも可)”という奴ね。それがこの場合、単なるガキなんだけど。ウェルズって本当偉大だよ。皆この図式をなぞってる。置換されてるだけで。

 さて、ユージン・ローリーの前作『原子怪獣現わる』は、お子様ではない一般顧客をターゲットにして『キング・コング』路線を踏襲した作りだった。都市パニック映画の変種と思えばいい。放射能を満載したデンジャー過ぎる恐竜が、氷原で、燈台で、観覧車で暴れまくる!どこがブラッドベリ原作なのか。つまり“恐竜と燈台”というモチーフに、異様に燃えた人がいたってことだろう。(短編「霧笛」が原作。)
 「どうせなら、その恐竜はノスタルジックで物哀しい存在ではなくて、めちゃくちゃ凶暴で人間とかバリバリ喰っちゃうような凶悪無比の怪物だといいナ!爬虫類最高!企画はGOだ・・・!」
 というお子様過ぎる衝動に駆られた大のおとなが、寄って集って情熱をぶつけ合い、出来上がったのがあの映画だった。恐竜が大暴れして、高層ビルでバブルバスに浸かる美女が「キャーーーッ!」と悲鳴を上げる。あの名場面にすべてが集約されているように思う。
 怪物と露出度の高い美女。これぞコングの遺産。

 しかし、それを臆面なくパクった『ゴジラ』が世界に受けた。特に、世界のクソガキにポケモン以上の大ヒット。風呂桶も極端な薄着で縛られた美女もなかったので、お父さん達、全員ションボリ。頼むよ、そこは省くなよ。
 先駆者の面子を保とうとしたユージンは、まァ余程悔しかったんでしょうな、『ゴジラ』をさらにパクって着ぐるみ怪獣がロンドンを破壊する映画を撮りました。お色気なしです。つーか、ヒロイン自体出てきません。それがこの残念な映画。パクリのパクリ。しかも本家本元が。はァー、怪獣の世界は凄いなァー。弱肉強食やなァー。
 ハイ、それでは後でまた、お逢いしましょね!

【あらすじ】

 舞台はアイルランド沖。海底火山の噴火で海面が激しく泡立つなか、果敢に操業を続ける偽装イカ釣り漁船。
 実はイカよりも、海中の難破船がお目当てなのだ。潜水士は、苦闘の末金貨の詰まった箱を見つけるが、一枚掴んだところで、海中を横切る謎の影(水に浸けた怪獣のソフビ)に脅かされ逃げ戻る。
 海面では、火山の爆発に追われ深海から浮かび上がった深海魚(プロップ)が無数にプカプカ浮いている。一面に硫黄臭い。どう見ても噴火寸前。
 こりゃ完全にやばい、ってんで近隣の港を探す船長。

 「島がありました。」
 「寄港しろ!」
 「アイアイ、サー!」

 
しかし、その島は異様に排他的な住民が暮らす絶海の孤島だった!
 せっかく上陸したのに、住民達は網の手入れに熱中し誰も口もきいてくれない。チェッ。港湾長に会わせろ、と直訴するも、無視され不貞腐れた船員達は飲み屋へ直行。
 一枚だけ掴んだ金貨をサカナに、自棄酒を飲んでいると、こまっしゃくれたガキが話しかけてくる。

 「おじさんたち、オグラに会ったのかい?」
 「小倉・・・?」
 「イヤだなぁー、この一帯に伝わる伝説の怪獣だよ。ヒントは元銀行員。」
 「へ・・・?!」
 「銀行員だから、金持ってるんだよ。それを証拠にホラご覧よ!」

 少年、ポケットからこれまたレアな17世紀の金貨を抓み出して見せた。
 たちまち、色めき立つ船乗り達一同。

 「おい、おめぇ、どこで手に入れたんだ・・・?さっさと吐かねぇと、口から手を突っ込んで胃の奥をゲーゲー言わせてやるぞ!」
 「考えることが普通だなぁー!」
 「フフフ。俺たちは平凡なイカ釣り猟師・・・と見せかけ、実は街の吟遊詩人だ。ストリートに降り積もった悲しみの雪を手で掻いて、溶かしちまうぞ!」

 頑強に抵抗する少年を吊るし上げ、大人げなく金貨の出所を聞き出した船乗り達は、真夜中にこっそりボートを漕ぎ出した。目的地は伝説の怪獣オグラの巣。島の裏手の崖に穿たれた洞窟。そこに財宝が豊富にストックされているという。
 
 船を漕ぎ寄せ、恐る恐る中を覗くと、怪獣は留守のようだ。

 「船長ォーーー!!奴はお留守のようですぜ!!」
 「バカ野郎!それぐらい見れば分かるわ!全員上陸、手当たり次第にかっ攫え!!」


 ボートを岸に着けて、無数に転がる木箱を開けてせっせと財宝を積み込んでいってーと、彼らの頭上で、巨大かつ邪悪な眼が闇にギロリと光るのは、当然のお約束で。

 「船長ォーーー!!」
 「なんだ?!現在俺は、非常にお忙しい状況下にあるのだぞ!!」

 純金製、宝玉がいっぱい嵌った王冠を手に船長が答える。
 「俺の右腕がなくなりましたーーー!!」
 「エエエッ・・・?!」
 「わき腹もです!!首も!!アレ、そうするってぇと、今喋ってる俺はいったい、誰だろう・・・?」


 途端、轟く怪獣の吠え声。ぼえんぶろろろぉぉぇーーーん!!

 「出たッッ!!逃げろ!!」

 酷い奴らもあったもので、他人様の留守宅に忍び込んで散々荒らしまわった挙句、そのまんま逃げちまった。喰われた奴はその場へ置き去り。供養もしない。
 これじゃあ、翌日、巨大な元銀行員がネクタイ締めて、村へ正式な抗議に参上しても仕方のない話で。
 なんでも、コイツは東大卒の勧銀入社だったらしい。

【解説】

 巨大な元銀行員と足元で蠢く村人の合成カット、頭上俯瞰の引きで撮影されており、結構よく出来ている。ダイナミックな画面構成で、元銀行員の巨大さがよくわかる。巨大なことは、いいことだ。
 その後火炎放射器で撃退された元銀行員は、魚獲りの網で捕獲され国際経済の中枢ロンドンに送られる。余りにでかいので、こりゃ見世物にするべえ、ということでハイドパーク特設会場へ。見物客が殺到。多数の死傷者が出るロック史上空前の大惨事に。
 法外な見物料をせしめてホクホクのサーカス団長だったが、元銀行員にはさらに巨大な親がバックについていた!
 破壊されるロンドン!薙ぎ倒されるビッグベン!
 親に駆け寄る元銀行員、身の丈は親の膝までしかない。どんだけでかい存在なんだ、子にとって親とは?
 暴走族の如くさんざん街を荒らし廻り、満足した元銀行員と親は意気揚々、夜明けの海へと去っていった。

 後には、口をポカンとあけたわれわれが残った。

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