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2011年12月24日 (土)

ラリー・コーエン『ザ・スタッフ』 ('85、NEW WORLD PICTURES)

 お金も無い。スターもいない。見せ場のひとつもつくれない。
 ラリー・コーエンの映画は、そんなものばかりだが、なぜだか最後まで観れてしまう。
 実に不思議だ。
 いつも監督・脚本を兼ねるコーエンの作家性の為せる技か。明らかに、どの作品もつまらないのだが。不思議と腹が立たない。

 突然変異の赤ちゃんが、出産されるや医者と看護婦を食い殺して逃亡する『悪魔の赤ちゃん』。
 ニューヨークの摩天楼に翼手竜の巣があった!『空の大怪獣Q』。
 処女懐妊で生まれた男は悪魔の手先か?『ディーモン悪魔の受精卵』。


 ・・・そして、この映画も、また。

【あらすじ】

 とろろが世界を征服する、史上初のとろろ侵略映画!
 
キャストもスタッフも理不尽な痒みに耐え、消費したとろろ芋の総量三千トン!史上空前のスケールで贈る、おかず・ぶっかけ系超大作!


 地中から湧き出してきたとろろ状の物体を、地元の観光名産として売り出したところ、大ヒット!全米で話題に!貧乏な採掘会社は一躍、上場企業へとのし上がる!
 そんな地方発のアメリカンドリームを面白く思わない連中がいた。おかずマフィアの存在である。
 マフィアは、元FBIの産業スパイを雇い、とろろ製造の秘密を探り出そうとする。既存の商品と何が違っているのか?明らかに中毒性があるようだが、そんな危険なものがなぜ認可され、全米で売られているのか?
 販売許可を出した米国食糧審査局の人間は、しかし、全員海外に飛ばされるか死亡するかしていた。あやしい。あやしすぎるぜ。

 産業スパイ・モーは、僅かな手掛かりをもとに、唯一存命している引退役人に会いに行くが、相手は目の前で大量のとろろを吐き出して絶命してしまった。しかも、死亡した役人の体内から出たとろろが動いている!床を這って逃げようとする!
 あまりの事態に驚愕していると、役人の飼っていた黒犬がやって来て、とろろを全部食ってしまった!
 しまった、せっかくの証拠が。臍を噛むモー。

 仕方がないので、角度を変えてとろろの宣伝を一手に引き受けている広告代理店へ。
 担当者が割と美人だったので、喜ぶモー。食事に誘うと、乗ってきたが、極度の貧乳のくせにマリリン・モンローが『七年目の浮気』で着ていた前開きドレスを着て来やがった。
 許せん。ぐやじい。
 彼女の情報で、今朝方とろろが並ぶスーパーで破壊行為を行い、しょっぴかれた少年の存在をキャッチ。事情を聞くため、自宅謹慎を喰らっている少年の実家へ行くと、とろろ狂いの家族一同が猛烈な攻撃を仕掛けてきた!
 さっそく華麗なる産業スパイテクニックで応戦するモー。そのへなちょこパンチを受けたお父さんの頭部がグシャッと破裂。お母さんは、廻し蹴りで胴体まっぷたつ。お兄さんに到っては、階段から足を滑らして勝手に自滅。弱い。弱すぎ。
 ところが、潰れた人体の内部からとろろが這い出し、次々と合体。巨大とろろアメーバと化して、家一軒飲み込んで襲い掛かる!
 ・・・が、間一髪、車で逃げた。

 こうなったら、製造元へ直接乗り込んで決着をつけてやるぜ!
 全米を襲うとろろ危機に、少年と貧乳を連れて立ち上がるモーだったが、飛行機で到着してみると、製造元の町は裳抜けのから。独り残っていたコンビニのおやじに聞くと、全員、裏山にある採掘会社で、住み込みで働いているという。いまどき、珍しい。
 敢えて正面から突撃し、宣伝部長の貧乳の顔とコネを利用して工場内部を見せて貰うと、製造ラインとは名ばかりで、パッケージをつくる包装部門と、とろろで満載の巨大な貯蔵タンクがあるだけ。
 いったい、とろろは何処から来るんだろ?
 輸送に使われているらしきタンクローリーを尾行していくと、山中の温泉場へ。とろろが地中から湧き出してくる!そこら一帯が、とろろ沼だ!こいつら、これを瓶詰めにして売っているだけなんだ!
 余りの手抜き工程に、怒りすら覚えるモー。くそー、おいしい稼ぎをしやがって!

 こうなりゃ軍隊を呼ぶしかない!
 モーは、いまだに共産主義勢力の脅威と自主的に闘い続けている近所の軍事マニアを呼びにいく。日本じゃサバゲーやってる程度の連中だが、さすがアメリカ、銃器もジープもフル装備!まさに、気違いにナントカだ!イェイ!
 勇躍、工場を占拠し、とろろ貯蔵槽を破壊することに成功したが、あふれ出た大量のとろろが工場施設や逃げ惑う人々を飲み込んで迫ってくる!
 この人類最大の危機に対し、突如、貧乳がご飯を炊き出した。彼女は実はかつて石原軍団に在籍していたキャリアの持ち主だったのだ。政治信条や立場の違いを乗り越えて、見事に一致団結する生き残り達。美しい。

 かくて、地球滅亡の危機は、満腹感と「お茶、お茶」の声と共に、見事回避されたのだった。

【解説】

 知能ゼロメートル地帯で撮られる映画には、なんとなく有り難味がある。
 貴重である、レアである、カルトであるといった説明可能なコレクタブル要素は一切含んでいないが、微妙なゆるい輝きを放ってしまうようだ。
 
 ダイヤの原石だって、研磨しなけりゃ只の石ころじゃないか。
 だが、それを磨いて精錬するだけが映画の進化の方法ではないのでは?必要なのは、未分化の存在を噛み砕かずにそのまま受け止める、一種野蛮な先祖帰りではないのか。
 ・・・って、昔、誰かが云っておりました。(たぶん、根本敬だ。)

 その通りだと思います。

 
特撮に故デヴィット・アレンの名前があるのが、いい感じ。安い仕事だが。それもまた、よし。

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