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2012年1月18日 (水)

『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』 ('99、クロックワークス)

 世には“最終的にまったく恐くない怪談”というジャンルがある。
 
 
残念ながら社会的に何の役にも立たないが、私は大好きだ。
 あなたは、どうだろうか?

・ 怪奇な場所があり、不気味な物音が響く。
  行ってみると、立小便していた浮浪者が発狂して襲ってきた。
 
・  心霊の呪いに悩まされ続ける男。
   怨霊のパワーが全開になるクライマックス、男は自分の吐き出したゲロの海に顔をうずめて窒息死する

・ 悪魔との契約。契約書に記された血のサインが、妙に達筆。

 などなど・・・。
 
 こういう馬鹿げた例は、幾らでも思いつくことが出来るのだが、要は神秘的な現象というのは、殊にそれが恐怖に纏わるようなものなら、より一層成立させるのが難しいということだ。
 人間は、容易には信じない。
 が、意外に一度信じ込んでしまうと、かなり馬鹿げた嘘でも平気で飲み込んでしまう。結果、こっぴどく怒られるのだが、知ったことか。
 信じる奴らが、バカなんだ。
 
 『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』は、最終的に人をこわがらせようと企んでいる連中が、ない知恵を振り絞って製作している。
 彼らは製作資金など全然無く、有名な役者や派手な特殊効果を使うことは出来ないが、なんとか面白い映画を撮りたいと考えている。
 そこで選択した手法が、偽装ドキュメンタリー。
 川口浩か、ヤコペッティーか。
 全部でっちあげ。やらせの世界。こういうのは、TV局のおハコだった筈だが、とことん間抜けなコンプライアンスに縛られて、おおっぴらには出来なくなってしまった。(TV局がやらせを捨てて、逆に、どうするつもりなのか。誰か教えて欲しい。)
 
 あー、で『ブレア・ウィッチ』、テーマは現代に蘇った魔女の呪い。
 
呪いで一発。そりゃ結構。
 さて、『サスペリア』『インフェルノ』の轍を踏まず(個人的には踏んでOK!なのだが)、伝説の魔女をどう出すか。そこに作者の知性が問われていることになる。
 なにせ、コレ、一応リアルなドキュメンタリーを装ってますから。

 魔女なら、やはり、鉤ぎ鼻か?
 帽子は被っているのだろうか。
 そもそも箒は持っているのか。跨って飛ぶのではあるまいな?まさか。


 肝心なことは、われわれは誰も、曾我町子以外の魔女を実際に見た経験がないのであって、「これが魔女ですよ」と強引に何か出されれば否応なく納得せざるを得ない、実に苦しい立場にあることだ。
 しかし、果たして、本当になんでもいいのだろうか。

 どうも、そうでもないらしい。
 ちょっとした特殊メイクで、それらしい人物を造形したとしても、あまり上手過ぎては、せっかくの“素人大学生が撮ったドキュメンタリー”という設定が台無しだし、下手くそ過ぎたら単に物笑いの種だろう。
 だいいち、つくりものを堂々と映すことが出来ない。それまでブレブレの手持ちカメラでやってきたことが、パーになる。
 では、チラっと画面の奥を横切るってのは?
 ヒッチコックか。100%突っ込まれるな。

 
ならば、登場人物の誰かが、実は魔女の変装で。あるいは、憑依されて泡吹いて。
 ダメだ、それでは出来の悪いコントにしかならない。 

 ・・・で、喧々諤々、困って考えに行き詰った「ブレア・ウッチ」の作者たちは、エンターティメントとしては、いちばん避けたい方面の選択をしてしまった。
 (ロバート・ワイズが『たたり』で上手にやった手口だ。)

 この映画に、“ブレアの魔女”は出てこない。
 曾我さんのスケジュールを押さえるのは、断念したのである。


 以上で、この映画の毀誉褒貶が激しく、賛否が分かれる理由を充分に説明できたつもりだが、どうだろうか?
 恐怖の焦点が、画面にハッキリ登場しないのだ。
 皮肉なのは、それをちゃんと出していたら、この映画は誰の記憶にも残らなかっただろうということだ。

 『ブレア・ウィッチ』でいちばん面白いのは、その企画意図であり、実のところ、本編がそう面白い訳ではない。
 大学生がお互い罵り合い、勝手に自滅していく。よくある話だ。
 彼らを襲う怪異も、異様に地味。
 樹から棒がたくさんぶら下がっている、とか、朝起きてみると俺のリュックが粘液まみれだ!とか。
 ひとり行方不明になるが、翌朝、発見されたのは血塗れの歯数本だけ。
 

 この脈絡のなさは、なんだろう。
 魔女という存在は、よっぽど暇なのか。

 超自然的というより、単に、土人の犯行である。
 
 最終的に、伏線を仕掛けておいて、壁の前に立たされた男が罰ゲームのように出ましたが、これがもう、見事に壁の前に立つ男にしか見えない。
 このキメで恐がらせなくちゃダメだろう。おい。

 じゃあ、一体どうすればよかったのか。
 それを真剣に考えることが、迂闊にこの映画をヒットさせてしまった観客ひとりひとりに課せられた責務である。
 あれから10年以上経過し、その回答が既に幾つか確認できるのは喜ばしい限りだ。
 

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