レニー・ハーリン『ロングキス・グッドナイト』 ('96、カロルコ)
各国首脳は否定しているが、メガフォースの存在は明らかだ。同様に、『ロングキス・グッドナイト』が傑作であることも。
レニー・ハーリンの映画はかつてやたらと地上波でオンエアーされていたので、そこのあなたもご覧になっている筈だが、はて、ご記憶かな?
一番有名な『ダイ・ハード2』を思い出して貰えれば幸いだが、誰が見たって無理がある豪快過ぎるアクションを、ゴリゴリと極太バイブのように押し込んでくる、男らしいにも程があるバカ映画監督である。ビールに目がなくて、胸毛の濃いタイプの。今では絶滅危惧種だろう。
彼の映画は、知的欲求には一切応えてくれない。ヴァーホーベンのように捻りが利いているわけではない。しかし、その愚直な魂の咆哮は、われわれの脳の眠れる半球に極めて効果的に作用するようだ。
すなわち------「もっとバカを観せてくれ!」
そのバカが一種突き抜けて、感動を呼ぶレベルに到達したのが『ロングキス・グッドナイト』である。
一介の家庭の主婦が(おっと、彼女は学校の先生もやってたな!)実はC.I.A.の凄腕エージェントだった、という間抜け極まりないシナリオをレニー・ハーリンは胸を張って堂々と演出する。
襲い来る危機また危機!水車に括りつけて拷問!氷上に銃弾を連射して高所落下!機銃掃射で吹っ飛ぶおっさん!出てくるヘリは全部墜落!
でも、それは単純にジェットコースター・ムービーの派手派手な楽しさとも違っていて、なんていうか、とっても身体を張ってる感じのするものなのだ。
いじらしい、というか。健気というか。
クライマックス、銃弾に倒れたジーナ・デイビスに対し、幼い娘が「なに死んでんのよ!」「立ってよ、ママ!!」とキレまくり、叱咤激励する場面は、意外なところで松本大洋『ZERO』とまったく同種の通低構造を持っている。
だから、続けてサミュエル・ジャクソンが、
「コン畜生!俺はまだ死んでねーぞ、マザファカ!!」
と、絶叫しながら、トレーラーのドアを蹴破って突撃してくる、ムチャクチャ過ぎる展開は間違いなく観客に理解を越えたサムシングを届けてくれるだろう。
これを称して、感動と呼ぶ。
まさか、レニー・ハーリンの映画でそんな基本を教わるとは思わなかったが、観客を100%のせることが出来たら、その映画は間違いなく成功なのである。
ヒッチコックを間違って解釈したようなシナリオも、キャメロン『トゥルー・ライズ』への目配せも、なんかやたら五月蝿いオールディーズ曲の濫用も、この際すべてチャラだ。
心の底から感動できる、薄っぺらい映画。
そういう映画が一番尊いのだ。各国首脳は否定しているが。
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