トビー・フーパー『悪魔のいけにえ2』 ('86、CanonFilms)
昼飯がわりに、一杯のかけそばを啜りながら、古本好きの好青年スズキくんは食い下がった。
「えー、感想ですかァ?
ありえなくないですか、『悪魔のいけにえ2』?!」
古本屋のおやじは満面に笑みを浮かべて安いカレーうどんを食っている。
場面は昼食時間、彼らの働く軍需工場は束の間の休憩中。NC旋盤もドリルピッチャーもなりを潜め、のどかなモーツァルトなど流している。
食堂は、社会の最底辺であえぐ工員労働者で寿司詰めだ。
「一作目は、ボク、感心したんですよ。うまく嫌な感じを盛り込んで、疾走しまくる。性格の悪いジェットコースター・ムービーみたいなテイストで。さすが、伝説になるだけあるわなー、と。」
おやじは、鼻を鳴らしている。
「で、実は2作目があると聞いて、いったい、どうやって続編をつくるつもりなんだろう、と思いまして。
だって、ある意味、一作目でネタは全部出ちゃって、しかも完全に燃焼しきっちゃってるじゃないですか。だいたい、あの全編漲るテンションを維持できるのかが最大の疑問符でして。
そこで、期待して観たら、出てきたのは、コメディータッチのセルフ・パロディーだった(笑)!!
エッ・・・?ガックシ!!バンザァーイ・・・なしヨ!!って心境ですよ!」
一気呵成に喋ったスズキくん、コップの水を飲んだ。空気とお肌の乾燥する季節。
おやじは、不気味に含み笑いを続けている。
「ふっ、ふっ、ふっ。浅い。
浅いなぁー。浅すぎ。浅野内匠頭とはお前のことか。はげ。ちょんまげ。
いいえ、あれはズラ。」
「ムッ、まともに相手する気ないな!」
「年喰ってくるとな、まともに説明するのがバカバカしくなるんだよ。
どうせ、バカにはわかんねぇんだからな!!」
意外と喧嘩っぱやいスズキくん、既に拳を握り固めている。
「いいかね、低脳くん。
この記事を書く前に、他所様のサイトをチラ見したら、キミみたいな単純バカが『いけにえ2』をクズ映画よばわりしていやがったんだがね。
徹頭徹尾くだらない『いけにえ2』の素晴らしさが解らない奴が、元祖『いけにえ』の何処を見て、一丁前に偉そうな口をきいているのか。
ひとつ、おじさんに教えてごらん。
教えてごらんよ!」
「・・・フランクリンの屍骸、ギャグ扱い。」
むすッ、としたスズキくんが答える。「あれ、有りなんですか・・・?」
「あり!
大有りです!最高じゃないか!」
おやじは胸を張って返事をした。
「・・・それなら、もう、ボクから聞きたいことはないです。」
スズキくんは食堂の机のしたから、チェインソーを取り出した。
紐を思い切り引くと、エンジンが掛かり、鋸がリズミカルに回転し始めた。
「あなたという存在をこの世から抹消するまでだ。
・・・最後に何か、言い残したことはないですか・・・?」
「レザーフェイスが地元のFM局でな、ストレッチをレイプし損ねる場面。あすこで、お前はどんな風に感じた?
・・・笑ったか?笑ったろ?
それがすべての答えだ!!!」
突如、ふところから太い黒のチェインソーを取り出したおやじ、振り降ろされたスズキくんの黄色いチェインソーをガッキと受け止める。
反動で逸れた刃が、ガギギギギとテーブルを削り取り、さらに食卓に載せられた食器類をバビビと粉砕。ひぇっ、と立ち上がった間抜けなデブのはらわたに食い込んだ。
「ぐえええええ!!!」
腸を巻き取り、肉を抉り取る鋭利な切っ先に、死のダンスを踊るデブ。愉快、痛快。
迸る鮮血を浴びたスズキくんの顔は、直ぐに悪鬼の形相に。
「あ~~、とうとう、やっちまったー!
こういう残念な感じ。この感じが『いけにえ2』の真価なんだよ!
この残念さがわからない奴に、『いけにえ』を語る資格などないわ!
逆に、いけにえにしてやる!むしろ!!」
「なにを、この、トンチキ野郎!返り討ちにしてやるぜ!」
昼食時間。
依然、何食わぬ顔でモーツァルトが鳴り響いているのが、物凄い間抜けだ。
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