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2011年11月13日 (日)

鶴岡法斎『呪われたマンガファン』 ('98、ジャパンミックス)

 「グシューーーッ・・・おばんでやんす。」
 
 晴れた秋の日、薄曇りの空を破ってこの季節にしては暖かい陽光が差し込んでくる。
 マスクで顔を覆ったスズキくんが訪ねると、古本屋のおやじはカウンターでヴァン・ヴォークト『原子の帝国』を読み耽っているところだった。
 直ぐに気づいて面を上げ、

 「おぉ、どうした?ひさびさなのに、マスクで登場とは・・・?
 さては、近所で魚肉ソーセージ万引きしたのがバレて官憲に追われているのか?」

 「相変わらず失礼な人ですね。
 あなたの嬉びそうなものを拾ったので、ちょいと寄ってみたんです。最近顔を出してないので、てっきり孤独死してるんじゃないかと思いまして・・・」

 「きみ、それはもうじき洒落にならなくなるぜ。」 

 スズキくんは愛用のリュックを開けて、一冊の古本を取り出した。

 「どうですか、鶴岡法斎・編集『呪われたマンガファン』・・・。グジュッ。」

 「うわっ、汚い。
 
せっかくの状態のいい本に、鼻汁が跳ねたじゃないか?!」


 「気にせんでください。(この意味、そのうち分かります。)
 さて、これは、いわゆる再録本という奴でして、ひばり書房ばかり4作家・長編4本を一冊に合本したものなんですが・・・。」

 「あー、どれどれ。。
 ふーーーん、これなのか、『呪われた巨人ファン』の貴重な再録が読める本ってのは。噂には聞いとったが、現物は初めて見るよ。
 アレの原書は、確かキミが見つけてきてくれたんだったよな。500円くらいで・・・」

 「5千円です。」
 キッパリした口調で訂正したスズキくんは、目次を読み上げる。

 「城(きずき)たけし『呪われた巨人ファン』。
 さくらまいこ『呪い人形に皆殺された』。
 なかのゆみ『血に染まる月下美人』。
 川島のりかず『生首が帰ってきた』・・・。」


 おやじの顔がほころんで、

 「おおー、のりかずも入っとるじゃないか。しかも傑作『生首が帰ってきた』!こいつは嬉しい贈り物だぞ!」

 「そんなものを本気で喜ぶのは、あんただけです。
 でも、せっかくですから、確かに傑作『生首が帰ってきた』のさわりだけでも、ご紹介!」

 「中学生留名は歳の離れた兄と熱烈・近親相姦中!幼くして両親を亡くしたふたりは、周囲と隔絶された狭い世界で幸福に暮らして来たのだ。
 しかし、そんな兄に遂にまともな恋人が出来る。昆虫採集の趣味を通じて知り合った黒髪の美人里子。彼女には凶暴な知恵遅れの弟がいた。
 兄を奪われまいと必死の留名は、呪い好きの友人ミユキに教わったカラスの呪いをかける。新婚旅行先のニューギニアで、カラスの大群に襲われ半死半生、片目が義眼になって帰国する里子。
 さぁ、近親相姦JC対片目の新妻、地獄の呪術合戦の火蓋が切って落とされた!」

 「いや、そんなに景気のいいもんではないんですけど。」
 スズキくんはあっさり否定したが、
 「でも、発狂シーンも豊富だし、生首切断、顎したフォーク一気刺し、電車に飛び込み轢死体、と残虐度は意味なくヒートアップしてます。ある種の層にはこたえられない魅力があると思います。」

 「うんうん、これはいい。・・・しかし、だ。」
 おやじ、眉間に皺を寄せると、吠えた。

 「この欄外に書き込んである余計なキャプションは、なんなんじゃい?!」

 「編集した鶴岡の突っ込みコメントが、頻度は少なめですが、全編に登場するつくりになってるんです。
 例えば、有名な『巨人ファン』のひとコマ、飛んだ生首にびびるひろしの顔が一つ目のなっているカットの脇に、「ひろしの方が怖い!」・・・とか。」

 「まったく野暮な野郎だな。作品に対する愛が感じられん。
 所詮、てめえを大きく見せる為の道具扱いじゃねぇか。
 フルサイズの収録の箇所と、1ページに4頁分を分割掲載の部分が交差するつくりも、編集者に“ここが見どころですヨ”と指図されてるみたいで、気色が悪い。
 そこまで出来るんなら、鶴岡、お前、手塚治虫全集に同様の突っ込みを入れてみやがれ!」

 「ま、手塚は消息不明になってませんし、殆ど絶版にもなってませんし、第一、ひばり書房には一冊も描いてませんけどね!」

 「さくらまいこ先生だったら、『魔少女マヤ』!
 なかの先生なら、『あっ!私の顔が溶けていく』が代表作なんだぞ!」


 「それは、あんたの主観でしょ。・・・って、ありゃ?!」

 「どうした?」

 「なんか鼻が通ってきたみたいです。言いたいこと、喚き散らしたら何かスッキリしちゃったみたい。」

 おやじは得意げに肩を聳やかした。

 「ホレみろ。ひばりは、健康にいいのです。」

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