Jason『ISLE OF 100,000 GRAVES』 ('11,FANTAGRAPHICS Books)
(※以下の文章には明白な記述の誤りや事実の歪曲、誇張、捏造が含まれる。が、意外と本当のことも書いてあったりするので、読者諸君は注意深く読み進められたい。全編読み通して何か解った気になったなら、それは読み間違いだ。直ちに振り出しへ戻ること。)
ジェイソンの世界へようこそ。
彼の存在を知らんのかね?・・・俺も知らねぇー。誰だ、そりゃ。
あぁ、なんてことだ。
こんなことで、世界が救えるのか?ドラゴンボールは全部揃うのか。
だが、心配するな。記事はなんとかする。
あー、いいかね。ジェイソンはノルウェイ生まれ、現在は南フランスに在住の漫画家さんで、既に五冊のグラフィックノベルの著者である。
アイズナー賞を二回獲っているので、たぶん実力派として業界評価の高い人だ。
ノルウェイといえば、先週夏の恒例行事として『遊星からの物体X』を観直したばかりの俺としては、犬を射殺しようと氷原にヘリを飛ばすノルウェイ隊のことを考えてしまうのであるが、たぶん関係ない。いや、まったく無関係だろうな。子供でも解る。
いい加減、変な字数稼ぎは辞めて、真剣にジェイソンの著作について書こうと思うが、その筆頭に挙げられるのが代表作『モントペリアの人狼』である。
これは凄い本ですよ。持ってないから知らないけど。特に人狼の描写が凄いね。人なんだか、狼なんだかまったく見分けがつかないわけですよ。それを見て、「一体どっちなんだろ?」と苦悩するモントペリアの村人たち。そして、訪れる衝撃の結末には、誰もが息が五秒ぐらい止まりますよ。あぁ、恐ろしい。
次に、『左岸でサガンのギャングたち』ね。
「悲しみよ、こんにちは!」でお馴染み、左岸派の女流作家(ヌードあり)フランソワーズ・サガンが、実はギャングの親玉だった!という奇想天外ストーリー。
地下のアジトで葉巻を咥えて指令を下すサガンの手下は、全員左官!まさに塗りすぎ!表面にトノコを塗りすぎの爆笑大会!そりゃ、少女もちょっぴり大人になるね。セシルカットが流行る訳だよ。作家にしちゃあ割と美人だったと評判のサガンだけど、金には汚なかった。
そういう暗黒面が語られていきます。
そして、『最後のマスケット銃士』。御存知先込め銃、南北戦争で大活躍の人気アイテムの秘密を一挙公開!
読者の皆さんは、みんな、南軍派でしょ?エイブラハム・リンカーンなんかブチ殺せと思って、映画・小説読んできた世代だよね?
そういう気持に応えるべく、ジェイソン先生が熱筆を奮ったのが、この戦争劇画大作なんですよ。間抜けなマスケット銃を構えた南軍兵士が吹き鳴らされるラッパに合わせて突撃し、砲弾の直撃をくらって五体バラバラに吹き飛ばされる!その瞬間を800ページに渡って延々リピート!
途中で作者も飽きたのか、青空に漂う雲の描写が50ページくらい入ったりしますが、あとはひたすら続くハードコア描写!
表紙が破れた南軍の旗(本物)で装丁してあるのも驚異だが、最後まで読み通せた人が皆無というぐらい、執拗なワンシーンの反復は、あなたの心に深い傷を負わせるだろう。まさに、現代人の必読書だ。
続く問題作、『わたしはアドルフ・ヒットラーを殺した!』は、ジェイソンの歴史三部作の悼尾を飾る巨編である。これは著者自らの綿密な取材(現地突撃ルポ)と入念なリサーチ(区立図書館にて調査を敢行)により暴き出した、歴史の背後にかなり深く(50メートル程度)埋もれた真実に迫る渾身のノンフィクションである。って、明白にマンガなのだが。字がうまく書けないもんでこうなりましたー。
主人公はジェイソン自身。もちろん、ホッケーマスクを被って登場。
幼少よりナチに興味を持ち、那智の滝に打たれて修行した少年が、南米奥地に潜伏する第二次世界大戦のA級戦犯と知り合い、知り合ったばかりか媾わい、立派に妊娠を果たすが、実はこの子がヒットラーのクローンだったという。
正直なにがしたいのか、さっぱり解らぬ戦犯は、第四帝国樹立のため、南極大陸へUFOに乗って旅立つが、地球の自転速度を越えるスピードを出してしまったので、時間の壁を一方的に突破し、1945年陥落寸前のベルリンへ到着。ついてきたクローンは、ヒットラーご本尊と対面。
激しい争いとなるが、所持していた斬鉄剣の破片がレーザーを跳ね返し、総統は死亡。だが、待て。彼が死ねば、クローンは生まれてこないのではないのか?
ドラえもんレベルの初歩のタイムパラドックスが読者を襲う、戦慄の恐怖小説。巻末には「読者への挑戦状」なる一文が添えられ、「ススキが原で待つ」と書かれている。あなたは、この謎が解けるだろうか?
周到に仕掛けられた現代人のためのパズルスリラー。
以上の小難しい仕事を終えたジェイソンは、たまには息抜きしてみたくなったのだろう、無条件に楽しい一冊をリリースする。
『これ、どうすんの?』がそれである。
書評を引用すると、
「ノルウェイ人のくせにフランス漫画界の巨匠ジェイソンは、暗黒犯罪マンガで一世を風靡したくせに、ここにきてさらに色数を増やすか減らすかして、血の赤や空の青さを削減。地平30度に傾いた陰鬱かつデビッド・グッディスでも書きそうなくだらない物語を、平明に展開せしめているのは、びっくりだ。ジェイソンの持つ、身長高く、痩せこけた動物頭のキャラクターは非常に雄弁に描写されており、ロマンチックな幻想主義の支配する空間において、洗練された馴染み深い心理的原型のように見做され、尊敬を集めている。」-BOOKLIST
どうだ。
以上の文章を読んだ諸君の感想こそ、まさに「どうすんの、これ・・・?」であろう。
私も、同じだ。
さて、ようやく出たばかりの最新刊、『十万棺桶島』に辿り着いた。
これは、シンプルで親しみ易い造形のキャラがひどい世界にもぐり込むという、いつものジェイソン節が炸裂する内容となっている。あ、原作は別の人ですが。
ジェイソンのトレードマークである、白目を剥いた動物キャラで描かれる、にせ宝島実は処刑執行人の訓練施設での非常に特殊な冒険のお話だ。
家出した父親を捜すブサイク少女グゥエニーは、隙あらば自分を殺そうとお菓子のローラーを振りかざして襲ってくる母親の元を飛び出して、拾った謎の地図を頼りに宝島を目指す。
同行するのは、シルバー船長に似た造形の黒犬。職業=海賊。あと、陸(おか)に秘密を隠し持つ心配性の片目の水夫。その他。
上陸してみると、島にいるのは処刑執行人とその見習いたちで、宝の地図を餌におびき寄せた人間を次々と一方的な審問にかけ拷問し、無惨に縊り殺しては処刑の腕を磨く実験台に使っていたのであった。あぁ、ひどい。
処刑人見習いの少年と仲良くなったグゥエニーは、捕らわれた海賊たちを解放し、恐怖の処刑学校は火に包まれる。流砂に呑まれて死亡する片目の水夫。
そんな中、少女は遂に父親の秘密を探り当てる。
行方不明になっていた父は、宝島に行ったと見せかけ、実は実家の近所に住んでいたのだ。
「おまえのママ、気違いだからなぁ・・・。」
尋ね当てたグゥエニーに、しみじみ述懐する父親。
「ね、ね。あたしも、一緒に住んでいい?」
無表情に尋ねる娘なのだった。
なんだ、この話。
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