『アライバル・侵略者』 ('96、LIVE Film&Mediaworks)
地球温暖化は宇宙人の侵略計画の一環だった!
そんな男子中学生なら全員納得の大胆なアイディアを、捻りを加えず、ストレートに映画化!
結果として、「アメリカ人って、やっぱりバカばっかりか?」「なぜ、自分は棚上げで一切反省しないのか?」と世界的に妥当な評価を獲得した傑作がこれだ!
『プラトーン』でお馴染みチャーリー・シーン(以下チャリ坊)が、ダメな中年男を熱演。電波の研究者という知的なのか判断に迷うような役柄で登場するが、われわれがふと気がつくと、いつものミリタリージャケットに戻っているのだった。
そういう意味では、なんとなく憎めない仕上がり。
【あらすじ】
NASAに勤めるチャリ坊が、郊外の天文台でアンテナをくるくる廻していると、宇宙からの怪電波をキャッチ!
こいつは事件だぜ!
同僚研究者をせき立てて記録を録り始めたら、途端に電波はフェイドアウト。
こいつは、怪しからん事態だぜ!
最近、美人の彼女も出来て下半身事情も休まる暇の無いチャリ坊だったが、宇宙は一回の射精より重要だろう。わずかにDAT録音できた謎の信号を上司に提出し、さらなる徹底した調査を願い出た途端・・・・・・。
チャリ坊は、即クビ!
天文台はFBIを名乗る男たちに捜索を受け、あらゆる記録は没収される。
しかも、イカす美人の彼女はロスへ御栄転が決定。
こいつは、何かある。
背後で蠢く、超国家規模のどす黒い陰謀の影を感じるぜ!
完全に人間を信じる気を失くしたチャリ坊は、ケーブルテレビの作業員を装い、近所のBSアンテナを勝手に接続しまくり、インディーズ精神溢れる巨大パラボラアンテナを作り上げる。(もちろん、無届け。)
スイッチひとつで、連結されたアンテナが自在に動き、怪電波の発せられた星を捉えるのだ。その間、テレビをご覧の皆さんがどうなっているのかは不明。普通に考えて抗議殺到だろう。
こいつで、やつらの秘密を暴いてやるぜ!
かくして、近所のご好意に一方的に甘えた身勝手な調査を続けること数週間。遂にあの怪電波が再び発せられるのをゲット!
今度こそ記録に残して、世間をアッと言わせてやるんだぜ!
鼻息は荒かったが、テープを回し始めた途端、電波に混じるやけにご陽気なチカーノ・ミュージック!
「えッ・・・?!
メキシコ人だ!メキシコ人が乱入してきやがった!!」
そして、数十秒で電波はまた途絶えた。
(・・・んー、なんだか、さっぱりわからねぇー。)
今度はチャリ坊、もう少し、慎重に事態を考えてみた。
謎の星からの送られてくる電波 → 同じ波長帯を持つ、地上波のラジオ放送の存在 → 両者、実は交信している?!
驚愕の結論に思い至ったチャリ坊、なけなしのお小遣いを叩いて、メキシコへ向かう飛行機に乗った。
しかし機内でスチュワーデスは、冷たかった。膝にコーラをこぼしやがった。ちくしょう。グヤジイ。
でも、大人だろ?グッと我慢なんだぜ!
週刊プレイボーイの袋とじグラビアを破いて覗いているうち、窓の向こうにメキシコの緑の大地が見え始めた。
「あぁ、お探しの放送局・・・?
それなら、昨夜の火事で、マルヤケーーーノ!!全焼しました!ビバ!」
現地に着いても御難続きのチャリ坊、いきなり問題の放送局は既にこの世のものではなかった。火事現場に立ち尽くし、確かにきな臭い匂いを嗅いだ。
こりゃ、名実共に迷宮入りなんだぜ!
絶望に駆られ、ホテルでおばちゃんをナンパするチャリ坊。ロスへ行ってしまった彼女は音信不通だし、ここらで旅の垢でも落とさなきゃやっとられまへん。
おばちゃんは実は地球環境を調べている学者だった。どうりでメガネ。萌え~。
即、ベッドイン。
「いきなりでかい話して悪いけど、地球全体の温度が上昇している話、知ってる?」
「え?・・・地球全体っすか?マジすか学園?」
チャリ坊は、腰を動かし続けている。
おばちゃん、冷静に喋り続ける。
「ここ数年、ありえないレベルで大気中に二酸化炭素の排出量が増えているの。森林が伐採され減少し、都市や工場が増えて、地球環境に急激な大変動が起こっているわ。
わたしは、これを地球温暖化現象と名づけました。特許出願中よ。」
「地球・・・温暖化・・・。なんか、いいっすね!」
「あ・・・!イイ!で、二酸化炭素が増えた原因だけどね。どうもこの一帯にある工場プラント群が関係しているらしい。」
「ふふん、もう我慢できねぇだろ?自分でクリをつねって、イってみろよ?!」
「ああ・・・!!このまま異変が進行すると、南極・北極の氷が溶けて海水面が上昇。呼吸可能な酸素は減少。あと数年で人類が生存できないレベルになってしまうわ!!」
「地球が大変なのは解ったけどな、あんた自身、今たいへんなことになってるんじゃないのかい?」
「アーーーッ!!アーーーッ・・・!!
「イクーーーッ!!ヤルクーーーツク!!」
性描写はフィニッシュまで書かないときれいに完結しないようだ。
事を終えてご満悦のチャリ坊、ところがどっこい、謎の刺客が放った黒い蠍に股間を刺されて、おばちゃん、あの世に逝っちまい。
もう、イヤだ。いい加減にしろ。完全ブチキレて、チャック全開で刺客を追うチャリ坊。完璧にやつあたりモード。
あやしいおっさんを追うチャリ坊、メキシコ名物「死者の日」のパレードと正面衝突。髑髏、ドクロ、どくろ。画面に散乱する骸骨、3千体。
その混乱の中、刺客はふいに関節を折りたたんで、逆に返すと、人類ではありえない超高層ジャンプで向かいの屋根に飛び上がる。
「おい!そりゃ、明らかに反則なんだぜ!」
「#$%&???」
不思議なものでも見るように、チャリ坊を見つめる非人類の体操選手。建物の裏手に悠々と消えていった。
翌日。復讐の炎を胸に、おばちゃんの教えてくれた工場プラントに単身乗り込むチャリ坊。
中心部にはV字構造の巨大なビルがある。さてはここが本拠地か。警備員のおっさんが機関銃片手に哨戒している。やけに警備が厳重だ。
フェンス際の藪に身を潜めて、潜入の機械を窺っているうち、ウトウト。
気がつくと、すっかり真夜中。そろそろ、なんとかするべぇと身を起こした途端、地面が大きく揺れた。
ビル正面の地面が割れて、地中から巨大なアンテナが伸びてくる。
さてはこいつが本当の怪電波の発信源。
焼き討ちされた放送局はダミー、もしくは偶然同じ波長帯を使っていたので、消されたな!
なんか、もう、全部わかっちまったんだぜ!
こいつは宇宙からの侵略だ!
勇んで乗り込むチャリ坊だったが、あっさり警備員のおっさんに捕まり、宇宙人の秘密基地に連行されてしまった。
その頃、カリフォルニアのチャリ坊の家では、頼んでもいない掃除会社がやって来て、家中丸ごとキレイにしていった。ありがとう。
【解説】
俗っぽい陰謀史観が被害妄想とブレンドされるこの作品においては、チャリ坊以外の登場人物が大半、宇宙人もしくはその手先という極端な結論を叩き出す。
宇宙人は人間そっくりにモーフィングできる装置を持っているのだ。逆関節なのに。人工皮膚では、それ、隠せないだろ。痛そう。
理屈を家に置いて来れば、楽しめる作品。もしくはバットで頭部を強打。名作。
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