トビー・フーパー『死霊伝説』 ('79、ワーナー)
世界の怪奇を知る男、トビー・フーパー。
『死霊伝説』は、初期のスティーヴン・キングの傑作「セイラムズ・ロット(呪われた町)」(私はプレイボーイブックス版を持っている)を、二夜連続TVスペシャルとして映像化した長尺物である。
なんというか、これはもう、観て楽しい古典怪奇大作であって、アメリカの田舎町が吸血鬼の恐怖に晒されるどうってことない話を、よくぞこれだけ盛り上げてくれるよな、とトビーに感謝状を贈りたい出来栄えになっている。
【あらすじ】
米国中西部の町、セイラムズ・ロット。
正式にはジェルーサレムズ・ロットといいまして、rotは腐れ・汚穢溜たら云う意味ですからして、まぁー、縁起でもない名前やなぁー。怖いなぁー。
さて、とある秋口。
この町出身の作家ベンがぶらりと帰郷してみると、町には骨董屋がオープン寸前。
「こんなど田舎に、なんで本格アンティークショップやねん?」と、えらい話題に。
しかも、店のオーナーは外国人で、町内でも有名な心霊スポット「マースティン館」を買い取って住みついたというのだから、ますます怪しい。
昔その心霊スポットで本物の幽霊を見たのが一生のトラウマになっているベンは、当然訝しんで注意して観察していると、周りでどんどん町の住人が死んでいく。一晩明けたら、5、6人は死んでいる。
原因は謎の悪性貧血。全部で二千人規模の町だから、一箇月ちょいでゴーストタウンになってしまう計算だ。あぁ、恐ろしい。
「あの骨董屋、死んだ人間を剥製にして売り捌いているらしいわよ。」
宿の女将に告げられ、二の句も接げないベン。
そういえば、そんな映画があった気がするけど、あれはなんだっけ。
「『肉の蝋人形』よ。原題は“House of WAX"、つまりは“蝋人形の館”ね!・・・おまえも蝋人形にしてやろうかウハハハハ!!!」
結構です。
現代でそんなエド・ゲイン張りの悪事が成功するものかどうかはともかく、死体芸術にそんなにニーズがあるもんですかね。
「さぁ?デヴィッド・リンチ以外誰が買うのかしら?
でも渋谷の女子高生の間じゃ、カバンから人骨を下げるのが流行ってるらしいじゃない?」
流行ってません。食人族か。
山姥メイクからの連想でしょうが、大体そんな奴、もう絶滅してるし。
「そりゃそうよね。警官隊が発砲を許可した途端、撃ち殺されてズドンよ。」
それは『地獄の謝肉祭』という別の映画ですね。
おかみ、あんた、どんだけ人喰いジャンルに傾倒してるんですか。
そういや、以前「人喰い映画祭」という本が出てましたけど、『アンデスの聖餐』とか載ってないんですよ。『ゆきゆきて神軍』もね。
「アレに人喰い描写なんてあったかしら?確かに人を喰ったじじいだったけど・・・」
いや、確か、上官が食ったんです。仲間の兵隊を食糧にした。そういう疑惑があるの。奥崎がそれを追求していく話。
そういや、ガストン=ルルーの『恐怖夜話』で、巻頭の「胸像たちの晩餐」ってのは傑作でしたよね。
「海の上で漂流し人肉の味を覚えた船長が、ひさびさに帰郷し、故郷の味を堪能する話。グルメには堪えられない内容よね。」
あれと、ジャック・ケッチャムの『オフ・シーズン』は無条件に世界人肉文学ベスト100にランクイン!
人肉ネタは、実は諸星先生にも多いんですよ。
「あるある。栞と紙魚子も、ネタに困ると人肉喰ってたよね。」
喰ってません。
喰ったのは、鴻鳥さんです。
「あと、『漂流教室』のイカレポンチどもか。焼いて食ってたね。」
「一種のステーキ感覚ですね。タレとかつけない辺りが王道ですね。
・・・って、何の話ですか?!」
二名が馬鹿げた会話を繰り広げている間に、町は吸血鬼に占領され全滅した。
ベンは、大事なときには無駄話を慎もう、と心に深く誓い、グァテマラへ旅立つのであった。
グァテマラ。
【解説】
驚くほど、怪奇のクラッシックに忠誠を尽くすトビー・フーパーの格調高い演出は、部分的に『悪魔のいけにえ』の美術になっている吸血鬼館を、決して笑い飛ばすことの出来ないドリフのコント以上の物に変えた!
実際、30年代の古典ホラーを観ているような、古式ゆかしい物語運びは、明らかに異常である。白黒映画でもおかしくない気になる。
TVだったので、流血や残虐描写を控えめにしなくちゃならなかったのが利いているようだ。
プロデュースは、かのスターリング・シリファント。
坊ちゃん、嬢ちゃん誰でも楽しめるホラー映画になってますよ。安心してご覧なさい。
ま、鹿の角でグッサリ、ってのがありますけどね!
(さすが、フーパー。)
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