YMO『(いわゆる)テクノデリック』 ('81、アルファ・ミュージック)
(池袋の夜。半年程度の活動休止となる佐藤師匠を迎え、ライブ後フリートーキング。)
「いや~、客いなかったね!」
「いませんでした。もう、会場を吹き抜ける風の音が聞こえるぐらい。」
「東京ドームを満杯にとは云わないけど、もう少し入っても罰は当らないんじゃないかね?」
「師匠がギターを持って演奏したら、仕事投げ出しても確実に来るってヤツを知ってるんですが・・・」
「あぁ、目戸口?」
「いや、ズバリそう云ったのは、にょこです。」
「にょこ、か!ハハハハ!」
(串焼き盛り合わせが到着。)
「フホホ、こりゃうまい。
そういや、われわれの仲間ウチで、最近オムニバス出そうとしてるじゃないですか?
ジャケット描かなくちゃならないので、サンプル盤を貰って、通して聴いてみたんですが・・・」
「どうでした?」
「並べて聴くと無惨に解ってしまうんですけど、師匠の音源が出てくると、そこだけ音楽レベルが違うんですよね・・・」
「アハハハハ!」
「こりゃ完全にまいったなー、と思いまして・・・」
(師匠、二杯目の焼酎をオーダー。)
「レベル問題といえばさ、最近O氏がボーカロイドにはまって、自作曲をニコ動にアップしたりしてるじゃない?
あれをきっかけにあれこれ、人気のあるやつをチェックしてみたんだけどさ、O氏も頑張ってるんだが、残念だが一線で売れてるやつらとでは明らかに力量に差がある。
ってゆーか、やつら、うますぎ。怪しい。
アレ、絶対プロが匿名でやってるだろ?」
「可能性は高いでしょうね。しかし、さすが師匠、インド音楽ばかりかボカロまで射程に収めるとは・・・」
「もともと、こだわり無い方だからね。最近のヒットは、パフュームです。」
「パ、パフューム・・・?!」
「あれもさ、手掛けてる中田ヤスタカが絶対YMO、ニューウェーブ世代だってわかるよね。単純に、曲いいじゃん。」
「コンピュータじゃなく、人間の声を加工して使ってるとこがミソなんじゃないすかね。そこは、ちょっと面白い問題を孕んでますね。
C.G.の人間って、いつまでたっても本物に近くなれないじゃないですか。画面に登場しただけで、あッC.G.!ってバレてしまう。映画は台無し。」
「その点、人間以外を主人公にするPIXARは上手くやってるよね。パフュームだって、存在を知ったのが、『カーズ2』の主題歌ですよ。『ウォーリー』も良かったぞ!」
(若鶏の唐揚げ。子持ちししゃも。)
「そういや、師匠。YMOのアルバム、何が好きでした?」
「んー、『テクノデリック』だろ。やっぱり。あと、あの歯磨きのやつ・・・」
「『B.G.M.』ですね。あたしも、そっち派で、なかでも圧倒的に『テクノデリック』の評価が高いんです。ちなみに、目戸口くんは単純バカだから、『パブリック・プレッシャー』って胸張って回答してましたけどね!」
「バカだね!」
「大バカ野郎ですね!
ま、あたしも昔フォークギターで「バレエ」を演奏しようとして、目戸口くんに“それだけはやめてくれ!”って涙目で頼まれましたけどね!」
「ハハハハハ!」
「でも、この、人力でテクノを演奏しようというのは、実はYMOの基本に沿った考え方なんですよ。ユキヒロのドラム、ドンカマに合わせて叩き続けた結果、『B.G.M.』の頃には普通に素で叩いてもテクノ感を醸し出す域にまで到達していたらしいんです。」
「ホホゥ?」
「つまり、普通のアナログ楽器を使っても、テクノ感が出せるという。そこを全面展開したのが、『テクノデリック』だったワケですよ。「体操」の生ピアノとか、細野先生のファンキーベースとか。禁じ手だったリアル楽器を全面的に投入。それから初期のサンプリングマシーン。数秒しか録れないけど、ループで重ねて複雑な現実音を使える。
「エピローグ」の工場音なんて、アシスタントが実際に芝浦工業地帯行って、録ってきた音をそのまま使ったって話ですよ。」
「フーーーン、そーか。面白い。」
(師匠、三杯目を飲み干し、四杯目に突入。)
「ボーカロイドもそうですけど、夾雑物のない正弦波だけで構成された音楽って、飽きるの早いんですよ。
やはり、人間が聴く音楽は人間が演奏するのが一番なんじゃないですかね?」
「そりゃ当然そうだろ。目戸口はわかっとらんな。」
「ねぇ!
バカですよね、目戸口!」
「バカだ!バカ、バカ、バカ、バカ!超うすらバカ!」
「ア、ハハハハハ!!」
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