大林宣彦『転校生』 ('82、A.T.G.、N.TV)
恥ずかしいもの。
世間の晒し者。
それは、諸君が生きる上で必要とするもの。
いささか奇抜な連想ゲームではあるのだが、佐藤師匠に薦められて先週聴き込んでいたパフュームのベスト盤(恐れ多くも佐藤氏手づからの編集)で、あたしが気に入った「マカロニ」のプロモクリップをYOUTUBEで検索してみたところ、8mm風の手持ちキャメラで懐かしい原宿から渋谷、東横沿いに代官山、多摩川へという風景が撮影されており(あたしは東横沿線にに十数年住んでいた)、あぁ、でも8mmで思い入れの有る町を撮るスタイルといえば、やっぱりこれが元祖かつ決定版でしょう、ということで大林宣彦『転校生』を久々に観たくなったのであります。
いまさら『転校生』を傑作呼ばわりしても、誰も文句は云わないと思うが、それにしても不思議なバランスで成立している映画だ。
そもそも一夫の家の玄関に貼り出してある『駅馬車』のポスター。あれはなんだ。
白黒の現実から映画が始まり、カラーのファンタジーが展開して、再び白黒の現実に戻る。この構成は周知の通り、『オズの魔法使い』であるし、一美の兄は月刊スターログを購読している(あの表紙は「現代SFスター名鑑」特集の号である、と同じ愛読者ならスラスラ答えられるだろう)。
しかし、いったい、いつの話なんだ、これは?
この点、あたしは、無意識に間違いを犯していた。
初めて(「A TELEVISION」のテロップが出る)TVで初見のとき、ノスタルジックな演出に乗せられてこの話がそれほど遠くない過去に尾道であった出来事のように錯覚したのだが、本当は違う。
これは、幸福な記憶についての物語である。
それゆえ、過去について語っても、現在性を喪わない。
この映画における時間軸は、いわゆる時計刻みでの正確さを持ち合わせていない。
すべては主観においてのみ捉えられ、時間経過は意味を為さなくなる。
幸福とは、時間を永久に停止させる装置だ。
人外魔境出身のあたしですら、そういう基本的な事実を知っているのだから、もう少し恵まれた人生を送っている筈の諸君がそれを知らん訳はないだろう。
この宇宙は、なにもニュートンやアインシュタインの物理法則のみに従って動いている訳ではないのだ。
さて、それでは冒頭に出てくるナレーション、「あっ、尾道だ」「懐かしいなぁー」は誰のモノローグであろうか。
監督自身の呟きでも良いのだし、それが成長し商業映画の監督にまで出世した一夫自身の感慨であっても一向に不都合は無い。ここに作者と登場人物は融合し、一緒にカメラを廻しているという奇妙な関係性が成立する。
だからこの映画は一種のプライヴェート・フィルムだ。
それを劇場でかけようというのだから、そりゃ無理が生じる。こっぱずかしい。
「しかし、そういうことを敢えてやる、というのにも意味があるんじゃないでしょうか?」
どうも、大林宣彦はそう言っているように思われる。
私も、そう思う。
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