『女獄門帖・引き裂かれた尼僧』 ('77、東映京都)
ジャパニーズ・バッド・テイスト。
全編を観終わり、惨劇の一部始終を目撃しても、それでも諸君は問うに違いない。これはいったいどういう種類の映画だったのか。豊富なエロ・グロ・猟奇に彩られた一種の覗き趣味を満足させる為のシロモノか。あるいは、(ありえないとは思うが)無垢な少女の成長を描いたビルドゥングス・ロマンか。しかも、血塗れの。
私に言えることは、牧口雄二はすべての答えを用意していたのだ。
映画とは、畢竟、娯楽でありそれ以外ではありえない。人は愉しみを求めてスクリーンに向かうが、提供されるのが快楽ばかりとは限らない。ならば、その思想を推し進めて観客を強制的に地獄絵図の中に配置してしまうこと。そこに溺れさせ、そこに悶えさせること。
地獄は、いま、この地上にある。
お前の見つめるスクリーンのその中に。ロビーは三途の河原だ。映画の中の人物が躍動し咆哮するとき、それを観るあなたは、哀れな亡者に成り変る。これは、そういう装置だ。
【あらすじ】
足抜け女郎おみのは、手引きしたチンピラ小林稔侍を殺され、単身尼寺を目指し孤独のランナウェイ。直ぐに追っ手が掛かり、佐藤蛾次郎がノンストップでコントを繰り広げながら背後から迫ってくる。
(蛾次郎の役名は、なんと、蛾次郎。ゴメスの名はゴメス理論だ。)
途中、親切な薬売りに助けられたり、猟師二人組に犯されまくったりしながら、なんとか山中にある寺に辿り着く。
だが、そこはこの世の地獄であった。
現世の男全般に激しくも深い恨みを持つ庵主と尼僧達が、迷い込む男という男を惨殺しまくっていたのだ。
始末された男は、白塗りの志賀勝が調理し、その晩の食卓に提供。寺の庭に咲くケシの花を嗅ぎながら、ひたすらレズの肉欲に耽る院主たち。「ホラ見えるだろ、真っ赤な夕陽が!」
こんな寺、やだ。逃げ出そうとしたおみのも、追ってきた憎い猟師二人組を鉈で返り討ちにし、ついつい殺しの快楽に目覚めてしまう。ついでに麻薬・百合方面にも。人間だもの。
かくして異常かつ幸福な日々が続くかと思われたが、そこへ現れたのが、あの優しい薬売り。彼は実は十手持ち。この寺の秘密を代官所に頼まれ内偵していたのだ。
真実を告げ、おみのを逃がそうと図るも、失敗。一枚上手の院主に逆襲され、首なし死体となって発見される。
半狂乱で心臓バクバクのおみのが駆け寄った水甕の底には、十手を咥えたちょんまげ姿の生首が。こいつはレア。泣きながら復讐を誓うおみの。
さてさて、そこからは狂気のつるべ打ち。いつの間に地下に捕らわれとなっていた佐藤蛾次郎を解放し、戦力につけたおみのは、猫を吊るし首、蛇をシチュー鍋に放り込み、レズ尼二名を同士討ちで谷底に葬り去る。しかし、狂ったように加持祈祷を繰り返すおばさんを始末しようとした蛾次郎は、凄い腕力でぼってりした乳房に押し付けられ、母乳を強制的に飲まされ溺死。
一方おみのは遂にボスキャラの院主と直接対決し、怨みの一撃を嘗て抱かれた胸に深く打ち込むも、寺に火を放たれ、猛火の最中先代のミイラが万歳ポーズで立ち上がる。
吃驚したところを、お手伝いさんに来ていた聾唖者の少女にひと突きにされたおみの、無念のまま息絶える。
悪業三昧の寺は焼け落ちて、関係者は全員死亡。勝手に初潮を迎えた少女は、雪景色のなかに独り消えて行くのだった。幕。
【解説】
真に驚くべきは、いつもは嘘ばかり並べている私のストーリー紹介が、今回に限って割りと原作に忠実だというところだ。いや、本当にこういう話なの。信じて。
寺男の志賀勝は人肉を削いで鍋で煮てるし、女優陣は十歳の少女を除き全員乳房を露出するし、尼なら当然レズだし、生首も出るし、おおよそ映画を製作する上で必要とされることは全部やっている。まさに力作だ。これで文句を言う奴は、よっぽどの人でなしだろう。
しかし、この話、なんか『薔薇の名前』に似てる気が。いや、たぶん、気のせいではあるまい。
最後に寺が燃える話は、全部、『金閣寺』か『薔薇の名前』である。これはもう間違いない。
但し製作年代は、『女獄門帖』の方が先。(ま、『金閣寺』のことは忘れて。)
ということで、同じウンベル仲間であるウンベルト・エーコの明白な盗作疑惑を指摘したうえで、今回の記事は終わりと致したい。え。記号論。ポストモダン?
おありがとうございました。
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