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2011年9月 4日 (日)

アレクサンドル・アジャ『ハイ・テンション』 ('03、EUROPA Corp.)

 現在脳がぱんぱんに腫れる病気に罹っており、うまく眠ることができないので、休日の早朝六時半にも関わらずこの文章を書き始めた。病気はつらい。回復の見通しがないので、なおさらだ。
 そんな病人のたわ言だと思って、映画『ハイ・テンション』のオチについて言及することを許されたい。

 オチのある映画。ジャック・オチ。違う。
 あと、そうだ、Dr.ぽちというのがいた気がするが、あれはなんだっけ。ロリコン漫画家か?おー、なんて、ファッキンな名前なんだ。
 それはともかく、映画のくせにオチがある。これは非常に危険なことである。一種の綱渡り。曲芸。映画が芸術ではなく、限りなく芸能に近づく瞬間だ。
 したがって、『ハイ・テンション』は女芸人二名によるどつき漫才として捉えることができる。
 その線に沿って解説してみよう。

【あらすじ】

 フランスの片田舎。女芸人ゆかりは、相方のはるかと共に実家に帰省しようと車を走らせていた。お盆が来たので、家族の顔でも見たくなったのだ。
 パリの寄席で人気の漫才コンビ、ハイ・テンションは暴力的な激しい突っ込みで大人気。時には流血も辞さない強力なステージは、高信太郎も高だけに高評価、懐ろにちょっとはあぶく銭の入る結構なご身分となっていた。
 はるかは、ゆかりに女性としての限度を越えてご執心。
 ゆかりは、そんなはるかに、ちょっと怖いものを感じている。

 (・・・だいたい、なんであんた、うちの実家についてくるねん?)

 ゆかりは、呑気そうに鼻歌を歌う相方を見ながら、内心考えていた。

 そのころ、近くの森外れ。路肩に停めたトラックの中では、怪しいおやじが生首相手にオーラルファックの真っ最中。
 「ウィー・・・ウィー・・・シルブ・プレ・・・」
 どくん、と死人の口内に放出。ハンカチで手を拭く。「・・・ふぅー、メルシー」
 凶悪な面構えのおやじは、トウモロコシ畑に若い美女の生首を放り出し、車を走らせ始める。

 以上のシーンがはるかの見た夢である。

 既に日は暮れ、ハンドルを握るゆかりはちょっと疲れて、出っ歯のサル顔も多少色っぽくなっている。
 助手席でうたたねしていたはるかは、短く刈った自分の髪を撫でながら(あたし、ちょっと髪の毛刈り過ぎやん。、むっちゃブサイクやん。)と思っていた。

 「なぁ。はるか、あんたさぁー」
 ハンドルを握りながら、ゆかりが話しかけてくる。
 「・・・え?」
 「男とか、おらへんの?」
 曖昧に笑うはるか。
 「こないだの打上げで、メアドとか聞かれてたやん。あれ、どうなった?」
 「ハハ、アレかいな。あんなん、あかんよ。それに、ホラあたし、芸一筋やから」
 「ホンマかいな。そうかいな。・・・あ、見えた」

 農道の外れに実家の灯りが見えてくる。
 地平線まで続く畑と、天まで伸び上がる送電鉄塔。それにしても、田舎が過ぎるんじゃないのか。ここまで凄い僻地だと一生誰とも会わずに暮らせそうだ。
 ゆかりの家族は三人。優しいパパとママ、カウボーイの格好をしたがるやんちゃな幼児マイケル。ここは一応フランスなので、パパはVネックのセーターを素肌に着ている。
 
 「いらっしゃい。オーブンに夕飯が入っとるで」
 にこやかに笑う、フランスの石田純一。
 「もう。おかんには、晩御飯食べてくる言うといたのにぃー。ダサイなー。もー。
 二階行こ、はるか」
 
 寝るのが早い田舎の習慣は、ヨーロッパ大陸でも同じらしく、ママもマイケルも既に夢の中へ斉藤由貴。天井裏の部屋を案内され、くつろいだはるかは、煙草が吸いたくなり、独り庭へ出た。
 青く冴えた月の光が降り注ぐ花壇のレンガに座り、母屋を見上げると、窓ガラス越しにシャワーを浴びるゆかりのヌードが目に付いた。
 意外に豊かな乳房、水を弾く若々しい褐色の肌、こんもりした陰毛の密林。
 突然はるかの内部で、危険な何かがむっくり、モッコリ目覚めた。

 このままでは、とても眠れそうにない。
 部屋に戻り、ウォークマンでけだるいレゲエを聴きながら、いきなりオナり出すはるか。
 おいおい、という展開だが、彼女が果てるまでに見た一瞬の幻覚がこの後の映画の展開を決定している。
 邪魔者を全て皆殺しにし、愛しいゆかりを手に入れるのだ。
 
 妄想は現実となり、狭い農道をゆかりの家へ近づく例の怪しいトラック。
 運転するおやじは、刃物をぶら下げ、まずは玄関を開けたゆかりの父を鈍器で一撃。倒れたところで、茶箪笥を動かし軽く首をチョンパしてみせる。
 続けて、ゆかり母の喉首をナイフで切断。ドブドブどす黒い血を吹き上げて床に崩れ落ちる母。警察に電話をかけようと受話器を掴んだ手首も、無惨に切り落とす。
 ハフー、ハフー荒い鼻息を響かせるおやじは、人権意識も道徳概念もまったくない中卒そのものの野蛮さで、逃げる幼い弟マイケルの頭に猟銃を押し当て、引き金を絞る。脳漿をブッ飛ばされ、息絶える少年。

 ゆかりは捕らえられ、猿轡を噛まされ、手足を鎖で縛られて運び出される。
 どこへ行くのか夜の道。地獄へドライブ。
 決死の覚悟で後を追うはるかだったが、助けを求めに行ったガソリンスタンド従業員はあっさり胸倉に斧を叩き込まれて絶命。ここでようやく警察に電話が繋がるが、現在位置の説明が出来ず、まったく役に立たない。
 トイレで軽く用を足したおやじ、再びトラックに乗り込み、アジトのビニールハウスへ。

 「ビニールハウスには、恐怖のイメージがあるだろ?」
 メイキング映像で監督アレクサンドル・アジャは明朗に断言するが、あるかボケ。

 遂に直接対決するはるかとおやじ。ビニールをかけたり、被せたりの窒息系プレイのデスマッチ。
 どうも単なる監督の特殊な趣味が反映して、かくもビニールの扱いが大きくなっただけのようだが、真相はともかく、有刺鉄線を捲きつけた棍棒でおやじの頭をメッタ打ちにし、遂に勝利を勝ち取るはるか。
 息せき切って、ゆかりに駆け寄るも、彼女は恐怖に慄いた表情で、かぶりを振りながら森の中へ逃げ出してしまう。慌てて後を追うはるかの背後で、不死身のおやじが顔面145箇所の刺し傷から血を滴らせながら、立ち上がる。
 とにかく人殺しに使える道具なら多数所持しているおやじは、運転台の下から丸ノコ式の電動カッターを取り出し、奇声を上げて追いかけてくる。その不屈の闘志に乾杯だ。
 
 バカなことばかりやっているうち、いつしか夜は明け、林間道を激走する一台のカローラ。
 その前に立ち塞がる寝巻きに下着の、全身血塗れの女。

 「止まって!助けてぇーな、もう!」
 「どないしたんや?」
 相手のあまりの異常な状態にドギマギしながら、聞き返す近所のあんちゃん。

 途端に、フロントガラスを蹴破って腹部にガツンと突き込まれるフル回転の電ノコ!

 「あががが、がが、がが・・・・・・!!」

 いつもより、多めに廻しております。

 肉片やら、内臓やら、血糊やら、昨夜食べたパスタの切れ端やらが画面いっぱいに飛び交い、全身シシー・スペイセク状態で恐怖の絶叫を上げるゆかり。
 と、そこへ駆けつけたはるか、ナイフ一丁、おやじの延髄を抉り取る!加えて、心臓付近へ軽妙なはさみの一撃!

 「ぐわ・・・ぐわわ、わわ・・・・・・」

 遂に動きを止める殺人マシーン。よかった。
 安堵の表情を浮かべて、こちらも血塗れのまま、ゆかりに近寄ろうとするはるか。
 
 「来ないで!!この人殺し!!」

 「・・・エ?」

 その頃、ようやく事件の場所を特定し急行した間抜けな警察は、ガソリンスタンドの監視カメラの映像から、凄惨な殺害現場の状況を確認していた。
 画面には、店員に斧を叩き込む、冷酷そのものの短髪の女性が映っていた・・・。

【解説】

 要するに、事件はすべて、ゆかりに欲情したはるかの単独犯行であり、怪しいおやじは彼女の分裂した人格が紡ぎ出した妄想に過ぎないのだった。
 
 このオチは一応アリだが、充分に説明出来ているとは言えず、観客は映画の方向性に手のひらを返された気分になる。
 じゃあ、一体どこまでが妄想なんだ。
 おっさんの生首フェラも幻覚でしたってのは、さすがに無理があるんじゃないか。
 この映画に限らずフランス人はさっぱり面白くない逆転オチが大好きな人種だったりするので、この際仕方ないものとして諦めよう。
 大人の余裕が必要だ。なにしろ、この監督、このとき25歳なのだからして。
 
 それよか、血糊業界の大物ジャンニット・デ・ロッシ先生の痛快な特殊メイク、相変わらず人体の切断面からピューピュー水芸の如く噴き出す血しぶきに盛大な拍手を贈ろうではないか。
 あと、ヌードもオナニーも辞さない女優諸君のど根性。

 映画って本当に面白いなぁー、って気になるよ。

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