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2011年12月 3日 (土)

『この子の七つのお祝いに』 ('82、松竹-角川春樹事務所)

 「この世に、酷いこと、つらいことがなかったら、善いことにどんな意味があるというの?
 幸福もないわ。」

 (ストルガツキー兄弟『願望機』)

 日本映画が誇る“負の球体”、岸田今日子の魅力が爆裂する傑作である。今日子様は妄執に憑かれた狂気の母親を演じ、軽くひとさらいを一発こなして他人の娘を拉致、監禁。キラーマシンに仕立て上げる殺しの英才教育を施す。
 そう考えると、これは実は「レディーウェポン」シリーズと同じ構造を持っていることになるのだが、あちらが殺人に到る経緯を極めてライトに、ビジネスライクに描いているのと比べ、今日子様は重低音の呪い節。呪詛の連続合奏。恐怖のつるべうち。
 人を殺す行為の重さを考えるなら、どちらが正統かつ真剣だか、きみにもわかるだろう。
 増村保造。
 やつは、本気で人を殺す気なんだ。

 今日子様は、娘が七つになった年の元旦。娘に晴れ着を着せると、手首と頚動脈を掻き切って自殺。素晴らし過ぎる展開に拍手喝采だ。
 そこから一挙に映画は現代に飛んで、室田日出男の刑事、毎度お茶目な杉浦直樹、豪快すぎる名古屋章(オレにとって「AKIRA」といえば、名古屋章である)、ラブホテル経営者で二郎さんまで顔を出す。楽しい。楽し過ぎる。
 岩下志麻の固すぎる演技は、たぶん増村の要求を素直に反映しすぎた結果なんだろう。 
 この人に気違い役をやらせると、妙に光るのは、『悪霊島』に於けるシャム双生児のミイラをかき抱いてのオナニーシーンであなたもご記憶かと思うが、今回も会津の伝統工具をフル活用しての多彩な連続殺人に挑戦。一種のツールボックス・マーダーであるが、申すまでもなく、毛唐のライトなスラッシャーとは比較にならない、抜けが悪く末代まで後を引くような、嫌な感触に溢れた殺人劇を見せてくれる。

 お正月映画に最適。さすが、松竹。

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