ヴィンシュルス『ピノキオ』 ('08、小学館集英社プロダクション)
B.D.ジャンルが続いて恐縮だが(一応私もいろいろ気にしてはいるのである)、メビウスよりか、有名作品のストレートなパロディであるこっちが一般の皆さんには受け入れ易いのではないかと思い、急遽紹介の筆を執ることにした。
メビウスが最高だ、なんてジジイの譫妄幻覚ですよ。おそらく。
『ピノキオ』ってのはね、イタリアの作家コッローディのね、ってのは完全に割愛していい解説だが、しかし、この作品を読むにあたり、最低限ディズニーのピノキオは押さえておくこと!
※帯文に書かれた豊崎由美の文章と真逆のことを言っているのに気づいた。あんた、どっちが正しいと思うかね?答えは、劇場で!
必要な基礎知識ってのはあるんだよ。残念だが、学問だって金がなきゃ学べないでしょ。あんたが貧しい家に生まれたのは非常に遺憾なことですよ。選択できそうで、実はまったく出来ないのが人生ですから。でもね、著作権消滅によってディズニー版ピノキオはパブリック・ドメイン化してますから。500円。これなら、小学生のきみも大丈夫でしょ?って、この本自体、お世辞にも小学生向け推薦図書とはいえないのだが。
さて、なんでディズニーなのかというと、この作者、たぶんトラウマになるレベルまでディズニー版が刷り込まれちゃってる。これは絶対間違いない。だいたい、この人、漫画家兼アニメーターだし。
同じディズニーを愛する者として断言したい。
この作品、キャラクターデザインとか、画面構成、アクションに到るまでまるっきり品性下劣なディズニーランドと化している。
冒頭、猫ちゃんをロシアンルーレットで射殺するところから、悪辣低俗な物語の幕が開く。感情のない大量破壊兵器であるピノキオ、強欲な発明家のゼペットじいさん。同居しているババアはピノキオの鼻でオナろうとして先端から噴き出す火炎放射で焼き殺される!
さらに、その死体を鋸で細切れにし捨てに行くゼペット、って展開が続くと、あー、こりゃ確かに面白いなぁー!
サドとか根本敬とか、物語が常に負のベクトルに向かって全速力するジャンルってあるじゃないですか。あれですよ、アレ。イイ話ってやつですよ。少なくとも「キャプテン・アメリカ/ ウィンター・ソルジャー」よりは良心的なんじゃないかしら。
しかし、キャップの凄いところは、スーパーヒーローのくせして兵隊だってとこですよね。米国の超人兵士製造計画の産物ですから。あの人。あちらも翻訳が現在店頭に並んでまして、読みたいんで、読んだらまたレビューしますけど。あ、同語反復。
さて、肝心の『ピノキオ』ですが、この作品の第一にいいところは、基本サイレントで進むってところかなぁー。
サイレントのマンガっていいですよね?吾妻ひでおの「タバコおばけだよ」とかね。あと、アルザックとか、アルザック。他、例としましては、アルザック。
あれに一個でも吹き出しがあったら、80年代にメビウス・ブームって起こらなかったんじゃないかと思います。高畑勲以外、誰も読めませんから。フランス語。
という訳で、「なんで外国のマンガって、あぁネームが過剰なんだろ?」と思ってるバカなあなたに朗報です!たぶん、あなたもついていける筈だ!わかりやすい!
次に、この作品、キモい中にも意外と可愛い描写を織り込んでくる、実は凶悪極まりないディズニーの本質を捉えているのではないか、という細部の描写。
例えば、鯨(・・・実は放射性物質の領海外不法投棄により巨大化した奇形の鯛)に呑まれるゼペットじいさん(徹夜明けの手塚治虫に酷似した風貌)が、なんでも溶かす鯨の胃液から逃れて難破船によじ登ると、先客としてペンギンがいるんですよ。ペンギン。可愛いですね。
この直前の場面が南極で、ペンギンの群れにピノキオの居所を聞くゼペット、っていう伏線が既にあるわけですが、骨まで溶けるグロい場面のど真ん中にペンギン。この感覚こそ、まさにディズニー。
つまりは舞浜ですよ。
ただの臨海工業用地にシンデレラ城を建てて、しらばっくれるあの感じ。はっきり申し上げておきますが、常人の神経ではございません。
あすこに行きたがる輩は、全員頭がおかしいんです。すぐ病院で看てもらった方がいい。
・・・ってなんの話だかわからなくなってきたんで、強引に纏めますが。
有り難味ゼロの、妙に親近感の湧くこの本、みなさんどうか読んでください。
こういうタイプの本がバカスカ売れてこそ、明るい未来の展望が開けるんじゃないでしょうか。社会正義だって実現できる。決して、お涙頂戴の感動作なんかではなくて。
確かにピノキオが人間になったりはしませんけど、ひとつ、よろしく頼みますよ。
ウォルト・ディズニーだって墓の下でそれを望んでいる筈ですよ。少女ヌード写真集を読みながら、ね。
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