ローリング・ストーンズ「昨日の出来事」 ('67、London)
ロックレコードについてくる訳詩というものは、大体が超適当過ぎる翻訳がなされているもので、元々たいした予算もかけらぬからだろうけれど、視点を変えてみれば演奏内容のカッコよさと比べてあまりに独自の世界を追求していることが、まま、ある。
そもそも歌の内容やアーチストのプロフィールをちゃんと理解した上で翻訳している人の方が稀で、大抵はコストの安そうな翻訳事務所の方、レコード会社のスタッフ、バイト、身内などなど台所事情による超適当過ぎる人選がなされ、ガチガチの直訳や、てにをはの狂った文章、とてつもない主語の選択、乱れ撃つ英語直接表記、“Yeah!”の連打等々、あきらかに常識的に考えておかしい表現が大手を振って闊歩しているものだ。
フィールドは異なるが、これってアレに似ている。
エロ漫画雑誌に載る読者投稿イラスト。そういうレベル。
とてつもなくヘンなのに気づいて面白がって読んでいると、次第にアタマが痛くなってくるのも同じだ。
三峯徹。そんなんですよ。
事情は超大御所でも変わらぬようで、今朝方自分たちのレーベルのチンケな自主制作盤のジャケットを描きながら、ストーンズの『ビトゥイーン・ザ・バトンズ』を聴いていて、筆安め(インクの乾き待ちとも云う)に訳詩を眺めてたら、凄い表現の箇所にブチあたってしまった。
曲はアルバムラストを飾る、これまたいい加減な仕上がりのボードヴィル調ナンバー「昨日の出来事」。
(私が今回使用しているのは、2005年にABKOが権利を買って再発したときのバージョンである。既にお持ちの方は資産を確認してみてください。)
問題の箇所は、曲の中盤、折り返し地点で、間奏に入る前にボソッと入る語り。
Beg Your Perdon.
(オナラしてご免よ)
え。
瞬間、背筋が凍りついた。オレハ、ナニヲキイテイタノダロウ。
早速曲をアタマからリピートし、内容を再度確認してみる。果たしてここで突然オナラが登場する必然性はあるのか。あったら、すごい。
適当に訳してみることにする。曲は、ミック・ジャガーとあきらかに若い(!)キース・リチャーズさんとの掛け合いで進行する漫才形式。
♪ (ミック)
昨日、僕に起こったことは、
ゾクゾクすること、
ワクワクすること、
簡単に話せることじゃないのさ、昨日の出来事
♪ (キース)
奴には事の良し悪しがわからなかった、
誰かに云ってみりゃよかったのに、
そいつが違法な物質かどうか、
結局、確信とれなかったんだよ、あ~ぁ~!
♪ (ミック)
明らかにおかしい、ってあなたは言うけど
あんたの口ぶりの方がよっぽどヘンだぜ
とにかく、そいつは僕を打ちのめしたんだ、
ゾクゾクすること、
ワクワクすること、昨日の出来事
♪ (キース)
奴には行方がわからない、
そもそも、そんなの気にしない、
その物質のもたらす効果も結果も、意味も
誰に聞いてもすべては闇の中だよ、あ~ぁ~!
オナラしてご免よ。
・・・う。
なんだ、これは。台無し。真面目に訳してバカをみた。
越谷“Mick”正義の顔を立てて、わざとドラッグソングになるように訳してみたが、実のところ登場する「Somethig」の意味は実のところなんでもいい。
砂糖でもセックスでも、ディズニー年間パスポートだっていいのだ。
翻訳が創作だといわれるのは、元々多義的な解釈が可能な構造の緩い言語に、ガチでベタな日本語を強引に被せようとして、無理するからである。
だが、苦し紛れ、大いに結構。
真摯な翻訳家のみなさんの、どう見ても無駄な努力を私はたいへん尊敬している。
そういう意味で、この曲の途中に「オナラ」を出した人(困ったことに、翻訳者のクレジットすら無い)。
伊藤典夫先生に、土下座して泣いて、謝れ。
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