珍しく、おやじが小さな声で呼んでいる。
「おーーーい、スズキく~ん!たいへんだよ~~~!」
「・・・ん?いったい何処から声がするんだろう。
ゆうべ、少し携帯ゲームでフィーバーし過ぎたかな。頭痛と耳鳴りがひどくて。これは保健室にでも寝ていないと・・・。」
ペロッ、と舌を出し、
「いや、この会社に保健室、ないんですけどね!」
「こらーーー!いまひとつ、存在が定着しない某有名マンガのドクロキャラなんか物真似してないで、わしを早く助けてくれ~~~!」
「エッ?!」
最近スズキくんの机の上に常時セットされているクスリ壜に入って、ミニチュアサイズのおやじが必死叫んでいる。
「あれま・・・・・・。お医者に貰ったボクのくすり・・・。
マスター、なんてところに!」
「先日きみは長年放置していた股間のバクテリアが悪化し、菌が全身に転移して危うく死にかけたじゃないか。会社を一週間休んで、点滴と必死の延命治療で九死に一生を得た訳だが・・・。」
溜め息をついた。
「その菌にわしが感染したのだ!まさに、“感染/予言”!!」
「ちがうと思うなァ・・・。」
「そんなことはどうでもいい。きみから貰った菌のお陰で、わしの身体はみるみる縮み、業務に支障をきたすサイズになってしまった。仕事継続は不可能。はなはだ、残念である!」
「めちゃめちゃ笑ってるじゃないすか?!」
小躍りしていたミニサイズのおやじは、ハッとしたように動きを止め、
「よく聞け。それどころではないぞ。たいへんな秘密に気づいてしまった。
うちの会社の、いにょー君だがな・・・・・・。」
作業エリアの奥でいつも寡黙にクリーナーを使っているぼさっとした青年を指差し、
「やつは、実は、映画スターだ!!!」
「え、え ええーーーッ!!!」
「この重大な秘密に気づいたから、私は消されたのかも知れん。」
思慮深げに、ひとりうなずくおやじ。
「山本英夫がヤンサンに連載していた『殺し屋1』の映画化、浅野忠信が主演のやつな、先日確認したところ、注目のイチ役にキャスティングされていたのが、実はいにょー君だったのだ!」
「そんな、バカな・・・。あのおとなしい人が・・・。」
「そう、妙に濃いキャラが集まりやすいうちの会社でも、最も正体不明の男として知られ、コミケで見たとか、格闘技研究家らしい、とか、さまざまなデマが飛んでいたいにょー君だが、その正体は実は、映画で主役を張るような演技派のスターだったのだ!!」
「・・・信じられません・・・ショック・・・。」
「嘘だと思うなら、このDVDで確認してみろ。盤質Bの中古だが、充分観られるぞ!」
「・・・しかし、それ以前に、この情報。うちの会社に所属する人間以外にはなにか価値があるんですか・・・?」
矮小化されたおやじは、クックッと笑って胸を張る。
「毎回万人受けする記事が載ってると思うなよ!!
あんまり面白かったんで、ついつい書いてしまいました、ということだッッッ!!!」
「そ、そんな投げ槍な・・・。」
「なにしろ、あのオドオドした挙動不審な態度がな、ホントそっくり!三池崇史えらい、と初めて思ったもの!」
「え・・・?それで、この映画のレビューはおしまいなんですか?」
「C.G.で人間まっぷたつ、とか本気で面白がるようなことかね?大のおとなが?
身近な人のそっくりさんが出てこなかったら、たぶん、記事にもしとらんよ。
以下佐藤師匠のリクエストに個人的に応えて、紀里谷の『CASSHERN』のレビューに続くぞ!」
「これ、なんて読むんですか、カ・・・カスハーーーン?」
「昔のタツノコプロのアニメでな、『新造人間キャシャ-ン』ってのがあったんだよ。それの映画化なんだが、誰もが認める大惨事。今朝の東京の凍結した路面より、危険な内容になっておる。」
「観たくないなァ・・・。」
「では、縮小したまま、次回へ続くぞ!チャオ!」
(つづく)
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