ジェームズ・ハーバート『ザ・ダーク(上)』 ('80、ハヤカワ文庫NV)
英国お下劣ホラー小説界の巨匠、ジェームズ・ハーバート。
特に独自性のある設定や登場人物、洗練された文体などは一切持ち合わせていないが、パンチの利いた残虐描写、最低の名に恥じないエロ方面への目配りによって一躍ベストセラー作家の地位を獲得した、端倪すべかざる人物である。
名前の響きこそ端正で大英帝国の気品を感じさせるが、作品の内容はどれもこれもズバ抜けてくだらない。
知性よりも人間の本能に直接訴えかけようという作品内容は、中学生程度の頭の持ち主には、深く心に突き刺さるサムシングを感じさせてくれる筈だ。
例えば代表作『鼠(ねずみ)』!放射性廃棄物の影響で狂った鼠の大群が、とにかく人を襲う!うじゃうじゃたかって、人を喰う!とにかく人間がどんどん死ぬ!都市はパニック!
そして問題作『霧(きり)』!突如地面から噴き出した正体不明の霧によって、人間がジャンジャン狂う!そして人を襲う!お互い殺し合い、どんどん人が死ぬ!都市はパニック!あぁ、愉快!
確実に、親が子供に読ませたくない本にランクイン間違いなしの下劣に狂った内容は、素晴らしいとしか言いようがなく、お陰様で一時はキング並みに翻訳が多数出ていたにも関わらず、現在も刊行され入手可能な本は皆無。
完全に忘れ去られた作家扱いで、どこの物好きが再評価するでもなく、古本屋の書棚の隅に埋もれて腐って土に帰る日を待ち侘びているのであった。
あぁ、もったいない。
そこで、わが「神秘の探求」取材班では、発掘したハーバートを詳細に分析し最新の科学技術(テクノロジー)をもって、その内容のくだらなさを広く世間にお伝えすべく、密かに活動を開始した!
その果敢なる取材活動の成果、第一弾「ザ・ダーク」は、なんと上巻しか入手できず!
なんてことだ、これで記事を書くなんて、まさに最低!
【あらすじ】
イギリス。
とある宗教団体の信者37人が集団自殺した呪われた家。保険会社の依頼で調査に訪れた心霊研究家のビショップは、37人の霊に襲われ、命からがら這い出して路上にボケーッと蹲っているところを救助された。
事件に関する記憶をいっさい失い、間抜けな聴衆相手にろくでもない心霊に関する講演会活動に日々を送るビショップのもとへ、大手心霊科学研究所の関係者ジェシカが尋ねてくる。
実は、ビショップの調査後も、例の呪われた家を廻る怪奇現象は一層勢力を増し、周辺の住民の間では、原因不明の殺人、放火が相次いで発生しているという。
「それも殺し方が、飼い犬の前脚を両方ともハサミで切断し、いきおいで妻の首を刎ねるとか、もう最低!」
「むむゥ・・・確かに・・・」
ということで、しぶしぶ再調査に乗り込んだビショップだったが、同伴した霊媒がいきなり悪霊に取り憑かれ、発狂!ジェシカの父、心霊界の大物の博士の首を締め上げる!さらに、近所に住む年金暮らしの老人を殺害した看護婦が、全裸で地下室に隠れていてドッキリ!
あまりに不甲斐ない調査結果に、依頼主の金持ちババア(大家)が怒り狂い、即座に幽霊屋敷を取り壊すことを急遽決定!ブルドーザーで呪われた家を取り壊してしまう!
(この時点で、この作品は“呪われた家”ジャンルのホラーですらなくなる。)
案の定、狂気は町中に感染し、いたる路地で殺人、暴行、強姦(5件中2件は被害者男性)が横行し、治安維持に乗り出した警察もお手上げ状態!
そんな中、近所のサッカー競技場ではミスジャッジが原因で大暴動が巻き起こり、ドサクサに紛れてバカが照明用の高圧電線を引き千切ってしまい、折り悪く降り出した集中豪雨の中でスタンド一円に致死量の電流が流れて、600人余りが一度に感電死!景気よすぎる死に様を披露!
さらに荒れ狂う37人の霊は、屋敷の調査に参加したメンバーの命を狙う!問題の家主のババアは、口から強制的に濃硫酸を飲まされ、胃袋も溶けて死亡!
偽装依頼でおびき出されたビショップは散弾銃で狙い撃ちされるも、からくも逃げ、相手と揉み合い、暴発で敵の頭頂部を吹き飛ばして返り討ち!
妻を心配して駆けつけた精神病院(※妻はそういう人である)では、精神的に不安定な人々が37人の霊の手先となり、看護人を次々ブチ殺してビショップを追う!
トイレでボコボコにされる等、過酷な目に遭わされながらも、なんとか生き延びたビショップの目の前で、悪魔に操られた脳の悪い妻は焼身自殺で火だるまと化し、呆然としながらも心に深く復讐を誓うのであった以下下巻。
これの続き、読みたい人。
| 固定リンク
「かたよった本棚」カテゴリの記事
- 『Yの悲劇』(1932、エラリイ・クイーン/砧 一郎訳1957、ハヤカワ・ポケット・ミステリ・ブックス302)(2023.06.17)
- 『三惑星の探求 (人類補完機構全短篇3)』(’17、ハヤカワ文庫SF2138)(2017.10.01)
- 小松左京『果てしなき流れの果に』 (’65、早川書房ハヤカワ文庫JA1)(2017.05.25)
- ニーヴン&パーネル『悪魔のハンマー(上)(下)』 ('77、ハヤカワ文庫SF392・393)(2017.03.18)
コメント