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2011年10月15日 (土)

《架空洋画劇場》 『オレたち、監禁族!』 ('10、米)

 最低の邦題であるが、原題は『Rage in the Cage』といい、Jガイルズバンドの曲名から採られている。

 冒頭、ミニスカートを履いたヒゲ面のおやじ三人が、手に手に日曜大工道具を持ってホームセンターを襲撃する。
 まず、入り口付近に居た警備員が不審訊問しようと近づいて来るのを、背後に隠し持っていたトンカチで殴りつけ、殺害。脳天に一撃を喰らった警備員は床に倒れ伏せ、だらんと伸びた両足は激しく痙攣して、履いたブーツがフロアを小刻みに叩く。
 背後に、小さく女性の悲鳴。
 ホームセンターは、それなりに客が入っているのだが、敷地面積が大き過ぎるので妙に閑散とした印象がある。幾つも幾つも並ぶ商品の陳列棚を尻目に、ツカツカと急ぎ足に進入して行くおっさん達。
 次の犠牲者は、ショッピングカートを押す初老の女性だ。樽のように肥えていて、首が両肩にめり込んで見える。カートは、缶詰やら冷凍食品やらペットフードやらで満載。彼女は派手な花柄のワンピースだが、安いペラペラのピンクで染めてあるので、裕福そうには見えない。成人男性の親指ほどの乳首が布地を押し上げ、存在を誇示しているが、誰が喜ぶというのだろうか。
 ミニスカートのおやじ三人組は、ここで初めて知能を使った連携プレイを見せる。正面から接近する、一番若いメガネの男が、手にした黒いラバーグリップを弄びながら、話しかける。
 「ヘィ、彼女。友達の家で今夜パーティーがあるんだが、行かない?」
 相手の異様な風体(上半身はモトリークルーのTシャツにジャンパー、ミニスカートに黒のストッキング)にびびる女。カートを盾に後ずさるが、退路は既に、別の熊のような大男(余程毛深いのか、ヒゲの剃り跡からさらに荒いヒゲが飛び出している。チェックのダンガリーシャツにミニスカ。着装したストッキングからも、剛毛が突き出している。)により塞がれていた。
 慌てて向きを変え、悲鳴を上げて逃げ出そうとする女の口を、脇の商品棚に隠れていたスキンヘッド男が押さえる。
 「ハロ~~、ベイビィ~~!」
 デイヴ・リー=ロスの下手な物真似だ。
 髪を掴んで顔を持ち上げ、喉首を露出させる(太った女なので、それは辛うじて見分けられる程度の境界地帯でしかない。)と、大型の狩猟用ナイフで、ざっくりと一文字に掻き切った。溢れる鮮血がカメラにかかると、画面が赤に染まる。
 歓声と共に、手に手に得物を持った男たちが、ホームセンター内へ散らばっていく。
 
 ここでメインタイトル。
 ライヒの下手な引用のような、神経質なシンセ多重奏。 

 色を落した画面には、マウスを使った動物実験の映像がコマ切れに流れる。
 報告書レポートの抜粋。
 「199X年、某国アメリカの開発した新薬は、人間の中枢神経に作用し、怒りの衝動を爆発させる効果を持っていた。
 研究結果の転用を危惧した開発責任者は、実験に関するすべてのデータを破棄し、所員を全員を惨殺後逃亡。生まれ故郷のテキサス州ダラスに潜伏するも、やがて、連邦捜査官により発見され射殺された。
 事件は終結を迎え、平穏な日常が戻ったかに思われたのだが。」


 流れるテロップ。
 「-数週間後-」。

 テキサスの派出所。
 本署から急行して来た署長がにがり切っている。
 「マロイ。ルー。ヴィンセント。
 本当に、こいつら三人だけの犯行だというのかね、ホームセンター虐殺事件は?」
 「間違いありません。」
 地元保安官がおどおど答える。「事件に使用された凶器、日曜大工の道具ばかりですが、すべてマロイ宅にあったものです。妻の証言も取れました。」
 「ショットガンでも何でも、大量殺人に適した銃器など、腐るほど入手できる筈だがな。なんでそっち方面へ行かないかな?」
 「さぁ・・・。」
 モジモジしながら、保安官が返答する。「一種の愉快犯かも・・・。」
 「それにしても異常だ。凶器として効率も悪いし、アシがつく可能性もある。殺人者達の肉体に掛かる運動量も尋常ではないだろう。
 狙って、殺害現場を血まみれにしようとでも思い込まない限り、まず使用されることのない道具だよ。」

 「署長、いいですか。」
 先ほどから黙って話を聞いていたFBI捜査官が口を挟んだ。若い女だ。
 「保安官、容疑者三名の結びつきは?」
 「近所の釣り仲間、といったところですな。リーダー格のマロイが近隣の湖にボート小屋を持っていまして、週末などは泊りがけでキャンプに行ったりしていたようです。」
 「潜伏先として、充分有望ね。」
 「現在、私の助手が近在署の連中と確認に向かっております。おっつけ報告できるでしょう。」
 
 「うーーーん・・・」
 苦りきった署長が呟く。「それにしても解らないな。なぜ、3人はミニスカート姿なんだ?」
 誰もが急に無言になった。

 「それじゃ・・・」
 署長は場を取り繕うように、腰を上げた。「解散。」
 
 そして映画は続いていくのだが、俺は途中で寝た。

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