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2012年3月 5日 (月)

「総特集・諸星大二郎-異界と俗世の隙間から」 ('12、河出書房新社)

 みんな大好き、諸星先生。
 病が嵩じたマニアは、好きを通り越していかに諸星に近づくかを模索する。その結果がこうした研究本となるわけで、Dの遺志を読み解くより余程興味深い記事が満載なのであるが、さらに症状が進むと、「俺はひょっとしたら諸星に似ているのではないか?」「いや、そっくりかも?」「これだけ影響を受けているのだ、既に俺は諸星だ!(単行本全部集めたし)」と正気の沙汰ではない危険な状態に陥り、勝手に『西遊妖猿伝』のラストを夢想したり、稗田礼次郎の新作を書き下ろしてしまったりするのである。迷惑千万な話だ。
 そうした意味では、コメントを寄せている有名作家の先生方でも、特に伊藤潤二先生のイラストが凄い。『妖怪ハンター』第二話「紅い唇」、月島令子の完コピ。反則もいいところ。
 
ペンタッチまで似せて描かれたそれは、あまりに完璧過ぎる模写ぶりで、自分のペンタッチやキャラに落とし込んで四苦八苦、なんとか諸星世界を表現している他の作家の皆さん(有名人揃い)をあっという間に一頭地以上抜き去ってしまった。今頃、参加者全員が悔しがっているに違いない。そうか、もろにやってしまえばいいワケだ。モロボシだけに。
 貴重なのは、諸星先生の下描きやシナリオが数点収録されていて、謎に包まれていた製作の舞台裏が遂に公開されたところだ。先生は先にシナリオを執筆し、それを元にコマを割る。絵を描き込む。諸星作品の読後感が、良質の小説を読んだ感じに似通っている理由が初めてオフィシャルに明かされた。おまけに資料棚の写真まで。これできみも諸星になれる。いや、断じてなるのだ。
 諸星先生が最近小説集を出している理由もこれで納得。シナリオ段階で既に充分小説なのだから、工程を一個短縮するだけで済む。だが、ここに奇妙なパラドックスが起こる。諸星先生の小説を読む者は、全員諸星先生の絵柄を思い浮かべてしまう筈だ。っていいますか、先生、ここはぜひ絵にしてください。お願いします。そういう隔靴掻痒たる思いに襲われる。筋があって絵があって、それがつまりマンガなのだ。
 そういう当たり前の事実に気づかされるのは、結構重要なことだと思う。

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