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2011年12月16日 (金)

トビー・フーパー『悪魔のいけにえ2』 ('86、CanonFilms)

 昼飯がわりに、一杯のかけそばを啜りながら、古本好きの好青年スズキくんは食い下がった。

 「えー、感想ですかァ?
 ありえなくないですか、『悪魔のいけにえ2』?!」


 古本屋のおやじは満面に笑みを浮かべて安いカレーうどんを食っている。
 場面は昼食時間、彼らの働く軍需工場は束の間の休憩中。NC旋盤もドリルピッチャーもなりを潜め、のどかなモーツァルトなど流している。
 食堂は、社会の最底辺であえぐ工員労働者で寿司詰めだ。

 「一作目は、ボク、感心したんですよ。うまく嫌な感じを盛り込んで、疾走しまくる。性格の悪いジェットコースター・ムービーみたいなテイストで。さすが、伝説になるだけあるわなー、と。」

 おやじは、鼻を鳴らしている。

 「で、実は2作目があると聞いて、いったい、どうやって続編をつくるつもりなんだろう、と思いまして。
 だって、ある意味、一作目でネタは全部出ちゃって、しかも完全に燃焼しきっちゃってるじゃないですか。だいたい、あの全編漲るテンションを維持できるのかが最大の疑問符でして。
 そこで、期待して観たら、出てきたのは、コメディータッチのセルフ・パロディーだった(笑)!!
 エッ・・・?ガックシ!!バンザァーイ・・・なしヨ!!って心境ですよ!」

 一気呵成に喋ったスズキくん、コップの水を飲んだ。空気とお肌の乾燥する季節。
 おやじは、不気味に含み笑いを続けている。

 「ふっ、ふっ、ふっ。浅い。
 浅いなぁー。浅すぎ。浅野
内匠頭とはお前のことか。はげ。ちょんまげ。
 いいえ、あれはズラ。」


 「ムッ、まともに相手する気ないな!」

 「年喰ってくるとな、まともに説明するのがバカバカしくなるんだよ。

 どうせ、バカにはわかんねぇんだからな!!」

 意外と喧嘩っぱやいスズキくん、既に拳を握り固めている。
 
 「いいかね、低脳くん。
 この記事を書く前に、他所様のサイトをチラ見したら、キミみたいな単純バカが『いけにえ2』をクズ映画よばわりしていやがったんだがね。
 徹頭徹尾くだらない『いけにえ2』の素晴らしさが解らない奴が、元祖『いけにえ』の何処を見て、一丁前に偉そうな口をきいているのか。
 ひとつ、おじさんに教えてごらん。
 教えてごらんよ!」

 「・・・フランクリンの屍骸、ギャグ扱い。」

 むすッ、としたスズキくんが答える。「あれ、有りなんですか・・・?」

 「あり!

 大有りです!最高じゃないか!」


 おやじは胸を張って返事をした。

 「・・・それなら、もう、ボクから聞きたいことはないです。」

 スズキくんは食堂の机のしたから、チェインソーを取り出した。
 紐を思い切り引くと、エンジンが掛かり、鋸がリズミカルに回転し始めた。

 「あなたという存在をこの世から抹消するまでだ。
 ・・・最後に何か、言い残したことはないですか・・・?」


 「レザーフェイスが地元のFM局でな、ストレッチをレイプし損ねる場面。あすこで、お前はどんな風に感じた?
   
 ・・・笑ったか?笑ったろ?
 
 それがすべての答えだ!!!」


 突如、ふところから太い黒のチェインソーを取り出したおやじ、振り降ろされたスズキくんの黄色いチェインソーをガッキと受け止める。
 反動で逸れた刃が、ガギギギギとテーブルを削り取り、さらに食卓に載せられた食器類をバビビと粉砕。ひぇっ、と立ち上がった間抜けなデブのはらわたに食い込んだ。
 
 「ぐえええええ!!!」

 腸を巻き取り、肉を抉り取る鋭利な切っ先に、死のダンスを踊るデブ。愉快、痛快。
 迸る鮮血を浴びたスズキくんの顔は、直ぐに悪鬼の形相に。

 「あ~~、とうとう、やっちまったー!
 

 こういう残念な感じ。この感じが『いけにえ2』の真価なんだよ!
 この残念さがわからない奴に、『いけにえ』を語る資格などないわ!
 逆に、いけにえにしてやる!むしろ!!」

 「なにを、この、トンチキ野郎!返り討ちにしてやるぜ!」

 昼食時間。
 依然、何食わぬ顔でモーツァルトが鳴り響いているのが、物凄い間抜けだ。
  

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