アーチ・ホール・Jr『サディスト』 ('63、TRASH MOUNTAIN VIDEO)
一種のフリークス物である。
主演のアーチ・ホール・Jrの顔面の持つ破壊力は、途中で洗い物が出来てしまうくらい弛緩した展開の遅さを補って余りある。
それと、ヴィルモス・ジグモントの撮影はやはり見事だ。
誰でも知ってるちゃんとした映画のように錯覚させてしまう。気合いの入ったショットが連発する。
やれば出来るもんですなぁー。
【あらすじ】
物語は諸般の事情により、アメリカの奥地に建つ、車の修理工場周辺に限定。
出てくる役者は、主に5人。
すぐ殺されて死体役も兼任することになる警官がふたり。あと、シナリオ上引っ張りとして出て来る野球のアナウンサー。声だけの出演。
(映画のコストを測る上で、出演者の合計数をカウントできるかどうか、というのは有効な指針である。)
とはいえ、日本人は限定好きなんだそうだから、別段問題ないデショ。
暑い夏の日。
シンシナティ・レッズの試合を観に行く途中の、学校の先生3名を乗せた車が、山奥でエンコし、修理工場へ入ってくる。
広い敷地には廃車が転がり、閑散として人気がない。
こりゃなんか出そうだ、と思っていると、案の定、殺人鬼カップルが登場。スラッシャー映画ではないから、白昼堂々、コーラをガブ飲みし、えへらえへら笑いながら出てくる。
えらい不細工と、白痴っぽい口のきけない女。
この時点で勝負あった。
こんな奴が出てきたら、映画を最後まで観てしまう。
アーチ・ホール・Jrの絵に描いたような不細工っぷりは、国籍人種を飛び越えて万人に伝わる普遍性を獲得している。これは、天賦の才能だ。既にリーチ。
ゴリラのように突き出た額に、濃いゲジゲジ眉毛。ギロギロ光る薄気味悪い目つき、醜い瘤のようなデカッ鼻。
こいつが脱色した金髪をテカテカに固め、ジージャンで拳銃構えながら出てくる。
ぬめぬめした声の気色悪さも絶品で、アーチ・ホール・Jrはこのとき19歳だそうだが、やはり人間若さの絶頂期には何がしかの青春の輝きを放つものだ、と感心する。
その、悪いダリル・ホールのようなサル男に寄り添う、黒髪のお世辞にも美女とは呼べないエキストラ顔の女。
みなさんも御存知のとおり、世の女性は、単体でAV主演が可能な女と、企画物にセットで出演せざるを得ない残念な女とにニ分割される訳だが、ここに登場するのは、そんな幸薄顔の、印象に残らない系統の女。世間に恨みを持つのは当然だろう。
いつもガムを噛み、発作的なクスクス笑いを頻発し、ナイフで人を威嚇する。
小声で男にはなにやら囁くが、観客に理解可能なセリフは一言も話さない。
これは演出のジェームス・ランディスの的確な人物造形力によっている。当を得た演出というものだろう。
彼らの正体は、あっちで7人、こっちで3人、ヒッチハイクしてはドライバーを殺し、もてなしてくれた親切な農場主一家を惨殺し、無軌道に殺しに殺しを重ねてアメリカ横断殺人旅行を続ける爽やかな若者達であった。
(この映画、実在の殺人鬼、スタークェイザー事件を下敷きにした一本である。)
まずは、一番潰しの利かないタイプであるメガネの中年男をあっさりブチ殺して、問答無用の凶悪パワーを軽~く見せつけると、残った実直そうな青年と美人女教師に死のデスゲームを持ちかけるのだった------。
【解説】
既にあらすじで鑑賞ポイントは述べてしまったので、特に付け加えるべきことはない。
強いて言えば、パトロール中に通りかかって殺されるバカな白バイ警官が、
「おっ、弾倉が落ちてる。」
と、地面に転がっていた空のマガジンを見つけ、さして深く考えずポケットに突っ込む場面が、銃社会アメリカに対する無意識の批判になってることくらいか。
アメリカ人って、野蛮だよなー。
それにしても、このシンプルな内容で93分はいささか長い。
もう少し、テキパキ話を進めてくれていたら、欽ドン賞でも貰えたかも知れないのに、惜しいことをした。
あと、そうだ。報告。
不細工は出ましたけど、サディストは出てきませんでした。
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