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2011年10月18日 (火)

ショーン・タン『遠い国から来た話』 ('11、河出書房新社)

 ショーン・タンの新作。
 なんか調子に乗って、10月に来日までしてくれたみたいよ、こいつ。

 これは絵本みたいな体裁の本であり、絵本みたいな文化を愛好する諸君の推薦図書にうっかりされてしまいそうな、微妙な立ち位置にある本だ。
 というか現行の大型書店の本棚分けでは完全に海外絵本コーナー送りにしかなるまいよ。あきらめたまえ。
 
 だが、しばし、待たれよ。
 絵本みたいな文化全般に嫌悪感を隠しきれない諸君!
 もっともらしい形式ばかりで結局何も重要なことなど云っていないじゃないか、と尤もらしい世に蔓延る高級文化指向に対して唾を吐きかけたくてたまらない、正直かつワイルドかつ単細胞で、この世の幸福に喰いっぱぐれたチンケな慌て者の貧乏人諸君よ!

 これは諸君にこっそり捧ぐララバイである。
 諸君がこの本の狙っている読者対象なのである。
 どうか、この世の隅で、こっそりページを捲ってみて戴きたい。

 これは空想的な絵画を描くことの価値を、再度問い直す本だ。
 空想的な絵画にはもちろん、価値がある。
 だが、世に氾濫する類型的な表現は、その価値を薄めて、薄めて、さらに水で割ってトイレに夜中に流してしまった。あぁ、もったいない。

 ということで、この本はそういう迂闊な連中へのカウンターパンチである。
 口絵を開いて、まぁ、見てやって欲しい。

 暖色系で纏められた巨大なペイヴメントに割烹着で水を撒くおばさんがいて、影が地面に伸びている。長々と這うホース。さらに手前にはポツンと鳥の巣箱。
 道路の向こうには手漕ぎボートが一艘、赤い服の女を載せて宙に浮かんでいる。その舳先には大振りなカモメが一羽留まって、進行方向に頭を向けている。木のボートの舷側には植木鉢が並んでいて、そのすぐ真上に浮かんだ小さい雲からピンポイントで雨が降り、葉っぱを濡らしている。


 私はこの絵を見た時点で、降参だった。してやられた。
 これに続く、巻頭の掌編「水牛」が、これまた完璧である。この水牛のデザインは凄い。これを考えた時点でアイディア勝ちだ。まいった。
 だから、わりと期待通りに落ちる「エリック」(交換留学生の話)には、逆にホッとさせられたくらいだ。

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