« デヴィッド・リンチ『ブルー・ベルベット』 ('86、ディ・ラウレンティス・エンタティメント) | トップページ | 「ペットにNG」 »

2011年8月17日 (水)

ケン・ラッセルの『白蛇伝説』 ('88、VESTRON PICTURES)

 紛うことなきバカ映画であり、ある種の傑作。

 パブリックスクールがホモを育てる伝統からして、イギリス人は絶対変態の多い国民だろうと俺はかねてより睨んでいるが、その卓見を裏付けるが如き、不可解なコメディー映画の登場だ。
 原作はブラム・ストーカー。ゴシック文学の父、『吸血鬼ドラキュラ』の原作者。
 そうすると、平井呈一訳のような重厚さを期待するかも知れないが、残念でした。大ハズレ。
 ライトな80年代ノリがベースにある、超適当な特撮ホラー。ドリフのコントにとても近い。
 有閑マダム風の蛇女が牙を剥いて襲いかかって来るのだが、頭の悪い子供でも本気でビビらすことは出来ないだろう。
 ケン・ラッセルはいつもの如く、ケンの仕事をしている。(『アルタード・ステイツ』を想起されたい。)
 つまりこれは、アシッド系の変な幻覚シーンを盛り込んだオフビートコメディーってことだ。


【あらすじ】

 舞台は英国。ど田舎の村。

 若きメガネの考古学者フリントが安宿に泊まって日夜発掘に励んでいるが、碌なものが出やしない。
 巨大な爬虫類の頭骨とか。
 ローマ帝国がイギリスを支配した時代、各地に城砦や大浴場が築かれたが、謎の骨はそんな遺構の下から出土したのだ。恐竜にしては年代が合わない。
 
 首をひねっていると、穴の上から短髪、中途半端な容貌の若い女が泥をかけてくる。
 彼が宿泊している宿は、可愛い姉妹が経営しており、あわよくば姉妹どんぶりの悲願を達成したいフリントとしては、貢ぎ物等を贈り、とりあえず美人度の低い姉の方と付き合うことに成功したのだ。その結果、見事泥まみれ。
 千里の道も一歩から。老婆は一日にして成らず。

 さて、姉より確実に数段可愛い妹の方だが、残念ながら、かつて当地の領主だった名門ダンプルトン家の跡取り息子と婚約しており、しかもこいつが英国の誇るイケメン、ヒュー・グラントだったりする。
 (なんか、自ら腐っていることをカミングアウトする奇特な女子連中には、公然たる耽美ホモ映画『モーリス』のコンビの片割れとして有名。現在パニック障害でリタイア中。)
 現状で妹には手が出せず、悔しさに臍を噛むフリントは、怒りを土にぶつけていたら、謎の生物の遺骨を掘り当ててしまった訳なのだ。バカ田大学なのだ。

 「フェッ、フェッ、フェッ!
 この地にはかつて、獰猛で近隣の村々を荒らしまわった大蛇がいたんだ。
 それを退治して一躍名を売ったのがボクの先祖、サー・ジョン・ダンプトンなんだヨネー!」
 ワインを片手にヒュー・グラントが優雅に述懐する。
 「♪ だ・YO・NE~~~」
 「♪ だ・YO・NE~~~」

 蛇退治を歌ったエレクトリック・トラッドロック(フェアポートコンヴェンション系)がガンガン流れる、自邸のパーティーの席上だ。
 左手は、婚約者の胸を揉んでいる。

 「ホーレ、ホレホレ」
 傍らに飾られた古代の大剣を指し示し、
 「この、伝説の名刀ドブスカリバーで大蛇の胴体まっぷたつ、なんだもんねー!!」

 「だから、なんだっちゅーねん。どアホが。チンカス野郎が。」

 ふたりは宴会の席で本気のどつきあいを始め、宿屋の姉妹に慌てて諌められる。
 勝負は無念の痛み分けに。
 宿に戻ったフリントは、罰として今週いっぱい、おやつを減らされた。

 そんな大変な事態が進行していた頃、村はずれにある謎の旧家、通称“神殿の家”に屋敷の女主人が数ヶ月ぶりに姿を現す。冬の間はどこかに行方を眩まし、毎年春になると戻ってくるという、どっかで聞いた様な習性を持つ、あからさまに怪しい熟年マダムだ。
 
 「おかえりなさいませ、マダム」

 忠実な執事、ゴッドフリードが声を掛ける。
 中古のアストンマーチンDB5を降りた女主人は軽く手を振り、

 「留守中、特に変わりなかった?
 あ、そう。OK。あんたにはマジ、感謝を捧げるわ。
 じゃ、ちょっと、出てくるから」

 「・・・あの、どちらへ?」

 「ハントよ。」
 

 怪訝な顔をする執事に、小さくバイナラをする貴婦人。ブランド物のスカーフを顔に捲いて消える。
 次のカット。
 姉妹の宿に忍び込む、全裸の蛇女。
 
全身、青塗りメイク。頭部には光りモノで、くねくね歩き。幸い、宿の人は皆出払っているようだ。
 壁に象嵌されたキリスト像を見つけると、いまいましげに牙を剥き、シャーシャー唸り、口から緑色の痰を吐き飛ばす。ベチョッ、と穢される十字架。
 反キリスト寄りとか、そういう不穏当なキャラらしい。結構。
 くねくね二階に上ると、映画の冒頭でフリントが掘り出した、例の爬虫類の頭骨を見つけ出してほくそ笑む。
 エイッと両腕に抱えて走り去る女。あっ、泥棒。

 戦利品を獲て、意気顕揚の蛇女。人間の姿に戻り、ルンルン気分でアストンマーチンを運転していると、降り出した集中豪雨の中に立つ、間抜けなヒッチハイカーいっぴきを発見。
 乗せてやり、まじまじと顔を見てみると、ユースホステルを探す間抜けな童貞くんであった。
 にきび面。もさくて、まったく潰しの利かないタイプ。

 (喰おう。
 これは、断固喰ってしまおう・・・!)


 自宅へ連れ帰り、使用人が全員帰ったのを確認し、ニヤニヤ。
 豪壮な料理と酒を並べて小僧を歓待。トランプで主に7並べ等をプレイし、強制的に大人の会話・駆け引きを教え込む。
 ここで、くつろぎを演出する為、黒い下着姿でしどけなく床にゴロゴロ。元々設定値が低い状況を把握する能力を、どんどん喪失して胡乱なデクノボウと化す若者。
 遂に切り札。泡風呂に入れてやって、潜望鏡。
 突如、英国の片田舎に出現したトルコ風呂に目を白黒させている童貞くんの、股間のコブラに絡みつく蛇の舌。まさに、蛇・オン・蛇でノックダウン。

 「アグッ!!」
 
 感無量の一声。泡の海に沈んだ、青年というより少年は、二度と浮かび上がって来なかったのであります。

 一方、外出から戻った宿屋の妹は、壁の十字架がゲロで汚されているのに気づき、なんだこれ?と手を伸ばす。
 白魚のような指先が鮮烈グリーンのゲロに触れた瞬間。
 
 爆発する重低音。

 毒々しいピンクに塗られた空。

 城壁を模したセットに磔にされている、痩せたおやじ。両手に木のくさびを打ち込まれ、ペンキのような鮮血が垂れている。
 その眼前で、異教の蛇を崇拝する呪われたローマ兵士たちが、正常位で村の娘をレイプし続けている。間抜けに上下する、剥き出しの男の尻。
 「ブハハハ、ハハハ、ハハ、ハ!!!」
 呵呵大笑する蛇女のブルーに塗られた顔。
 くねくね踊りながら磔のおっさんに絡みつき、生血を舐め取る。
 戦慄に凍りつくおっさんの表情と、牙を剥き勝ち誇る蛇女。宣言する。

 「熱海に来てねーン!!!」

 「なんじゃ、そりゃぁぁーーーッ!?」
 幻覚の、余りの下品さと唐突さに、絶叫と共に倒れ込んだ妹は、そのまま寝込んでしまった。


【解説】

 やっぱり、ケンといえば幻覚だ。
 下品で、つくりもの感バリバリの幻覚シーン。
 これは、監督本人のアシッド体験が、相当せわしない、早回しにTVCM数本を連続同時で見せられるが如き、バッド感に満ちたものだったせいだろう。
 日常の隙間に、突如襲いかかるフラッシュバックの脅威!
 そういう有り難味の薄いものを描くことには、一応成功しているような気がする。  
 つまり、アンチ・ドラッグ・ムービーってことだろう。幻覚がなんだかとっても楽しそうに見えるのは、諸君の目の錯覚だ。錯覚だってば。

 古賀新一が「少女マーガレット」に連載した「白へび少女」の映画化『白蛇伝説』は、杉戸光史が脚本に参加している可能性がある。
 まったく根拠はないが、なんか、全体にそんな感じだ。
 ドリフに共通するズンドコ感覚が漂っているってことだ。

 

|

« デヴィッド・リンチ『ブルー・ベルベット』 ('86、ディ・ラウレンティス・エンタティメント) | トップページ | 「ペットにNG」 »

映画の神秘世界」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: ケン・ラッセルの『白蛇伝説』 ('88、VESTRON PICTURES):

« デヴィッド・リンチ『ブルー・ベルベット』 ('86、ディ・ラウレンティス・エンタティメント) | トップページ | 「ペットにNG」 »